13時27分−−3号車


<オープニング>


 激しすぎる揺れに、男はドアの縁にしがみつく。やけに運転が荒いなぁ、とぼやき、席へ戻ろうと顔を上げると、向かいにはワゴンと共にアテンダントが立っていた。
「お弁当にコーヒー、ソフトクリームはいかがですか?」
 可愛らしい声と同時に、飛び上がるほどの揺れに足をとられ、男は通路に尻餅をつく。そこへ、ガツンとぶつかったのは駅弁の箱。腕に直撃し、痛さのあまり身動きが取れず、男は通路に蹲った。
「お弁当にコーヒー、ソフトクリームはいかがですか?」
 固まっていると、先ほどと同じ販売文句が男の耳に届く。
 直後、天地がひっくり返るような揺れに遭い――ワゴンが通路にいた男を撥ねた。

「そろそろ帰省する人も多くなる時期だよね〜」
 能力者達の顔をじっくり見回した後、運命予報士が首を傾げた。
「能力者さんって乗り物酔い大丈夫?」
 井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)が、一枚の紙と特急乗車券を能力者達に手渡す。
「超揺れる電車のゴーストを倒してもらいたいんだ。あ、凄く揺れるのは特殊空間の中だけな」
 現場となったのは、新幹線の3号車。
 4号車にあるトイレから戻ろうとした男が、知らぬ間に特殊空間に導かれ、アテンダント――販売乗務員――の姿をした地縛霊に殺害された。
 盆になれば帰省ラッシュに見舞われる新幹線。放っておけば、犠牲者は増え続けるだろう。

「で、特殊空間の入り口が、さ。出現時間が決まってるんだ」
 13時27分。
 27分ちょうどから28分になるまでの1分間だけ、トイレのある4号車から3号車へ入ると特殊空間に入る。とはいえ、故意に鈍い行動をしない限り、突入に関して懸念する必要は無いと、恭賀は念を押した。
「突入は間に合うからその分、他のことを考えてねー。で、特殊空間なんだけど……」
 特殊空間内は、3号車と構造が同じ作りになっている。ただ、座席がぽつぽつと抜けているため、多少は動きやすいかもしれない。ところどころにリビングデッドが座っているが、攻撃方法も、両腕で拘束してくるだけだ。邪魔なことこの上ないリビングデッドも、必ずしも殲滅する必要は無い。
「あー、あともし撤退するなら、マナーは守って扉からな」
 窓を破っても出られないから、と恭賀が注意を促す。
「……最大の問題は、特殊空間内での地縛霊の有利さなんだよねー」
 特殊空間内は激しく揺れる。床や壁、椅子などに体が少しでも触れていれば、当然行動を妨げられるだろう。数秒続くためジャンプでは避けられず、特殊空間に入った直後から揺れ始める。
 また、激しい揺れは常に続くわけではない。パターンさえわかれば何らかの対応も可能だろう。
「アテンダントの姿をした地縛霊、宙に少し浮いてるんだよ」
 つまり、地縛霊は浮いている限り揺れの影響を一切受けない。
 彼女の使用する技は三種類。
 一つは、車内販売で売られているような物を、何処からともなく視界内の敵全てに投げつける攻撃。
 もう一つは、ワゴンで敵を跳ねる攻撃。直撃すると、止め処なくダメージを食らう可能性がある。
「でさ、能力者さんが使うような……自己回復と自己強化の技も使うみたいなんだ」
 ただ、地形の有利さがある分、彼女自身の攻撃力は然程高くはなく、体力も、うまくいけば全員の集中攻撃で倒せる程だ。

「まぁ、とにかく気をつけてな。能力者さんがた」
 ひらひらと手を振って、運命予報士は戦いへ赴く能力者達を見送った。

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参加者
神谷・葵(怨嗟の雪華・b00011)
七枷・達也(エリクサーには程遠い蕨餅・b00111)
東雲・雛(狂気の牡丹・b00112)
柊・威鈴(マガイモノの譚詩曲・b00311)
多々羅・瞳(蹈鞴姫・b05660)
西山・尚志(クリムゾンウィザード・b07598)
クレール・アンリ(碧眼の黒豹・b15435)
白鷺・螺旋(闇色の風・b18337)



<リプレイ>

●13時27分――3号車
 懐中時計の針を、クレール・アンリ(碧眼の黒豹・b15435)の指が器用に回した。
 特殊空間に入り損ねることが無いように、時刻合わせをしていたのだ。他に時計を持つ者がいなかったため、実質彼女が時間を知らせる役目を担っている。
 能力者達が戦いへ赴くために新幹線に乗ると、そこには何の変哲も無い光景が広がる。疲れたように眠る親の横で、菓子を手にはしゃぐ子供達。友人との会話に花を咲かせる若者や、老人のグループ。
「これ以上被害を広げる前に始末しないとな」
 静かに呟いたのは柊・威鈴(マガイモノの譚詩曲・b00311)だ。
 同意するように、西山・尚志(クリムゾンウィザード・b07598)が口角をあげる。
「ったく、お盆前に迷惑なヤカラだぜ」
 これからここで何が起こるのかなど、一般人は誰も知らない。知らなくて良いことだ。幸いにも、周囲には能力者達が立つ通路を利用しようとしている人の影は無い。
 クレールが懐中時計に視線を落とし、カウントダウンを口ずさむ。
 彼女がその時を告げると同時に、能力者達は3号車へ足を踏み入れた。

●13時28分
 一見、彼らの目に見えるのは3号車の内部と同じ光景。
 だが、座席に居つくのは生者ではない。
 次々に手早く起動を済ませ、狭い通路に能力者達が陣取る。
 向かいに見えるのは、今回のターゲットとなっているアテンダントの姿をした地縛霊だ。
「特別車両に突入〜♪」
 白鷺・螺旋(闇色の風・b18337)が無邪気に笑いながら、七枷・達也(エリクサーには程遠い蕨餅・b00111)の武器に白燐蟲を纏わせる。
「揺れの解析はお任せくださいませ」
 輝くリフレクトコアを周囲に浮かび上がらせて、東雲・雛(狂気の牡丹・b00112)が自分の役割を確認する。
「ああ、頼む」
 達也は淡く輝く武器を手に、リビングデッドがいない最も近い座席に身を隠しながら頷いた。そのまま様子を伺う彼に、神谷・葵(怨嗟の雪華・b00011)も続いて座席部分に身を寄せる。
 そして、彼らとは別の座席に身を隠すため、威鈴は腕を伸ばしてくるリビングデッドに大鎌を振るっていた。
「死んでからも、分刻みで時間ぴったりに現れるだなんて。この国の人が勤勉だからこそなせる技なのでしょうね」
 アテンダントめがけて、クレールと多々羅・瞳(蹈鞴姫・b05660)が炎の蔦を生み出した。
 少しでも敵の動きを止めることで、揺れの解析や、戦闘班が前へ進めれば、それで良い。
 彼らの思惑は、地道にターゲットへ近づくことだった。通路から進攻を試みれば、ワゴンに轢かれる可能性がある。揺れた際にワゴンの突撃を受ければ、当然、軽傷ではすまないだろうと懸念したからこその作戦だ。
 しかし、相手も黙ってやられているわけではない。
 炎の蔦が生み出されるのとほぼ同時に、可愛らしい声が車内に響く。
「お弁当にコーヒー、ソフトクリームはいかがですか?」
 経っていられない程の横揺れが、能力者達を襲う。
 短い悲鳴が各所からあがる。咄嗟に座席にしがみつき、ふらつきながらも耐えようとする者や、床に身を伏せて通路に飛び出さないようにする者もいた。
 そんな中、雛はアテンダントの動きに注意を向ける。
(「表情……ここからだとよく見えませんわ。動き? 特に目立つようなことは……」)
 一方、螺旋は窓の外に視線を向け、揺れのパターンを解析しようとする。
「えっ!?」
 しかし、窓に映るのは風景などではない。まるでトンネルの中にでもいるかのように、外に広がるのは、空色をした壁。窓を破っても出られないから、と運命予報士は告げていた。これを意味していたのかもしれない。しばらく眺めていても、一向に景色が変わる様子は無かった。
 揺れが続く中、弁当などの車内販売の商品が無数に飛びかかってくる。座席の陰に姿を隠していた者以外は、飛んできた商品をまともに喰らってしまった。
 揺れの怖さはこれだ。
 能力者達の攻撃は、基本的に地に足をつけた形で行われる。そのため、宙を舞う商品はもちろん、アテンダントの攻撃は避けにくい上に、自分達の攻撃は相手に当たり難い。
 葵が更にアテンダントとの距離を縮め、座席にしっかり座っていたリビングデッドを『Sturmen Schwert』で蹴り上げる。
 反撃と言わんばかりに、リビングデッドの腐った腕が彼に絡みついた。
「商品を投げるなって話だよな。……っと!」
 アテンダントの攻撃が止んだのを確認し、達也が姿勢を低くしたまま移動する。
 そして、葵に絡みつくリビングデッドの左胸に宝剣を突き立てた。
「く、このっ、離せっ!」
 彼らの後方で、威鈴がリビングデッドによって身動きを封じられていた。
「おいおい、大丈夫かよ」
 尚志が構えた二丁の詠唱銃が仲間を締め付けるリビングデッドの息の根を止める。
 どうも、と礼を軽く告げて、威鈴は引き続き、リビングデッドを殲滅するため、座席を移動していった。

 簡単には沈まなさそうね、とアテンダントを見つめながら、クレールが『鋼鉄のミツバチ』の名を持つガトリングガンに、白燐蟲を這わせていく。
 余裕を醸し出しているように見える地縛霊は、相変わらずその場から動こうとしない。近づこうとも逃げようともしない地縛霊との距離は、すぐに縮めることができた。
「どんな商品であれ、押し売りは迷惑行為だぞ。その商品が『死』なら尚更にな?」
 アテンダントの横に着地した達也の握る『石榴刀』が、敵の足を狙う。だが、攻撃は容易く回避されてしまい、
「お弁当にコーヒー、ソフトクリームはいかがですか?」
 直後にアテンダントの声が再び轟いた。
 ガクリと能力者達の足元が揺れ、体勢が崩れる。別のことに専念していなかった者は、しがみつくか身を伏せるかで、通路に飛び出すことは辛うじて避けられた。
 だが、地縛霊が目の前の獲物を見逃すはずは、ない。
「危ないよっ!!」
 誰かの声が達也に届いた頃には、何処から沸いたのか、既にワゴンが彼の眼前に迫っていた。無理に姿勢を維持するより、倒れることに身を任せて体勢を立て直す方針でいた達也は、両方の手足に意識を集中させて床を押す。
 ガチャガチャンとワゴンが硬いものにぶつかった音が響き渡った。
 座席が邪魔をして、達也の様子が確認できずにいた能力者の顔に、嫌な汗が浮かぶ。ワゴンは一直線に容赦無く突撃する。一度当たれば、大ダメージを食らう可能性もある。彼らは常にそれを懸念していた。
「……ふぅ、間一髪」
 垂れた汗を拭って達也が起き上がる。どうやら寸でのところで座席へと回避できたらしく、仲間達の間から安堵の息が漏れる。
「さてと、何度でもかけてあげましょう!」
 瞳がフレイムバインディングを地縛霊にぶつけるが、見事にガードされてしまい、なかなか相手をマヒに陥らせることができない。
「相手は、もしかして術式に強いのでしょうか……?」
 疑問を抱く瞳の言葉を聞いて、尚志が手際良く術式を編みこむ。炎を帯びた魔弾が撃ちだされ、真っ直ぐにアテンダントへ向かう。
 だが、フレイムバインディング同様に防がれてしまい、
「そうかもしんねぇな」
 と、低く呟いた尚志は、口の端で薄く笑っていた。

(「揺れの前兆を早くに見つけ、皆さんに注意を呼びかけないと……っ」)
 運命予報士から聞いた事件の状況と、実際に戦うことで判明したアテンダントの言動。
 雛の漆黒の瞳は伏せられ、研ぎ澄ませた感覚と記憶を融合し、一本の糸を頭の中に紡ぎだした。
「皆様! そのままでお聞き下さいませ!」
 少女の高い声が、仲間達へ声をかける。
「アテンダントの商売文句ですわ! それが発せられた直後に揺れがくるはずですの!」
「お弁当にコーヒー……」
 雛の言葉に反応したかのように、アテンダントが口を開いた。
「――ソフトクリームはいかがですか?」
 その言葉がスイッチになったかのように、ドン、と衝撃が起こり、大きく車内が揺れる。
 そして、各自が自分の役割に専念する中、威鈴もまた、単独で殲滅のために動いていたのだが。
「っ……う、く――!」
 蓄積されたダメージを癒さないままリビングデッドに締め付けられ、身動きがとれずにいた。そこへ、揺れた直後に飛んできた地縛霊が放った商品が、彼の身を叩く。
 威鈴の声が、途切れた。

●最後の猛攻
 仲間が威鈴の名を呼ぶと、赤い髪が揺れ、ふらりと細い体が起き上がる。
「リビングデッドになんかやられないよ……。本当、厄介だね」
 拘束から逃れた少年は、自分を先ほどまで締め付けていたリビングデッドを、柔らかい緑色の瞳で睨みつけ、大鎌による鋭く力強い一撃で葬り去った。
 傷ついた彼に、慌てて駆け寄ってきた螺旋が、白燐奏甲により消耗した体力を癒す。
「これで大丈夫だよ」
 明るい笑みを浮かべる螺旋に続いて、達也が治癒符を投げつけることで、再び倒れてしまうことは防がれた。
 彼らが回復に回る間、アテンダントが光の粒子を纏い始める。
「面倒な奴だぜ! させるかよ!」
 真っ先に気付いた尚志が、術式を編みこんだ炎を作り出す。彼の手際良さを勢いに乗せたかのように、魔弾が生んだ魔炎がアテンダントを包む。
「おいたは、いけませんわ。大人しくしていただきましょう」
 雛の背に、十字架を模った後光が出現する。清浄なる裁きの光が彼女の体内から放たれ、地縛霊を、残っていたリビングデッド諸共突き刺していく。リビングデッドは倒れこみ、二度と起き上がることはなかった。
「力を高めたなら、それを崩してあげる」
 タイミングを合わせるように雛に続いたクレールが、言葉と共に炎の蔦を地縛霊に絡みつかせていく。何かを弾くような音が響き渡り、アテンダントの身を包んでいた光が、蔦によって消滅した。再び光を纏おうとするアテンダントに、螺旋の術扇が更に傷を与え、先ほど受けた魔炎が地縛霊の体を焼き尽くそうとしている。
 そこへ、ロケット噴射の勢いを乗せた威鈴の大鎌が、敵を切り裂く。
 揺れを発生させる言葉を紡ぐ間も無く、地縛霊は空気に混じるように溶けて消えていった。

●よくある風景
 ガタンゴトンと、心地の良い揺れと駆動音が能力者達の耳に飛び込んでくる。
 元の新幹線の光景が、彼らの目に映り、終わったのだと確信する。激しい揺れも、座席にいたリビングデッドも、アテンダントの姿をした地縛霊も、そこにはいない。通路に立つ彼らは、一般人の目が向けられる前にイグニッションを解き、互いに顔を見合わせて、落ち着いたように息を漏らした。
「……皆さんの無念が晴らせてよかったですわ」
 犠牲者を想い、雛が薄く微笑む。つられて笑う者もいる中、能力者達は3号車のドアを開く。
 特殊空間に入る前と変わらない。相変わらず子供ははしゃいでいて、人々のお喋りは止まない。
 そこで思い出したように、クレールが乗車券を取りだそうとする。
「そういえば、この新幹線はどこに向かっているのかしら……」
「席に座ってもいいのかな? えーと」
 螺旋も乗車券を取り出し、書かれている内容を確認しようとした。
 そこへ――。
「お弁当にコーヒー、ソフトクリームはいかがですか?」
 車内に響いた愛らしい声に、能力者達が一瞬呼吸を止めた。
 言葉にし難い形相で声がした方向を見ると、車内販売に来たらしき若いアテンダントが、ワゴンと共に近づいてくる。
「(び、びっくりしました……)」
「(あの人はちゃんと人間だよな?)」
 確認を取るように、ヒソヒソと顔を寄せ、アテンダントを見つめる能力者達。
 そんな彼らの視線に気づいたのか、アテンダントの女はにっこりと微笑んだ。
「お弁当にコーヒー、ソフトクリームはいかがですか?」


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/08/05
得票数:楽しい5  カッコいい10  怖すぎ5 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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