過ぎ行く夏に 〜水辺に映ゆる夜の花〜


     



<オープニング>


 各地の川辺で催される花火大会は、夏の風物詩のひとつでもある。
 色鮮やかな炎が夜空に花開く瞬間は、心が躍るものだ。
 美しい花火を彩るのは、それぞれのテーマに合わせた旋律。
 夜を写す川面にも、目映い花の名残が映っては消えていく。
「こちらの花火大会では、幾つかのテーマに沿って音楽を流し、それに合わせて花火を打ち上げるのだそうです」
 雰囲気があっていいですわね、と澄江・撫子(高校生運命予報士・bn0050)はパンフレットを片手に目を細めた。
 演出を凝らした花火とテーマ毎に流れる曲は、ポップな明るいものから幻想的なしっとりとしたものまで様々だという。
「わぁ……曲に合わせた花火だなんて、ロマンティックですね。恋人同士で見に行ったりしても、素敵なデートになりそうです」
 うっとりと頬に両手を当てる癒月・マヒロ(うっかりくノ一・bn0015)に、撫子は少々意外そうな顔で瞬きをした。
「マヒロさん、ご一緒したい男性がいらっしゃるの?」
 彼女の問いに、マヒロは眉を下げひらひらと片手を振る。
「やや、例えですよ〜た・と・え。私は、まだあんまりそういうのはわからないのです。それに、みんなでわいわい楽しく過ごす方が好きですし……。そう言う撫子先輩はどうなんです?」
 と、ちょっと含んだ笑みを乗せて撫子を肘で小突く真似をするマヒロ。
 しかし、意図はあまり伝わっていないらしく、撫子はにっこり微笑んで応える。
「私は、川の近くにある公園で花火を見ようと思っておりますの。観覧場所としては穴場で、静かに風情ある景色が楽しめるそうですよ。皆様も、ご一緒に如何でしょう?」

 花火大会は19時から1時間と少しで終わる規模のものだが、1万発という数の花火が打ち上げられるのは、やはり圧巻だろう。
 屋台などは、勿論その前後も利用出来る。
 土手の上、花火が打ち上げられる正面には観覧席が設けられ、打ち上げられた花火や川面に映る花火の陰を見渡せるようだ。
「夜の川に映る花火って、なんだか不思議ですよね……! 私は、土手の上で花火を見ようかしら。焼きそばかお好み焼きでもお夕飯にして」
 夏休みもあと少しですし、楽しい思い出にしたいとマヒロが無邪気な表情で笑うと、撫子もそうですわね、と頷いた。
「それに、もうすぐ大きな戦いがあるでしょう? 今のうちに綺麗な花火を眺めたり、のんびりして英気を養って頂けたらと思うのです。大切な方に大事なことを伝えるにも、ぴったりの夜だと思いますわ」
 いずれ熾烈な戦いに挑む彼らを想ってか、ふと浮かべた心配げな表情を潜め、撫子は生徒達に柔らかく微笑んで見せた。
「皆様とご一緒出来ることを、心待ちにしておりますわね」

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参加者
NPC:澄江・撫子(高校生運命予報士・bn0050)




<リプレイ>

●風物詩
 並ぶ屋台の明かりが人々が導く。花火の時間前から結構な人手だ。
 制覇を目指し奮起するガイの脇を、人々に紛れ透真は歩いていく。
 懐かしさを感じる祭りの空気に、今や遠き母の面影を浮かべながらふと目に入った色とりどりの水風船を浮かべる屋台へと足が向く。
 一番の見所は『架け橋』というテーマで、コンピューター制御で音楽とタイミングを合わせて打ち上げられた花火が橋を描くのだという。
 買い物ついでに屋台の人から話を聞いた成章は、なるほどと納得したようだった。

 金魚掬い勝負で衣都子に負け、肩を落とす浩志を尻目に薔薇模様の浴衣姿の少女はりんご飴に興味津々。
「りんご飴っていうの?」
「え、食ったことないんか? 結構美味いぞ?」
 初めて見たという彼女に、甚平姿のウィルソンは意外そうに瞬きをした。
 紅玉に惹かれ、僕も食べてみたいと笑む鏡の黒に藍色の縞が入った浴衣は父のお下がりを詰めて貰ったものだ。
 何かあった時用のお金を頭の片隅に、「浩志。ご馳走様」と満面の笑みを浮かべる衣都子達の遣り取りを見詰めていた。
 お姫様のお望みのままにと大げさな溜息をついた浩志は、何故か笑み混じり。
 結局皆の分も奢ることになった彼の財布のピンチは、まだこれからだ。

 金魚の袋を提げ、紫苑はりんご飴を齧る。
「次は射的に行くの?」
 紺のTシャツに白青チェックの半袖シャツを羽織った貴明は、一緒に行こうと声を掛けた。
 その時、川辺から地響きを伴うような大きな音が響き始めた。
「ここからでも見えるんですね」
 夜空に輝く鮮やかな炎を見上げ笑む紫苑とは裏腹に、
「やべっ、もう時間になっちまった!」
 煌馬はイカ焼きを咥え、食品が大量に入った袋を手に走り出す。

 金魚はスイと逃げ、白と桃の縞に秋草を散りばめた袖から伸びる最中は折れてしまう。
「この金魚、お願いしてもいいですか?」
 しょんぼりした小夜に、虹色の蝶舞う紺の浴衣の美咲は自分の器から金魚を分けた。
 空には大輪の花。
 大きな音に振り返り、ふたりは姉妹のように寄り添い花火を見上げる。

「どうして音楽、やめてしまったんですか……」
 転倒寸前に抱き留められ、雪那は強く稔を見詰めた。
 ライトを浴びた眩しい彼の姿が過ぎる。
 稔の音が好きだったと必死で告げる彼女に、稔は瞼を伏せた。
 心の底で捨て切れない音への想いを手放したのは、無力さへの罰だったのだと。
 花火が齎す響きの中、人波はふたりを避けて流れる。

 お好み焼きを頬張る涼子を見守り嬉しげに微笑む俊吾の頭上に、大きな花火が広がった。
 彼女が望んだ数々の食べ物で、財布は軽くなってしまったけれど。
 視線に気付き、少女は「もうひは?」と口を動かす。
「んー……綺麗だなぁ」
「うむ、日本の夏の風情だな。美しいものだ」
 俊吾が見蕩れているものにも気付かず、涼子はマイペースだ。

●空の鼓動
 テーマを持つ花火はほんの数分だが、凝った花火が次への間を繋ぐ。
 熱気溢れる夜に、冷えたラムネが涼を運んでくれる。
「花火、綺麗なのですね」
 大きな音を肌で感じながら、紺に水色の花模様の浴衣を着た雛愛はふわふわと笑った。
「優しい雰囲気なのです♪」
 彼女の手を引いて歩く莉愛風は、金魚が泳ぐ青い浴衣姿で頷く。
 日本の伝統であるワビを表現して……というアナウンスと共に尺八と琴の音が流れ、緑を中心とした控えめながら組み合わせの美しい花火が上がる。
 土手にはマヒロがいる筈と、今度は雛愛が手を引き川への坂道に歩き出した。

 土手の道にマヒロを見付け、火蓮は小走りになる。
 ラムネを差し出す彼女の藍の浴衣には、愛らしい花々が咲いていた。
「はい、マヒロちゃんの分!」
「わぁ、ありがとうございます!」
 マヒロはラムネの瓶を頬にくっ付けて冷たいと笑った。
 焼きそば、お好み焼き、ホットドッグ。じゃがバターに唐揚げ。
「ボクはソースたっぷりめにして貰ったんだ」
 子猫柄の浴衣姿のれいあは、屋台の袋を両手に眩い光の元を見上げた。
 色合いを変えながら散っていく火花。
 マヒロが示す水流にも、空と同じ光が描かれては消える。
「あっ、マヒロ。よかったらどれか食べない? 買いすぎちゃってさ」
 大量の戦利品を抱えてやって来た龍麻に、驚いた後笑顔を浮かべるマヒロ。
「じゃあ、みんなで一緒に食べましょう!」

 道端で合流した生徒達は、結構な人数になっていた。
「女の子は恋しなきゃっ♪ くノ一の必須科目よ」
「ええっ!?」
 紺の浴衣の御守は、マヒロに何やら教えている。目を回している彼女にくすりと笑い、御守は靜を見遣った。
「氷上さんはどうなの?」
「……い、言いませんよ、言いませんからね!」
 目に涙を浮かべて言い返す靜に、御守は不思議そうに首を傾げる。
「はわわ……」
「仲間、場所取リ……シテイタ」
 芭蕉がぽつりと呟くと、オロオロしていたマヒロも手を打つ。
「そ、そういえば泉水先輩もそう言ってましたっけ!」
 渡りに船と、彼女は彼らの背を押した。

「たぁまや〜!」
 次々飛び出す花火に、泉水は焼きそば片手に上機嫌。
「ナイス五右衛門ちゃん、この場所凄く見易いよ!」
「ぐがー」
 当の五右衛門は、豪快にいびきを立てていた。
「ほら、五右衛門姉さん。マヒロさん達も来ましたえ」
 揺すっても食べ物でも目覚める気配のない彼女の頬を、瑞菜は軽く叩く。
「ぐごー」
「「……」」
「花火の音でも起きないなんて……」
 労いを言い損ねた凛花は、マヒロにしがみついて背中をボリボリ掻く彼女をしげしげ眺め、折角可愛い浴衣なのにと苦笑した。
「綺麗……切ナイ……」
 芭蕉は全く気にしない様子で咲き散る花火に見入っていた。
 山吹に赤蜻蛉の浴衣は、マヒロのものと少し似ている。
「あ、にっこり笑顔のマークですよ!」
 マヒロが指差した先に、華やかな花火の中に笑顔が現れた。

 はしゃぎ、たこ焼きを食べていた透歌は、淡い牡丹柄の紺の浴衣姿で「苑生も食べるじゃろ?」とひとつ楊枝に刺し、苑生に向ける。
 照れたように笑いながら、浅葱に朝顔の浴衣を纏う少女はそれを食んだ。
 代わりに、自分のベビーカステラを透歌の口に運ぶ。
 並んだ緑と黄色のかき氷も、仲良く光に照らされた。

 歩き回って疲れてしまったけれど、綺麗な花火を眺めているとそれも忘れてしまいそう。
「花火、綺麗ですね」
「アクアちゃんの方が綺麗ですわ」
 睦美の切り替えしに、アクアリースはもう、と頬を染める。
 けれどすぐに微笑を浮かべ、日頃の感謝を紡ぎ睦美の頭を優しく撫でた。

 喜一は濃灰の甚平で、のばらと土手の縁に腰を降ろした。
 幾色を帯びる蝶達が黒い布を舞うのばらの浴衣は、彼の母の見立てだ。
 高校生活最後の夏、そして花火。夏も終わっちゃうと呟くのばらに、喜一はまた来年も見れると穏やかに紡ぐ。
 眩いばかりの光を浴び、少女は幼馴染に笑顔で頷いた。
「ねぇキーチ、来年も再来年も一緒に花火を見ようね!」
 お互い家庭を持っても、年老いても。想いを込め差し出された小指に、喜一は笑って手を伸ばす。

「わー、綺麗だねー」
 紫陽花咲く水色の浴衣を纏い、魅入られたように呟く菘。
 冠された題は『七変化』。文字通り、不思議な動きを見せる花火も混じっていた。
 鼓動のような爆音に胸の動悸を隠し、晋作は意を決しあのさと呼び掛ける。
「……や、やっぱなんでもないっ」
 いざ面すると何も言えない彼に変なのと笑い、菘は再び肩を並べ夜空のキャンバスを見上げる。
「ふたりで見れて嬉しいな」
「え?」
「なんでもない」
 首を竦める少女の頭上に、大きなハートが浮かび上がった。

 浴衣の女性達を眺め、甚平姿の梓は溜息をつく。
 もうちょっと女らしい格好の方がよかったのかな。
 心の声が顔に出たのか、小次郎は肩を落とす彼女を思わず撫でていた。
「あたし、コジローのこと好きなのかもね……」
 花火の音に紛れた呟き。
「え?」
 殆ど聞こえなかった小次郎は怪訝に瞬く。
 今はまだ、間近で眺める花火のように近くて遠い。

(「気付いてくれるかな……」)
 桜色の浴衣に、髪を纏め上げて。
 今日は少しだけ違う。
 手はずっと繋いだまま、竜兵は結姫の薄化粧に花火とは違う胸の高鳴りを感じていた。
 とても綺麗だよと囁いたものの、照れ臭いのか視線はすぐに花火に向かってしまう。
 ふいに頬に触れた柔らかな温もり。驚いた竜兵が横を見遣ると、結姫は何事もなかったかのように花火を見上げていた。
 垣間見えた大人びた表情に、もっと目が離せなくなる。

 たこ焼き片手に、界は道行く人々とぶつからないように気を配る。
「花より団子……もとい、花火よりわたあめ、ですか」
 転んでしまわないかと目を向けた先の神子の様子に、思わず呟いて笑みを零す。
「ふーんだ。どーせ色気より食い気ですよーだ」
 少々むくれながらも、再びわたあめに噛り付く神子だった。

 烏龍茶で喉を潤し、食べ物を摘む。
 大胆な意匠の浴衣に身を包む弼に、梢は見惚れて溜息をついた。
 湧き上がる不安は、光に照らされた顔に儚さを覚えるからか。
 弼も来年には卒業だから。
「これからもずっと一緒よね、おねえさま?」
「姉妹なんだから当然でしょう?」
 問いを口にした梢を、彼女は優しい笑みと抱擁で包み込んだ。

 明るい曲のリズムに合わせて、垂直に長く尾を残す花火が次々と上がった。
 右から左、左から右へと波を作り、最後には両端から発した花火が中央で結ばれた瞬間、空に緩やかな弧を描く橋が架かった。
 人々の歓声の中、消えゆく橋を惜しむかのように沢山の花火が爆ぜる。

●夜咲く花
 公園は穴場というだけあって、大きく綺麗に花火が見えた。
 桃の里奈に薄紅の雛姫。
 似た色合いの浴衣を着たふたりは花火を見上げる。
 天に咲く花に巡る思い出を浮かべ、その中にあった友人を見遣ると目が合った。
 優しい花を沢山くれた雛姫にお礼を言おうとしていた里奈は吃驚。
「ゆびきり、しようか」
 突然雛姫に言われて戸惑ったけれど、彼女の意図に気付き頷く。
 お互いの笑顔を照らす花火と結んだ小指に、願いを込めた。

 自分だけでは恥ずかしいからと、超ミニの浴衣を手に迫る碧。
「澄江はんなら着てくれんよなぁ?」
「ごめんなさい、私には大胆すぎますわ」
 少々恥ずかしげな笑みを浮かべ、撫子は丁重に辞退した。
「撫子さん、また改良を加えたお茶は如何ですか?」
 雹は冷たい緑茶を差し出す。
 夜に浮かぶ染め抜きの蝶が浴衣の袖で揺れた。
 喉を潤す涼と薫りに、撫子はとても美味しいと目を細める。
 聞き覚えのある少女の呼び掛けに顔を向けると、智成とやって来るひかるの姿があった。
「うーっす。お、浴衣似合ってんじゃん」
 智成の声に、撫子は智成の甚平姿も、団扇を彼に向け扇ぐひかるが纏う白に藤が咲く浴衣もとても似合うと微笑んだ。
 友人達と会話に花を咲かせながら観る花火は、静かな風景とはまた違う趣だ。
 都合で来られなかった恋人に、せめて土産話をと稜牙は空に咲いた花々を目に焼き付ける。

 花火の音は、人にも振動を伝え改めてお互いの存在を感じさせてくれた。
 言葉がなくとも、充分。
 自分の振動も伝わっているのだろうかとかがみが窺うように顔を見上げると、桜花は微笑を浮かべて彼女の髪を撫でた。
 胸の鼓動も伝わってしまうだろうか?
 悩みながらも、かがみは花火に照らされ神秘的な雰囲気を帯びた桜花の顔を見詰めていた。

「ダメだ……可愛すぎて笑っちゃう」
 噴き出す恋人の姿に、要は複雑な気分だ。
 彼の髪を飾る花飾りなどは、希兎が色々と着けてくれたのだが。
 花火と共に屋台で買った食べ物を楽しんだ後、希兎はビーズの指輪を差し出した。
 要の願いを聞き、少女は神妙に彼の薬指へと嵌める。
「どう、似合う?」
 左手を掲げて笑む要の指で、それは七色に煌いた。

「臨海学校での水着も綺麗だったけど、浴衣も……その、いいよね」
 言いつつ肩を抱こうとした桜桃が見遣ると、瑠流衣はじたばたしていた。
 彼との色んな甘々なことを想像していたらしい。
「ぐは、また変な子だと思われる……」
 急に大人しくなった彼女は、桜桃の腕にちんまりと収まった。
 一緒に花火を眺めながら、どんな話をしよう。
 今まで、そしてこれからのこと……。

「まーくん、どーしたの?」
 突然ベンチに正座した雅紀に、春菜は驚く。彼の顔は真剣で、真っ赤だった。
「なぁ、春菜……俺、お前のことが好きだ」
 たどたどしく告白の言葉を捧ぐ雅紀の目に、同じく正座をして自分も雅紀が好きだと返す春菜が映る。
「お、おつきあい……し、し、しますっ」
 頬を染め、照れで視線を逸らす春菜に、雅紀は礼を言う。
『ずっとずっと一緒だよ』
 花火は見詰め合うふたりの距離が縮まりゆくのを、優しく照らしていた。

 紺の作務衣を着た十架は、桜舞う浴衣の有葉をエスコートする。
 弁当は彼が作ってきたもので、釈然としないものを感じた有葉は逆に彼に対し「あーん」と食べさせたりしている。
「また来年、花火を見に来ないかね?」
「来年だけ、ですか?」
 そういう時はずっとくらい言わないと、と彼女は十架に肩を寄せた。

 花毬模様の浴衣と、幾つもの桜のアクセサリーに包まれ是空は寄り添う章人と初めて過ごした夏を思い返す。
 色々と教えて貰ったり、困らせてしまったり。けれど、生まれた喜びは言葉に表せない。
 温もりに安堵し、章人も夏を振り返る。この幸福な時を失うと感じた時もあった。
 是空のいない日々など有り得ない。
 そんな彼の想いを感じてか、少女は愛しい人の顔を見上げて微笑む。
 いつも隣で咲き続けると。

 場の雰囲気のせいか、夏を振り返る者は多い。
「む? 突然どうしたのだ? 熱烈な感謝だな」
 新たな思い出話の最中、唐突な心太郎の礼と抱擁に蝶柄の黒い浴衣を纏う海音は目を瞬かせた。
 むしろ自分の方が感謝したいくらいだと、海音は彼と向き合う。
「ありがとう、心太郎殿」
「……ん、こっちこそありがとうな、海音」

 恋人として初めてのデート。
 白に朝顔柄の浴衣に袖を通した斑鳩は、椿の赤と黒の浴衣姿にも胸を躍らせる。
 共に観る花火に目前の戦いをも忘れてしまいそうな彼女は、椿の視線に気付いて問う。
「こういう時、本当は花火を見るべきなんだろうけどな……斑鳩、いいか?」
 触れた手が握り締められ、光の中浮かんだ影が重なる。
 ふたつの銀の指輪を、花火がキラリと光らせた。

●名残を残して
 最後の花火が消える頃、人々は早々に席を立ち始めた。
 柔らかな金髪を風に靡かせ、少年は暫しの別れを仲間達に告げた。
 戦いは彼らの心に何を残したろう。
 けれど、そんな内面をおくびにも出さず友はいつも通りじゃーなと笑う。
 ちょっと離れたって変わりはしないと、少女も頷いた。

 また来年も――交わされる言葉は、幾つもの唇に乗り流れる川のように紡がれる。
 音と光の余韻を胸に、人々は帰途へと流れて行った。


マスター:雪月花 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:68人
作成日:2007/09/04
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