<リプレイ>
●花咲く空を待ちながら その町の中央には、大きな川が横切るように存在している。その川と並行になった道に今は露店が並び、人々が集い、普段は静かな町に賑わいをもたらしていた。 まだ明るい空の下、腕を組んで、かき氷をつつき、綾と弘明は仲良く歩く。綾が途中で見付けた射的の景品をせがめば、弘明はわかったとそれ──可愛らしいぬいぐるみに向き合った。もし取れたなら抱き付いて、取れなかったら拗ねるフリを。そしてそれから頭を撫でて、笑いながら慰めよう。 手を繋ぐのははぐれてしまわない為だ。エリフィスと卿は二人並んでのんびりと歩く。 「沢山店が並んでて……賑やかですね」 御神輿も見てみたいですと、りんご飴を手にエリフィスが小さく笑んだ横で、卿が綿飴に視線を走らせていた。 「エリーも一緒に食べる?」 久しぶりに見たら食べたくなってしまったから。卿の問いにエリフィスは悩むまでも無く頷く。 一緒だから楽しい。一緒にいてくれる事に、感謝を。二人が思う事は同じだ。 「ちょっ、貨幣の概念から教えんのか!?」 別の露店の前では、薫が目の前で首を傾げる瑠璃香に頬を掻いていた。まるで人形のように、綿菓子のように、ふわふわとした少女は見るもの全てが初めてで。 (「まぁ、縁日で社会見学ってのも粋でイイか……」) まずは何から教えたものか。薫は困ったような、けれど楽しそうな表情を浮かべ、瑠璃香の小さな手を取った。まずはりんご飴を手に入れて、その食べ方から教えてあげよう。 麻璃流と歌戀が両手に抱えているのはまさに大量のりんご飴。別方向からやって来て鉢合わせた二人は、こういう時だけ合う気にふふ、と怪しく笑い合う。 満面の笑みで振り向いたその先に立っているのはクロ。麻璃流と歌戀が抱えたりんご飴を罪悪感すら覚えそうな目で見つめている彼女に、二人の少女は更に笑みを深くした。 「うらやましいですかぁ?」 「青いの赤いのりんご飴いっぱいですわー♪ クロさんには差し上げませんわよ?」 けれどクロは怯まない。あ、と声を上げ二人の後ろを指差して、呼び上げたのはここにはいない二人の人物の名前。 反射的にそちらを向いた麻璃流と歌戀に見事な膝かっくんをお見舞いし、クロは宙に舞ったりんご飴を華麗に全てキャッチした。 焼き鳥、お好み焼き、焼きそばにベビーカステラ。鼎はクマの縫いぐるみ【権造さん】と共にうろうろと歩き回っている。お母さんは遅くなってもいいと言ってくれた。久しぶりのお祭りを堪能しながら、お母さんへのお土産も探そう。 そう思っていたらつい買いすぎてしまったようで、鼎は座れる場所を探しながら再び人の波に紛れていった。 珍しく男装をした美女丸は、必死で周囲を見回していた。共にやって来た麗とはぐれてしまったからだ。 やがて露店の陰に涙ぐんでいる麗を見付け、美女丸は駆け寄り手を差し伸べる。手を握り返され、更にそのまま抱き締められて、美女丸は安堵の息を吐きながら愛しい人の髪を撫でた。 「もう……離れないでくださいね」 「はい、もう美女丸から離れませんわ」 繋いだ手が温かい。はぐれる心配は、無くなった。 神社にやってきた龍我は握り締めていた五円玉を賽銭箱に投げ、やや思案、それから豪快に手を叩く。 願ってみたのは、ゴースト事件の被害者が無くなる事を。けれど神様の取りこぼしは自分達が解決してやると笑い、友人への土産を探す為にきびすを返した。 同じく神社にやってきた成章は、収められたままの神輿にそっと触れる。 災害が起こる、血が流れる、まるでゴーストでも出てきそうな話だと思う。見方を変えれば神が今の世に何かを思っているのかもしれないけれど。 そうやって想いを巡らせるのは面白い。成章はまだ暫く、そこを動かずにいるようだ。 「御神輿、何か悪い事に蓋でもしてくれているんでしょうか」 からりと下駄を鳴らしながら、空色は横を歩く高槻・市松(磊落拳士・bn0028)を見た。ちょっとだけ一緒に歩いて欲しいという空色の願いにすんなり応じた市松は、空色が差し出した画帳──彼女の相棒が描かれているそれを眺めながら首を捻る。 「そういう考えもありかもな。……ブルーハワイのかき氷でも食うか?」 彼女の浴衣や瞳、髪色を見て何となく言ってしまったのだろう。かき氷の店を指差した市松に、けれど空色は思い出を貰えたので十分です、と笑った。 「っす。春祭り秋祭りーって、ちょっと時期から外れてんのとか好きなの、お前」 聞き慣れた声に振り向けば、手当たり次第に財布の紐を緩めた成果を抱え、契が器用に手を掲げていた。 「ちげぇよ、夏も冬も好きだ」 そう答えて歩き出した市松の横を契も歩く。祭り独特の食べ物の香りに表情をゆるゆると緩めながら水飴を『ひとつだけ』差し出せば、またかよとからかうような笑い声が市松の口から漏れた。 エルレイはいつものようにぴょこぴょこと跳ねながら後ろに付いて歩いている。右手に綿飴を、左手に同じ浴衣を着た兎のぬいぐるみを抱き締めながら見上げているのは射的の店だ。 「……松様、射的、得意ですの?」 「そりゃ愚問だ」 無駄に誇らしげに腕を組んだ市松に、エルレイは小さな手を伸ばして景品のぬいぐるみを指差した。 その隣、金魚掬いの店の前に、清流とカタナは真剣な表情でしゃがみ込んでいる。 「何故だっ! 何故すぐ破れる!? くそーおじさん、もう一枚くれ!」 家に猫がいたせいで金魚掬いをした事が無い。そう頭を抱える清流に対しカタナの動きは俊敏で、既に勝負の結果は見えている模様。カタナの余裕の表情に口元を膨らませた清流は、次は射的だと声を張り上げた。 「斬る専の俺に心得が無い事を知っての選択か!?」 「心頭滅却明鏡止水弱肉強食の心意気で挑めば勝てる筈だー!」 聞こえてくるやり取りに、楽しそうな奴らだなと思いながら市松が射的の狙いを定めていたのはまた、別の話。
里奈は十五夜のお供、お団子を探していた。けれど途中でたこ焼きに釣られ、結局それを頬張っている。その後に見付けたヨーヨー釣りで水色のヨーヨーを無事手に入れて、それで遊びながらりんご飴を買って、そして神社を目指して歩く。 揺れて見えるのは空の色。まだ、その空は青を残し、静かだ。 空が彩られる時を待ちながら、真珠子は雑踏の中に恋い焦がれる人──諒を見た。声をかけようとしたけれど足が止まってしまったのは、その隣を歩く少女、陽気の姿を見たからだ。 諒も真珠子の存在に気付き、その様子に首を傾げながらも手を掲げた。俯きながらやって来た真珠子に陽気は何かに気付き、浮かべたのは悪戯っ子のような笑み。 「ボク、ちょっとりんご飴買ってくるね。二人で仲良く待っててねっ」 そして、返事も待たずに身を翻す。その背を困惑気味に見送った真珠子は胸をぎゅうと押さえ、それから諒の服の裾を掴んだ。 陽気と諒の関係が気になる。とてもとても、寂しい気持ちになってしまう。 「あの……諒くんって、呼んでも良い?」 絞り出されたのは勇気。返事の代わりは、諒の方から握られた手。そして、物凄く遅れてしまった、誕生日を祝う言葉。 露店をのんびり歩きながら陽気は空を見上げ、満足そうに笑んでいた。りんご飴を食べている間、二人に幸せな時間が訪れていれば良いねと願う。 そこへ駆けるようにやってきたのはたくさんの神輿。担ぎ手達の掛け声が響き、神輿に付いた装飾がきらきらと光る。露店を歩く人達は見入りながら歓声を上げて、祭りの開催を喜び合った。 パレードと称されるのも分かる程の活気を背負い、神輿は夕焼け色に染まりつつある町を抜けてゆく。 「……あ、っと……」 ぼんやりしていると迷子になってしまいそうで、優は目印にしていた金髪とマフラーを追いかける。 さりげなく緩められた歩調に追いついた時、見上げた空に花開く音が響いた。目を丸くしながらせがむようにマフラーを引くと、その身体が持ち上げられて肩の上に座らせてくれた。 手にしたりんご飴の表面に花火の光が映り込む。優はそれを空に掲げ、月と並べながらずっと見つめていた。
今宵夜空に浮かぶのは、大輪の花と秋の月。
●十五夜の夜に キラキラと光って落ちるのは流れ星のよう。 間近で見る花火はとても大きくて、空気をびりりと震わせる。 色々な種類、色、音。よそ見をする時間が惜しくて、朔は瞬きも忘れ空に見入っていた。 「お。今なんか顔に見えへんかった?」 朔の隣ではコウが花火のひとつを指差して、あれが好きなんよと笑んでいる。朔はその隣に浮かぶ月を指差して、月が欠けている時に兎はどうしているんかなと呟いた。 「地球に戻ってる、とか……いつもその辺の山、走っとる子……かもしれんよ?」 首を傾げるコウの手には朔が用意してきたお団子が。兎がついている餅と食べ比べが出来たら面白いのにと笑うコウに、朔は幸せそうにはにかんだ。 露店巡りもそこそこに河原にやってきた琢己と遥姫。二人だけでいられる場所を探し、遥姫は琢己の膝に座る。 「琢己先輩、見て! すっごく綺麗!」 花火が上がる音に負けない程の声ではしゃぐ遥姫を、琢己は後ろから優しく抱き締めた。こっそり買ったりんご飴を頬張っていると、遥姫がその顔を見上げて笑う。 「秋の花火っていいねー。綺麗なお月様と花火が一緒に見れるし」 「そうですね、一石二鳥というヤツでしょうか」 遥姫の髪を梳きながら、琢己は笑顔でそう同意した。また来年も一緒に来ようと二人は頷き合い、更に身を寄せ合う。 大きく響く音に抱いていた身体が強ばった感触が伝わってきて、歌織は優しく花純の頭を撫でた。 「ちょっと刺激的だったかな? 音が大きいだけだから大丈夫だよー」 ほら、綺麗だから。そう言って微笑めば、一度歌織を見た花純はおどおどと空へ目を向け直す。途端に飛び込んできたのは大輪の花火。無意識のうちに漏れたのは、歓喜の声。 「わぁ……きれ……い……」 細い声はそれでも幸せそうで、歌織は再び可愛い少女の頭を撫でた。花純にとって歌織の腕の中は、とても安心出来る場所だ。 次に上がる花火は何色だろうか。宗則は夜からの賭けの提案に微笑みを返しながら乗る事にする。 「負けた方が当たった方にりんご飴を奢る、というのはどうでしょうか」 私は黄色で、と空を指差した夜に、宗則は赤色が上がるかな、と告げる。 そして訪れる短い静寂、胸に走るのはわくわくとした気持ち。勝っても負けても、引き分けだったとしても。お互いの楽しそうな表情と、りんご飴の優しい味は変わらないだろう。 小さな光が天を目指して駆け抜ける。花開く瞬間を待ち、宗則と夜は同じ部分を仰ぎ見た。 河原を吹く風は少し冷えているけれど、繋いだ手は温かい。玄蕃と朗は悠々と歩を進めながら花火と月見を楽しんでいる。 見るもの、聞こえるもの全てが優しくて愛おしい世界、そこに玄蕃といる事が嬉しいと朗は思う。 二つの異なる光は美しいけれど、それ以上に美しいのは傍らの愛しき人だと玄蕃は思う。 不意に顔を見合わせて、玄蕃がつい逸らしてしまった視線を追って、朗はその頬に不意を打つように唇を寄せた。大好きな貴方と、愛しき君と。過ごせるのならば、いつまでも。 記念すべき初デート、下心が無い訳は、無い。剛は花火に見とれている琉架の手をそっと取り、恐る恐る問うた。 「駄目か?」 目が合った後で、返事は言葉より先に微笑みで返された。柔らかな手の感触を確かめながら、剛はぎこちない声で告げる。 「有り難う。……その。好きだ、本当に」 琉架は花火に目を向けていて何も答えない。けれど繋いだ手が強く強く、握り返された。花火が空を彩る度に、何度でも。 暫く花火を見つめた後で、終凪はそっと手を伸ばす。そのまま雪那の手を握ってみたけれど、別方向からの視線を感じて慌てて離してしまった。 そんな自分に遠い目を浮かべた終凪と、気付かぬふりをしながら首を傾げる雪那、そして、一部始終を見てしまい困惑している華凛。華凛にとって見かけによらず情熱的な終凪は、本来なら似ても似つかない存在──今は亡き人を思い出させる。 一瞬一瞬で違う表情を見せる花火。一つとして同じ者は無い、その意味では人の世にも似ているようで。 気にかかる事はたくさんあるけれど、今は頭を空っぽにして。広がる光を楽しもう。 河川敷に一人やって来て座った雛は、思いを馳せながら花火を見つめている。自分はいつか、誰かの為に何かを為せるような人間になりたい。どこかにいる、誰かの為に。 空へ向けて目を細めていたら、背後に人の気配が現れた。 「ミニカステラ、食うか?」 聞き慣れた声と自分の頭に置かれた袋。雛は思わず吹き出しながら、振り向きそして微笑んだ。
夜空に咲いた花は、ちらちらと夜の色に溶けて散ってゆく。全ての花火が打ち上げられ、夜空に残っているのはぽかりと浮かぶ月ひとつ。 初めて二人で出かけて、人の気配の無い場所で過ごす時間。胸が高鳴って、嬉しくて、楽しくて、麻衣子は思わずえへへと笑う。 朔はそんな麻衣子をぎゅっと抱き締めた。本心を隠して生きてきた自分が手に入れた本当の気持ちがここにある。 「……朔お兄ちゃん、大好き」 私はここにちゃんと居る。はにかむような笑顔と共に抱き返される感触を感じ、朔は腕の力を強めながら胸の中で呟いた。 いつまでも、ずっとずっと、彼女と共に在ります様に。
空がしんと静まり返る。 月は消える事なく町を照らす。人々の想いを柔らかな光に変えて、この特別な夜が終わるまで。
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参加者:47人
作成日:2007/09/23
得票数:楽しい5
ハートフル14
ロマンティック16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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