悪夢の国のアリス


<オープニング>


 目の前を走り続ける一匹の白い兎。そして周りに広がるのはやたらにファンシーな森。能力者達は目の前を走る兎を追って走る、走る。
 兎と能力者達が追走劇を行えば周りの水彩画風の景色もめまぐるしく変わる、森からお茶会の会場へ、そこを過ぎたらクリケット場へと。気付けば再び森に戻ってきたりしている。こちらを見て笑う猫の位置からすると、実際に同じところを巡っているのだろう。
 これは何時まで続くのか、能力者達はひたすらに追いかけていた。

「今、伝えたのが少女の見ている悪夢の内容だ」
 鍛冶野・アラン(高校生運命予報士・bn0063)は能力者達に追走劇の説明を行う。
「この悪夢を見せられている少女は『不思議の国のアリス』の絵本が好きだったようで、そこに出てくる白兎に興味を惹かれ飼いはじめたらしい。だが先日、その兎が死んでしまったらしく去っていく兎のイメージが夢になってしまったようだね、彼女の好きな絵本の舞台と重なるように。それにナイトメアがつけこんで悪夢として見せ続けているらしい。小さな心に別れを見せ続けていれば良い結果は招かないだろう」
 君達にはこの夢に飛び込んで悪夢から救い出して欲しいと続ける。また少女の寝込んでいる部屋への進入は大して難しくないので気にしなくてもいいともとつけ加える。
「悪夢を解くには兎を捕まえてもらえればいい。兎は物語のような擬人化された姿ではなく普通の白い兎の姿をしている。……恐らくは少女が飼っていた生前の兎の姿なのだろうね。兎の足の速さは君達と同じかそれよりも少し遅いくらいだ、暫く走り続けていればいずれ兎に追いつくことが出来るが、追い始めるとどこからかトランプの兵隊が現れて攻撃してくるのでこちらも注意してもらいたい」
 悪夢の説明をするとアランは一息付き、改めてその先を続ける。
「兎を捕まえるとそれまで散発的に攻撃をするだけだったトランプの兵隊達が、一気に増えて一斉に襲ってくる。それほど強くはないが数が40体ほどいるので油断はしないで欲しい。普段の君達なら問題ないが、兎を追うことで疲れている所を襲われることになるので注意してくれたまえ」
 そこまで言うとアランは何かを取り出し能力者達に渡す。
「これがミスティンカーベルの粉だ。これを使えば夢の中に飛び込むことが出来る。……夢の中では不可思議な事がよく起こるようだ、だからと言って向こうで負った傷が治ったりする事はない。向こうで傷を負ったり死んでしまえばこちらでも同様だ。是非注意してもらいたい」
 夢の中での注意を改めて伝える、そして少女の元へ赴く能力者達を送り出す。
「それでは少女を悪夢から救い出してくれたまえ!」

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参加者
樺柳院・水軌(水陰葬・b01478)
蟲姫・蛍(ほたる源氏・b13036)
一之宮・琴古(春うつら冬眠中学生霊媒士・b15280)
カデシュ・ギュレット(玉座の女郎蜘蛛・b16445)
水月・氷璃(仄昏き幻燈・b18049)
フィア・オルクス(氷蝶の凶夢・b20111)
夕凪・志保(中学生白燐蟲使い・b22372)
戊・里乃(高校生牙道忍者・b29535)



<リプレイ>

●In to the baddream
 薄暗い部屋の中、一人の少女がベッドの上に横たわっている。小さな額に寄った他の皺は、夢の中で苦しみを与えられている事を如実に表していた。
「好きな絵本を舞台に、追えど届かぬいとしい兎の夢を見る……か」
 戊・里乃(高校生牙道忍者・b29535)が少女の顔に目を向けながら言葉を零す。それは静かな部屋に響き他の能力者の耳にも届く。
「辛い、ね」
 続けて発せられた言葉には同行した者達が音無く頷く。そこから開放するために彼女たちは来たのだから。一之宮・琴古(春うつら冬眠中学生霊媒士・b15280)は少女にかつての自分を重ね合わせて、その辛さを思い返す。そしてそれが続く辛さに胸の内を痛める。
「別ればかりが続くなんて悲しいです」
 蟲姫・蛍(ほたる源氏・b13036)が琴古の思いを代弁するかのように呟く。きっと彼も同じ気持ちから生じた言葉。
「兎を捕まえれば、もう悪い夢を見なくて済むんですよね? だったら俺たちで悪夢を終らせてみせます!」
 年齢としてはやや小柄の彼が発した言葉は、やや高めながらも揺るぎの無い強さのある響きを伴っていた。そこから見出せるのは決意と言うべきものだろうか。
「女の子の為にもウサギさんを捕まえてトランプの兵隊さんはやっつけちゃうんだよぅ〜!」
 フィア・オルクス(氷蝶の凶夢・b20111)もぐっと両の拳を握って小さく意気込みを語る。
「……絶対捕まえてやるよ」
 樺柳院・水軌(水陰葬・b01478)が言われなくとも、言った感じで彼の言葉に頷きを返すと帽子を深く被りなおす。周りの覚悟が決まったのを確認してカデシュ・ギュレット(玉座の女郎蜘蛛・b16445)が彼女の枕元に受け取ったティンカーベルの粉を振り掛けると曰く形容しがたい色を持った雲が現れる。これが夢の入り口なのだろう。能力者達は互いに顔を見合わせて次々と雲に触れていく。
(「お邪魔しますです」)
 琴古が心の中で呟くように突入し、その部屋から少女以外の人の気配が無くなる。かくして舞台は夢の中へと移る。

●Encounter with the rabbit
 能力者達が夢に飛び込むと周りの風景がいつもの生活で見ているものとは違うものに変わる。それはただ見慣れぬものがあるということだけではなく、その世界のタッチと表現する以外に言い得ない違いがあらわにされていた。具体的な言葉を選ぶのなら現実ではありえないような淡さを持った木々や土や青空がそこかしこを彩っていた。それはまさに絵本の世界。
「ふわぁ……」
 普段なら自らが覗き込むはずのその風景の中に取り込まれフィアの口から感嘆のため息が漏れる。普段なら見ることのできるはずも無いその光景は、悪夢といえども何らかの感嘆をもたらす力を持っていた。
「中々……綺麗な夢よね」
 水月・氷璃(仄昏き幻燈・b18049)が世界を見回しながら呟く。周りの風景に視線を巡らせて楽しむ素振りを見せるが、ある一点で彼女の瞳の動きは止まる。
「でも、これも悪夢。それを見せ続けるなんて趣味の悪い事ね」
 彼女の眼差しの先にはこの風景から幾分浮いた白い物体、つまりは現実に居るようなウサギが佇んでいた。そのウサギは彼女と目があったかと思うと、まさに脱兎のごとくその場から走りだす。
「あれじゃな……追うぞ!」
 夕凪・志保(中学生白燐蟲使い・b22372)が言うが早いかウサギを追って駆け出していく。彼女と同じように打ち合わせしていた他の仲間達も一緒に駆け出す。ここに夢の中での追走劇が始まる、まるでかの物語のような。

●Chase in the wonder wold
 能力者達は兎を追って走り続ける、目の前の兎も同じように彼らから逃げようと走り続ける。両者の間はじりじりと少しずつではあるが縮まってこようとしている。だが兎と彼らとの間にコミカルなトランプのカードを擬人化したような姿が現れる。
「あれが……!」
 里乃の脳裏に運命予報士の言葉が甦る。あれが件の邪魔をするトランプ兵と言う奴だろう。出現箇所が分からなかったのも悪夢故なのだろう、何が起こるか分からない。それが夢の世界のルールのようなのだから。
 蛍はトランプ兵の動きに注意しながら追いかけるが、そこに注意を裂かれる分どうしても反応が遅れてしまう。それをサポートするように水軌がトランプ兵に爆水掌を放つ。
「邪魔」
 吹き飛ばされたトランプ兵に目をやりながら水軌が呟く。
「童話ってのは……綺麗なまま心に置いておくものなんだよ……」
 悪夢の走狗と化したトランプ兵の相手をしながら水軌は兎を追う蛍とカデシュに任せろといった表情で頷く。志保や里乃も同じように武器を手に取りトランプ兵を相手にしている。3人にトランプ兵の相手を任せ、兎を追いかけることに集中するカデシュと蛍。
(「他の皆が疲れても、俺だけでも……!」)
 蛍は自らの力を信じて力強く脚を動かす。彼らと兎との距離は僅かずつではあるが確実に狭まっていく。

 一方その頃、兎を追う者達とは別れてチェシャ猫の前で待つ者達がいる。
「ARANの情報どおりにいたわね……」
 氷璃が木の上でほくそ笑む平面のチェシャ猫を見上げながら、辺りを見回す。恐らく話の限りだとこの悪夢は空間的にループしている、それを利用して兎を2方向から挟み撃ちにして捕まえる作戦を取る。琴古は連絡用に持ってきた携帯電話の画像を見て圏外であることを確認してから、別途用意しておいた笛を取り出す。この悪夢の中に電波塔でも立っていれば使えたかもしれないが、残念ながら今回は使えないようだ。もっとも電波が来ていたところで走りながら、トランプの相手をしながらで使用するのは難しかったかもしれない。
 氷璃は兎を追いかける者達を見送るとティータイムといわんばかりに持参した水筒から紅茶を注ぐ。「夢なら夢らしく、紅茶とケーキぐらい用意して欲しいものね」と冗談めかしながら器を手に兎たちが走って行った方向とは逆を向く。持参したオペラグラスを覗き込み、フィアや琴古もそれに倣い双眼鏡で警戒にあたる。琴古は兎が来るのを待ちながら、この夢の主の少女について思いを馳せていた。
(「……何より、ちゃんとした別れが出来ないのは辛いです」)
 双眼鏡を持つ手を緩めずに真剣な眼差しで道の向こうを見続ける。
(「『さようなら』が出来る感じで悪夢から開放させてあげられたらば」)
 視界の中心に小さな動くものが現れてくる。
(「心の傷は直ぐ癒されずとも、思い出は癒しに繋がるです」)
 その動くものは徐々に輪郭を大きくなり判別が付く大きさになる。
(「きちんとお別れが出来たら、乗り越えられない別れは無いです、と思うですから」)
 氷璃とフィアも既に向かってくる影に気付いており既に動ける体勢になっている。琴古も双眼鏡を下ろしてすぐさま準備に入る。視界の仲間達は兎を追い続けていることで疲れが見え始めているが、まだ動けそうではある。近づいてくる兎を中心とした一団に氷璃が眠りの歌を届かせると、その周りで里乃たちを牽制していたトランプ兵たちがパタパタと倒れていく。邪魔者が居なくなり兎への包囲網を狭めていく。そしてそれが極限まで小さくなり。
「捕まえたっ」
 待ち構えていたフィアが兎を確保する。これでこの悪夢は解かれるはずだ。
「来たね!」
 溢れるばかりのトランプ兵を倒せば。

●Attack!
 ペラペラの薄いカードの胴体に申し訳ない程度の手足が付いたその敵は、兎をフィアが籠に入れると同時にどこからとも無くあふれ出てきた。スートはスペードからクラブまで、ナンバーはAから10まで計40体。現れたのを確認すると志保が仲間達に孤立しないようにと注意を促す。その間にもトランプ兵たちは襲いかかってくる。
「駄目だよ、兵隊さん。女の子を悲しませると、女王さまの代わりにあたしがやっつけちゃうんだよぅ?」
 兎を狙うように動き出すトランプ兵の攻撃をかわしながら魔法陣を描き、次の攻撃に備えるフィア。敵の数に怯むような様子は見られない。
「数が多いなぁ……」
 里乃がその明らかな物量作戦に辟易する。これだけ数が多いと複数の敵を巻き込むような攻撃手段は万全の効果を発揮しにくい。
「堅実に減らしていきましょうか」
 獣の力を借りた一撃でトランプ兵を紙くずのように――実際紙なのだが――蹴散らしながら戦況を打開する確実な提案を出す。黒影剣でその敵にトドメを刺しながら水軌がその提案に頷く。敵がいくら弱いといっても長く戦っていればその分だけ、ラッキーヒットは発生しやすくなる。その場合数が少ない方が有利である。そうなる前に数を減らしておくのは定石の一つである。
「たま、パチパチ火花を」
 琴古がたまと名付けたスーパーモーラットに指示をだすと、主の命に応えて周りのトランプ兵達に自らの身から生み出される火花をぶつけダメージを与える。更に追い討ちをかけるように主自らもそのトランプ兵達に雑霊撃を浴びせ着実に敵の数を減らしていく。
 能力者達は互いに背中を預けながらケージに入った兎を守って戦う。このように戦えば誰がピンチになってもフォローするのは容易い。また傷ついた相手を狙いやすいというメリットもある。そこに強引に突撃しようとするトランプ兵もいるがそれを蛍は許さない。
「近付けさせるか! 来るなら俺のところへ来いっ」
 蛍の牙道砲が吹き飛ばし連続して攻撃されるのを防ぐ。彼らが守りを固めながら戦うことによって徐々に敵の数が減っていく。能力者全員の攻撃がトランプ兵たちの数を削り取っていく。
「おまえたちなんかーっ!」
 蛍の叫びながらの一撃は戦いの最後が近いのを示す。残るトランプ兵はスペードのA。氷璃がその体格に見合わない両手持ちのガトリング砲を携えてそのターゲットに言葉を贈る。
「三流の悪夢もこれでお仕舞い……幕を引いて上げるわ」
 刹那轟く銃撃音。カードの体に無数の穴が開いたかと思うと、次の瞬間世界が歪み収束していく。
 かくして悪夢はここに終わりを見た。

●Lost the baddream
 能力者達が気付けば既にそこは絵本の世界ではなく、ここに来た時と同じ何の変哲も無いベッドのある部屋。戻ってきたということは悪夢が無事消え去ったという事だ。
「……これでもう白兎を追う夢は出ないですよね?」
 確認するように里乃が呟く。その言葉にフィアはこくんと頷くとそっと安らかな寝息を立てる少女に近づく。
「んとね、ウサギさんはいなくなっちゃったけど、ちゃんと貴女の心の中には生きているんだよ」
 だから悲しまないで、と少女を起こさないようにかすかな声で囁く。聞こえているのかいないのか、少女は静かに眠っている。琴古もフィアと同じように近づき、同じような声音で言葉を紡ぐ。
「安心してお休みなさいです」
 微笑みを浮かべながら呟くと静かにその場から立ち去る。全ての能力者がその場から居なくなると、後は微笑みにも似た表情を浮かべながら眠る少女だけが残されていた。


マスター:西灰三 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/09/27
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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