それはそれ! これはこれ!


<オープニング>


 てちてちてち。
「ああ、足音がまだ聞こえるぅ!」
 てちてちてちてち。
「なんで、なんで俺を追ってくるんだよぅ!」
 てちてちてちてちてち。
「ああ、ふわふわのブロンドが揺れてる。ぷにぷにの頬が赤くなっている。ちっちゃな手がっ! 手がっ!!」
「こらー! 逃げながらネタをメモするんじゃないでち! というかなんで逃げるんでちか!!」
「馬鹿! 創作には地道なメモが重要なんだぞ。というかなんでって言われても、いきなり知らない子に擦り寄られたら怖いじゃないか!!」
「あぐにーじゃお兄ちゃんの嘘つき! 自分の心に素直になるでち!」
「うわぁ! 地元で俺のペンネームを叫ぶなっ! つか何故知ってる!」
「うふふ。あたち、ずっと見てたんでちからね! あなたがお友達に売り子を頼んでから、つるぺったんな本をいっぱい買い漁ってたのも!! ほらほらあたちも立派なつるぺったんでちよ〜」
「ストーカー!? と、とにかく! それ(2D)はそれ(2D)! これ(3D)はこれ(3D)! なんだよ!!」
 薄暗い路地裏を追われて逃げる少年の叫びと共に突如飛来した何かが追う側の小柄な少女のおでこにぶつかる。
「いった〜〜い! わ、わっ。タンコブになってるでち!!」
 立ち止まって恐る恐るおでこを触る少女の言葉に少年もびっくり顔で立ち止まって振り返る。
 少女は綺麗な青い瞳いっぱいにうるうると涙を溜めてキッと少年を睨む。
「も、もう許せないでち! お望みどーり、ぬるぬるぐっちょぐちょてらてら! がくがくぶるぶるのホラー路線で食べてあげるでち!」
 少女は相変わらず世間一般では耳に出来ないような口調のまま宣告すると、突如両腕を蛇へと変化させて仰天する少年へと襲い掛かった。

「急ぎの、そして少し妙な依頼だ」
 唐津・恋子(高校生運命予報士・bn0069)は告げる。
「あぐにーじゃと言うあだ名の少年が数時間後、漫画かなにかのお祭りの帰途でリリスに襲われる。ここからの移動時間を考えれば間に合わないかと思えたのだが…… この少年どうやらリリスを相手に何とか自分の身を守っているようなのだ」
 恋子の説明に能力者達の表情が引き締まる。
 リリスとはゴーストの中でも純粋な実力で言えば弱い方に分類されるのだが、いくらなんでも普通の人間が対抗できる相手ではない。
 また逃げ切るにしてもリリスは知能が高く容易とは思えない。
「その少年、能力者なのか?」
 一人の能力者の疑問に恋子はうむと頷く。
「銀誓館の生徒ではないようだが、相当な極限状態を体験したらしい。能力者かその素質を持つ者と考えている。とは言え」
「長くは持たないわよね」
 リリスを含めたゴーストに有効な装備である詠唱兵器を持たないであろうその少年が自力で勝利するとは思えないと別の能力者が呟く。
「ゆえにおまえ達にこのリリスを倒してもらわねばならない。今回は幸いにも少年が能力者かそれに近い存在である事から、リリスの持つ能力者を探知する力は発揮されないはずだ。一気に現場に急行してくれ」
 リリスが厄介な敵となるもう一つの要素がこの探知能力だった。
 能力者の存在を大まかな方向で感知できるため、通常リリスに接触するには注意が必要となる。
 だが一人でも一定距離にまで能力者が近づく事が出来れば方向の判別が出来なくなる特徴があるのだ。
 今回はその一人が襲われているあぐにーじゃ少年というわけだ。
「リリスは両手を蛇へと変化させている。毒はないようだがかなりの長さを誇るため射撃並の攻撃範囲を持つと考えてくれ。また相手はリリスだ。色仕掛けや誤魔化しでその場をしのぐかもしれん。相手の話に乗って逃亡を許さぬようにな」
 恋子は必要な切符などを配り終えると、スカートを翻して側にあったファーストフード店へと消えて行く。
 照りつける太陽の元に能力者達を置き去りにして……

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参加者
スバル・ヒジリ(宵藍の魔女・b00849)
志衛亭・響(敵殺チェンソー・b01408)
黒木・優(真夜中に蒼く光る銀剣・b01733)
漣・雨水(霧の狂刃・b05020)
墓間蔵・軋之(姉貴蹴らないで・b16312)
芋塚・柱(芋饅頭の芋抜き・b23583)
夜城・凪(っぽい・b24061)
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)
皐月・美空(面倒が嫌いな紅の星・b27380)
瑞野・天空海(蒼銀ノ翼・b27868)



<リプレイ>

●思いやり
 せめて缶ジュースの一本でも。
 ゴーストという存在に直面し、己が奇妙な力の発現を経て混乱の極みに達しているであろう少年の心を思って。
 能力者達は飲み物を用意するべくコンビニに飛び込むと缶ジュースを引っつかみレジへ、お釣りをもらう事すらせずにまたもや駆け出す。
「しっかり紅茶を用意してあげる時間があれば」
 スバル・ヒジリ(宵藍の魔女・b00849)は残念に思いながらもとにかく走る。
 だが、その僅かな十数秒。
 それによってあぐにーじゃ少年の状況は能力者の想像を超える事態へと変化していたのだった。

●押し付ける愛
「ななななななななっなっなっな!!」
 現場の路地に飛び込み目的の二人、いや一人と一体を目にした皐月・美空(面倒が嫌いな紅の星・b27380)の第一声は、実に11回の『な』であった。
「これは…… 2Dでありさえすれば泣いて喜ぶべきシチュでしたな」
 墓間蔵・軋之(姉貴蹴らないで・b16312)は少年に馬乗りになった少女という構図を冷静に分析する。
「やはり3Dはややあるがいいのです」
 激しい戦闘があったのかずたずたの可愛らしい衣装の胸元をはだけて、隆起というにはいささか足りないそれをさらした姿に呟く黒木・優(真夜中に蒼く光る銀剣・b01733)の言葉はなぜか言い訳っぽいニュアンスを含んでいる気がする。
 誰に対してかは不明だが……。
「2Dだの3Dだの…… 言ってる場合ではないよな? この状況」
 ちなみにあぐにーじゃ少年の上着もびりびりに破られており少女、すなわちリリスはズボンのベルトに手をかけたところで、青い瞳を見開いて突如現れた能力者達にびっくり眼だ。
「ねーねー。なんであたし目隠しされてるの? ねーぇー」
「なんか俺も隠されてるけど…… きっとあれだね。某聖戦で溢れ返ってるって噂の本みたいな事が起こってるんだと思うぜ」
 教育的配慮として烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)と夜城・凪(っぽい・b24061)の両目を左右それぞれの手でふさいだまま漣・雨水(霧の狂刃・b05020)が指摘するのはこのチャンスを無駄には出来ないという事だ。
「そ、そうですよー。冷静に半裸のリリスを眺めてる場合じゃなんですよー。えっと、カード、カード…… はて? イグニッションカードはどのポケットに?」
 鼻の下は伸びていない(様に見えるが真実は不明)が、しげしげと眺める男性陣に注意しながら芋塚・柱(芋饅頭の芋抜き・b23583)は戦闘体制をとろうとしてわたわたしている。
「整理整頓には気をつけたほうがいいわね。という事でお先。今回は貧乳リリスでKILLところも少ないし、もたもたしてられないのよ!」
 志衛亭・響(敵殺チェンソー・b01408)はイグニッションを済ませチェーンソー剣Their Law -Apolaustic Remix-の無数の刃を回転させるとひび割れたアスファルトの地を蹴る。
「な! あんた達もしかしてあたちが人間じゃないってわかってて来たんでちか!? 美味しそうなのが大量にきたかとびっくりしてたのに、さらにびっくりな展開でちっ!!」
 完全な敵意を確認してリリスははっと身を起こすと後ろに飛んで距離をとりすばやく両腕を大蛇へと変える。
「ま、そういうことだな」
 瑞野・天空海(蒼銀ノ翼・b27868)も詠唱兵器に身を包みリリスを追う。
「それぞれの役割はそのままだ。墓間蔵先輩達は保護を、志衛亭先輩達は保護班の壁を頼みます! 俺達はリリスの後ろを取るぞ!」
「真正面から来た癖にずうずうしいでち! そう簡単に後ろを取らせると思うなでち!!」
 それをけん制するように右の大蛇がしなると天空海の鼻先を牙が掠める。すんででの所で踏みとどまったがもちろん勢いは失われる。
「そういえば! わたし達……」
「挟み撃ちを決めてはいましたが後ろを取る方法は決まっていませんでしたね」
 天空海と同じくリリスの後方を押さえる班である美空と優がリリスの指摘に顔を見合わせる。
「もー、二人とも心配性だよね。大丈夫、こういうのは『げんばのはんだん』でなんとかしちゃおうよ」
 戦闘が始まったことと、相変わらず半裸ではあるものの単独になった事を考慮して視界を開放されたメジロがあっけらかんと笑い飛ばす。
 以前の戦いで受けた傷がいえていないとは思えない元気さだ。
「……どのみち少年の保護が最優先。響達と一緒に前線を構築しつつ機会を狙うしかないな」
 優達は結論づけるとさらにリリスとの距離をつめ攻撃を開始する。
「な、なんなんだいったい?」
 こちらも半裸で半身を起こしたあぐにーじゃ少年は、うなるリリスの大蛇と詠唱兵器やアビリティを駆使して戦う少年少女の姿にぽかんとしている。
「混乱しているだろうけど、とにかく今は私達を信じて。どこか傷はない?」
 そのあぐにーじゃの肩にそっと手をかけてスバルが微笑むと、少年はぎこちない様子でまじまじと見つめ返す。
「心配無用。2Dと3Dを混同し、崇高な嗜好を持つ者を現実の犯罪者予備軍扱いする愚かな女と違い我らはあなたの味方。彼女も君の理解者だ」
 あぐにーじゃを安心させるために立て板の水のごとくすらすらと語る軋之。スバルが手早く傷を確認している間もその口は止まらない。
「ちなみにこちらは今回あなたを直属で護衛する仮面のヒーローです」
 指し示したのはすぐ側に立つスカルフェンサーの緋花。一応配慮として仮面をかぶっているが正直不自然極まりない。
「いやいやいや。バレバレにホネホネだろそれはっ!」
「イシシシ! さすがお目が高い。リリスに抵抗しただけはありますね」
 くいっと眼鏡を押し上げて微笑む軋之はマイペースのままスバルにあぐにーじゃの容態を尋ねる。
「えっと…… 大きな傷はないみたいだから一枚だけ治癒符を使っておいたよ。効果もあったみたいだからやっぱり能力がある人だよ……」
 なぜか頬を朱に染めて答えるスバル。
 それは少年の体に傷の代わりにあちこちにキスマークがついていたのを見つけたためだったが、さすがにあぐにーじゃも軋之も気づかない。
「さっきから一体、この怒涛の漫画的展開はなんなんだ!?」
「ふっ。それを知りたければとにかくここを離れなければ」
「さ、立てるかい? こっちだよ」
 優しい言葉と裏腹にスバルと軋之は半ば強引にあぐにーじゃを引っ張っていくのだった。

●駆け引き
 ぎょいーん ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ ぎぎぎぎゃーん!
「さーよくわからないけどこれが堕天使さんですよー。貴方は私が気になって仕方なくなるですよー」
「う、うるさいでち! そう何度も気の抜けたロックにひきつけられるあたちじゃないでち!」
 弾き手である柱の人柄なのか微妙にのほほん風味の乗った爆音に抗ってリリスは叫ぶ。
「二度ある事は三度あるですよー?」
「ま、そのまえに殺してしまうのが理想的なわけだが、なっ!」
 柱の後ろから自らの詠唱兵器霧氷風を模した水の刃放ち、リリスの透き通った白い肌に赤の彩を与える雨水。
「命中。だがまだ浅いか」
「あ、あんたたちさっきの少年と違って戦いなれてるでちね。しゃれにならないでちよ!」
「俺は初めてだよ。もっともリリス相手がだけどね!」
 伸びてきた左の大蛇を詠唱兵器月閃の刃で受け流して衝撃を最小限に抑えると、凪は歳に似合わぬ修羅場を知る者の笑みを浮かべる。
「お返しだでちっ娘!」
 痺れの残る腕を持ち上げ撃ち出した弾丸は紫電の尾を引いてリリスの眉間に迫るが相手も然る者残った右の大蛇で払い落とす。
「ナイスアシスト凪クン!」
「あ、ずるい!」
 別にずるくはないのだが思わず叫んじゃった凪に苦笑しつつ響がリリスに襲い掛かる。
「真っ二つで血まみれよーッ!」
「あたちが襲われる方になるのはいやでちーー!」
 リリスは叫ぶと肩に食い込んだ回転する刃を二匹の大蛇を使って跳ね上げて隙の出来た響の腹部を蹴り飛ばす。
「こうなったら逃げるが勝ちでち」
 リリスはすぐさま反転するがそこには天空海達が陣取っている。
「さすがに1人で8人すべての動きを把握してられないだろう。後ろ、取らせてもらった」
 天空海は今までに受けたメジロの傷を蟲の力で癒し活力を与えながらリリスの覇気を削ごうと余裕の笑みを見せる。
「逃げ道はそこだけじゃないでちよ!」
 だがリリスは優雅に微笑み返すと両手の大蛇を路地に面したビルの壁に設置された室外機に伸ばす。
「上に逃げる気なのか!? くそ! 届け!」
 優が足元にエンシェント・セイバーの切っ先を突き刺すとその黒曜石の剣身が溶け出したように影が地面を走りリリスに迫るが僅かに届かない。
(「飛びついてでも捕まえます!」)
 そう思ったときにはすでにメジロの身体は走り出していた。
「ひっかかったでち!」
 同時にリリスは室外機を放し大蛇を飛び出してきたメジロに打ち付ける。もちろん慌てて飛び出し、ましてや癒えていない傷を抱えた幼い身体はあっさりと意識を手放す。
「メジロちゃんっ!」
 予想外の展開に美空も自分の痛みを忘れて古の土蜘蛛の力を呼び起こしメジロを回復する。
「判断が早いでちね。止めは諦めて次はあんたでち! こっちだってこれだけ戦っていれば弱ってるやつくらい見抜けるでちよ!」
 リリスは言いながら美空に狙いを定めて走る。
「美空を!」
 天空海は万が一にもブラフによってのメジロへの止めを許すわけには行かないとメジロの元へ駆け寄り、優が美空のフォローに入る。
 リリスの青い瞳に自分と美空の姿が映っているのを見た瞬間、右の大蛇が唸りを上げる。
「生き残るためには正しいがな、それは許せんのだよ!」
 優はそれに渾身の一刀を合わせる。刀身が火を噴き加速したそれは蛇の鱗を叩き割り肩口から切り飛ばす。
『ギシャァァァァァァァァ!!』
 悲鳴が上がる。
 切り飛ばされた大蛇の断末魔。
 だがリリスは笑う。それを犠牲にして優と美空の横を駆け抜けたのだ。
 だがそこに響の声が追いすがる。
「私にキックを当てるし、一瞬でそこまで判断して演技するなんてやるわね」
 リリスはちらりと後ろを振り返り表情を歪める。
「しかし少々手間をかけすぎだ。残念だったな」
「上がったり下がったりしてる間に俺と雨水が射程距離に収めちゃったんだよね」
「ファイヤーですよー!」
 柱の掛け声と共に水刃手裏剣と雷の弾丸が小さな背中に突き刺さる。
「あ、ありえないでち……」
 能力者達の戦闘範囲の外へぎりぎりあと一歩というところ。
 それがあぐにーじゃ少年を襲ったリリスの死地だった。

●告げられる真実
「そうか…… こんな子供までいるのか」
 公園のベンチには気を失ったまま雨水に看病されているメジロが横たわっている。
 その様子をちらりと見て話を聞き終わったあぐにーじゃはそう呟いた。
「やっぱりにわかには信じがたいかい?」
 スバルの問いに笑いながら首を横に振る。
 歳若いあぐにーじゃもまた能力者達と同じく柔軟に現実を噛み締めているのだろう。
「自分としてもあなたのような同好の士が能力者の仲間となってくれれば、これほど嬉しい事はない」
 ちらりと少年の持ち物の紙袋に視線を投げかけ軋之が言う。
「色んなことがある学校だけどそれでも仲間と一緒に居られるのは大きいと思うよ。安心、出来るしね」
「正直に言えば今日以上の危険もあるだろうけど、自分の力をちゃんと知って、そんな仲間と一緒にいる生活は、結構悪くないぞ?」
 凪と天空海が正直に言うとあぐにーじゃはちょっとだけ身震いして、目じりに浮かんだ涙をぬぐった。
「怖いのはやだなぁ……」
 命の機器に怯えるのは生命の当然の権利だ。
 だから誰も語らず沈黙が舞い降りる。
 一時、公園の古びた時計の針だけが音を奏でる。
 あぐにーじゃは息を呑むと改めてこう切り出す。
「でも……」

 その日の夕方。
 鎌倉に向かう電車には11人の少年少女が乗り込んだのだった。


マスター:九部明 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/09/05
得票数:楽しい6  笑える7  カッコいい2  えっち8 
冒険結果:成功!
重傷者:烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804) 
死亡者:なし
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