陸上の命


<オープニング>


 陸上で使った道具をしまいに、グラウンド側の用具室へ入ったときだった。
「いたっ!」
 少年は、足に走った痛みに、持っていたハードルを落とした。
 コンクリートの床を見ると、一面にたくさんの釘が散らばっている。
 誰がこんないたずらをと、少年が釘を拾おうとかがむと、釘の上に立つ運動靴が視界に入った。
 少年が不思議に顔を上げると、見たことのない陸上ユニフォームを着た少年が微笑んでいた。
「部活は楽しい?」
「え?」
「楽しいよね」
 そういうと、ユニフォームを着た少年は、かがんでいる少年の腕を引っ張り、釘の上に転ばせた。
 少年は刺さる痛みに、悲鳴を上げる。
「足…足が……」
 傷にうめく少年に、ユニフォームの少年は満足そうに笑い出した。
「ははは、いいぞ、いいぞ! 苦しいだろう、辛いだろう。僕と同じだ!! 今、楽にしてやるよ」
 クギの入った木箱を持つジャージを着た別の少年達を後ろに、ユニフォームの少年はゆかいそうに、横たわる少年の真上に足をかざした。


「みなさん、集まったようですね」
 藤崎・志穂(高校生運命予報士・bn0020)は、集まった能力者達を出迎えた。
「ある私立高校のハードル跳びの選手が、ゴーストに殺されて、傷だらけで発見されました。すでに、犠牲者は5名もいます。しかもこの事件は、謎の殺人と噂され、他校に飛び交う間際まで広まっています。事件には地縛霊が絡んでいますので、これ以上犠牲者と噂が広まらないように地縛霊を退治してください」
 志穂は、一通り能力者達を見回すと、紙に書いた地図を差し出した。

 構内の一直線道路を挟んで、校舎と反対側にグラウンドがある。その周りには草地が囲み、その上に校舎から見て右端に小さな四角が描かれている。
「現場は、住宅街から少し離れた高校にあるグラウンドと、周りを5mほどの幅で囲む草地です。この四角は、陸上で使う用具室になります。広いですが、この草地を含む一帯が、地縛霊のテリトリー内となります。問題の地縛霊は、陸上ユニフォームを着た18歳くらいの少年とジャージを着た16歳くらいの少年3人の、合計4人です。地縛霊は、テリトリー内でハードル跳びをしたり持ったりしていると、18時から19時の間に現れます。ただし、テリトリー内に3人以上いると、現れませんので気をつけてください」
 志穂は、3本の指を立てて、人数を確認させる。
「地縛霊は、まずジャージの少年達が、木箱に入ったクギをテリトリー内にいる人間を逃がさないかのように、周りにたくさんまき散らします。そして、ユニフォームの少年がクギに囲まれた人間をクギの上に転ばせて、殴り殺します。まかれるクギは、人間の跳躍力では跳びきれないほどの距離がありますが、イグニッションをすれば、跳んで逃げられる距離です。ですが、まいたクギから逃げだそうとすると、ジャージの少年達がクギを投げつけて攻撃してきます。このクギは底なしに木箱から出てくるので、なくなることはありません」
 志穂は、おもむろに、地図に書いている小さな四角を指した。
「今回の依頼で一番気をつけて欲しいことは、地縛霊達はこの用具室の中にいると通常より力が強力になるということです。この用具室に逃げ込んだ時は、より注意してください」
 志穂はそう言うと、紙に書いた地図をしまった。

「この日は幸い、開校記念日で校舎内には守衛さんしかいませんし、外は薄暗いので通行人もほとんどいませんから、戦いやすいと思います。…地縛霊達はハードルに執着しているようですが、生前に何かあったのかもしれませんね。皆さん、気をつけて」

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参加者
春原・界音(トニックノート・b00488)
鎖天・契(闇夜を纏う陽の刀・b00883)
ルシフェラーゼ・エンザイム(舞うが如く敵を屠る戦乙女・b01036)
時雨・遼(血蛇の鐐・b03318)
漣・夜半(極夜の言伝・b11134)
藤守・澪(蒼衛藍華・b11277)
八月一日・涯(侵掠すること火の如く・b16006)
繰乃・キルシュ(花盗人のシャングリラ・b21980)
御子柴・鞠也(深淵の騎士・b27247)
烏森・スズメ(拳で語る人・b27259)



<リプレイ>


「そろそろ、18時だな。他にしておくことはないか?」
 リーゼントから髪を下ろした八月一日・涯(侵掠すること火の如く・b16006)が、周りの仲間に尋ねた。
「そうですねえ」
 藤守・澪(蒼衛藍華・b11277)は、マットや高跳びの棒などが山積みになった用具室を横見した。
 地縛霊の力が強くなる用具室は念のために用具で入り口を塞ぎ、闇纏いで鎖天・契(闇夜を纏う陽の刀・b00883)が校内から持ってきた鍵で施錠してある。地縛霊が少しでも用具室に侵入しないための策だ。
 少し大げさな感じもするが、用意にこしたことはない。
「地縛霊がどこに現れるかわかりませんが、出現したとき、ある程度目印になる物があると駆けつけやすいですよね」
 漣・夜半(極夜の言伝・b11134)はそういうと、みんなして並べた直線のハードルの側にある草むらに、小さなランプを置いた。
「それじゃあ、携帯電話はランプの近くに置いておくか」
「携帯電話なんか置いて、どうするんだ?」
 烏森・スズメ(拳で語る人・b27259)が通話できる形態で置いた携帯電話に、時雨・遼(血蛇の鐐・b03318)は不思議そうに尋ねた。
「通話状態にして置いておけば、電波障害で地縛霊が現れたのがわかるだろう」
 スズメの案に、春原・界音(トニックノート・b00488)は笑みながら、置かれた携帯電話を見下ろした。
「もう薄暗いから、見づらくてもすぐに飛び出せるいい手段だな」
「だろ?」
 スズメは、口の端を上げた。
「守衛はどうしておく?」
 御子柴・鞠也(深淵の騎士・b27247)の問いに、夜半が口に手を当てて聞き返す。
「戦闘中に来てしまったら、烏森先輩に王者の風をお願いするのがいいでしょうか?」
「ああ、任せろ」
「校舎からグラウンドまで、俺の足で2分弱かかったから、守衛が走ってきてもグラウンドに近づく前になんとかなるだろう」
 契は校舎のグラウンドから玄関までの距離を目で測ると、屋上に浮かぶ人影に目を移した。
 守衛は校内をたまに巡監していたが、幸い屋上にいるルシフェラーゼ・エンザイム(舞うが如く敵を屠る戦乙女・b01036)には気がついていなかった。
「18時まで、あと2分か」
 ルシフェラーゼは、時刻を確認すると、うっすらと肉眼で認識できる仲間を見下ろした。グラウンドに集まっていた9人がそれぞれの配置へと移動していく。
「お手柔らかによろしくな、涯っ♪」
 繰乃・キルシュ(花盗人のシャングリラ・b21980)が、一緒に残った涯に声をかけた。


「繰乃、そろそろ片付けようぜ」
 用具室近くをスタートラインとしてハードルを跳んでいたキルシュは、涯の呼び声に足を止めた。
「もうか?」
 まだ19時までには時間がある。キルシュが不思議そうに手で汗を拭いながら聞くと、体操服姿の涯は近くのハードルを持ち上げた。
「跳ぶには、辺りが暗すぎるだろう」
 足をぶつけてまで、跳ぶ必要はないと言葉をつけ加える涯に、キルシュは先の見えづらいハードルに納得して、ハードルを手に取った。
 19時までの時間を稼ぐため、時々二人して一つのハードルを運ぶ。
 キルシュが涯から受け取ったハードルを用具室前に置き、涯が次のハードルを取りに行こうと背中を向けた時だった。
 ジャラジャラと、小さな大量の金属音が2人の耳に飛び込んできた。
「え?」
 何の音かと2人が視線を下ろすと、それぞれを中心にしたたくさんのクギが、大きな円を描いて囲んでいた。
 息を止まらせて辺りを見渡すと、空中に木箱を持ったジャージ姿の少年が3人浮かんでいた。
「部活は楽しい?」
 いつの間に現れたのか、陸上ユニフォームを着た少年が笑いながら、涯の周りに敷き詰められているクギの上を渡って聞いてきた。
 逃げようと後ずさると、クギが音を立てて靴底に尖端を突きつける。
 クギを走り抜けるには、まかれているクギの距離がありすぎる。
「楽しいよね」
 ユニフォームの少年が腕を伸ばす。
「涯! きゃあ!」
 涯の元へ行こうと動こうとしたキルシュに、ジャージの少年達はキルシュにクギを投げつけた。
 クギに囲まれて地縛霊を校舎側の草地に誘導できないキルシュと涯に、校舎や用具室近くの影で待機していた仲間がすぐに応戦に来た。
 涯から引き離そうと、契がユニフォームの少年に牙道砲を放ち、界音がキルシュ近くのジャージの少年に雷の魔弾を撃つ。
 続いて、残りのジャージの少年達に澪と遼が水刃手裏剣を投げつけ、地縛霊達が身をかわした隙に、キルシュと涯はイグニッションを唱えてクギの円から跳びだした。
 屋上にいたルシフェラーゼも、近くの木に跳びはねながら降りて、グラウンドに駆けつけた。
「キルシュさん、その傷……大丈夫?!」
 クギを生身で受けた赤い傷の多さに、ルシフェラーゼは目をむく。
「これくらい、かすり傷だよ」
「すぐに、祖霊降臨をかけます」
 夜半が傷の治癒を兼ねて祖霊降臨をキルシュにかける。
「すぐに駆けつけてよかったな」
 鞠也の言葉に、スズメは携帯電話をしまいながら、睨みつけてくる4人の地縛霊に向き直った。
 地縛霊を用具室に近づかせないため、用具室を背面にした陣形を組み、次の攻撃へと体勢を構える。
「1人に3人で攻撃だなんて……スポーツマンにあるまじき卑怯ぶりですね」
 きっぱりと言い放つ澪の言葉に続いて、遼は大げさな構えをしながら、ジャージの少年へと目を向けた。
「さて、戦闘開始。と〜♪」


 用具室には絶対に入らせないように挟み撃ちを狙った陣形は、上手くかたどらなかった。
 ジャージの少年達がばらまくクギが、あちこちに散乱し、思う場所に立てない。クギで足をとられることもある。
 用具室には近づかせまいと、それぞれが敵に攻撃を繰り出していた。
「雷っていうくらいだから、クギで感電してくれればいいのにねぇ」
 界音はうっすらと笑みを浮かべながら、クギを投げつけるジャージの少年を牽制させようと、雷の魔弾を打ち込むが、また別の少年が界音へとクギを投げる。
「らちがあかないな」
 契は、雑魚のジャージの少年に黒影剣をきりつけていたが、皆がバラバラだ。
 地縛霊の攻撃がいくら単調でも、まだ1人も倒せていない。
 辺りは暗く、明かりはスズメのヘッドライトと、ルシフェラーゼと涯が近くに置いた懐中電灯、そして夜半が置いたランプだけだ。
 敷地内の電灯がついているとはいえ、確かな視覚は持てず、暗くなればなるほど明かりの存在が目立つ。
 守衛もいつ気づいてくるか分からない。
 時間に余裕がない戦闘に、整髪料できめたリーゼントの涯が声を荒げた。
「…気にいらねぇ…テメエ等、ドタマに来たぜ!! オイ、数人でジャージ地縛霊を片っ端に集中攻撃しようぜ!」
「いいぜ!」
 スズメは即答すると、涯の前にいるジャージの少年に龍尾脚をくらわし、キルシュは黒影剣で斬りつけた。
 他の仲間も、数人がまとまって足元に注意しながら、地縛霊達に攻撃していく。
 遼は、ずっと気になっていたクギが出続ける木箱を壊せないか、試しで水刃手裏剣を投げつけた。
「うわあ!」
 ジャージの少年は攻撃を受けて声をあげたが、木箱には傷一つない。
「あっは、まぁ、そううまくはいかないか♪」
「木箱が壊れてくれれば、楽なんだよね」
 ルシフェラーゼはそういいながら、グラインドアッパーを放った。
 集中攻撃をかけ始め、しばらくするとジャージの少年の2人が倒れ、残る地縛霊は、ジャージの少年とユニフォームを着たの2人となった。
 ユニフォームを着た少年は、羨ましそうに自分たちを囲む10人を見回して笑んだ口を動かした。
「いいなあ、君達は。いいなあ、動けて。いいなあ、その運動能力」
 突然、踏み切りの早いユニフォームの少年が走り出した。そして、見えないハードルを跳ぶかのように跳躍し、スズメの腹部へと足先がめり込んだ。
 くぐもった声を上げてスズメはうずくまり、ユニフォームの少年は、声をあげて喜ぶ。
「ははは! 苦しいか? 苦しいだろう、苦しめ! 苦しめ、苦しめぇ!! 足なんか折ってやる!!」
「おれはさ、恨むっていうのがよくわからないけど、他人を傷つけて奪っていいことはないよな。もう、誰も殺させないよ!」
 キルシュが、ユニフォームの少年に跳びかかると、ジャージの少年が目の前に立ちはだかり、キルシュは迷いなく黒影剣をふるう。
 夜半は仲間に祖霊降臨をかけていた腕をとめ、スズメへ赦しの舞を踊ると、次々と囲んだ地縛霊に攻撃をしかけた。
「ぐわあぁぁ!!」
 ユニフォームの少年は攻撃に体をうずくませると、すぐに姿勢を低くしたまま10人の囲いをすり抜けた。止めようとリフレクトコアをかけていた夜半が前に飛びだしたが、蹴り出された足にはね返される。
 ふらついた夜半を支えたルシフェラーゼが地縛霊の姿を目で追うと、用具室へ一直線に向かっている。
 ルシフェラーゼが声を上げる前に、8人はすでに用具室へと駆けだしていた。
 ユニフォームの少年は、用具室前の用具を蹴り飛ばし、鍵のかかっているドアを破ろうとしている。
 澪はユニフォームの少年を吹き飛ばそうと、爆水掌を放ち、地縛霊の体は吹き飛ばされた。すぐに涯がフェニックスブロウを飛ばす。
「お前らも……お前らも、俺と同じになれ、苦しめ!! 苦しめぇ!」
 突き進んでくるユニフォームの少年を用具室へ近づかせまいと、夜半は足をふんばって地縛霊を止める盾となる。
「あとは、お願いします!」
 地縛霊の蹴りを受け、悲鳴を上げる夜半の前で、攻撃の閃光がユニフォームの少年を包んだ。


「みんなお疲れ〜♪」
 戦闘後とは思えない陽気な遼の声に、みんなは安堵も含めた笑みを零した。
 攻撃を受けた夜半の傷も、さほど酷くない。
 だが、地縛霊にほんろうされるかのような戦いに、重たい疲れが響いていた。
 涯はリーゼントの方がずっと落ち着くと、乱れた髪をていねいに直しながら、グラウンドの方へ目を向けた。
「さて、クギでも片付け……あれ?」
 涯の声に、他の仲間もグラウンドへと振り向くと、足に刺さるほどまき散らされたクギがなかった。
「はた迷惑な奴かと思っていたが、思ったよりいい奴だったのか?」
「そうじゃないだろう」
 界音の表紙抜けた口調にツッコむスズメに、鞠也は笑みを浮かべる。
「ということは、片付けは、遠慮なく蹴り倒してくれた用具だけだな」
 一部破壊されている用具に、契は持っていた剣を背中に掲げながら、軽く溜息をついた。
「これからは…皆さん安心して練習できますね」
「これから、スポーツの秋だもん、安全にスポーツを楽しみたいもんね。ねえ、誰か用具室あけてくれるかな? しまえないんだよう」
 祈るような澪に、明るく答えたルシフェラーゼは、鍵のかかった用具室を指さした。
 鍵を持っていた契が鍵を開けると、広い用具室が何事もなかったのように静まりかえっていた。
「今日の君にはさようならを、いつか会う君には初めましてを」
 キルシュは、そういいながらハードルを用具室の中に入れた。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/09/21
得票数:楽しい7  笑える3  カッコいい1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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