同人作家の受難


<オープニング>


「あのぉ……、この同人誌を描いた作家さんですよね。サインしてください♪」
 キッカケは何気ない事だった。
 ファンを名乗る女の子にサインをした後、やけに話が盛り上がってしまい、ふたりっきりに……。
 ……この時に気づくべきだった。
 そんなうまい話が世の中にあるわけがない事を……。
 気がつくとファンを名乗る女の子に襲われていた。
 残念ながら、悪い意味で……。

「みんな、集まったな。それじゃ、話を始めるか」
 運命予報士、王子・団十郎(高校生運命予報士・bn0019)。
 今回の依頼は彼の口から語られる。

 イベント会場の近くでリリスが現れ、同人作家が襲われたらしい。
 この同人作家は『西園寺神楽』と言うペンネームを使って、耽美系の漫画を描いているようだが、それ以外の事はまったく分かっていない。
 しかし、彼がイベント前に覚醒した能力者である事は、どうやら間違いないようだ。
 現在、彼はリリスに追いかけられて、公園の男子トイレに隠れている。
 リリスは可愛らしい眼鏡っ娘。
 一見すると無害に見えるため、騙されないようにして欲しい。
 リリスは身の危険を感じると命乞いをしたり、色仕掛けをしたりするからな。
 今回は被害者となった西園寺神楽と接触をしているため、周囲から近づく能力者に気づく事はないから、普通に戦えば苦戦する事がないはずだ。

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参加者
伊達・正和(疾風剣の正和・b00969)
霧生・颯(双子の妖草使い〜兄〜・b01352)
ナラカ・ノワール(這いよる闇の死神・b03961)
ケイン・ハイアット(魔法貴族・b04058)
蒼波・浅葱(夜凪・b04324)
上条・まゆ(高校生白燐蟲使い・b10802)
亜麻・空(帰ってきたウサギ様・b17770)
星海・業(魂風に揺れる雛・b22539)
高坂・久遠(高校生魔剣士・b25309)
浅木・真介(面倒な少年賢者・b27015)
澤畠・康一(高校生符術士・b27684)
紅月・火煉(緋桜ノ宮・b28734)



<リプレイ>

●西園寺神楽の災難
 特殊な能力に目覚めた西園寺神楽をリリスの魔の手から救うため、能力者達は彼が隠れている男子トイレの前に来ていた。
 既に辺りは暗くなっており、公園にはまったく人影がない。
 しかし、男子トイレの方が騒がしくなっており、野太い悲鳴が響いている。
「ふう……、今回のリリスはある意味もの好きな人ね。それにしても、なんで私が男子トイレに……」
 魂の抜けた表情を浮かべ、高坂・久遠(高校生魔剣士・b25309)が深い溜息を漏らす。
 男子トイレはとても汚れているため、依頼でなければなければ入る気にもならない。
「神楽さぁ〜ん、何処に隠れているんですかぁー? 早く出てこないと、八つ裂きにしちゃいますよぉ〜」
 能天気な笑みを浮かべながら、リリスがトイレのドアを蹴り飛ばす。
 既に神楽の居場所を特定しているようだが、彼の恐怖心を煽るために、わざと時間を掛けている。
「……このままでは間に合いそうにありませんね。少々、手荒な方法になりますが、彼を強引に連れ去るしかありません。ドヤドヤと押しかけ彼を連れ出すのは保護では無く拉致です。狡猾な敵はそれを逆手に取り此方が悪で実は自分が善だと言いかねません。それだけは気をつけておきましょう」
 帽子を被って男物の服に着替えた後、上条・まゆ(高校生白燐蟲使い・b10802)が男子トイレに飛び込んだ。
 何事かと思い、リリスが目を丸くする。
 それと同時に彼女のタックルが炸裂し、リリスを巻き込んでトイレの壁に激突した。
「いっ、一体、何が起こっているんだ!? た、助けてくれ!」
 青ざめた表情を浮かべながら、神楽が尻餅をついて命乞いをし始める。
 どうやら助けに来た能力者達も敵だと思い込んでいるため、生命の危機すら感じ始めているようだ。
「もう大丈夫ですよ♪ 助けに来ました! 僕達を信用してください」
 満面の笑みを浮かべながら、霧生・颯(双子の妖草使い〜兄〜・b01352)が神楽の腕を掴む。
 しかし、能力者達の事を全く信用する事が出来ないため、情けない声をあげて壁際まで逃げていく。
「だ、誰だ、お前達は……。な、何かの人違いじゃないのか。僕は善良な一般市民だぞ!」
 大粒の涙を浮かべながら、神楽が虚勢を張る。
 本当は怖くて仕方がないのだか、ここで弱いところをみせれば、バッサリと行かれてしまうと思ったのだろう。
「……私達は同じように力に目覚めた味方ってわけ。今回はアナタを守るため戦いにきたってわけよ♪ ああいう可愛い女の子系の敵って、ピンチになると女の武器を使って色々やってくるのよ、想像できるでしょ? だから、命乞いとかしてきても油断をしてはダメよ、それがあの敵の手段なんだから」
 エッヘンと胸を張りながら、久遠が自己紹介をし始める。
 そのため、リリスが悔しそうな表情を浮かべて舌打ちした。
「貴方も災難でしたね。……ですが、世の中にはこういう事もあるのです。まあ、今はここから逃げましょう」
 同情した様子で神楽を説得しながら、ケイン・ハイアット(魔法貴族・b04058)が右手を伸ばす。
 それと同時にリリスがふらりと立ち上がり、左手を鉤爪に変化させて攻撃を仕掛けてきた。
「さ、災難って! もう訳が分かんないよっ!」
 パニックに陥って悲鳴を上げながら、神楽が急に素数を数え始める。
 よく分からない行為だが、これも漫画の影響らしい。
「まあ、わかりやすく言うと、あなたは力に目覚め、それを嫌っている敵が襲ってきたってわけ。マンガみたいで面白いでしょ? ま、相手は一人だし仲間の皆が何とかしてると思うわ。まあアナタを避難させるのは念のためって事よ♪」
 自分達が味方である事を強調しながら、久遠が旋剣の構えを発動させた。
 早く神楽を避難させなければ、このまま戦いに巻き込んでしまうになる。
「ゆ、ゆ、許さないわよ! 私が見つけた獲物なのに!」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、リリスがハァハァと肩で息をした。
 油断していたせいで受け身を取る事が出来なかったため、トイレの壁に頭をぶつけてしまったようだ。
「ダメッ! お兄さんは渡さないから!」
 両手を大きく開いて行く手を阻み、颯がジロリとリリスを睨む。
 そのため、リリスが鬱陶しそうに鉤爪を振り下ろし、イライラとした様子でフンと鼻を鳴らす。
「……悪いけど、あなた達の遊びに付き合っている暇はないの。まぁ……、そんなに遊んで欲しいのなら、殺してあげるわ」
 邪悪な笑みを浮かべながら、リリスが鉤爪をペロリと舐める。
 最初の予定では神楽を殺してから相手をしようと思っていたようだが、だんだん面倒になってきたのでみんな纏めて始末をする気でいるらしい。
「少々やり方が無粋ですが、緊急時ですから我慢して下さい」
 ショッキングビートを使って神楽を麻痺させ、ケインが彼の事を抱きかかえて公園から逃げ出した。
 そのせいでリリスが追いかけてきたのだが、すぐにまゆが上着を脱ぎ捨て行く手を阻む。
「あ、あれは……、マッスルメン! ファ、ファンですっ! サインしてください!」
 信じられない様子で大声をあげ、神楽が彼女の事を指差した。
 ポケットの中から次々と出てくる彼女の写真。
 ……相当コアなファンらしい。
「えーっと、後で彼女がサインをくれるらしいので、一緒についてきてくれますか? 言う事を聞いてくれたら、ツーショット写真を撮ってもらえるかも知れませんよ?」
 苦笑いを浮かべながら、ケインがそっと彼に耳打ちする。
 その事で彼らの事を仲間だと信じたのか、急に協力的な行動を取り始めた。
「あ、あの……、私は何も……」
 恥ずかしそうに頬を染め、まゆが気まずい様子で汗を流す。
 しかし、まわりの空気が『ツーショット写真確定』と言わんばかりの空気なので、いまさら取り消す事は出来ないようだ。
「とにかく詳しい説明は銀誓館学園でやります。あそこが一番安全ですから♪」
 神楽達が逃げる時間を稼ぐため、颯がリリスにショッキングビートを放つ。
 彼の目覚めた能力がどんなものだったのか分からないが、それも学園に戻れば明らかにされるはずである。

●リリスだって災難
「なんでこんなに沢山、能力者達がいるのよ!」
 不機嫌な表情を浮かべながら、リリスがブツブツと愚痴をこぼす。
 最初からリリスの目的は神楽だけだったので、他の能力者達が来たのは予想外であった。
 しかし、能力者達に囲まれてしまったため、逃げる事も出来なくなっている。
「さて、今回の依頼は覚醒した能力者の保護ですか……。覚醒して早々リリスに目をつけられるとは運がないですね……」
 険しい表情を浮かべながら、亜麻・空(帰ってきたウサギ様・b17770)が行く手を阻む。
 リリスは能力者及び能力者の素質のある者を捜索する特殊能力を持ち、今までにも何人か能力者達を手に掛けていたようだ。
 そのため、先手必勝とばかりにショッキングビートを放ったが、能力者と戦い慣れているため攻撃が当たる寸前で避けられた。
「最近、覚醒する連中がやたらと多いな? そんなに『修羅場』ってヤツは、限界を突破する代物なのか。まあ、なんにしろ、目覚めた以上はオレらの仲間だ。まだ能力の使い方もままならないようだが、ここでむざむざと死なせるわけには行かないからな。そいつを狙っているのなら、おまえを逃がすわけにはいかねぇ」
 リリスの逃げ道を塞ぐようにして回り込み、ナラカ・ノワール(這いよる闇の死神・b03961)がバレットレインを撃ち込んだ。
 真夜中の公園に響く銃声。
 一瞬、誰かに見られていないかとヒヤッとしたが、リリスが狩り場として選んだ場所だけあって、辺りに通行人の姿はない。
「なんつーか……、イベント前の同人作家って凄いんだなぁ……」
 しみじみとした表情を浮かべながら、星海・業(魂風に揺れる雛・b22539)が汗を流す。
 同人作家にとって締切は恋人のようなものなので、うまく付き合わないと酷い目に遭ってしまう。
 そういう意味で印刷所は締切の父親みたいな存在かも知れない。
「ちなみに『耽美』というのは、そもそも西欧の芸術思潮の事で、道徳功利性を廃し、美の享受・形成に最高の価値を置くもの……即ち、美しさこそが最高!って考え方だそうだ。どうやら今回の同人誌で扱われている耽美とは、別物のようだがな」
 地面に落ちていた同人誌を拾い上げ、蒼波・浅葱(夜凪・b04324)が目のやり場に困って視線を逸らす。
 そこには独特の世界が広がっていた。
 やおい穴を巡る攻防。
 新たなる世界へと通じる扉。
 ……髭男爵。
 この世界を受け入れれば、何か大切なものを失ってしまう。
 それだけはハッキリと言える事だった。
「それにしてもイベント前に覚醒して、いきなりリリスに襲われるなんて災難な男の人ですよね……。リリスのタイプもコアというか……、随分とマニアックな趣向を持っているような気がしますけど……」
 呆れた様子で溜息をつきながら、紅月・火煉(緋桜ノ宮・b28734)が本を閉じる。
 同人誌即売会では、かなりの売れ行きがあった本のようだが、その世界を彼女が理解する事は出来なかった。
「か、か、勘違いしないでくれる! あたしは神楽が能力者だから狙っただけ! そんな本に興味なんてないわ!」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、リリスが同人誌を踏みつける。
 よほどプライドを傷つけられたのか、同人誌を何度も何度も踏みつけた。
「それじゃ、いっちょやりますか」
 一気に間合いをつけて光の槍を放ち、浅木・真介(面倒な少年賢者・b27015)が後ろに下がる。
 それと同時にリリスが鉤爪を使って反撃してきたが、リフレクトコアを展開していたので、彼女の攻撃が当たる事はない。
「みんな、彼女の言葉に惑わされないように!」
 警告まじりに呟きながら、澤畠・康一(高校生符術士・b27684)が呪殺符を投げつける。
 しかし、リリスの身のこなしが軽いため、呪殺符を命中させる事は出来なかった。
「……倒すけど良いよね? ……答えは聞いてないっ!!」
 疾風剣を振り回して旋剣の構えを発動させ、伊達・正和(疾風剣の正和・b00969)がダークハンドを放つ。
 それに合わせて康一がリリスの背後に回り込み、青龍の力を拳に込めて龍顎拳を炸裂させた。
「クッ……、鬱陶しい奴らね! こんなはずじゃなかったのに……」
 悔しそうな表情を浮かべながら、リリスが拳をギュッと握り締める。
 能力者の人数が少なければ、公園から飛び出して助けを求める事も出来るのだが、この状況ではそれも難しそうだ。
「……っていうか、馬鹿ァ? こんな事をすれば、私達に狙われるのは当然ですわ」
 不機嫌な表情を浮かべながら、火煉がジト目でリリスを睨む。
 そのため、リリスも彼女の事を睨み返したが、間違った事は言っていないので言い返す事が出来ない。
「まっ、そういうわけだから、大人しく逝ってくれ」
 魔弾の射手を使って攻撃力を高め、業がリリスにクレセントファングを炸裂させる。
 その一撃を喰らってリリスが吹っ飛び、血反吐を吐きながら仰向けになって倒れた。
「君がッ、メガネっ娘をやめるまで、殴るのをやめないッ!」
 勢いよくギターを振り下ろし、空がリリスをボコボコにする。
 そのせいで彼女が掛けていた眼鏡が割れ、辺りにバラバラと破片が飛び散った。
「お、お願い助けて! あなた達が望む事なら、何でもしてあげるから!」
 大粒の涙を浮かべながら、リリスが命乞いをし始める。
 もちろん、本気で命乞いをしているわけではない。
 相手が油断したところで、攻撃を仕掛けようとしているようだ。
「いまさら何を言っても手遅れだ。所詮はリリス、オレらとは決して相容れない存在だからな」
 すぐさまバレットレインを放ち、ナラカが深い溜息を漏らす。
 リリスが鉤爪を振り下ろそうとしていた事に気づいたため、彼女に対して攻撃する事にも躊躇がない。
「逃がしは……しない」
 霧影分身術を使って間合いをつめ、浅葱が水刃手裏剣を投げつける。
 そのため、リリスは攻撃を避けようとしたが、能力者達に行く手を阻まれて身動きが取れない。
「お前殺すけど良いよね? ……答えは聞いてない」
 疾風剣を使ってリリスを切りつけ、正和がキッパリと言い放つ。
 その間もリリスが命乞いをしていたが、ここで許すわけには行かなかった。
「……悪く思うなよ。今までの奴らみたいに死にたくはないんでな」
 凍るように冷たい視線を送り、真介が錫杖を何度も振り下ろす。
 今までにも同じ手を使って能力者が命を落としているため、彼女が命乞いをしても許すつもりはない。
「これで終りだ。……覚悟しろ!」
 仲間達に向かって合図を送り、浅葱が水刃手裏剣を放つ。
 それでもリリスは逃げようとしたが、思うように身体が動かない。
「おっしゃぁッ! 燃え上がれ、Ψυχη!!」
 雄叫びを上げてリリスの行く手を阻み、空が炎の魔弾を撃ち込んだ。
 そのため、リリスの身体が魔炎に包まれ、悲鳴を上げて倒れ込む。
「これもお前が能力者を殺した報いだ」
 リリスの上に跨って動きを封じ、マサカズが爆水掌を叩き込む。
 その一撃を喰らってリリスが肉塊と化し、ピクリとも動かなくなった。
「これで能力者達が襲われる事もなくなりますね」
 肉塊と化したリリスを見つめ、康一がホッとした様子で漏らす。
 その上、神楽の命を救う事も出来たため、今回の依頼は大成功と言えるだろう。
「そういえば夏休みも終わりか。宿題は……、あ、作文書いてない。帰ったらやろう。それにしても……、けっこう忙しい夏休みだったなあ……」
 夏休みの出来事を思い出し、真介がボソリと呟いた。
 気のせいか休みの日よりも、戦っていた時の方が多かったような気がする。
「なぁ……、耽美系の同人誌って、みんなこういうものなのか。その……、やおい穴って……。いや……、やめておこう」
 新たな世界の扉を開き、ナラカがダラリと汗を流す。
(「とりあえず扉は閉じておこう。きちんと鍵を掛けて……」)
 そんな事を考えながら、ゆっくりと同人誌を閉じた。
「まぁ……、それだけ世界は広いって事ですの。トラウマになる前に、脳内から排除した方がいいかも知れませんわね」
 生暖かい視線を送り、火煉がぽふりと肩を叩く。
 しかし、あまりにも濃い世界の扉を開いてしまったため、忘れるまでしばらく時間が掛かりそうである。
「それじゃ、さっきのヤツにリリスの説明をしに行くか。……俺らの事、信用して貰えると良いんだけど」
 疲れた様子で溜息をつきながら、業が仲間達を連れて銀誓館学園にむかう。
 どちらにしてもすぐに納得してくれる事はないので、今夜はいつもと比べて長い夜になりそうである。


マスター:ゆうきつかさ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:12人
作成日:2007/08/29
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