水練忍者に告ぐ−−竜宮城を発見せよ!


<オープニング>


 馬場・ダイアナ(小学生運命予報士・bn0067)は、本職を水練忍者とする者を集めて言った。
「あのね、ちょっと急ぎの仕事に行って欲しいの。状況によっては、臨海学校よりも大規模な作戦が行なわれるかもしれないんだけど、その前に海の中の情報収集が必要……つまり、海の底でも行動できる能力者の力が必要になったの」
 ダイアナの手には、一度濡れて乾いたような歪んだ紙に書かれた手紙がある。それは臨海学校中に発見され、学園に一足速く届けられた物。テーブルの上に乗っているのは瓶。手紙はその瓶に入っていた。ボトルレターだったのだ。
 そこに綴られていたことは、海底にゴーストの集まる場所があるらしいということだった。城があり、沈没船があると言う。手紙の主はそこにいる。
「この手紙の主は一般人よ。能力者じゃないわ。そしてゴーストでもない」
 彼は『なんらかの理由で』ゴーストに囚われた一般人であると言う。
「彼の名前は、おうみながと。近いに江戸の江、永久の永に都と書くわ。乗ってた船が沈んで、そのまま行方不明になってた人。もう生きているとは思われてなかった……人ね」
 けれど、海底の不思議な空間で生き延びていた。そしてそこから出られないらしい。
「彼いわく、そこには『化物がたくさんいる』そうよ。ゴースト島に掃討に行ってもらったわけなんだけど……どうやら元凶は島じゃなくて、海底だったようね。確定したことは言えないのだけど、なんらかの理由でその海底の城のある所から、おそらく一番近い地上であるあの島に出てきて集まっていたのね」
 その理由はあるのかもしれないが、どうやらまだ確定的に語れる段階ではないようだ。
「とにかく、らしいとか、みたいとか、そうだとか、ようとか、そんなあやふやな言葉でしか、この話はまだできないことばかりなの。悪いけど、ちょっと勘弁してね。嘘はつきたくないから――でも、いつまでもそんなわけにはいかないでしょ。一般人が、苦しんでいることだけは確かなんだもの」
 しかし、だからと言って単純に「助け出して来い」とも言えないらしい。そこにはゴーストが、ゴースト島よりもたくさん巣食っているかもしれないのだ。そして、そのゴーストたちが永都を外に出さないと言うのなら……それを外に出そうとした時、何が起こるかは想像に難くない。
「巣食っているゴーストの規模とか、状況に合わせて……それに勝てるだけの人数を送り込むのが妥当なんだけど……現状では、場所も確定できてない。話は最初に戻るわけだけど、大勢を乗り込ませるには情報が足りないってわけ」
 なので、危険はあるかもしれないが、探索に向かってもらう者を募集するということだった。募集を水練忍者に絞ったのは海底で攻撃を受けてボンベ等を破壊されても、彼らならば、それが致命傷にはならないからである。
「正直な話、まったく何からも攻撃を受けないって、多分無理だと思うの。それでいて、どんなものがいてどれが攻撃してくるのか、さっぱりわからないのよ。他の職業の人だと酸素ボンベが必須で、攻撃を受けてそれが壊れたら……それだけで生きて帰ってこれなくなるわ」
 だが水練忍者だからと言って、何もかも大丈夫とはいかない。その方が少しリスクが少ないだけだ。
 今回もゴースト島の偵察と同じように、攻撃を受けたら即座に逃げて欲しいとダイアナは言った。彼我の数の差は、戦いにおいてはとても重要だ。戦っているうちにゴーストが集まってきたら、もう命は保証できない。
 だが、それでは意味がないのだ。情報を持ち帰ってもらわなくては、意味がない。
「移動して回復できる技は、今回もあった方がいいわ。あなたたちにお願いすることは……どこに城やらなんやらがあるのかを発見してきてほしいの」
 それはすなわち、永都青年のいる場所の特定でもある。海底の城……竜宮城と言うのが良いだろうか。彼はそこにいるだろう。
 そして、そこにはやはりゴーストがいるはずだ。
「どれだけゴーストがいるかを特定するのは困難だと思うの。でも、この彼とちゃんと話ができたら、その辺もわかるかもしれないわね」
 現場で困らないように、何を聞くのかを決めていくと良いだろう。長く話ができるとは限らない……すぐ傍にゴーストがいる可能性も高いのだから。
「彼の船が事故にあった緯度経度は判明してるわ。そこから、ものすごく遠くはないはずよ。船でそこまで行って、そこから海に潜ってもらうことになるわ」
 瓶と手紙も持って行ってもらう。それを見せて話をすれば、話のきっかけは掴めるだろう。
「じゃあ、よろしくね。くれぐれも、無理はしないで?」

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参加者
琴吹・湊(銀夜燈篭・b04657)
雪村・零(執事見習い・b05870)
龍守・功代(水練忍者・b09363)
戸村・風海(月下緋桜・b11745)
鬼子母神・煽那(風天踊鬼妃・b17861)
梅雨風・雷華(夢へ誘う現の風・b24267)
クリティア・ラスキン(中学生水練忍者・b26410)
皐月・美空(面倒が嫌いな紅の星・b27380)



<リプレイ>

●青き海へ
 海の青は深く濃い。
 水練忍者達を乗せた船は手紙に示された緯経まで来て、停泊した。そこで彼らの帰りを待つ。
「凄腕の潜水部で長い時間潜っていられるので、安心して待っててください。いつでも出発できる様に、お願いします」
 龍守・功代(水練忍者・b09363)は操舵する者が何者かは知らなかった。一般人か否か本人に聞くわけにもいかない。だから一応誤魔化し暇つぶしに雑誌を渡して、お願いした。
「竜宮城かぁ……綺麗なお姫様とかがいてくれるならロマンティックなのになぁ」
 雪村・零(執事見習い・b05870)は呟きながら、凪いだ海を見下ろす。
「浦島太郎の話はバッドエンドだけどね」
「浪漫がないなぁ」
 隣に立っていた琴吹・湊(銀夜燈篭・b04657)に淡々と言われ、零は顔を上げた。零はそう言いながらも、お姫様などおるまいと思っていた。誰か別にいるのなら手紙に一言も書かれてないのは不自然である。
 その手紙は戸村・風海(月下緋桜・b11745)と湊が一枚ずつ持つ。竜宮城が見つかったなら、永都青年を探すために二手に分かれるからだ。
 クリティア・ラスキン(中学生水練忍者・b26410)は全員と、水中でも意思の疎通がはかれる様ハンドサインの確認をして。
 後は錨に長いロープを四本繋いで海に放ったら、海に入るばかりだ。
「今回は、かなり危険な依頼だな」
「面倒な依頼よね。でもやるからには全力でやるわよ!」
 梅雨風・雷華(夢へ誘う現の風・b24267)の当て所ない呟きに、皐月・美空(面倒が嫌いな紅の星・b27380)が面倒という口癖には不似合いな気合の入った面持ちで応える。
「永都って人、助けることは出来なくても不安を和らげてあげたいわ」
「居る場所はゴーストの総本山だからな」
 雷華がふと仲間を見回してみれば、仲間の様子は様々だ。鬼子母神・煽那(風天踊鬼妃・b17861)が少し緊張の面持ちだろうか。元々物静かな性質なのだろうが、黙って海を見つめている。美空の気合も緊張の良い方向での発露だろう。クリティアが細かに最後の準備に動いているのも同様だろうか。

 最後に時計を合わせて行こうと、八人で円陣の様に向かい合って。
「依頼の成功も大事だけど、皆そろって戻ってこようね。それじゃあ時計を合わせよう」
 クリティアの言葉に煽那も応える。
「一人も欠けないように、絶対無事で帰ろうね?」
 湊も功代も頷いた。
 この先危険なことは疑いない。それでも行かねばならないので、水練忍者に限って集められたのだ。
「3、2、1、0。よし、行こう!」
 ダイバーズウォッチの時間を、クリティアの声で合わせて。
 そして彼らは海に潜っていった。

●銀色は輝く
 海上は茹だる様な暑さが支配していたが、水底は冷たかった。耐えられぬ程ではないが、長くいれば深々と冷えるだろう。長居する場所ではなさそうだ。
 海底まで降りるにかかる時間は、水練忍者でなかろうと大きく変わることではないだろう。ならば竜宮城も場所さえ確定していて、その真上からならば……イグニッションして能力の高まった能力者であれば、息を止めて素潜りでも潜ってこられる位の様だ。
 しかし青は深くなり、遠くも幾らか見えてはいるけれど、ぼんやりして細々は判別つかない。零や煽那のヘッドライトの灯も然程遠くへは届かない。
 降りてきた地点で、すぐ目的の物が見つかるとは誰も思ってはいなかった。それでも雷華は慎重に辺りを見回した。不審な影はないだろうかと。
 そこで雷華はぎくりと動きを止めた。本当に動く影が見えたからだ。
 影は近づいてきて、そしてどうにも普通の魚とは違う異形を成していた。海の中では声は届かない。雷華はサインで仲間に知らせ――そして、とにかくやり過ごすために逃げる。
 妖魚が錨の傍らを悠然と泳ぎ抜け、見えなくなるには五分ばかりかかった。
 その間彼らがどこに逃げていたかと言えば、上にだ。海底は珊瑚や岩で起伏に溢れているので、そこに隠れても良かったが、追われる様な羽目になれば戻る場所は頭上だ。八人は海中に浮かび、足下を泳ぎ抜ける妖魚を息を潜めて見守っていた。
 幸いにも妖魚は彼らに気づかなかったようだ。だがこれからしばらく、これを繰り返すことになるだろう。『化物がたくさんいる』場所を探していて、その化物と行き遭わぬはずはないのだから。如何にやり過ごすかが肝要だ。その視界に納まることを極力避ける。それがまず初めの一手だった。
 八人は海底の錨の場所に戻ると、まずは零が錨と共に落としたロープの束を解いて先を一つ握った。同じ様に功代が、湊が、美空がロープの先を握り、そして四組に分かれて。
 四組の探索者は四方に向かって泳いでいった。

 結果から言うと、沈没船と竜宮城を発見したのは功代と煽那の組であった。彼らが向かったのは先程の妖魚の来た方角。
 そして発見した物は……派手だった。沈没船を見つけたと思う前に功代は戸惑った。いや功代だけではない、煽那も戸惑った。
 まず見えたのは光だったからだ。海底を照らす光は遠くまでは届かないのだが、しかし巨大だった。海底に光を放つ透明な泡のドームがあるのだ。その天辺はとても高い。
 中心となる泡のドーム自体が、やはり輝く泡を纏っている。輝く泡はドームから生まれ、ドームから離れるとすぐに細かな泡に分かれて散っていく。海上まで、その輝く泡が届いているかどうかはわからないが……中央の真上からなら、もしかしたら見えるかもしれぬ。
 奇妙で幻想的な光景だ。
 光源がどこにあるかはわからない。泡自体が発光している様にも、空間が発光している様にも思えた……どこか銀色がかった光。
 泡のドームは巨大な沈没船もすっぽりと覆っていた。ドームは本当に大きい。光が充分に届く所まで近づけば、朽ちかけた沈没船の全容もわかった。かなり大きな船だ。
 別の物も見えた。
 その光の向こう側、ドームの中には無数の――影が影が影が。
 無数のゴーストが……たゆたい、うずくまり、まどろんでいる。
 煽那はぎょっと一歩引いて、動かぬゴースト達を見つめた――ドームの中には数え切れぬ程のゴーストがいるが、しかしほとんどは眠っている様だ。
 これが竜宮城なのだろうかと、功代は泡の外から沈没船の船体を見上げた。
 その時、煽那が功代の肩を押した。
 泡の中にスケルトンが歩いていて、近づいてきたからだった。眠っているばかりではないらしい。
 慌てて二人はスケルトンから見て船の影になる位置に逃げ隠れる。そっと振り返ればスケルトンは、なんら抵抗なく泡の中から外へ出てきていた。それで泡は何も影響を受けぬ様だった。
 泡の外周も長かったが、ぐるりと回り……そして煽那が船の影になって初めは見えなかった『城』を発見した。
 指差したそれは、本当に城の威容をしていた。御伽噺の竜宮城のまま。泡の中心の方向に……遠く見える。
 二人はスケルトンをやり過ごすまで待って、仲間も戻ってくる錨の所へと戻った。

 程なく全員で泡の前に立った。不安がないと言えば嘘になったが……八人は頷き、湊を先頭に泡の中へ踏み込んだ。
 まず手に触れ、次に身体に触れた空気の様に思う物を感じて、湊は声に出して呟いた。
「空気だ」
 そして呟けることを確認する。泡の中には空気があるのだ。空気は海の色を映した様に、ほの青くも思えた。
「驚いた……! 広大ね。竜宮城まで結構あるわ」
 美空も声を出してみて確認する。
「隠れて!」
 煽那の声で、全員急いで沈没船の影に身を隠した。
「どこだ?」
 零が確認する様に覗いて囁く。影に身を伏せた美空が、そっと斜め上を指した。零がその指の先へと視線を向かわせると。空中を異形の魚が『泳いで』いる。
「……反則だよな」
 空中を魚が泳ぐなんてと零が呟くと、湊は首を振った。
「ここは敵地だってことだ」
 その位の法則はゴーストの都合の良い様になっているだろう。本来空気があることの方が反則なのだ。
「魚、行ったわ……私達も行きましょう。ここまで来たんだもの!」
 美空に促され、八人は沈没船の影から出た。危険でも、ここで引いたら目的は果たされぬ。
 足元に空中にあちこちに……無数の危険な影はあった。あまりにも多すぎて、まともに数えられない。
 これらがもし一斉に襲い掛かってきたら……逃げ出せるとも思えなかった。幾人かは、自分の使える様に用意した技を後悔もした。用意してきた回復の技ではとても足らぬと思われたが、もう後悔は先に立たぬ。
 だが今は、ほとんどが眠っている。今、彼らにできることは近づき過ぎないことと、ただ一目散に城まで走り抜けることだけ。行く途中に偵察する様に歩き回っているゴーストと間近に行きあわなかったことは……ただ幸運なだけだった。

●墓標の群れ
 彼らが竜宮城の中に入ることは簡単だった。鍵などなく、扉も開け放されていた。
 それは多分出入りしているのが知性のないゴーストだからだ。開けることができるとしても、閉めるという智恵がない。
 城の中に入ると彼らは二手に分かれた。美空が門扉の柱に釣り糸を結わきつけ、それぞれの班が一本ずつ引っ張って進む。
 二班は永都の姿を探して……城内をうろつくゴースト達の目を盗んで駆けていった。

 城は大きかった。
 フロア一つをとっても、広い。何をする場所かわからない広い部屋が続き、そこここに眠る様に動かぬゴースト達がいる。眼を醒ましている物からは隠れ、動かぬ物は刺激しない様にそうっと先へと進む。
 そんな中、永都を最初に見つけたのはクリティアだった。その姿は意外にも……城の外にあった。
 外に繋がる広い回廊を足早に駆け抜ける途中、クリティアは外に佇む人影を見つけたのだ。城の裏手には墓標の様に見える物が幾つもあって、そこに青年は佇んでいて。周りには比較的美しい妖魚がひらひらと泳いでいて。
 クリティアは風海の袖を引いた。
「あれ……?」
 煽那と零も足を止め、回廊から外を見下ろす。
 そしてその気配に……青年も顔を上げて驚愕の表情を見せた。
「永都さん?」
 クリティアの呼びかけに、青年は転びそうな勢いで回廊に繋がる階段を駆け上がってくる。
 だが妖魚もそれを追ってきて。
 青年……永都ははっとした様に足を止めた。そして階段の途中で困った様に彼らを見ている。近付くのが怖いのだろう……四人がではなく、自分に纏わりつく化物が四人に危害を加えることが。
 近付こうと一歩踏み出した煽那に、彼は叫んだ。
「……来ないでください!」
「手紙を見たんです、わたし達」
 風海が懐からビニールに包んだ手紙を出す。きちんと見せられる距離ではなかったが。
「あの……手紙を?」
 零が頷いて見せた。風海以外の三人は妖魚を意識しながら、周りを警戒する。
「今日、すぐには助けられないんですが」
 そう言うのは、風海にも心苦しかった。だが言わなくてはならない。
「必ず助けに来ます、それは信じて欲しいとしか言えません。ですが我々は貴方の言葉を信じている」
「あの、でも今は化物達が眠っている時期だから……来れたのかも」
 永都は心配そうに告げる。
「眠っている時期? 起きている時期もあるのですか?」
 永都はカレンダー付らしい腕時計を見て、多分満月に近付く頃に起きている物が増え、この城とドーム中に蠢き溢れかえるのだと言う。
 四人は顔を見合わせた。確かに今は新月に近い。
「このドームは段々大きくなってて……でも月ごと化物達は同じ様に溢れていく。まるで化物達が目覚めるたび、増えているみたいに思えます」
 ゴーストが増えているというのは、また嫌な話だった。だが永都がそう思うのだから、それは真実に遠からぬのだろう。
 まだ海の青に染まるドームの天辺を見上げ、いつかこの天辺は外に出てしまうのだろうかと、永都は呟く。
 このままドームが大きくなり地上にまで現れたなら、何が起こるだろうか……そう思って煽那は身震いした。これはいずれ世界結界の危機に繋がるかもしれぬ。
「いくつか教えて欲しいことがあるのです」
 風海は時間はないと、質問に入った。
「貴方から見てゴースト……化物達は誰かの指示を受けているようですか?」
「それはない……と思います。強そうな化物は偉そうだけど指示してる感じじゃない」
 永都は考え込む。
「組織みたいな物はないです。命令したり操っている物があるとしたら、この箱か」
 そこで永都は唇を噛み締めた。
「僕だ」
 だが、急に激しく頭を振る。
「いや……! 違う、僕はあんなこと望んでない!」
「落ち着いて下さい……!」
 風海は永都を落ち着かせようと近寄ろうとして……永都を守るように間を過ぎる妖魚に視界を遮られて、足を止めた。
 そこで永都も酷く蒼褪めた。彼らが近付くことは、やはり好しとされないのだろう。そして再び顔を上げて風海を見ると、搾り出す様に喋り出す。
「……僕がお腹空いたと思うと、化物達は僕の前に魚や貝を採ってきて置くんです」
「それを食べて?」
「生だけど最初はどうにか。最近は……食べてません。食べなくても死なない。多分この箱のせいで」
 どこか悲しい微笑みを永都は浮かべ、螺鈿の箱を抱きしめる。
「僕が退屈したら、気を紛らわせる様に面白い動きをしたりもします。それで」
 一言を噛み締める様に。
「死体が」
 それを口にした。
「運ばれてくるんです」
「え?」
「僕がここで寂しくなると……死体が運ばれてくるんです」
 そして無数の墓標を振り返った。
「……死体じゃ駄目なのに、こいつらにはそれがわからない。僕が一人で寂しいなんて思うから、あの人達は殺されて運ばれて来たんだ。だから」
 再び振り向いた歪んだ顔は、泣くのを我慢している顔。
「どうしても僕はここから出ていかなくちゃいけないんです。ここにいたら僕は」
 後どれだけの人を死に追いやるのか。けれど彼が出て行こうとしたらゴースト達は行く手を阻む。
 これは『彼がゴーストを操っている』と言うのとは違うだろう。だが、誰も絶句するしかなかった。
「その箱のことを聞きたいのですが」
 それでも風海は役目のために気力を振り絞る。
「不思議な箱なんです」
 遭難した後、沈没船の前辺りで意識を取り戻した時、体の下にあったと言う。箱は初め船の近くにあったのだ。
 風海が会話して思ったことは……その箱が原因ではないかと思いながら、永都には箱を手放すという考えが欠落している。それも箱の力なのかもしれなかった。
 事故のことも訊ねたが、手紙に書いた以上のことは良く憶えていないと言う。
 その時だった。
 回廊の先が騒がしくなった。

 そう、二班に分かれたということは。片方が無事でも、もう片方もそうだとは限らないということだ。
 湊と功代と美空と雷華の四人は、城を見回る様に徘徊する妖魚の視界に入ってしまって……そこからはもうとにかく逃げるしかなかった。
 だがまず霧影分身術の数の少なかった功代が危険に陥る。雷華が白燐奏甲で支えて凌ぐが、しかし雷華自身も使える回復の数は多くはなかった。分け合って支えて、最後までもつとは思えなかった。美空はそこそこに使える様にしてきていたが、いかんせん元の体力が低くて消耗するペースが速い。
「先に走るんだ!」
 最後まで立っているとしたら、湊だっただろう。だが一人になっては、やはり帰れるかどうかわからない。
 もう駄目かもしれない。
 そう思った時、彼らは外に繋がる回廊に出た。
 
 雷華が功代を支える様に走ってくる。
 逃げてきた四人も話していた四人に気付き……互いにしまったと言う顔になったが、もうどうしようもなかった。
 八人は回廊の手すりを越え城の裏に飛び降りた。しかし空を泳ぐ物に段差はなんら障害にならぬ。追手は追いつき。
「追わないで……っ!」
 しかし永都の声が響くと、全ては止まった。ぴたりと止まった気配に、零が思わず振り返る。
 永都を置いていくのは……本当に悔しかったのだ。
 だからもしもと思って。けれど。その気持ちを察したかのように妖魚たちは再び零に向かって。
 クリティアが叫ぶ。
「雪村さん走って!」
 零も悔しさを噛み締め、叫ぶ。
「次はきっと助け出すから……!」
 零が再び走り出すと、またゴースト達は止まったようだった。
 だが、見ている。
 もう無数の異形は眠ってはいない。
「もしかして、ここから出ようとしている間は襲われないんでしょうか」
「……永都さんが僕達を逃がしたいと思っているからかもしれないけど」
 最後を往くクリティアと零は無数の眼を意識しながら、そう囁いた。
 数千、いや数万の瞳に囲まれながら……彼らは泡を出た。

 船に戻ると、疲労はピークだった。
「まさに竜宮城だったな……ある意味壮観だった」
 一度は覚悟した湊も、そこでやっと息を吐く。
 雷華は攻撃でカメラがおかしくなってしまったと、いじりながら呟く。
「あの竜宮城を真正面から攻略するなら……こちらも数千人の能力者で挑まないとな」
 煽那は永都の言葉と共に戦慄を思い出していた。
「あのゴースト達が、万が一全て地上に出てきたら……恐ろしいことになるね。竜宮城のゴーストの一部が地上に出てきただけで大騒ぎだったのに」
 だが遠からぬ未来に、それは現実になりそうだ。
 海上に天辺が出れば、いくらなんでも誰かに発見される。
 ……その後は。

 彼らを乗せ、船は本土へと戻る。
 報告は急がなくてはならなかった。


マスター:黒金かるかん 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/08/17
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