スイカ泥棒、故郷に帰る


<オープニング>


「のう、サキさんとこの畑またやられたそうじゃの」
「らしいの、泥棒ちゅうても、盗んでくんでのうて、その場で食うてくそうじゃ」
「見張りたてにゃ、まずいかの。なんせサキさんはまだ入院中じゃしのう」
「そうは言うてものう、あの息子さんが亡くなった場所じゃろ。若いもんでも、皆気持ち悪がってなかなかしてくれん」
「ほんに気の毒言えば気の毒なんじゃが……」

 藤崎・志穂(高校生運命予報士・bn0020)はまるで、昔話でもするかのように、ゆっくりとした丁寧な口調で事のあらましを説明する。
 とある村に老夫婦が住んでいました。ところがある日の事、おじいさんが倒れ、重態となってしまったのです。
 おばあさんは都会へ出たっきり、15年ほど音沙汰のない一人息子に連絡しました。
 息子さんはバイクを走らせ、故郷へと急ぎましたが、途中で事故を起こしてしまいました。命に関わるような大きな事故です。
 それでも、彼はバイクは道端に放っておいて、自分の足で必死に家へと歩いていきます。
 けれど、たどり着くことは叶わず……彼が息を引き取ったのは自分の家のスイカ畑の中でした。
 偶然ですが、おじいさんが亡くなるのと同じ頃だったそうです。
 おばあさん、つまりサキさんは夫と息子さんを同時に亡くしたショックで入院することになりました。
 それから一週間後の事です。彼が夜毎スイカ畑に立つようになりました。自分が畑を守ってるつもりなのでしょう。
 自分の感じる飢えが何かもわからぬままに、スイカを時折かじりながら。

 ふうっと溜息を一つつくと、志穂は皆の顔を見回し言葉を続けた。

 幸い今のところ、村の人たちはただのスイカ泥棒だと思ってます。
 けれど、サキさんがもうじき退院する事になっています。
 サキさんと息子さんが出会ってしまえば、彼は我を失ってサキさんに襲い掛かってしまうでしょうし、その前に村の人が見張りに立つ事になっても同様に村人らが彼に襲われる事になってしまいます。
 そうなる前に皆さんに彼を倒してほしいのです。

 戦闘の際、攻撃の面では空手の技を使ってくるようです。突き技ではこぶしは岩のように、固くなり、手刀を繰り出す時の手は正に鋭い刃となります。
 他に注意すべきは回避能力でしょう。
 子供の頃、慣れ親しんだ場所だからでしょうか、スイカ畑に素早く隠れる能力が彼にはあるようです。おびきだすには……心苦しいようですが、スイカを盗む、割る、などすれば彼は逆上して現れるでしょう。けれど、畑はサキさんのものですし、あまり暴れすぎないで下さいね。
 言い忘れていました。彼はタヌキ3匹、ウサギ2匹をリビングデッドとして従えています。力はたいしたことはないようですが、気をつけて忘れずに退治してください。

 村の人には能力者の皆さんが『民俗研究会』に所属していて、翌日から始まる鎮守祭を見学しに行くという事になっています。
 資料によりますと、鎮守様のお祭は出店もほとんどは村の有志がやっているようなこじんまりとしたものですが、村の娘さんによる奉納の舞や子供神輿が見所だそうです。
 宿泊場所は今ある公会堂は祭の準備で使えないので、現在は半ば物置になっている旧公会堂を使ってもらうことになっています。ふすまで仕切りがあるので男の人も女の人も気にしないで大丈夫ですよ。村の人が風通しをよくしておいてくれるそうなので、埃とかも気にしないで下さい。
 皆さんには祭の前日の夕方頃に村に入ってもらいます。祭の前夜は『清めの夜』と言われて、村の人は外出を控える事になっているので、他の人を気にすることなく戦闘に集中できると思います。
 どちらにしても畑は村の外れにあるし、村の皆さんも死者が出た場所は敬遠しているので人はまず、通りませんけれど。

 皆さんが死者の魂を解放し、翌日の祭を楽しむ事が出来るように頑張って欲しいと思います。

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参加者
帆波・聖(曼珠沙華の泪・b00633)
彼方霧・白蓮(ジャーマンアイリス・b06888)
月代・夜咫(昏暁・b15704)
渕埼・寅靖(硬骨の虎狼・b20320)
流茶野・影郎(肉・b23085)
御幸・榮(中学生白燐蟲使い・b26499)
鋳吹・春都(保健衛生委員・b27086)
佐々宮・鈴奈(高校生土蜘蛛の巫女・b29051)



<リプレイ>

●スイカ畑へ
 深夜の村はひっそりとしていて民家の明かりもまばらだった。
 街灯もほとんど見られず、能力者たちは月あかりと手持ちの懐中電灯を頼りに村の一番外れにあるサキの畑まで歩いていく。
 彼方霧・白蓮(ジャーマンアイリス・b06888)が周りの畑に目をやりながら呟く。 
「スイカか、割りたいなあ」
 皆が驚いたように見る。
「違う、違う。普通に買ってきた奴をだなあ、こう、パカーンとスイカ割したいなって」
 視線の意味に気がつき、彼女は棒を振り下ろす仕草をしながら言う。
「サキさんやその息子自身の為にも、倒さなければな……」
 彼がサキさんや村人を殺めるような事態になる前に、解放させたい、そんな思いを込めつつ月代・夜咫(昏暁・b15704)が言う。
「ああ、それが人を想う気持ちからでも、ゴーストはゴースト。きっちり片付けて元通りにしないとな」
 真面目な顔で相槌をうつ鋳吹・春都(保健衛生委員・b27086)の手元からはキコキコとせわしない音が響き、どうも緊張感がそがれる。
「春都、それは」
 夜咫の質問にこともなげに答える。
「ああ、この懐中電灯、手回し充電式で結構大変なんだ、交代してくれるとありがたい」
 ポンと手渡され、夜咫は肩をすくめはしたが、おとなしく回し始めた。

●畑での戦闘
 サキの畑に着き、囮役となる流茶野・影郎(肉・b23085)はイグニッションすると、おもむろに頬かむりをする。傍らの帆波・聖(曼珠沙華の泪・b00633)が驚いて言う。
「その頬かむりは? しかも、覆面の上からですか?」
「泥棒といえば頬かむりは基本装備だろ」
 ツッコミ体質の佐々宮・鈴奈(高校生土蜘蛛の巫女・b29051)が、口を開き何か言いかけるが。
「それって……やっぱり、やめておきます。突っ込んだら負けのような気がしますので」
 言葉を飲み込んだ。
 それから影郎と春都、渕埼・寅靖(硬骨の虎狼・b20320)の前衛役3人が畑に入っていく。
「それでは白燐奏甲をかけますね……」 
 御幸・榮(中学生白燐蟲使い・b26499)の白燐奏甲の力で皆の持っている詠唱兵器、それと藤、白檀の2体のモーラットたちが、ぼんやり光って辺りを照らす。
 足元の暗さはそれぞれが持ち寄った電灯で補われた。 
 影郎が大きく息を吸い込むと、用意していたスイカを見せつけるようにしながら叫ぶ。
「覆面忍者ルチャ影参上、この西瓜は貰っていくぜヒャッハー!」
 彼の叫びに呼応するように、畑の中から命を失ったはずのサキの息子が、動物のリビングデッドを従えて現れ、そのまま、影郎に襲い掛かる。
 冷静に観察していた寅靖が皆に告げる。
「鎖がついている、地縛霊だ!」
 畑を荒らしてしまうのを避けるため、畑の端の方に彼らを誘い込む。
「こんなところに迷って出て来るなよ!」
 春都がグラインドアッパー奥義を地縛霊に向かって決め、霊が吹き飛ぶ。
 地縛霊は彼らの戦闘のさまに怯み、畑の中に隠れる。
「逃げたか、それなら! ほら、割っちまうぞ!」
 影郎が頭上高くスイカを持ち上げ、叫ぶ。と、次の瞬間。
 グゥガァアアアア!
 隠れていた地縛霊が飛び出した。影郎の目の前に。
 そのままスイカを放り投げて逃げればよかったのだが、一瞬それをためらったせいで反応が遅れ、まともに岩のような正拳突きをくらう。
「くっ、不覚!」 
「こっちにスイカを寄越せ」
 寅靖が手をあげる。
「頼む、渕埼寅靖!」
 投げられたスイカをしっかりと浮け取り、ラグビーのように脇に抱え、寅靖が畑の外周を走る。
「うわっ! くすぐったい!」
 直後、影郎が声をあげる。白檀と藤の2匹のモーラットにすごい勢いでペロペロと舐められて治療されているためだった。
 リビングデッドたちはスイカを持っているいないに関わらず、皆に襲い掛かっていく。
 すかさず春都がグラインドアッパー奥義で吹き飛ばし、白蓮がそれを重ねてフレイムキャノンで追撃する。
 夜咫が炎の魔弾を撃ち放ち、タヌキが魔炎に包まれていく。
「深淵へと導く符……」
 聖が投げつける導眠符に眠るものもいたが、しかし、残りの迎撃しきれないリビングデッドたちが更に彼らを襲う。
「ちょっと危険だけど、一か八か!…やるだけやってみるっ!」
 鈴奈が弓の弦をはじき、ショッキングビートを試みるが失敗し、彼女は自分の未熟に歯噛みする。
 ドカッ!
 御幸が攻撃をくらう。
 白檀が心配げに彼女の方を見やるのを無理につくった笑顔で言う。
「わたくしは大丈夫、前衛の皆さんに付いていてあげて」
「今度こそ!」
 鈴奈が破魔矢を放ち、相手にダメージを与える。
 徐々に皆の間で攻撃、補助、回復の連携が完成されていき、リビングデッドたちは順々に倒されていった。
「母親に先立った不孝が心残りだったのか、伝えたい事があったのか」 
 寅靖が左頬の古傷を撫ぜながら呟く。それから、森羅呼吸法で大幅に強化させた己の肉体を頼りに、地縛霊との真正面の殴りあいを試みる。
「龍顎拳!」
 気魄勝ちした寅靖の拳が地縛霊に決まる。
「寅靖! 悪いな、待たせちまったぜ!」
 春都がそう叫びつつ、グラインドアッパー奥義を再び地縛霊に食らわせ、吹っ飛ばす。
 続けて、寅靖の背後から声がする。
「渕埼寅靖。肩を借りるぞ!」
 影郎が寅靖の肩に自分の足を乗せ、思い切り高くジャンプする。
「ルチャキック!」
 その叫びと共に繰り出されたクレセントファングは綺麗に三日月の軌跡を描く。地縛霊は防御する事も出来ず、その技をくらい、よろめく。
 地縛霊はついに膝をつき、目の前のスイカを大事に抱え込むような格好をしたまま静かに消滅していった。

●戦い済んで
「動物達は村のお墓の隅をお借りしましょうか……よく見れば、金魚のお墓や、亀のお墓もあるようですし」
 榮の提案に皆、納得して動物達を埋めると、息子の墓と共に線香が上げられる。
「この人も……ただ守りたかっただけ……どうか、あの方の魂が安らかでありますように……」
 榮の祈りの言葉に、皆、黙って手を合わせる、死してなお親を想った息子の事を考えていたのだろう。

●鎮守祭
 翌日、聖はサキのところにお見舞いに行っていた。彼女の息子の知り合いという事にして。
「これ、お見舞いのカーネーションです……花言葉は『あらゆる試練に耐えた誠実』なんですよ」
 サキは嬉しそうに目を細めた後、尋ねる。 
「お墓参りにはもう、行きましたかの」
 夜中に行ったともいえず、答えあぐねている聖にサキが言う。
「よかっらこの花をそのまま供えてきてくれませんかのう、あんたが言ってくれた言葉はあの子にあってるでの。『一旗あげる、それまでは連絡もしないし、村にも戻らない』って、馬鹿ですよねえ。会いに来ればいいのにのう、大体、あの子は……」
 いまだ息子の事を過去形で語ることの出来ないサキの思い出話を、聖は黙って聞いていた。

 白蓮は改めて墓を参っていた。
「動物達ともあっちで仲良くするといい」
 手を合わせる。
「生きている間は叶わなかった爺様孝行をしてやれたらいいな。いずれは婆様も入れた三人でな」
 墓に向かって白蓮はそんなふうに話し掛けた。

「祭の由来とかお聞きしたいのですが」
 夜咫がメモ帳を携え、インタビューしている。
「そもそも、この祭は収穫祭の意味が強くてね……」
 外部から訪れる人がすくないせいだろう、質問された神主は嬉々として答える。
「後で、神社の縁起絵巻も見せてあげよう」
「ありがとうございます」
「そしてここの……」
 夜咫が懸命にメモを取り続けたが。
「……近頃は消費者は冷蔵庫にかさ張る物は敬遠しがちでね、うちの畑でも小玉スイカをを……」
 気がつくと、話の軸が大分ずれていっているようだった。 

 シャク、シャク、シャク。
 祭を見学しながら建物の壁に寄りかかる、無言の二人。ただスイカをかじる音だけが響く。
 影郎は先に食べ終わり、それがあたかも手持ち無沙汰であるかのように寅靖に話し掛ける。
「その、みんなはどうしてます?」
「皆、変わらず元気にやっている。心配は無用だ……」
 やはり気がかりなのだろうな、そんな事を思いながら寅靖は結社のメンバーの近況を伝えた。

「鋳吹さん随分熱心なようですわね……」
 インスタントカメラでそこいら中を撮っている春都に榮が声を掛ける。
 そう言う自身も、手元のデジカメには子供神輿など多数の写真が、手持ちのレコーダーには村人へのインタビューが多く入っており、自由研究の資料は万全なようだった。
「ああ、せっかく来たんだからな、色々撮ってるぜ。自由学習として奉納の舞をする娘さんとか神主さんと一緒に神事してる巫女の娘さんとか、浴衣姿でスイカをかじる娘さんとか……」
「正直者……」
 呆れたような榮の呟きを気にもせず、春都が言う。
「あ、そうだ、シャッター頼む……えー、ぜひとも一緒に写ってくれませんか?その花柄の浴衣、すげー、似合ってますよ」
 榮は苦笑しながらもカメラを構えた。 

 忙しく祭を進行する村人の輪の中に鈴奈は自然と溶け込み、手伝っていた。
 神社の娘だけあって、こうした祭事も人間づきあいも得意なのであろう。
「スイカおいしかったです、お土産に買ってきますね」
「ええよ、ええよ、持っていきなせ」
「え、でも」
 戸惑う鈴奈の目の前で『食べてみなせ 自慢のスイカ』と書いてある村の名前入りシールをベタンと大きなスイカに貼ってにっこり笑って言う。
「そんかわり、お友達にも宣伝を頼むでのう」
「あは、商魂たくましいですね」

 やがて全員が村の境内に集まった。榮が控えめに提案する。
「せっかくですから皆で写真を撮りませんか……? シャッターは村の人にお願いして……」
 子供神輿の前で一同が並ぶと、ぼそっと寅靖が呟く。
「この夏の思い出はスイカ泥棒か」
 彼の真面目くさった重々しい口調のせいか、それとも影郎の頬かむり姿を思い出したのか皆が一斉に吹き出す。
 カシャッ。
「皆、ええ顔で写ったでのう」
 カメラを頼まれていたおじいさんが、満足そうに笑顔を見せながら言った。


マスター:八雲秋 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/08/18
得票数:ハートフル14  せつない7 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
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