砂浜のキャンプナイト


<オープニング>


 夏休みに行なわれる学校行事といえば臨海学校であろう。
 鎌倉市内にある銀誓館学園でも臨海学校は行なわれる。
 銀誓館学園の臨海学校は、生徒数が多い事から、全生徒が同じ場所に行くのでは無く、参加希望者を募って、幾つかある海辺の学校施設に宿泊して研修したり、或いはキャンプ場を借り切ってキャンプを行なうなど、毎年いろいろと催されている。

 そして、今年の目玉は、クルーザーで無人島に出かけるという2泊3日の臨海学校。
 無人島でキャンプ生活をしながら、自然について学ぼうという趣旨なのだが……。
 その本当の目的が、海のゴースト退治である事は、関係者以外は誰も知らない事だった。

「皆、良く来てくれた」
 王子・団十郎(高校生運命予報士・bn0019)は、臨海学校の告知を見て集まった能力者達を、そう言って出迎えた。
 クルーザーで無人島に行く臨海学校とは仮の姿、本当は、海で大量発生していたゴースト事件の原因では無いかと推測される『ゴースト島』を攻略する大作戦なのだ。
 この場には、団十郎以外にも運命予報士が多数出席している。

「現在、目的地となる無人島には、数百体のゴーストが集結しているらしい。どうやら、この島を拠点として、ゴースト達は海岸に押し寄せてきていたのだろう」
 そういうと団十郎は、島の地図を広げて島の説明を行なった。
 広い砂浜に小さな森、ちょっとした岩場に洞窟などなど、ゴーストさえいなければ臨海学校の場所としても、なかなか楽しそうな島に見える。

「幸い、この島のゴースト達は余り強力な奴がいないようだが、数が数だから油断はできないだろう。担当の運命予報士から詳しい説明があると思うが、自分の役割をきちんと確認して、臨海学校とゴースト退治の両方を成功させて欲しい」
 団十郎は、そう言うと、能力者達に軽く頭を下げた。

●おっきな嘴のペンギン妖獣
「では、今回のゴーストの場所を説明するわね。ベースキャンプ近くの見晴らしのいい海岸のとある場所に、ペンギンに似た妖獣が出現しているの」
 高校の制服を纏った女性運命予報士は説明を始める。
「ペンギン?」
 首を傾げるのは、星宮・真那(小学生符術士・bn0086)。
「姿形こそ愛らしいけど、妖獣よ。大きさは一メートル弱で、数は五体。大きな嘴で攻撃してくるの。これだけだけど、精度は高いし、当たると痛いわよ。外見によらずね」
 うーん、と首を捻る真那に告げる運命予報士。
「可愛い外見の割に体力はあるようだけど。まあ、それ以外に特別な能力は持たないから、苦労する事は無いと思うわ。しいて注意点を挙げれば、5匹纏まっているわけじゃなくて、少し離れた場所に居る妖獣が居るかもしれないわ。範囲攻撃で纏めて倒すのは苦しいかも。この場所から見えない程は離れていないけど」
 正確に何匹纏まっているかは、判らないらしい。砂浜に居るところが見えたが、海の水が膝ほどの深さまでの場所に居るものもいるかもしれない。

「そうそう、ペンギン妖獣は臨海学校一日目の夕方前のまだ明るいぐらいの時間に出るのだけど。終わったら、海で泳いだり、夕食を作ったりしたりするのも楽しいわよ。……無人島だから、ネオンとかもないし。夜には真那ちゃんの好きな綺麗な星空も見えるかもしれないわね」
 言葉に出さないが、うんうん、と夢中で頷く真那。
「遊び道具や飯ごうや鉄板とかのキャンプ用品はベースキャンプで借りられるの。食べ物も貰えるわ。ベースキャンプに戻って、テントの設営の手伝いなんかもできるわね。まあ、自由に楽しんできて頂戴」
 ベースキャンプには結構色々と準備してあるようだ。食事を作るなら材料も揃っている。
 運命予報士も、心なしか楽しげだ。妖獣を退治したら、心ゆくまで臨海学校を味わうのがいいだろう。

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参加者
九鬼・桜花(剣姫無双・b00036)
桜井・姫乃(紅蓮の剣術士・b01102)
月浪・玲紗(見た目は乙女中味は悪魔・b02035)
藤梨・かがみ(色褪せた異譚・b02803)
森山・樹里(碧風の旋律・b10514)
リスティア・シェイド(神魔滅殺・b11615)
鈴城・悠(ファイト一発・b15958)
波多野・のぞみ(這いずる者達の女王・b16535)
ホーリィ・ランプフィールド(くうねるあそぶ蜜柑猫・b18301)
楢芝鳥・俊哉(図書室の主見習い・b20054)
NPC:星宮・真那(小学生符術士・bn0086)




<リプレイ>

●可愛いけど、妖獣
 島から見上げる空は青く、見渡す限りの砂浜が広がる。
 藤梨・かがみ(色褪せた異譚・b02803)はすぐ側の九鬼・桜花(剣姫無双・b00036)の手を取ると、心を躍らせる。それは桜花も同じのようで。来る前にかがみの荷物を何度もチェックする程の気合の入りよう。
「こういう自然っていいよね」
 島の空気を満喫すると、森山・樹里(碧風の旋律・b10514)が伸びをする。ゴースト退治さえ終わらせれば、あとは普通の臨海学校。まだなにかあるのかもしれないが、それはそれ。
 海よ私は帰ってきたー、などと思いながら楢芝鳥・俊哉(図書室の主見習い・b20054)は妖獣の姿を探す。
「あそこに見えるのが、三匹ね」
 右手に、ペンギン妖獣の姿。二匹は纏まっていて、一匹が少し奥に。
「……波打ち際にも、二匹、見えますわね」
 桜井・姫乃(紅蓮の剣術士・b01102)が指差す左手を見ると、そちらにも二匹、青いペンギンらしきものが見える。こちらの敵の方が距離があるようだ。
 それを見てちょっと微妙な表情を浮かべたのは月浪・玲紗(見た目は乙女中味は悪魔・b02035)。
(「ペットにしたかった……」)
 一日中見ていても飽きないほどのペンギン好きだったりするから。倒さなければいけないのは判っているけど、ちょっと残念。
 彼ほどではないが、やっぱり残念そうな鈴城・悠(ファイト一発・b15958)も本物のペンギンだったら良かったのにと思いつつ。
「班分けはこれで大丈夫そうですね、さっくり片付けますよ!」

「「イグニッション!」」
 詠唱兵器を纏うと、とりあえず走る。桜花は走りつつ、悩殺ポーズも忘れない。ペンギン妖獣の反応は無かったというか、逆方向だったから、かがみが見れなかったのが残念というべきか。
 靴跡が残る砂浜を走る。
(「しっかし、ペンギン? どんな思念が集まったのやら……」)
 そんな事を考えているのは、リスティア・シェイド(神魔滅殺・b11615)。ペンギン妖獣は走ってきた能力者たちに気がついたのか、きょと、と首を傾げる。

「蟲達よ、敵を喰らい尽くせ!!」
 波多野・のぞみ(這いずる者達の女王・b16535)は紅い蟲笛を構えると後方から白燐蟲を解き放つ。気合とともに放たれた精度の高い攻撃は射程内の二体を捉え、敵へと食いつく。
 能力者たちに気がついたか、離れた所に居たペンギンがぽてぽてと走ってくる。
「可愛い……けど、倒さないとね」
 うまくいけば遠方から倒せるか、と樹里は足元から伸びた腕の形をした影で敵を引き裂く。近くに居た二体もこちらへ向かってくるのを見て、リスティアは接近してくる敵に近づき、渾身の黒影剣を繰り出す。
 タイミングよく強打した彼女の攻撃でも倒れないペンギン妖獣。近くに居たもう一体が大きな嘴で突っついてくる。
「……つっ」
 可愛い外見から繰り出されたとは思えないほど、痛い。
 だが戦えないほどの痛みではない。逆に自分が盾になれれば、後方の仲間は安全になる。
 流石に彼女ひとりでは三匹全てを止め切れそうにないが、後方からやってきた妖獣を、同じく前方へと回り込んだスカルサムライが止めに入る。妖獣の一撃を受けたスカルサムライを、かがみのゴースト治癒が回復させる。
「『力は廻り糧となる』っと」
 俊哉とホーリィ・ランプフィールド(くうねるあそぶ蜜柑猫・b18301)が魔弾の射手で攻撃の威力を高めれば、敵から距離を置いた真那の治癒符とのぞみの白燐奏甲がリスティアの傷を癒す。回復を任せているからこそ、彼女は攻撃に専念できた。
 もう一発、紅魔刃−殺で黒影剣を打ち込むと、敵の姿は掻き消える。
「デカイペンギンごときが、わたしに勝てると思うなよ!! 次、コイツ行くよ!」
 再び攻撃してきた嘴の威力を紅神刃−滅で防いで弱めるリスティア。真那の眠りの札がその敵へと放たれるが、ひらり、眠りの札を回避する妖獣。
「『敵を討つ灰色の魔女』っと」
「し〜び〜れ〜ろ〜っです!」
 俊哉は手に持ったマホウノホンを使って、符を回避した妖獣へとホーリィとタイミングを合わせた雷の魔弾を打ち込む。きょときょと、少し落ち着きは無いが、逃げようとしているわけではないようだ。
 雷で麻痺した妖獣に、白燐拡散弾とダークハンドが襲い掛かる。
「海へお帰り?」
 続いて、低い姿勢で接近した樹里の勢いよく上げた拳が、全身の力を叩き込む。その場で消える妖獣。
 後は、スカルサムライが足止めしている一匹だけだ。
 リスティアの再び放った闇のオーラを纏った攻撃に続いてかがみの雑霊弾、樹里のダークハンドが立て続けに放たれる。最後の一撃をリスティアへと命中させるが、ホーリィの雷の魔弾を受けると、三匹目も倒れる。
 のぞみ達の回復に続いて後ろで応援していたホーリィのモーラット、ぐーちゃんもリスティアの傷をぺろぺろ舐めて癒す。
「浅瀬班はっと……」
「まだ続いているみたいね、急ぎましょう」
 能力者達は傷だけを回復させると、再び敵の方へと走る。

 浅瀬へと向かった四人も、妖獣との戦いを始めていた。ここはひざ下あたりまで海の水がきているが、戦闘に支障のある深さではない。
 桜花の白燐拡散弾が二匹の体力を削ると、敵に近づいた悠が魔弾の射手で攻撃力を高める。姫乃のフレイムキャノンが手前の敵を炎に包み込む。一番近い場所に居た悠に鋭い黄色い嘴が襲い掛かるが、紙一重で回避する。もう一匹が魔炎に包まれながらも彼女へと近づき、攻撃するがこちらは回避しきれない。
 癒しの札を投げつけて、悠の傷を癒す。
 悠はダメージを負っている方の敵に術式を編み込んだ雷の魔弾を放つ。ふと砂浜班の様子を伺おうとする。砂浜班は戦い続けているようだが、距離のせいかそのぐらいしか向こうの様子はわからない。
(「いとしいアナタを攻撃することは辛いですが」)
 妖獣へと接近すると、三日月の軌跡を描く蹴りを放つ玲紗。……なんだか全然加減とか遠慮とかしているように見えないのは、気のせいではないだろう。
 再び攻撃をしかけようとした妖獣だが、炎に体力を奪われて力尽きる。残った一体は玲紗へと攻撃するが、致命的な傷を受けなければ一撃で倒れるほどのダメージでもない。
 玲紗の治癒符が傷を回復させると、敵へと接近した姫乃のフェニックスブロウで炎に包まれて、後方から放った桜花の光の槍が敵を貫くと、倒れる。
「……そっちも終わったみたい、かな」
 三体の妖獣を倒した砂浜班が駆けつけたのは、その少し後だった。

●対決、砂浜班VS浅瀬班!!
 砂浜に、用意されたのは即席のバレーボール用コート。
 ゴースト退治を終えた面々は、それぞれ水着などに着替えを終えている。
「じゃ、ボールはこっちね」
「こっちが少ないから、リスティアちゃんこっちにお願い」
 先ほどの班分けを利用して、ということになったが。四対七では流石に分が悪い。砂浜班からリスティアが移動する。
 ふと、スク水姿のホーリィの一言。
「負けた方がバーベキューの準備と奉行をするとか、どうですか?」
「良いんじゃないかな」
「おっけーだよ」

「それにしても、凄いです」
 のぞみのすぐ側で感心したような声を上げるのは真那。彼女はと言えばリスティアに渡されたビキニ姿だが……なんだか違和感。
「まだ成長期なんですから体型なんて気にしなくても! 私なんてこの一年、1ミリも変化が無いし」
 悠の励ましにこくり、頷く。
「え〜っと、そんなにこの水着って変なのでしょうか?」
 のぞみの着ているのは大胆な黒のビキニ。視線を感じてか、胸のあたりを整えたりする。
「イグニッションは禁止で−−」
 という俊哉の頭の上には、ちょこんと自作のペンギンのぬいぐるみが乗っている。手先は器用なおかげか、結構な出来だ。
「可愛い……」
 思わず見入ってしまった玲紗はといえば、短パンにTシャツ姿。ちょっと触らせてもらうが、手触りもいい。
 
 そんなこんなで、バーベキューの準備をかけたビーチバレー、開始だ。
「そ〜れ〜♪」
 のぞみから放たれたサーブを、悠々と動いた桜花がレシーブ。姫乃が軽く上げる。
 前で待ち構えていたリスティアが誰かに当てるつもりで打ったスパイクは、止め切れず砂浜へと落ちる。
「まず一点っ」
 ……バーベキューの準備がかかっているだけに、人によっては結構本気だ。
(「ぬるぬめする生の魚だけは触りたくないーーっ!」)
 サーブ権が移動して、今度は悠がサーブする番だ。そんな事も考えながら。ボールはネット際ギリギリに入り、ぬいぐるみを頭に載せたままの俊哉が拾う。慣れているとはいえ、ちょっとぬいぐるみがずれた。
 ホーリィが上げたボールの動きを良く見て、樹里がアタック。悠のブロックに跳ね返されたボールを、なんとかのぞみが拾って、打ち返す。
「必殺『桜花ゾーン』の威力思い知るがいいわっ!」
 大きく動いて拾った桜花がジャンプしながらボールを上げる。胸が大きく揺れる。そのボールを玲紗が打ち返そうとする。
「ちょわー!」
 大きく掛け声を上げて放ったスパイクは、コートの手前に落ちてしまった。
 俊哉の打ったボールはコートのほぼ真ん中で、姫乃が受け止める。玲紗が軽く打ち上げたボールを悠がスパイク。
 真那とかがみの真ん中あたりに落ちようとしたボールを、かがみは取りに行く。
(「えと、え〜と、年下さんいるですね。ふふふ、お姉さんなのです、ちゃんと助けてあげ……」)
 二歩、歩いた所で砂に足を取られてしまった。
「ひゃう……! 砂浜は歩きにくいのです」
 再び浅瀬班にサーブ権が移って、ゲームは続く。
 
 リスティアの放ったスパイクが、コート際すれすれに突き刺さったのが、15点目。
「これで決まり、かな」
「よし、勝ったね」
 結局、15−11で浅瀬班の勝ち。
「道具借りてくるね」
 数人がベースキャンプへと、バーベキューの道具などを借りに行く。

●鉄板を囲んで
「わたし、ちょっとだけ泳いでくるね」
 先ほどの運動の熱さましもかねて、と海へと直行するリスティア。ただ、彼女が作った料理を食べると、ぶっ倒れる人が出るのは珍しくなかったので……彼女が勝ったのは、実は幸いだったと言うべきであろうか。
「いってらっしゃい」
 かがみと樹里がベースキャンプから借りてきたのは、金網などバーベキュー一式。ホーリィはご飯も焚こうと、飯ごうを借りてきて準備をしている。
 とんとんとん、と姫乃の包丁が、まな板の上で材料を刻んでいく。家事全般が得意なのぞみは切った野菜を丁寧に串に指していく。
「え〜っと、串はココで野菜はコレぐらいに切って……」
 その一方、器用に野菜をペンギンの形に切っているのは玲紗だ。勝った側にいたので料理参加はしなくてもいいのだが、料理は結構好きなので、結局見ていられなかったのだ。
「器用ね」
 樹里はそんな玲紗を見ながら、鉄板の側まで作った串を運ぶ。
「ここは、こうね」
「ありがとうです♪」
 かがみは桜花に教わって、ニューヨークスタイルのバーベキュー串を作っている。桜花は材料や道具もきっちり持ってくる念の入れようで。飽きのこないヘルシーな串、らしい。
 ちょっと刺した野菜が歪んだのもあるが、それもまた愛嬌。
「そろそろ焼き始めてもいいですか? 先輩」
 俊哉と真那は焼く係だ。俊哉は料理は苦手でも、焼くのにはそこまで関係ない。本当は食べるのに専念したかったが、罰ゲームだからしょうがない。
「おなかへった……」
 鉄板の上に串や野菜、焼肉などを並べる。ふと周囲を見ると、ホーリィが飯ごうを逆さにして、炊き上がったご飯を蒸らしている。

「焼けた分から食べようね」
 焼きたてが一番、と食べ始めたのは桜花。いつの間にかリスティアも戻ってきていて、お肉を中心に幾つか、お皿の上によそう。
「あーん、です」
 これも二人のバレー勝負で負けた方の約束らしい、かがみは桜花にバーベキューの串を食べさせてあげる。
 ぱくり、美味しそうに、そして幸せそうな表情の桜花。その表情を見ていると、かがみもなんだか幸せな気分に。
「焼肉のたれ、ここに置いておきますわ」
 姫乃はお肉とたまねぎなどの野菜を一緒に食べる。勿論、きっちりたれを付けてだ。たれに拘りがあるのか、複数種類用意しているあたりはさすがというべきか。ゴースト退治をして、運動もした後だからというのもあって、美味しい。
「肉肉野菜肉野菜ー」
 結構な勢いで焼きあがった物を口に運んでいるのは俊哉。たまに変わった形の野菜が混じっているのは、玲紗が先ほどペンギン型に切った野菜を、火が通りやすいようにと小さく切ったものだ。
「まだまだあるからね」
 自分も少しづつ食べながら、樹里やのぞみが食材を並べていく。樹里はこっそり、玉ねぎはよけて食べている。
「焼きおにぎりも美味しいかな」
 ホーリィは作り終わったおにぎりを一部、おしょうゆを付けて鉄板に並べる。悠も焼きあがった串を手に取り、食べる。
 少しづつバーベキューの食材やベースキャンプで貰ってきたジュースやお茶は減っていく。

 おかかとチーズを入れたおにぎりを食べながら、ホーリィは夕焼けの消えかけた空を見上げる。
「先輩、これチョコ入ってます……」
 食べかけの御握りを手にしているのは真那だ。
「……あ、空を見ながらご飯、ですか?」
 みつかったか、と思いつつ。
「です。広い空が大好き。気持ち良いし、なんだか元気出てくるし、何より御飯がより美味しくなりますもん♪」
 もう少ししたら、暗くなってきっと沢山の星が見えるだろうと。そう思うと、ちょっとどきどきしてきた。

●キャンプの夜に、空を見上げて
 バーベキューが無くなったころには、辺りはすっかり暗くなっていた。月は出ていないが、空には満天の星。

 悠がBGM替わりにとハーモニカでゆったりとした曲を奏でる。レジャーシートを広げて、寝っころがったりもしてみる。食べてすぐ寝ると牛になる、なんて言う事を一瞬だけ思い浮かべるが。すぐに頭から追いやる。
「綺麗な星……ロマンティックなのです」
 かがみは桜花と一緒に、ゆったり空を見上げている。ちょっとだけ、もたれかかって甘えてみたりもする。

「暗闇と一緒にすごしていた私が星を見上げる日が来るとは……」
 辛かった過去を思い出しながらも、のぞみはそう呟いた。
「この綺麗な光景、ご主人様にも見せてあげたいわね。今度教えてみましょう」
 島では他の生徒達のキャンプも行われているが、それでも町より暗く、本当に沢山の星が見える。
 その近くでのんびり星を見上げている真那に、後ろから近づく影。
 ぽん、とその頭の上に載せられたのは、ペンギンのぬいぐるみ。
「……すごいね−−」
 目の前が見えなくなって、手でぬいぐるみを確認する真那の隣に座って、俊哉はぬいぐるみを回収すると、一緒に見上げて歓声を上げる。

 夏の夜の、一時の思い出。
 星空の下のキャンプの夜は、少しづつ、ふけていく。


マスター:永瀬晶 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/08/10
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冒険結果:成功!
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