路上で踊れ


<オープニング>


 日本国中、どこにでもあるような寂れた商店街。
 だが、夜になるとそこの雰囲気は一変する。軽快な音楽と共に、弾ける若い歓声。
 そこに集っていたのはいわゆる不良ではない。
 彼らは、ストリートダンスという共通の趣味で集った少年少女達だった。
 『貸し店舗』や『売り家』の札を貼られた商店のショーウィンドーの前で、踊りを楽しむ若者達。
 だが、楽しいときは早く過ぎるものだ。時計が進み、一人、また一人と家路に着き、深夜。
「……どうしたんだい、君」
 かけられた声に、一心不乱に練習に打ち込んでいたマリははっと顔を上げる。
 声をかけたのは、自分達と良く似たファッションの青年だった。
 だからだろうか、少女はすぐに青年を仲間だと思い込む。
「あはは、チームの足ひっぱちゃってて……」
 ステップが自分だけ遅れる、リズムにうまく乗れない。そう語るマリへ青年は微笑みかけた。
 そんな事は簡単だ、と。
「少し背を伸ばして。そう、その調子……。そうしたら次は踵に意識を向けて」
 そんな感じの夜が幾日か。その助言は全て驚くほどに的確だった。
 彼女が、やがて彼に好意を抱くようになるのは自然な成り行きだろう。
 ただし、青年は決して自然な存在ではなかったのだが。

「こんにちは。皆さん」
 藤崎・志穂(高校生運命予報士・bn0020)が、抜けるような青空を背にそう言う。
 能力者達が集まったのは、屋上だった。
「皆さん、ストリートダンスってご存知ですか? ブレイクダンスとか」
 志穂の口から出る言葉に、幾人かが頷く。
「文字通り道路で踊るダンスのことです。この屋上みたいな平らな場所で」
 そういって、志穂はとんとん、と軽くステップを踏んでみせる。
「上手な人だと、くるくる回ったりできるんだそうですよ」
 くるり、と片足を軸に回ってみる志穂。
 さっぱりブレイクダンス風ではないが、可愛らしいので誰からも突っ込みはなかった。
 と、志穂の表情が見慣れた真面目な物になる。
「そんな、ダンサーの人がリビングデッドに狙われています」
 生前は結構優秀なダンサーだったこのリビングデッドは、若者達が踊る場所へ現れる。
 今回は寂れた商店街をターゲットにしたようだ。
 そして、誰か一人が最後まで残って練習していると、言葉巧みに近づく。
「今回、リビングデッドはまだマリさんを殺してはいません」
 いずれ牙をむくのが時間の問題だとしても、今は少女の良き友人として接しているようだ。
「……彼女からの愛情を得るために、でしょうね」
 志穂はため息一つで気持ちを切り替えると、リビングデッドについての説明を続ける。
「このリビングデッドが日中にどこでどうしているのかは分かりません。深夜に、その商店街に現れたところを倒すしかないと思います」
 その場所にダンサーたちが集まりだすのは7時か8時位だ。最大で20人ほど。
 集まるメンバーは一定しているわけでも無いし、入れ替わりもそれなりにある。
 もしも能力者達が彼らに混ざったとしても、波風が立つようなことは無いだろう。
 そして、解散は大体0時、日の変わる頃のようだ。
「おそらくはマリさんが最後まで残ろうとすると思います、けど……」
 罪も無い少女が戦いの巻き添えになったりしないように十分気をつけて欲しい、と志穂はいう。
「リビングデッドはただ一人、特に仲間はいないようです」
 ただし、戦闘になればダンスで培ったトリッキーな動きと素早さは十分脅威といえる。
 吹き飛ばし効果のある蹴りと、近接範囲攻撃扱いのヘッドスピンを使ってくる。
 一体のみゆえ、戦闘に持ち込めればさほど手こずる事は無いだろう。もちろん油断は禁物だが。
「マリさんにとって、できればひと夏の想い出で終わらせられるように……」
 事件を解決して欲しい、と真摯な瞳で志穂は頭を下げた。

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参加者
アキシロ・スチュワート(碧眼の従者・b01500)
黒潟・玲美(女子高生二挺拳銃・b10171)
宵月・久遠(オニキスの牙・b17657)
高橋・桃恵(桜花乱舞・b21415)
武田・由美(金色の妖精・b22523)
白川・唯(アネモスの蝶・b24555)
シグナス・ホーネット(紅蓮の獣・b25464)
ラナ・キルシェ(おひさまのまわりをまわれ・b28390)



<リプレイ>

●真夜中のダンサー
 地方の商店街の店じまいは早い。夜の9時にもなれば、もう開いている店もなく……。
 そこから、ダンサーたちの時間が始まる。いつもと変わらぬ、というわけではない。
 数人づつのグループに分かれて踊りに興じる彼らの輪に、今日は新顔が加わっていた。
「ワルツなら得意なのですけれどね……」
「いやいや、その格好でそれだけ動ければ十分クールだぜ」
 謙遜するアキシロ・スチュワート(碧眼の従者・b01500)を、地元ダンサーが讃える。
 少し離れた所では、武田・由美(金色の妖精・b22523)がやはり賞賛を浴びていた。
「ま、こんな感じでどうさ?」
 ブレイクダンスの源流に近い、カポエイラの鋭い動きは衆目を集めるに十分だ。
「いや、大したもんだよ。あんたもこの辺の人じゃなさそうだけど……。旅行中?」
「まぁ、そんなもんさ」
 踊りだすまでは少し遠慮があったような若者達が、笑顔と言葉を交し合う。
 そんな光景の片隅で、由美の動きに見惚れていた少女、マリがため息を一つ。
 そしてそっと自分の練習に戻ろうとする。ちょうどその時。
「なぁ、ここんとこちょっと教えてよ」
 ぶっきらぼうにかけられた声に、マリはびっくりしたように振り返った。
「ええと、教えるってあたし? もっと上手な人が他にいるけど……」
「いや、アンタに教えて欲しいんだ」
 問い返すマリに、宵月・久遠(オニキスの牙・b17657)が真顔で言う。
 真夏の夜に黒のコートという久遠のいでたちに驚いていたとしても、嬉しさが勝ったのだろう。
 マリはにっこり笑うと久遠の手を取った。
「ふふ、仕事を始めるまでは、この雰囲気を楽しませてもらおうか」
 そう言うのはやや離れた場所で、踊る仲間達の様子を眺める高橋・桃恵(桜花乱舞・b21415)。
 囮の役目上、目立たないように踊りの輪にこそ入らなかったが、嫌いではないのだろう。
 辺りに響くビートの効いた音楽に楽しげな微笑を浮かべている。

 その商店街のやや外れにあるコンビニの前で、残りの仲間達はコーヒー片手に時を待っていた。
「……異常はまだないぜ」
 黒潟・玲美(女子高生二挺拳銃・b10171)は隣の白川・唯(アネモスの蝶・b24555)へ言う。
 死人嗅ぎの能力でリビングデッドの接近を探っているのだが、反応がまだらしい。
 マリの様子を遠めで伺っていた唯は小さく頷いて玲美へ答えた。
「恋を綺麗なうちに終わらせるのはいいことなのかも知れないね」
 予報士の言っていた、ひと夏の思い出という言葉を反芻しながら、唯は呟く。
 それに玲美が何かを答えるよりも早く、二人へとかけられる声。
「レヴィサン、交代の時間ですヨ」
 周辺見回りに出ていたシグナス・ホーネット(紅蓮の獣・b25464)が片手を上げた。
 一緒に回っていたラナ・キルシェ(おひさまのまわりをまわれ・b28390)もひょいと顔を出す。
 まだ夜は始まったばかりだった。

●ハート・ビート
 マリが言うアドバイスを、久遠は持ち前の運動能力ですぐに形にしていく。
 久遠が休憩を促した時には、時計の針はそろそろ0時を回ろうとしていた。
 路地裏の自動販売機の方へと誘うと、マリは疑いもなくついてくる。
「アンタ、教えるの上手だな」
「いやぁ。私もある人に教わった事をそのまま言ってるだけなんだけどね」
 少し上気した頬で笑うマリに、その人の正体を知る久遠は言葉を返せずに目線を落とした。
 左手が所在無げに耳飾をいじる。と、そこにアキシロと由美が足を向けてきた。
 地元ダンサーたちが帰路につき、ようやく解放されたらしい。
「あなたがマリちゃん、なのさ?」
 二人ともを久遠の知り合いだと思ったのだろう。
 突然の由美の問いかけにも、全く警戒していない様子でマリは首を縦に振る。
 アキシロが、由美の挨拶の後を継いだ。
「実は……、いつもここに来ていた男性から、貴女に伝言を貰ったのです」
「え? あの人の知り合いなの?」
 はっと息を呑むと、マリはアキシロに掴みかからんばかりの様子で質問を投げつける。
 あの人は大学生なのか、それとも社会人? どこの人なのか。どこでダンスを覚えたのか?
「え、ええと……、ですね」
 言葉に困るアキシロ。
 マリは一瞬だけ由美へと目を向けてから、もう一つ質問を口にした。
「……あの人と付き合ってる人とか、いるんですか?」
 由美もアキシロも、咄嗟に上手な嘘をつけるような性格ではない。
 困りきった二人の様子から、マリは彼らが男の知り合いというわけではないと理解したようだ。
「……ごめんなさい。伝言、貰っただけなんですよね。聞かせてくれますか?」
 ほっとしたようにアキシロは頷き、口を開く。
「『もう、ここには来られなくなった。今までありがとう』と」
 息を呑む気配。しかし、伝言などと言われた時からどことなく覚悟はしていたのだろう。
「俺も、今日は来れないって聞いたぜ?」
 久遠の言葉にマリは小さく頷く。
「……ありがとう」
 『今日は』という久遠の言葉に気付いたのかどうか、マリは無理をしたように笑う。
 その耳に、遠くから警笛の音が聞こえてきた。
「笛の音……?」
 不思議そうに言うマリ。だが、能力者たちにはその音の意味がわかっていた。
 もう、リビングデッドがいつ現れても不思議ではない。
 偶然であれ男の姿を見てしまえば、彼女へついた嘘はあっさりばれてしまうだろう。
「少し、休んだ方がいい」
 小さな声でハミングする久遠のヒュプノヴォイスがマリをあっさりと眠りへ誘った。
「……マリ様は私と久遠様で安全な場所にお連れします。ですから……」
「わかってるのさ」
 アキシロの言葉に、由美が大きく頷き、駆け出した。

●死者と踊れ
「来たみたいだな。臭う」
 玲美の声に、唯が携帯電話の向こう側へと注意を促した。
「了……、Partyに備え…ショウ」
 砂のような音の向こうから、シグナスの返事が辛うじて聞こえる。
 幾人かには既に電話が繋がらないのを確認すると、唯はホイッスルを吹き鳴らした。
 どこか場違いな警笛の音が、誰もいない商店街を吹きぬけていく。
「んじゃあ、はじめるか」
 桃恵は不敵に笑うと、音楽も無く観客もいない路上で一人ステップを踏み始めた。
 持ち前の運動神経とリズムに乗る才能。
 観る者がいたならば、桃恵も由美やアキシロに劣らぬ喝采を浴びていたであろう。
「……いた」
 物陰から桃恵を伺う不信な影に真っ先に気付いたのは、隠れて見張りについていたラナだった。
 事前に自分が潜むためチェックしていた場所の一つに、敵の姿があったのだ。
「叶わぬ恋なら、せめて知らないうちに、だな」
 ぼそりと呟いた独り言は、普段のやわらかな彼女のイメージとはややずれている。
 リビングデッドはそんなラナに気付く様子も無く、すぐに桃恵の方へと歩き出した。
「やぁ、いい夜だね? 今日はいつもの彼女じゃないようだけど」
 桃恵は小さく笑ってリビングデッドを見つめる。
「今日は見てないわ。それより私では……、ダンスの相手には不服?」
 罠に掛かったリビングデッドの正面で、狩人は高らかに戦いの始まりを宣言した。
「「「イグニッション!!」」」
 周囲から聞こえた掛け声にたじろいだリビングデッドは、桃恵の蹴りをかわし損ねた。
「な……!?」
 低い位置から放たれた足刀に裂かれ、男の衣服が宙に舞う。
 しかし、それが地に落ちるよりも早く、リビングデッドは調子を取り戻していた。
「なるほど……、ダンスバトルには私も覚えがある」
 とん、と軽い音と共に飛び上がった男の足下で、ラナが放った矢と玲美の魔弾が弾ける。
「……その避け方、Coolですネ!」
 賞賛するように声をあげたシグナスは、そのまま地を滑るようにリビングデッドへと迫る。
「でも、ゴーストの存在はcoolじゃないなァ」
 勢い良く、すれ違いざまに放った蹴りはまだ宙にいたゴーストの胴を裂いた。
 しかし、交差するタイミングで振るわれた敵の脚もシグナスを見事に捉え、吹き飛ばした。
「さすがダンサーね。でも、私だって負けないよ」
 感嘆と意気を呼気に載せて、唯も敵へと間合いを詰めた。
 桃恵とシグナスの二人とは違い、正面からの技の応酬は避けつつ援護に入る。
 この三人の攻撃の合間に、リビングデッドはなんとか隙を見つけつつ後退しようとした。
 だが、三方から攻め立てられた彼の唯一の退路となる路地には、二挺拳銃を構えた玲美が立ちはだかる。
「付き合ってもらうぜ。死の舞踏(ダンス・マカブル)だ」
 銃声が鮮烈なビートを刻む。リビングデッドは己が身を庇うように転がった。
 急に姿勢を低くした敵の姿を一瞬見失った唯の耳に、死者の声が聞こえる。
「随分と踊れるようだけど、キミ達はこのヘッドスピンは知らないだろう?」
 ついで襲ってきた衝撃は、薙ぐというよりは切り裂く。
 強烈な脚払いに、シグナス達の表情が歪む。しかし、4対1では形勢はいまだ絶対有利。
「……押してるけど、念を押すか」
 やはりぼそりと独り言を呟いたラナが、狙いをつけていたアーチェリーをそっと下ろした。

●ひと夏の……
 能力者達と、リビングデッドの真夜中のダンスは、まだ続いている。
 攻撃をあててしまうのはダンスバトルなら禁じ手だが、この戦場では違った。
「遅れてすまんのさ! マリちゃんは大丈夫なのさ」
 今しも、低い姿勢から駆け込んできた由美が突き上げるような蹴りを放つ。
 手傷にはならなかったが、これで5対1。誰の目にも、勝負はあったように見えた。
「ブレイク・ビーツだ……踊りな!」
 玲美の二挺拳銃が轟音を吐く。織り交ぜられた雷の魔弾を受け、男は苦鳴を漏らす。
「く……っ」
 逃げ出そうとしたのか、それとも間合いを取ろうとしたのか。
 雨のように打ち込まれる銃弾をくぐって、男は包囲を切り抜けようとする。
 刹那。その脚がガクリともつれた。
「激しいビートは苦手ですか?」
 ラナのショッキングビートがリビングデッドの行動の自由を奪ったのは、ほんの一瞬。
 しかし、その一瞬を伺っていた仲間達には十分だった。
「死人は踊らない……」
 僅かに口調に陰を乗せて桃恵は呟く。だが、地を蹴った彼女の目は鋭く輝いていた。
「お前が踊る舞台はここには無い!」
 重い回し蹴りを受けた男の体がくの字に曲がる。
 その打撃音が鼓膜を打つよりも早く、唯のエアシューズがリビングデッドの脇を捉えた。
 そして、両側から打ち込まれた二人の少女の蹴りが、まだその円弧を描き終わらぬうちに。
「灼かれて眠れ、安らかに」
 それまでのダンスの動きとは拍子が違う、シグナスの力強い一撃が死者を捉えていた。
「ぐっ……」
 リビングデッドの視界を、赤い魔炎が埋めていく。
 それまでの軽やかな動きが嘘のように、どさりと倒れた男はもう動く事はなかった。

 商店街の方から聞こえていた戦いの音が途切れ、しばらくしてからマリは目を覚ました。
 連日の練習疲れじゃないか、と言う言葉に思い当たる所もあるのだろう。
「マジメもいいけどほどほどにな? アンタ、上手いんだから」
 そう言った久遠に、ありがとうの言葉と笑顔を残して、マリは帰宅の途についた。
 見送る久遠に、そっとアキシロが声をかける。
「本当にお疲れ様でした。他の皆様のもとへ戻りましょうか」
 用意周到、保温ポットから注いだらしい紅茶を差し出しながら。

 リビングデッドの遺体は、近くの車道の隅に運ばれた。
 思うよりは随分重かった死体を、仲間内で一番体格の良いシグナスが運ぶ。
「力仕事ならオレがやりましょ、ドコら辺に置けばイイですかネ」
 その遺体を見ながら、桃恵は彼の生前に思いを馳せた。
 生きている内に会えたならば、友人になれただろうか。
「きっと一生懸命だったと思うのさ」
 道は少し違えど、相手の気持ちも理解できる……、と由美が言う。
「さ、Mission completeです。帰りましょーか」
 二人の思いを断ち切るように、シグナスがやや軽い口調で言った。
 そこにこめられたのは、過去に思いを馳せるより思うのは未来でありたいという彼の思い。
「……マリさんも、今は悲しくてもいつか懐かしく思えればいいですね」
 アキシロと久遠が走ってくるのを見ながら、誰へとも無くラナが呟いた。


マスター:茶毛 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/08/04
得票数:カッコいい10  ハートフル4 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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