ずっと見付からない場所


<オープニング>


「もーいーかい!」
「まーだだよ!」
 急かすような呼び掛けに大声で怒鳴り返すと、少年はきょろきょろと辺りを見回した。周りに誰もいないことを確認しているようだ。
「うぅ〜ん……あそこはこの前隠れたし……」
 少年は顔をしかめながら腕組みをして考え込んでいる。大人にとってはただの遊びでも、子供にとっては真剣勝負の場だ。隠れる場所に妥協など出来ないのだろう。
「どうしよ……」
 その時、焦る少年の目に一本の腕が映った。掃除道具が収めてあるプレハブ小屋の陰から、ひょろりと覗いている。
『コッチ……』
 真っ白い腕が、おいでおいでと手招きをしている。それをじっと見つめたまま、少年は引き寄せられるように一歩、二歩と近付いて行った。
『オイデ……』
 
「ああ、みんなよく集まってくれた」
 王子・団十郎(高校生運命予報士・bn0019)は、後頭部をぽりぽりと掻きながら説明を始めた。
「場所はとある小学校。放課後の校舎裏でかくれんぼをしていた少年が一人、地縛霊に捕らわれた。これを救出してもらいたい」
 放課後の校舎裏ということもあって、人目が多いということは無い。だが、あまりに騒いだりすることがあれば誰かに見咎められる恐れもあるだろう。その辺りは注意する必要がある。
 
「かくれんぼをしている子供、その中でも隠れ場所に困った子供を特殊空間に誘い込んで捕らえるのが地縛霊の手だ。少年を助ける為には、誰かが囮になって地縛霊の特殊空間に潜り込む必要があるだろう」
 誰かが特殊空間に取り込まれた直後に全員で突入することになる、と団十郎は言葉を続けた。
「地縛霊の能力は一つだけだ。そのほっそりとした腕に掴まれると、深い眠りに誘われてしまう。これはとても強力で、目覚めにくいから注意してくれ」
 地縛霊はそれ以外に特別な能力を持っておらず、単純に引っ掻いたり体当たりをしてきたりといった、子供らしい攻撃をしてくるらしい。
「それと以前の被害者なのだろう、同様に地縛霊と化してしまった子供が三人、同時に現れる。彼らも掴んだ相手を眠らせる能力を持っているようだが、その力は特別強力というわけではないようだ」
 彼らは捕らえた少年を渡すまいと動くようだ、と団十郎は付け加える。救出対象となる少年は、地縛霊の傍で眠ったまま動かない。衰弱しているというほどではないが、疲労が溜まっているだろう。
 
「この地縛霊はかくれんぼの途中で事故に遭って亡くなった子供だ。校舎を増設する際の資材置き場に隠れた時、運悪く設置してあった資材の山が崩れて下敷きになった」
 それ以来、その子はずっと見付からないままだ。もう二度と見付からない。
「じゃあ後は頼む。捕らわれた少年を助け……そして、地縛霊となった彼を『見付けて』やってくれ」

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参加者
壱原・焔(散桜砂城・b09195)
アルジューラ・エグランテ(百代之過客・b19158)
迎居・睦(絵に描いたような平凡・b20910)
相楽・理華(ミスポジティブ・b21244)
エルシー・ワレス(エアリアル・b21487)
秋月・陸奥(闇の福音・b24571)
エイアル・アーニング(にゃんこオブリバティ・b24971)
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)



<リプレイ>

●もういいかい
 放課後の小学校はそれなりに活気のある場所だ。まだまだ日が高い季節なこともあり、校庭ではまだ幾人かの子供たちが遊んでいる。だがそんな賑やかな様子とは違い、日陰になっている校舎裏はひっそりと静まり返っていた。
「うん、これならすぐ分かるね」
 状況を把握しやすい場所にと、木の上に隠れたエルシー・ワレス(エアリアル・b21487)は、プレハブ小屋の前をうろうろしている烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)を上から眺めながら小声で呟いた。けっして大きな木ではないため、落ちないように体勢には気を遣う必要があったがそれは仕方ない。手前の枝には、猫に変身した相楽・理華(ミスポジティブ・b21244)が山吹色の身体をちょこんと乗せ、エルシーと同様にメジロと周囲の様子を伺っている。
「あっちは大丈夫かな……」
 メジロのすぐ傍で待機しようとしていたのはエルシーたちだけではない。エイアル・アーニング(にゃんこオブリバティ・b24971)はプレハブ小屋の上にぺたりと張り付いていた。最初はエルシーたちと一緒に木に隠れようとしていたのだが、2人も登れば枝が折れてしまうことは確実だったために諦めたのだ。そして、その場所以外で囮となるメジロに一番近い場所といえば、エイアルにはプレハブ小屋しか思いつかなかった。
「ここからだと丸見えだけど……まぁ、地縛霊に見つかりさえしなければいいんだよね」
「にゃあん」
 大の字になって屋根の上に張り付いたエイアルを見て呟くエルシーに、理華は短く鳴いて応えた。

「ちょっと気になってたんだが……」
「なに?」
 地縛霊が出たというプレハブ小屋からは、やや離れた場所。校舎の陰に隠れながら、秋月・陸奥(闇の福音・b24571)は隣の迎居・睦(絵に描いたような平凡・b20910)に問いかけた。
「これは『かくれんぼ』か?」
 囮役となるメジロからは既に『隠れ場所を探すフリ』をする位置を確認済みであるうえに、他の全員がその近辺に待機して地縛霊の出現を待ち伏せている。最初は実際にかくれんぼをするつもりだったのだが、出来る限り有利な形で……と行動した結果こういうことになっていたのだ。
「あぁ、うん、そうね。普通とは違うけれど、まぁ、これはこれでかくれんぼかな」
「隠れているのはこちらだけどね」
 睦の言葉に、アルジューラ・エグランテ(百代之過客・b19158)が付け加える。
「この方が分かりやすくていいだろう。それに、この歳でかくれんぼというのもちょっとな……」
 校舎の壁に背中を預けながら、壱原・焔(散桜砂城・b09195)は無意識のうちに髪紐を弄った。

●まあだだよ
「あそこは……見付かりそうだし、ここだと……うぅん、こっちも駄目かなぁ……。って、……考えたら、本当に隠れる場所無いよぅ〜……」
 メジロはきょろきょろと辺りを見回した。実際には地縛霊を探しているのだが、傍目には隠れ場所を探しているように見えているはずだ。そして、それは程なくして証明される。
『オイデ……』
(「来た……」)
 運命予報士から聞いたものとまったく同じ、プレハブ小屋の陰から一本の細い腕が手招きしていた。
『コッチ……』
(「大丈夫かな」)
(「にゃぁ……」)
 エリアルたちが見つめる中、メジロは手に持った防犯ブザーを握り直し、ゆっくりと白い腕に近付いていく。と、その瞬間、白い腕が伸びてメジロの腕を掴み、ぐいと勢いよく引っ張った。
「あっ!」
 よろめいて思わず声を上げながらもメジロは反射的に防犯ブザーのスイッチを押す。ビーーッというブザー音が数秒だけ鳴り響くのを聞いた後に、メジロは目の前が真っ暗になるのを感じた。

「来たっ」
「急げ!」
 ブザーの音を聞いて校舎の陰から飛び出した睦たちの目に、特殊空間へ飛び込むエルシーたちの姿が映る。すぐ傍にいた彼女たちにはやや遅れたものの、残った4人も特殊空間へ向かって一気に駆け出していった。

●もういいよ
 やや薄暗く感じる特殊空間の中、地縛霊はこちらに背を向けてしゃがみ込んでいた。その脇には眠ったままのメジロが倒れている。
「最後の一人見っけ!」
「みぃつけた!」
「にゃ!」
 その声でエルシーたちの存在に気付いた地縛霊の少年は、メジロから手を離した。ゆっくりと立ち上がると、こちらをじろりと睨みつける。
『ダレ……』
「に゛ゃっ!?」
 地縛霊は音も無く近付き、エイアルの肩をぐいと掴んだ。途端にエイアルの身体からは力が抜け、がくりと膝をつく。
「これはちょっと面倒かも……」
「ま、すぐにみんなも来るし。なんとかなるかな?」
 理華は足元に倒れ伏して眠っているメジロを地縛霊の少年から庇うようにして立ち、エルシーはリフレクトコアを発動させる。そして理華の言葉通り、すぐさま焔たちが追い付いて来た。
「すまん、待たせた」
「大丈夫?」
 焔は地縛霊の少年を見据えながら旋剣の構えを取り、睦は白燐奏甲で仲間たちの援護に回る。
「……早速出番か」
 倒れている仲間を確認し、陸奥は赦しの舞を舞う。だが相当深い眠りなのだろう、メジロもエイアルも眠ったままで起きる気配は無い。
「さて、と」
 アルジューラは改めて周囲の様子を見回した。離れた場所で三体の地縛霊が救出すべき子供を守るように囲んでいる。
「では、あちらからということで」
 こちらに気付いているにもかかわらず地縛霊たちがその場から動かないこと、眠ったままの子供を傷つけようとする様子が無いことを見て取ると、アルジューラはそちらに向けてギターマシンガンを連射する。
「さて、おうちに還らせなきゃねん」
「……出し惜しみは無しだ」
 焔と理華の足元から伸びた二本の影は、腕の形を成すと地縛霊の一体を同時に引き裂いた。
「さぁ、かくれんぼは終わり!」
 さらにエルシーの放った光の槍がその身を貫き、一体の地縛霊が為す術も無く消滅する。そしてこのままでは意味が無いことを察したのだろう、残った地縛霊たちは少年を放置してこちらへ向かってきた。
「予想通りの反応だね。さ、鬼さんこちら」
 アルジューラは満足そうに頷くと、こちらに向かって来る地縛霊たちへ銃弾を浴びせ続けた。

「……そろそろ起きてほしいんだがな」
 眠ったままの二人を見やり、陸奥は赦しの舞を踊り続ける。その眠りが長く続くわけではないと分かっているが、例え一瞬であろうと動けないという状態は、戦いの中では命取りになるからだ。そして唐突にメジロがむくりと身を起こす。
「……んー、上手くいったみたいなのです」
 メジロは周囲の戦闘を確認すると跳ねるように起き上がった。
 
「人に迷惑をかける子供は大嫌いなんだよ」
 こちらに伸びてきた地縛霊の腕を、焔は漆黒の刀で叩き落そうとした。だが、地縛霊の方が一瞬早く焔の腕を掴む。
「しまっ──」
 悔恨の言葉を言い終える前に、焔の身体はその場に崩れ落ちた。
「負けないよん!」
「まだまだこれからだねっ!」
 理華の振るう山吹色の大鎌とエルシーの放つ超高速の蹴りが、地縛霊の一体を切り裂いて十文字を刻む。しかし前のめりに倒れながらも、地縛霊はその手を伸ばし理華の足首を掴んだ。
「わっとと……、そう簡単に眠らな……い……よ」
 気丈な言葉を口にしつつも、急速に襲ってきた睡魔に耐え切れず、理華はその場に膝をつく。
「大丈夫、すぐに起こすのです!」
 メジロは皆が目覚めるようにと祈りを込めて舞う。その隣でタイミングをずらし陸奥も同じく祈りを込める。赦しの舞は眠りについていた理華とエイアルを、わずかに遅れて焔を目覚めさせた。
「そろそろいいかな。……今の君たちに同情する余地は無いからね」
 そう言い放つと、アルジューラのブラストヴォイスが地縛霊たちを襲う。間断なく続く衝撃を受けて、断末魔をあげる間もなく一体の地縛霊が消滅した。
「これできめるにゃ☆」
「……終わり、ね」
 さらにエイアルの放った雷の魔弾が地縛霊を貫き、体勢が崩れたところに睦の術扇が振るわれる。連続攻撃をまともに食らった地縛霊は、そのまま永遠の眠りについた。

●みいつけた
 囲まれて攻撃を受け続ける地縛霊の少年は、逃げることも隠れることも叶わない。怒りや敵意以外の感情が乗せられた一撃一撃が、彼の心と身体とを削ってゆく。
『あ……ア……』
 痛みか、それとも別の何かか。彼はまるで泣きじゃくっているかのように顔を歪めた。
「かくれんぼってぇのは、隠れている奴を見つけるんだろ? ならば……これで終わりだ」
 そして陸奥の放った聖なる矢が、地縛霊の眉間にすうっと吸い込まれる。地縛霊の少年はそのまま倒れるように仰け反り、そして消滅した。

「ちゃんと見つけてあげたから……おやすみなさい」

●またあした
「結局ずっと眠ったままだったねぇ」
 理華は寝ている少年を木の幹に寄り掛からせると、その顔を覗き込んだ。
「じゃ、起こしてあげよっか。お家まで連れて行ってあげないとね」
「……いや、このままでもいいみたいだよ」
「なんで?」
 アルジューラの言葉に理華は当然の疑問を投げ掛けた。
「校庭で遊んでいた奴らがこっちに向かってきてるみたいだからな」
「多分さっきのブザー音が聞こえたんだよ」
 アルジューラと同じようにこちらに近付いてくる喚声と足音を聞きつけたのだろう、陸奥とエルシーが代わりに答える
「……そういうことなら、後はやって来る子供たちが見つけてくれるだろう」
「万が一この学校の先生でも呼ばれたら、面倒なことになるかもしれないしな」
「もうかえるにゃ? まだかくれんぼもオニごっこもしてないにゃ」
「……いや、流石に今から遊ぶのはちょっと……」
 やや不満気なエイアルをなだめつつ、幼くして散った命の冥福を祈りながら能力者たちはその場を離れたのだった。


マスター:若林貴生 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/08/01
得票数:怖すぎ1  せつない11 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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