無理難題フルコース


<オープニング>


 熱い。
 それでもって、暑い。
 良い匂いを立ち昇らせる寸胴鍋がかけられたコンロと、丸々とした鶏肉を焼いているオーブン。そして、容赦なく頭上から浴びせられる、ライトの数々。
 ――料理するより先に、こっちが茹だりそうだ……。

 突然、フロア全体にけたたましい警報が鳴り響き、あなたはハッと顔を上げた。隣室へと続く扉の上で、赤色灯がグルグルと回転している。
「そ、そんな……っ、ワシの料理が認められんだと……!?」
 料理長の体格の良い体が、一瞬グラリと揺れた。表情には悲壮感が漂っているが、背中に銀糸で『究極の料理人』なんて刺繍が入れられたショッキングピンクの衣装と、揃いの帽子を身に着けているせいで、ちょっとだけコミカルに見えてしまう。……ホントに、ちょっとだけ。
「仕方がない。お前たち、後のことは頼……――」
「料理長!?」
 皆まで言う間もなく、料理長の姿が消えた。その足元……だった場所に突然開いた落とし穴は、何事もなかったかのように再び床と化す。
 残されたのは、彼の下でアシスタントとして働いていたあなたと仲間たち。
 隣室で待つお客様のために、出来ることは……。
 

「厨房は戦場だ……って、よく聞くよね。今回は、本当の意味で戦場になっちゃうかも」   
 少し困ったように眉を寄せた長谷川・千春(中学生運命予報士・bn0018)は、いつものようにメモ帳を取り出した。
「来訪者・ナイトメアの見せる悪夢に捕らえられた人が眠り続けてしまうって事件は、もう皆も聞いたことがあるよね? 今回も同じ。被害に合っている人を助けて欲しいの」
 悪夢を見ているのは、とある有名レストランで働くシェフ。27歳、独身である。
 最近テレビ番組で紹介された店がますます繁盛している……のは良いのだが、忙しすぎてなかなか休みが取れない状況にあるという。オマケに、唯一安らげる時間であるはずの夢の中でまで、延々と料理を作らされているというのだから、かなり追い詰められているに違いない。
 このまま悪夢を見続けることになれば近い将来、彼の精神は屈してしまうことだろう。
「彼は1人暮らしだよ。窓を開けっぱなしで寝ちゃったみたいだから、部屋への侵入とかは心配しなくても大丈夫。……アパートの1階なのに無用心だよねぇ」
 場所はここ、と地図に赤ペンで印をつけて、千春は再び能力者たちに視線を戻す。
 
「彼の悪夢を打ち破るには、難しい注文を出すお客さんを満足させなくてはいけないの」
 厨房の隣の部屋でテーブルに着いている、初老の紳士。彼からの注文は、ちょっとばかり大味で。

 『情熱的な前菜』。
 『幻想的なスープ』。
 『叙情的なメインディッシュ』。
 『感動的なデザート』。

 以上の品々をフルコースとして出して欲しい、というのだ。
 厨房に揃っている食材や調理器具は自由に使って良いし、夢の中なら普段お目にかかれないような高級食材だって思いのままだ。
 料理の採点基準は、「いかにテーマに合っているか」を説明する『薀蓄』が全てを左右する。料理としての『見た目』や『味』は、二の次三の次。……何だか詐欺みたいだが、気にしちゃいけない。
 因みに、紳士を満足させられなかった場合は、1つのテーマにつき3回まで挑戦出来る。それでも駄目な場合はお仕置きとして、誰か1人が落とし穴へと落とされてしまうという。
「あ。落とし穴に落とされても、みんなより先に目が覚めちゃうだけだから、ケガとかの心配はないよ? ただ、その先に起こることは、解らなくなっちゃうからね」
 
 出されたフルコースに満足すると今度は、逃がさないとばかりに襲い掛かってくる。
 武器は、手にした仕込杖による近接攻撃と、頭に被った山高帽をブーメランのように投げる遠距離攻撃。帽子と言えどもしっかり強化されているようで、当たれば結構痛い。
「夢を見ている本人は、どこか別の場所で戦って……もとい、料理をしているみたい。だけど、みんなが紳士を打ち破ってくれれば、悪夢は終わるから。頑張ってね」
 そう言って微笑んだ千春は、ポケットから小さな巾着を取り出した。
 中に入っているのは、メガリス『ティンカーベル』の砂。ナイトメアの悪夢から被害者を救うために、忘れてはならないアイテムだ。
「夢の中では、いつもと同じ能力が使えるよ。だけど……、戦いで重傷を負ったり命を落としたりした時も、現実にも同じ影響が出てしまうの」
 ――何が起こるかわからない、夢の世界だから。
 気をつけてね、と告げて、千春はメモ帳を閉じた。

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参加者
風見・玲樹(スーパー痛快ぼっちゃま・b00256)
アキシロ・スチュワート(碧眼の従者・b01500)
昂・かなた(エキサイト・b01904)
百鬼・祐平(ジョーカー・b02260)
ジェニファー・ウィンタース(ミスティックジェニー・b13275)
平良・虎信(荒野走駆・b15409)
オリバー・クーガー(校僕・b15706)
ルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678)



<リプレイ>

 運命予報士に示されたアパートの一室に難なく忍び込んだ能力者たちは、部屋の主が眠るパイプベッドを覗き込んだ。
 早速預かってきた巾着の口を開け、横たわった男性に『ティンカーベル』の砂を振り掛ける。そこからふわりと立ち上るのは、不思議な色の雲――夢への入口だ。
 一度、顔を見合わせた能力者たちは意を決し、雲へと手を伸ばした。


●1品目――『情熱的な前菜』
 始まりました料理対決。
 『4つのテーマに添った料理でフルコースを作る』という客の無茶苦茶な注文に答えるべく、立ち上がったのは8人のシェフたちであります。師である『究極の料理人』石場健一郎が不幸にもフグ毒に中り……
「対決ったって、相手いないやろ」
「『師』じゃないから。っていうか」
「会って5分と経たずに消えましたよ?」
「石場さんっておっしゃるんですのね」
「フグ毒じゃないです。落とし穴に落ちました」
 ……えー、行方不明となり、アシスタントから急遽繰り上がっての挑戦となりました。是非とも頑張ってクリアしてもらいたいところですね。

 さて、いよいよ最初のお題です!
 銀の覆いをかけたトレイを片手に、平良・虎信(荒野走駆・b15409)が登場。その堂々とした歩みには、自信が感じられます。
「俺様の料理はこれだ! 題して『ホウレン草のカルメン焼き』ッ!」
 覆いを取った皿に広がる、一面の濃い緑。一点の曇りもなく、ホウレン草のみを使用したバターソテーです。
 彼は不敵な表情で笑うと、パチリと指を鳴らします。
 と、どこからか聞こえてきたギターの音色と共に、ドレスを纏った昂・かなた(エキサイト・b01904)が入場! カスタネットを打ち鳴らし、靴を踏み鳴らして踊るは情熱の舞踊・フラメンコ。少々独特なステップ、しかしリズムは完璧だ!
「ホウレン草は普通、収穫の際に冷気を与えて成長を止める! だが、これは違う! 逆に地球の熱気を吸わせ、肥大化させたのだ! ホウレン草の全てを知り尽くした俺様だからこその一品! 解るか? このホウレン草に賭けた情熱がッ!」
 タイミングぴったり! 虎信が言い切ると同時に、かなたのフラメンコも終了。ホール内が一気に静まり返ります。結果は……?
「だが寒締めには、生育を止める他にも糖度やビタミン、食味が向上するという効果もあるのだ。何事も大きければ良いというものではないぞ!」
「むぅッ」
 カーン♪ と、鐘ひとつ。失敗です。
 しかし、なかなかの意気込み、着眼点は評価に値するでしょう。
 ……おや? 虎信が厨房へと下がったのに対し、かなたは紳士の傍らに佇んだままですね。彼の番のようですが、肝心の料理はどこに……
「情熱か……。つまりはパッションだね!」
 にこりと笑み、取り出した赤い布を広げてハタハタと振って見せます。
「カモーン、情熱の給仕係――闘牛! オ・レィ!」
 高らかな呼び声に今、ホールに闘牛が現れました!
 ……って、着ぐるみを着た虎信ですね。手に、先程と同じくトレイを持っております。どうやら彼が給仕をするようですが……あぁっ、あんなに勢い良く布に突っ込んで料理は無事なのでしょうか!? あ、平気のようですね。
 フラメンコをイメージしたというカスタネットを模した器。盛り付けられているのは、生ハムとパッションフルーツをメインにしたサラダです。
「パッションフルーツの『パッション』は、情熱ではなく殉教って意味だってさ。ま、名前にパッションついてれば関係ないよね!」
 かなた、それは流石に大雑把過ぎませんか。
 ん? 今度は何か液体を振り掛けています。現場からの報告によると、白ワインのようですが……っと、なんとサラダをフランベだ! 燃え上がる情熱の表現なのか!?
 炎が収まったサラダの上に、紅い薔薇――『情熱』の花言葉を持つ花弁を散らし……完成です!
「さ、さぁ、パッション尽くしの前菜を、召し上がれ!」
 動きっぱなしだったせいか、かなたの息は少々切れています。
 黙していた紳士が立ち上がり、右手を高々と挙げました。
「情熱を表現しようという、そなたたちの心意気……それこそが情熱! よって、このサラダを『情熱的な前菜』と認めよう!」
 鳴り響く鐘、合格です! 1品目クリアー!!
 見事な協力を見せたかなたと虎信が今、ガッチリと握手を交わしました!


●2品目――『幻想的なスープ』
 担当するのは自ら1番手を希望したというジェニファー・ウィンタース(ミスティックジェニー・b13275)。やや緊張した面持ちで、銅鍋を載せたカートを押しての登場となりました。
「『妖精の輪』というものをご存知でしょうか? 豊かな草を囲むようにキノコが円形に生えている、という不思議な現象です。昔の人はこれを妖精の世界への門と考えたのですわ」
 レードルでひと混ぜしてから皿によそい、紳士の前へと置かれたのはジャガイモをベースとする白いスープ。上に描かれた緑の輪が、何とも美しい。
「どうぞ。『キノコのアイリッシュスープ妖精風』ですわ」
 鷹揚に頷いて見せた紳士が、スープの中に匙を滑らせます。あの緑の輪の一部を掬い上げ、 
「これは何だね?」
「シロツメクサの花と葉を刻んで炒めた物をアクセントに加えました。妖精が好むとされるこの花が、目印なのですわ。思わず踊りだしてしまう程美味で滋養に溢れ、体を温めてくれるこのキノコを当時の人々は妖精からの贈り物と考え、伝説が生まれた……と言われておりますわ」
「真に……古人が残した妖精の伝説、そして妖精もかくやという美しさ……、『幻想的』と言うに相応しい」
 ちょっ、ジェニファーの手をとって甲にキスなんかしちゃってますけど。セクハラですから! 離れて離れて。
 ――合格の鐘が鳴り響き、無事クリアです。


●3品目――『叙情的なメインディッシュ』
 メインだけあって、1番難しいお題となっていますね。挑戦者のほうも慎重に、3人のシェフがそれぞれの料理を考えているようです。楽しみですね。
 さて、先ず厨房から姿を現したのは、シェフの中でも最年少のルリナ・ウェイトリィ(無情なる銀月・b22678)です。
 手ぶらのようですが……、あぁ、対先程2品目をクリアしたジェニファーが給仕を買って出たようですね。確かにルリナの体には、銀のトレイは重いでしょうからね。
 そうして……紳士の前に出された皿には、サラダ菜や薄切りのラディッシュなどが彩り良く盛られ、その上に3枚の板チョコが……。えぇと……? どこからどう見ても無加工の板チョコ、ですね。
「これが?」
「そう。……あなたでは、これを理解することは出来ませんか……」
 挑発とも取れるような大胆な発言! しかし、カクリと首を傾げるルリナの表情には感情が乏しく、緊張の色も伺えません。若干6歳にして、なかなかの大物のようです。
 対する紳士のほうも軽く片眉を上げたものの、さして動じた風もありません。小さく折ったチョコレートを口に放り込んで、ルリナの次の言葉を待っているようです。
「ルリナが初めてチョコレートを食べた時の感動を……そのまま伝えたくて。あえて無加工で出したのです」
 だが、ホールに響いたのは、失敗を告げる鐘がひとつ。
「お前の好みは分かった。だが、儂はストロベリーチョコのほうが好きだな」
 ど、独断と偏見も良いところです……! しかも、無駄に可愛らしい好みだし。
 ……理不尽であろうと、客である彼の意見が絶対であるのは事実。ルリナは潔く一例すると、既に出番を終えた仲間たちが控える壁際まで下がります。
 代わって登場したのは、アキシロ・スチュワート(碧眼の従者・b01500)。自らが作った料理を携えていますが、中は……牛ヒレ肉のソテーでヴァイオリンを形作っています。柔らかなマッシュポテトを絞った弦と、周囲に五線譜が引かれた上に野菜の音符が踊っています。ソソソラソソソミ、ドドレミレ……夕暮れの情景が浮かんでくる唱歌、私も幼い頃よく歌ったものです。
 素晴らしい造形に、さしもの紳士も思わず見入っているようですね。
「叙情というのは私にはよく判りませんが……。イギリスにいた頃、お嬢様が弾くヴァイオリンの音色が、日本への懐かしさを呼び起こしたものです……。この曲は、日本の最高の叙情曲でございましょう?」
「確かに……。確かに、素晴らしい。この曲が郷愁を駆り立てるのも確か。だが……もっと心を、感情を出すのだ!」
 なんということでしょう! 紳士の心を揺らしたものの、合格には至りません。真に惜しい……!
 これでメインディッシュは2回失格。もう1度失敗すれば、誰かが奈落へと落ちることとなります。いやぁ、恐ろしいですねー。
 おっと、3人目の挑戦者……百鬼・祐平(ジョーカー・b02260)が厨房から出て来ました。
(「ふふ、主婦歴7年のなきりんの腕は伊達じゃなくってよ」)
 その背中に「見てらっしゃい」という文字と燃え盛る炎を見たような気がするのは、気のせいでしょうか。……眼鏡を換えたほうが良いですかね?
「これが自分の作る叙情的なメインディッシュ、『万願寺ソースがけベーコンとズッキーニ天婦羅』や!」
 おっと、もうトレイの覆いが外されましたね。
 ズッキーニとホタテの天ぷら。白髪ネギをこんもりと盛られた上に、赤いソースが彩りを添えています。……天ぷらの下には太めに切ったベーコンソテー、更に下にはニガウリのみじん切りが敷かれているとのことで、何層にも分けて楽しめる料理となっているようです。
「自分がこの料理に込めた感情――それは『恋』!! それも初恋のように淡く、ほろ苦い感情をな……」
 おや? 説明しながらもどこか遠い目になっています、祐平であります。さては想い人の顔でも思い浮かべているのでしょうか。
 ナイフとフォークを手にした紳士、祐平に薦められるままズッキーニの天ぷらを口にしました。続けてホタテの天ぷら、ベーコンとニガウリ……と食感を楽しみながら、味わっていきます。
「……むむ。一目惚れの儚くも甘い記憶、色濃い思い出……! お前の恋、篤と味あわせてもらったぞ」
 リンゴーン♪ と唱和するのは、合格を告げる鐘! 挑戦者チーム、辛くも3回目にてクリアしました!


●4品目――『感動的なデザート』
 長かった戦いも、残りあと1品となりました。果たして、挑戦者はこのまま無事に切り抜けられるのでしょうか。
 仲間たちの期待を背にオリバー・クーガー(校僕・b15706)と風見・玲樹(スーパー痛快ぼっちゃま・b00256)が、それぞれカートを押して登場しました。
 挑戦は、3品分の準備をした玲樹からのようです。真っ白なエプロンとシェフハットが、照明に眩しい! その傍らには給仕を務めるアキシロが控えています。
 1つ目のタイトルは『母なる地球』。ブルーベリーソースにアザランを散らした宇宙空間に、ホワイトチョコボールに青と緑で着色した地球が浮かぶという、非常に美しく凝った作品です!
「無限の宇宙の中で様々な偶然が重なって生まれた、母なる地球。この宇宙の奇跡とも思える瞬間を再現してみました」
 ……あぁ。しかし、紳士は無情にも首を横に振った! 失格です。
 それならば、と出されたのは、『大いなる海の奇跡』。タピオカが漂うゼラチンソースの海の中心に、砂糖菓子で作った珊瑚が立っています。
「貴方は珊瑚の産卵を見た事がありますか? 満月の夜、珊瑚は一斉に産卵する。その様子を海の中で見ると、まるで海の中に雪が降り注ぐかのような感動的な光景です。まさに海の神秘!」
「……確かに、それらの光景を目にすれば感動を呼ぶだろう。だが、儂はもっとお前の『感動』した心を強く感じたいのだ」
 立て続けに2つの失格を受け、後がない! 次の挑戦が最後です。さて、どちらを出してくるのか……?
「そこの。お前は参加しないのか?」
 紳士の視線を受け、それまで控えていたオリバーが進み出ます。
 玲樹の明かされなかったもう1品も気になりますが……、今はオリバーの作品。京都銘菓として有名な八ツ橋ですね。土産物とは違って微かに大きさや厚みが違うものもありますが、そこは手作りの良さというものでしょう。
「八ツ橋の由来には二説ありますが、そのうちのひとつは『三河国八つ橋』の故事にあります」
 掻い摘んで説明いたしますと――働きに出たままの母に会うために橋のない川を渡ろうとした幼い兄弟が謝って溺死。それを嘆き、母は仏門に入ります。やがて夢に立った僧侶の言葉に従い、件の川に八枚の板で橋をかけて子の供養をした――という、親子の情を謳った話です。
「この話に感動した職人が世に伝えるために考案したこの八ツ橋こそ、『感動的』と冠するに相応しいと思います。私も……」
 言いかけて、言葉を濁したオリバーが口元を押さえました。何かを堪えるかのようなその表情は、彼自身の想いをも感じさせます。
「……」
 無言のまま右手を上げた紳士の目は、微かに潤んでいるようです。
 合格のベル。
 見事フルコースをクリアした8人の挑戦者に、心からの賞賛を!
 おめでとう、おめでとう!!


●悪夢の終焉
 フルコースに満足した紳士が、杖を手に立ち上がった瞬間。
 能力者たちは一斉にイグニッションカードを掲げた。紳士の投げた山高帽が宙にカーブを描くのを間一髪で避け、体勢を整える。
「食べ終わったらご馳走様って言えよっ!」
 教育的指導。言いながら、かなたが黒影剣を振り下ろす。仕込み杖でそれを防御した紳士だったが、その隙に虎信が間合いを詰めていた。
 避ける間もなく龍顎拳を喰らって踏鞴を踏んだ紳士は、頭上の山高帽に手を……伸ばしたところに鋭く赤い風が吹き抜け、動きを止めた。その後ろにトッと身軽く着地したのは、ルリナ。赤い風は彼女のエアシューズだったのだ。
「飛び道具は使わせません」
 攻撃を防いだことを得意げにするわけでもなく、彼女はただ淡々と告げる。
 アキシロから白燐奏甲を受けた玲樹の、ただでさえ豪奢なバス停が更なる光を湛える。その攻撃を受けて。
 倒れた紳士の輪郭が、ぼんやりと薄れていく。
 否、彼だけではない。周囲にあったテーブルや椅子を始めとして空間にある全てが色を失い、消えていこうとしている。そして、それは能力者たちの意識にまで及び……――


 ふっと意識が浮上するのを感じて、能力者たちは目を開けた。
 傍らのベッドの上ではまだ男性が眠ったままだが、ナイトメアの悪夢は打ち破ったのだ。じきに目を覚ますだろう。
 見つからないうちに、と部屋を抜け出した彼らの中、
「皆で美味しい物でも食べに行きませんこと? やはり料理は耳ではなく舌で味わう物ですわ」
 声を上げたのは、ジェニファーだ。料理に対して邪道に過ぎる紳士の採点基準には、何やらフラストレーションが溜まる一方だった。
 悪夢の記憶を振り払い、一同は美味しいと評判の飲食店がある街へと足を向けた。


マスター:卯月瀬蓮 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/10/06
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