ハロウィーン〜仮装行列に忍び寄る悪?


<オープニング>


「十月三十一日のハロウィーンの日、お祭りをする街にリビングデッドが出るんです」
 教室の扉を開けば、黒い三角帽子を被った藤崎・志穂(高校生運命予報士)が生徒達を出迎えた。
 街ではハロウィーンに因んだ仮装行列が行われる。そこで吸血鬼に扮したリビングデッド(男)が一人、仮装行列からはぐれてしまった一般人を襲おうとしているという。
「仮装は腐敗した躯を誤魔化すのに都合が良いみたいです。そこで皆さんには仮装行列の団体そのものになって、リビングデッドを退治して頂きたいんです」
 はぐれる人物だけを能力者にするのではなく、仮装行列そのものを能力者で構成してしまえば話は簡単。
「逆に人気のない場所に誘導して、袋叩きにしちゃって下さい」
 ……何か今、凄い事言われた気がする。
 黒い三角帽子を被っている所為なのか? 生徒達の様子に構わず志穂は続ける。
「このリビングデッドは吸血鬼になりきっているのか、尖った牙でターゲットの首筋を狙います。強くありませんから、早く倒す程お祭りを楽しめますよ。街では仮装大会も開催されますし、仮装に自信のある方は参加するのも良いと思います。優勝すると南瓜パイが無料で好きなだけ食べられるそうですから」
 祭りは夕方から始まり、その時から仮装行列は始まっているが、リビングデッド吸血鬼が出るのは辺りが暗くなってから。それ迄にも自由散策が可能で、街の様子や雰囲気を楽しむのも一つの手、仮装をして、小中学生くらい迄なら民家でお菓子も貰える。
「南瓜提灯を飾ってる家がお菓子をくださる家の目印だそうです。『合い言葉』を言って貰って下さいね」
 仮装道具は好きな物をお貸しします、と志穂は段ボール箱に詰まった様々な衣装小物を生徒達に見せる。
「せっかくの楽しいお祭りです。どうか、被害が出る前に倒してしまって下さい」

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参加者
御巫・終凪(高校生ゾンビハンター・b00295)
西古佐・吠示(高校生魔剣士・b00560)
高田・瀬良(高校生霊媒士・b00689)
氷室・雪那(中学生魔剣士・b01253)
不動・天魔(高校生水練忍者・b03200)
高瀬・玲(高校生ファイアフォックス・b03516)
天果埜・暁(高校生符術士・b07058)
レオンハルト・ベオルブ(高校生ゾンビハンター・b08630)



<リプレイ>

●Halloween
 茜色の空にうっすらと闇が塗られ、街灯にぽつぽつと灯りが灯り始める。
 西洋風の建造物で構築された街の民家では蝋燭に火を灯し、どことなく愛嬌があるジャック・オ・ランタンが揺らめく炎で妖しく笑う。光源の少ない街は闇夜を際だたせる為の演出か、人や物の輪郭をぼんやりと映す程度の灯りに包まれ、厳かな空気の中でハロウィーンの夜は始まりを告げる。
 街の出入り口には微かなざわめきに混じり、期待を滲ませた子供達の声。簡単な仮装をした案内人が大人や保護者には南瓜提灯を、子供達には赤や橙、ハロウィーンカラーで彩られた電池式の可愛らしいランタン、カンテラを配っている。街は今日だけとても暗いから夜道には気を付けて、悪霊に連れて行かれない様に。蝙蝠の飾りを付けたランタンを手渡しながら狼女の街人が冗談めかす。
 そんな通路の端で街に入る人間を見極めているのは一人の南瓜お化け。南瓜の頭に本来なら蝋燭が立つ場所には天果埜・暁(高校生符術士・b07058)の顔。見定めるのは当然、吸血鬼姿のリビングデッド。
 街には沢山のお化けや怪物、仮装していない一般客や外国人観光客も訪れている。
(「なんだか今日だけは異国のようね」)
 高田・瀬良(高校生霊媒士・b00689)は思う。黒い三角屋根のシルエットに灯る明かりは橙色。闇夜に浮かび上がるそれらは鬼火の様にぼうっと輝き、一足早く葉の散ってしまった木々さえも見る者を異界に誘う。
「記念に一枚撮らせて頂いても宜しいでしょうか?」
 吸血鬼姿の人物に携帯電話での撮影許可を求めるミイラ男はレオンハルト・ベオルブ(高校生ゾンビハンター・b08630)。包帯から覗く金色の髪と緑色の瞳が女性達の胸を躍らせ、姿に反した丁寧さが快い返事を引き出す。乗りの良い吸血鬼はポーズまで決めて写ってくれた。特に顔をメイクした人物は全体像毎写真に納める。
(「……今宵は闇が子供と戯れる祭。子らの楽しみの邪魔は、無粋……」)
 影の様に佇むのは不動・天魔(高校生水練忍者・b03200)。友の骸は人目が有りすぎる事と、遠巻きに注目を浴びた事で自粛と成った。
「誘ってくれてありがとうね」
 闇に溶け込む黒のローブと作り物の大鎌、髑髏の仮面で死に神を装うのは御巫・終凪(高校生ゾンビハンター・b00295)、その隣には氷室・雪那(中学生魔剣士・b01253)。
「……寒くないか?」
「少しだけ。でも、これくらい平気よ。リビングデッド、しっかり倒さなきゃ」
 長い黒髪をアップに纏め、首筋から肩迄が露わになった妖精の衣装。囮役の雪那は敢えて素肌を晒していた。
 出店に並ぶのは南瓜料理の数々。スティック菓子と星形のクッキーで飾り付けられているのは生クリームたっぷりの南瓜プリンやムース。橙色の生地の表面を、白い粉砂糖と焦げ茶色のチョコレートがふわりと覆う、味も形も南瓜のケーキ。
 南瓜味のコロッケ、焼売、タルト、クッキーに加え、南瓜の容器に盛られるのはジェラード、ジュース、南瓜カスタードを使ったシュークリーム。味だけでなく、形にも凝った料理は目をも楽しませる。
 甘い物が好きな終凪は南瓜パイを雪那と並んで食べながら、アクセサリーにも目を留める。十字架や南瓜、箒のネックレスやピアス、魔女を象ったブローチ等はどれも雪那に似合いそうな物ばかりだった。
「微妙……」
 出店の前、和装姿に狐の耳と尻尾を付けた高瀬・玲(高校生ファイアフォックス・b03516)は南瓜カレーを四皿平らげ、難しい顔をした。不味くは、ない。ないけれども、カレー味好きの玲としては、今一つ納得出来ないものがあった。
「南瓜の味とスパイスの加減がマッチしきれてない……」
「うーん。そこはおじさんも苦労したんだよねぇ」
 犬耳を付けた店の中年男性が言う。南瓜に比重を置けば南瓜の味になってしまうし、かといってカレー味だけなら普通のカレーと変わらない。甘さと辛さが半分のカレーは特徴がある様でないと、売る側も苦労している様子だった。
 五皿目のスプーンを口に当てて、ふと玲は街の様子を見る。早々と、民家の前で合い言葉を唱えてお菓子を貰う子供達が目についた。
「羨ましいですが、年齢的に……」
 街の中央にはステージが設けられていた。

●Trick or
 仮装行列が通る道は大体決まっている様子だった。大会に参加しない人達への配慮もあるのだろう。完全に日が落ち、闇が街を支配する頃、能力者達は行列に紛れ込む。箒を携えた魔女の隣には狼男、その後ろには童話に出てくる怪物達に囲まれて、中国の動く死体に扮した西古佐・吠示(高校生魔剣士・b00560)が飛び跳ねながらはしゃぐ。
「ねーこの格好似合う?」
 う? の辺りで吠示は派手にすっ転んだ。加えて「ぐえ」という悲鳴。
 行列の中、器用にも瀬良の放った足払いが吠示を転倒させ、首輪から伸びる手綱を瀬良が引っ張っていた。
「よ、け、い、な、事をするな」
 黒のアオザイは瀬良のスタイリッシュさを引き出しており、聞いているのか? と問われても見惚れた吠示はでれでれした侭。
「これで鞭とピンヒール履いてたら完璧……」
 最後まで言えず、再び転倒する吠示。
「何だって?」
 ――女王様。
 わざと騒いでいる間に、レオンハルトが撮った写真と一致しない吸血鬼男が行列の後ろに二人現れる。どちらもタキシードを着て牙まで生やしている為、ここでの判別は付かない。携帯を持っていない暁達は雪那にはぐれる様合図を飛ばす。雪那ははぐれた振りをして行列を抜けると、終凪と見繕っておいた場所へ向かう。その後ろをぴたりと付ける様に歩く吸血鬼男。
 能力者達は雪那達の後を追った。

 誘導されているとも知らず、吸血鬼男は人気のない辺りで足を止めた。
 我慢しきれない飢えと渇きに男は唾を飲み込むと獲物の無防備な肩に手を伸ばし、背後から首筋目掛けてその鋭い牙を宛う――
「がッ!?」
 衝撃は、男の更に背後から来た。
「13は死と破壊を導く死人の大鎌……13番目のアルカナ! 『死神』!」
「お菓子の代わりに熱々の火の玉を食らいなさいっ!」
 暁の呪いの札が男を仰け反らせ、玲の炎が男を焼く。
 突然攻撃された男は振り返り、そこに八人の姿を見る。腐敗臭に焼け焦げた臭いが混じる。離れた雪那が起動、接近した終凪が一太刀浴びせ、骸が男に組み付く。
「雑魚だな」
 レオンハルトの言葉通り、スケルトンの拘束からも逃れられない男は牙を立てて威嚇するも能力者達には通じない。瀬良の雑霊が、『滅せよ』と紙に書いた天魔の水の刃が、男の躰を穿つ。
「がぁあああっ!」
 殺されてなるものかと必死に暴れた男は骸の拘束を振り解き、反撃の牙を向ける先は雪那。その前に。
 レオンハルトの豪速の詠唱銃が吸血鬼男を樹に叩き付け、男は二度と動かなくなった。

●Treat
『とりっくおあとりーと!!』
 住宅地、南瓜提灯のある家々の前では仮装した子供達に混じり、吠示と瀬良の姿があった。
 合い言葉に従い家人が籠一杯にお菓子を詰めて、小さなお化け達を出迎える。同じ頃、街の中央では仮装大会が開かれていた。

 白い布を被った青年のお化けがおどろおどしく両手を上げれば、色っぽい魔女が片目を瞑って観客にアピール。眼帯やバンダナで迫力ある海賊を演じる人もいれば、付け羽と天使の輪をした少女がくるりと回る。蝙蝠の様な翼と尻尾が力作の小悪魔の少年はマントに身を包んだ女吸血鬼を呼び出す。 
 玲の仮装も好評で、骸と参加するはずだった天魔はその忍び装束が男の子と外国人観光客に大受けした。観客席には暁、終凪と雪那。投票も終了し、優勝したのは身長の低さと子供らしい仕草を活かした南瓜お化けの小学生二人組だった。
「あの、パイは参加した人達にもあげて下さい」
 お辞儀をして、二人組はささやかな思い出にと参加者全員に優勝賞品を振る舞う。
『有り難う』
 衛生上の問題で持ち帰りは出来なかったが、子供好きの天魔は二人組の頭を撫でてやる。二人は照れ臭そうに、嬉しそうに笑った。
 玲は賞品のパイを無言の侭山程食べる。有名パティシエがとある町から取り寄せて作った南瓜パイは絶品だった。生地はさくっと香ばしく、口一杯に広がるまったりとした舌触りと南瓜独特の甘い薫り。空き皿で塔が出来る程の食べっぷりに、仮装大会は別の意味でも盛り上がった。
「……氷室の仮装が一番可愛かったよ」
 辺りの騒がしさに紛れて終凪がぽつりと言えば、雪那はくすくすと笑う。
「何を言い出すのよ、いきなり……」
 照れているのだろうか? お世辞でも本音でも、終凪が時折見せる優しさは嬉しい。

 街灯の明かりと喧噪を遠くに瀬良と吠示が夜道を歩く。
 虫の音も止んだ秋の夜。吠示の片手には南瓜提灯。悪戯っ子顔の南瓜が二人の行く道を照らす。
「来年も一緒にハロウィン行こうねー」
 そわそわとした様子で吠示が話し掛ければ、手綱を握った侭の瀬良は吠示を柔らかく見つめ、やがて。
「お手」
 殆ど条件反射に近い、犬の様に出された吠示の手を満足げに握り締めると瀬良は『ご褒美』を握らせる。吠示が手を広げれば、掌には幾つかの飴玉と、チョコレートの包み紙。
「南瓜チョコレート。それはこの街限定だそうよ」
 流石に高校生ではお菓子を貰えず、微笑みすら浮かべる瀬良に、感極まった吠示は飛び付いた。
「……瀬良ちゃーん!」
「調子に乗るな!」
 三度宙を舞った吠示だったが、その顔はとても幸せそうだった。

 レオンハルトの前を親子連れが通る。尖り帽子を被った少年は手に持ったお菓子を嬉しそうに抱え、母親に手を引かれていた。
 吸血鬼男の遺体は埋める道具を持ち合わせていなかったのと、せっかくの祭りに遺体が発見されれば来年の祭りそのものに支障が出るかもしれないのとで、レオンハルトが処理をした。
 祭りは今や、飲めや歌えの大騒ぎに発展している。
 本物の『悪霊』は退治され、楽しさと妖しさが入り交じるハロウィーンの夜。
 仮装をしている者もしていない者も、大人も子供も、街の人間ですら温かく笑い合う。その無邪気さと魔の気配に満ちた夜に本物の魔が潜んでいた事など、誰も知らない。

 Trick or treat。

 人と悪霊達の饗宴の時間は月が見守る中、夜が明ける迄。


マスター:ナギ 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2006/11/07
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