<リプレイ>
●覚醒の時〜キクオの場合 あなたは、自分の目覚めの時を覚えている?
愛する人を亡くした悲しみが、魂を揺さぶるほどの強い感情が、 世界結界の狭間で血に眠ったチカラを呼び起こす。 そのきっかけが作品にかけた情熱だったとしたら……。 これは、そういう能力者とリリスと、彼の命を救う8人の物語。
奥木キクオは手近に転がっていた椅子に陣取ると、スケッチブックを受け取った。そしてポケットから自前のペンを取り出す。 ガランとしたビルの中は、照明がひとつぼんやり点灯している。床にもそう埃が積もっていないからまだ引っ越したばかりなのかもしれない。廃ビルというより、取り壊しを待つ空きビルという感じだった。 暗いな、と思いながらキクオは顔をあげて尋ねた。 「ミミさん、どのキャラを描きますか?」 ツインテールの美少女は、それには応えずキクオの手に自分の手を重ねた。 「……ねえ、好きなの。キスしちゃダメ?」 「スケブ描いてって言ったのはキミでしょ?」 僕のファンだって言うのは嘘か、とキクオは渋い顔をした。 「ファンだなんて嘘つかなくても、キミくらい可愛いければ、男ならいくらでも誘いにのるだろうに」 二人きりには興味があるが、それとこれとは話しが別だ。学業の合間を縫って出した本をようやくわかってくれる人がいたと思ったのに。 「なにー? 何我慢してるの? あたしを気持ちよくしてくださあい」 リリスはキクオの手をとり、自分のチューブトップの胸に導いた。キクオは赤くなって抗議しようとしたが、ミミはあっという間に身を寄せ、キクオの喉笛をガブリとかみ砕いた。
●新しい出会い 表玄関……といっても、ここは既に地下だった。元駐車場らしい空き地から階段を降りて、タイル張りの前庭を抜け、元洒落たドアに辿り着く。 葉月・十造(闇纏いで体育座り・b00384)と笹原・るえる(黄金の林檎姫・b01819)は即座にイグニッションした。 加賀見・眠斗(天穹の魔導士・b16661)は 「締め切りに追われ、切羽詰まって覚醒したってどんだけやねん」 一人漫才しつつ現場に現れて、クラスメートの楢芝鳥・俊哉(半人前な図書室の主・b20054)に頑張ろうな、と声をかける。 4人がそのまま壊れた玄関ドアから現場に踏み込むと、椅子が激しく倒れる音がした。
――リリスはちょうど、お食事を始めたところだった。 ドアを開けた能力者達が見た者は血を流して事切れるキクオ……遅かった、と一瞬目の前が暗くなる。 だが、キクオは死ななかった。魂が肉体を凌駕し、忽然と立ち上がったのだ。 「ちょっと待ったーなの!」 さらに攻撃を加えようとするリリスにるえるが叫び、即座に十造が導眠符奥義をリリスに放った。 「やめろ、リリス。それ以上キクオに手を出すな! えっちいのは、俺だけに見せてくれ!」 裏口からほぼ同時に入ってきた的場・遼(もっこりスイーパー・b24389)が心の叫びをぶつけた。 続いて入ってきた角原・匡臣(打ち砕く憤怒の視線・b00402)、限夜・灰児(水音の調べ・b28611)も詠唱兵器を手にリリスを見据えた。真武・由梨(紅月黒湖・b00427)は冷静に素早く辺りを見回してその場の状況を把握する。 「な、なんでこんなに能力者、が……」 ミミは怨嗟の声をあげたが、十造の技に耐えられずすやすや眠ってしまった。
その隙に、彼等は由梨とるえるの発案で手早く机と椅子を寄せ集めて即席のバリケードをつくる。 「そんな武器もって……キ、キミ達、誰? ミミさんは……」 キクオは傷に手をあてて、おろおろと後ずさった。 「大丈夫だよ、わたし達はあなたを助けにきたの」 るえるが言い、優しい声で歌う。見る間に癒えてゆく身体にキクオは表情を和ませた。 「ありがとう……。キミも不思議な能力を使えるのか……」 初めの警戒はやわらぎ、バリケードの後ろに隠れるように言われて素直に従う。 「キクオさんも能力者なんですねー。よく『締め切り間際は修羅場だ』って聞くけど、能力者として覚醒するには間違ってると思うのですよー」 俊哉が小首を傾げてキクオに小さく疑問をぶつけた。眠斗と灰児も同じ考えなのだろう、目配せをして頷きあうとそれきり背を向けてリリスに向かっていく。 キクオは一瞬何を言われたのかと身を強張らせたが、あることに思い当たった。 (「そんなことを言うってコトは……キミ達は全員、チカラに『目覚めて』いるんだね?」) キクオをバリケードの奥に庇う様に、るえるが立った。彼女の両手には黄金に輝く詠唱兵器……林檎の花と実を描いた術扇が輝いていた。 「絶対にあなたを守るから」
「『廻る力』っと」 俊哉の前に、強力な魔法陣が出現する。 能力者達はキクオをひとまず保護すると、戦いの為に己を高めた。 リリスは等身大の人形のようにすやすや眠っていたが、能力者達は容赦しなかった。 十造の剣がリリスの白い項を掠め、続いて眠斗が殺戮ナイフを閃かせた。 「うぉ〜っ!もっこりパワー全開!! 我が煩悩の力を受けよ!」 素直なかけ声とともに、遼がロケットスマッシュ奥義を放つ。最初の一撃で目を覚ましたミミは、思いの外身軽だった。致命傷を避けて長い睫を瞬かせる。両腕で身体を抱き、身体をくねらせた。 「やだ、何攻撃してんのお? もうそうだーん!」 リリスの瞳が一瞬ギラリと光る。背中か白い蛇が現れ、ぽぽぽぽーん、とガトリングガンよろしく桃色の玉を弾きだした。
第一の犠牲者、眠斗がぽけーと呟いた。 「マンゴーシャーベットだ。これ全部マンゴーシャーベットだ」 目はどこかあらぬ彼方を見ている。きっとマンゴーシャーベットのプールで泳いでいるのだろう。 玉をよけた俊哉が小突いたが、残念ながら魅了からは幸運度チェックでしか回復できなかったのだ。 「それには、死んでも当たりたくないのですよ」 あたらなかった十造はホッとしたが、後ろに気配を感じる。 「十造先輩……どこにもいかないでね……十造先輩」 「る、るえる!?」 そして、遼はといえば、リリスに突進した。いや、攻撃しているのではない。もっこり〜とか叫びつつリリスに抱きついた。 一瞬の混乱、一瞬の気のゆるみ。ミミはそこを逃さなかった。遼の身体に爪を立てると逆に強い力で胸に抱きしめ、その身体を盾にする様にじり、と後ずさりをはじめる。 「な、どうなってるんだ……?」 キクオは驚いてバリケードの後ろで立ち上がった。 俊哉がすかさず、ミミの後ろから飛びついた。ゴーストの柔らかいけど冷たい肌の感触が伝わってくる。 「しがみついても逃しませんよ。変なところなんて触ってないです」 顔を赤らめながら、中2男子は頑張る。
この光景を見ていたキクオは、きり、と顔を引き締めると愛用のペンを取り出し、空中に絵を描き始めた。華麗なペンさばきでそれはあっという間にデフォルメされたミミの姿になる。そして頭身低めのキャラは、皆がぽかんと見守る中、生きている様に動いて本物のミミをぱかーんと蹴っ飛ばした。 「あ痛っ!」 リリスは思わず顔をしかめ、そこに灰児のショッキングビート奥義が響き渡る。 「この曲、お姉さんの好みに合うといいんだけどっ」 同じ職業の先輩、澤村鉄平を慕う彼だが、決して妄想弾の虜になっているわけではない。リリスはマヒをくらって動きを封じられた。 「あはははは……! その肩、白いね、いいねー。狙っちゃうね。鳴いたらどんな声なのかボクに聞かせてね。あははははははは。だから、逃がさないよ」 由梨が笑いながら、本モノの詠唱ガトリングガンを撃った。彼女も決して決して妄想弾に当たったわけではない。先の戦役で負った重傷のせいでも……多分ない。 弾幕にミミは血を流し、そこに気を取り直した全員の攻撃が集中した。 怪我をした者はるえるの歌に癒され、匡臣の白燐奏甲に助けられた。そしてキクオは得体のしれないドリンクを容赦なく頭からぶっかけて回復してくれたのだった。
●少しだけ友達 「助けてくれてありがとう」 言葉少なにキクオは頭を下げた。 ミミの身体が消滅し、この世界に間違いなく存在するゴーストをキクオは受け入れざるを得なかった。そしてこの能力が彼等と戦う為にあるのだということを、ここにいる8人が身をもって教えてくれた。 今彼等は、自分たちが通っている能力者のための学校のことを説明してくれている。 「……やべ、宿題まだ終わってなかったんだっけ。俊哉、後で見せて……っ」 学校と聞いて思い出したのか、眠斗がクラスメートの俊哉に頼み込む。その俊哉はと言えば、立て続けにキクオに質問していた。 「締め切り間際はそんなに修羅場なんですか?」 「僕は本を落としたことないのが自慢なんです!」 「どんなアビリティが使えるんですか?」 「アビリティって何ですか?」 「同人誌見せてくださいなー」 「僕はまだ18歳未満だから、変な期待はしないで下さい」 笑うキクオに、るえるが横からおそるおそるスケブを差し出した。 「よかったら、わたしにもスケブ描いて欲しいな〜」 頷いて、キクオは先程不思議なチカラを生み出したペンを取り出した。それが決して詠唱兵器でないことは承知だ。この不思議な力の源は確かに能力者達自身に潜む。 「いいですよ。どのキャラを描きますか?」 「十造先輩の似顔絵を」 キクオは指さされた人物を見ると、先程の妄想弾でのこの少女の言動を思い出して微笑んだ。彼のペンはスラスラとスケッチブックを走る。 「一般人に今日のことは他言無用です」 当の十造がそう念を押し、さらに学園の場所などを伝え、勧誘を進める者達もいる。が、キクオのペンはとまらなかった。 しばらく後、とうとう、はい、と手渡されたスケブには十造のイラストと共に、皆の活躍を題材にした漫画が途中まで描かれていた。 これ、続きが気になる……スケッチブックを覗き込んだ皆が顔をあげると、キクオは立ち上がって出て行くところだった。 「ホントにありがとう。銀誓館の人達と会えて嬉しかったよ、機会があったらまた会おう」 彼はあっという間に去っていく。能力者達はスケブを放り出して追いかけようとしたが、戦闘終了後に当たり前のようにイグニッションを解除していた彼等には、キクオを追うことは難しかった。
「ねえ、見て」 ふと、灰児が置き去りにされたスケッチブックを指さす。 皆の驚きの声があがった。 いつの間にかぎっしり埋まったスケッチブック……そこには8人とキクオの今日の冒険がストーリー漫画になって完結していた。
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参加者:8人
作成日:2007/08/31
得票数:楽しい3
笑える1
ハートフル19
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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