秋桜の園


<オープニング>


「ちょっとコレを見てもらえますか?」
 春日井・樹(高校生運命予報士・bn0076)は一枚の写真をぺらりと差し出してきた。
 目をやればそこに写っていたものは、ピンク色の絨毯。
 コスモスの花畑だ。
 数名の女子がはしゃいで転びそうな姿勢のまま写っており、少し奥には一本の大きなキノコ状の形に整えられた樹。遠くには森もあるようだ。
 しかしひときわ目を引いたものは、キノコ状に整えられた樹の幹の部分にある、苦悶の表情をした顔。
「――残留思念、です。今回はこれを皆さんに退治してきていただきたい」
 樹が言うには、そのコスモス畑はある公園のはずれの場所であるのだという。
 もともと人気はあまりないのだが、それでもやってくるという客は、大抵公園の中でもメインのコスモスの丘に行ってしまう上、公園のはずれに位置するこの場所は若干さびしい感じである事もあり、足を運ばないのだとか。
 
「まあ、メインのコスモスの丘に比べれば見ごたえは少ないかもしれませんが、人の少ないところでのんびりするにはよさそうな場所でしょうね」
 彼は園内の地図をぱらりと差し出す――園内の面積だけはそこそこ広そうだ。
 手にした飴の先で軽くトン、と地図を突くと彼は続ける。
「園内でも外周部分で、遠くに森が見えて、しかも小さめのコスモス畑、かつキノコ状に整えられた樹がある場所、というのは特定は容易だと思われますね」
 放置しておけば残留思念は強力なゴーストとなってしまうだろう。
 そうなれば被害が出かねない。
 だからこそ、その前に手を打つ必要があるわけだ。
「昼間は若干とはいえ、人がいます。ですから、夜になるまで待って、詠唱銀を振りかけて欲しいのです。そうすれば残留思念はゴーストとなりますので、そこを打ってください」
 ここで一息つくと、彼は少し表情を緩ませた。
「とはいえ……ゴーストは生まれたばかりですから、決して強くはないでしょうね。せいぜい攻撃も噛み付いてくるくらいだと思います。力押しで十分なんとかなる相手だと思いますよ」
 しかし、残留思念は人に影響を与えないため、世界結界の人払いは期待できない。
 昼間は写真の場所を特定し、夜に戦うのが良いだろう。
 樹はふと何かを思い出したように視線を後ろの方へと向けた。
 彼の視線の先に居たのは何かを勉強していたらしい山下・駆(高校生鋏角衆・bn0144)だ。
「駆さん、貴方も行って来てくれませんか?」
 樹が問えば彼は読んでいた本から顔をあげ、軽く頷く。
「事件や事故は未然に防げるなら防いだ方がいい、と先生から教わったからな。俺の力でなんとか出来るなら、一緒に頑張りたい」
 彼の答えに樹は満足げにうなずくと能力者達の方へと向き直る。
「今の季節、きっとコスモスは見ごろでしょうから、お弁当を持っていき、昼間はコスモスを楽しむのも良いと思いますよ」
 駆さんの情操教育にもよさそうですしね……と樹は告げると笑顔を見せた。

マスターからのコメントを見る

参加者
雪峰・椿(黎明に祈る花・b00989)
結崎・綾(白社の黒雪・b18598)
山田・八重(蝶の祈歌・b18967)
エリアーデ・クロウリー(惑乱の蜃気楼・b20972)
鳩羽・志郎(モノクローム・b21664)
エレナ・シャンティ(褐色の幼鳥・b23597)
楠菱・雨遂(希運に導かれる少女・b23726)
麻沙良・珀琵(銀翼纏いし緑風・b26883)
アドリーナ・アモット(戦うお嫁様・b30880)
銀鼠・用宗(黄昏忍者・b31606)
NPC:山下・駆(高校生鋏角衆・bn0144)




<リプレイ>

●桜色の遠景
 秋風が肌に涼やかな公園に能力者達は集っていた。
「ゴースト退治ができる上に秋桜鑑賞ができるとは、まさに2度美味しいとはこのことでしょうか」
 極上の笑顔でアドリーナ・アモット(戦うお嫁様・b30880)が告げる。
 雪峰・椿(黎明に祈る花・b00989)は小さな声で「物騒です」と呟いた。
「これからも変わらず美しい場所であって欲しいですし、退治頑張りましょう」
「災いの種は早めに、ですね」
 結崎・綾(白社の黒雪・b18598)の言葉に椿は頷く。
 彼女達が視線を遠くにやれば、風に揺れるピンクの絨毯が見える。
「何か心残りがあったのかな?」
 残留思念の場所を特定すべく、周囲を見ていた山田・八重(蝶の祈歌・b18967)は、凄まじい形相が写っている写真の表面をそっと撫でると「でも、折角綺麗な場所なんだから、そんな顔でいたら勿体無いよ?」と諭すように言う。
 鳩羽・志郎(モノクローム・b21664)は見覚えのある光景に、写真と風景を見比べる。
「なるほど、分かりやすいですね」
 共に見ていた銀鼠・用宗(黄昏忍者・b31606)が遠くにあるキノコ型に刈られた樹を見て呟いた。
 今やるべき事は――
「残留し念の場所を探して、詠唱銀をつかって、ゴーストにして……」
 エレナ・シャンティ(褐色の幼鳥・b23597)は必死で指折り、何をすべきかを思い出す。
「詠唱銀の前にお昼ご飯ですか?」
 ――その通り、とばかりに能力者達は頷いた。

●秋桜の園
 椿がビニールシートを広げ、その上に皆が座り込む。
「……俺も座っていいんだろうか?」
 山下・駆(高校生鋏角衆・bn0144)は困ったように皆へと告げた。何故なら――麻沙良・珀琵(銀翼纏いし緑風・b26883)が悪鬼の如き形相で睨んでいたからだ。
「あんたが山下?」
 興味と嫌悪の入り混じった視線を投げかけると、駆は「そうだが」と答え、首を捻った。
「俺は何か悪い事をしてしまっただろうか?」
(「他人に興味なんざ無いが、あの人が興味津々だし……なんか腹立つ」)
 珀琵は内心呟き、むっとした表情のまま「別に」と答えると持ってきた山菜御飯をぱくつく。
 戸惑う駆へと楠菱・雨遂(希運に導かれる少女・b23726)が話しかける。
「山下さん。来訪者から見て、銀誓館が行った事、そして今の銀誓館をどう思いますか?」
 ただ、はっきりさせておきたいというだけで、返答の内容で何がどうなるというものではありませんわ、と彼女は告げたが、駆は言葉に詰まる。
「駆センパイ、一緒にお弁当食べよー!」
 八重の告げた一言に、駆は安堵を浮かべ、彼女の傍へと寄る。
 ただ、雨遂に対しては一言「平等に接してもらえる事は、嬉しい」と言葉を残した。
 八重の前に広げられていた弁当の中身は、玉子焼きとたこさんウィンナーとトンカツ。
「何故にトンカツ……?」
 受験じゃないのに、と彼女が一人ごちれば駆は真顔で告げる。
「受験生はトンカツを食べるものなのか」
 駆は大真面目にメモを取る。
 八重が駆に五目いなりとトンカツのトレードを持ちかければ、彼はそれに嬉しそうに応じる。
「お一つどうぞ」
 声とともに、駆の前に一つのおにぎりが差し出された。
 顔を上げればエリアーデ・クロウリー(惑乱の蜃気楼・b20972)が愛らしい笑顔で「皆さんとお弁当を分け合うのも楽しみの一つですよね」と告げる。
 駆は深々と礼をすると、おにぎりを頬張った。
 途端口内に広がるフルーティーな甘み。
 駆はエレナに水を貰いそれを流し込む。
「……ジャムは、パンに塗ったりするものではないのか……?」
「同じ炭水化物ですもの、パンで挟むのと同じですよね……あら、皆さんどうしました?」
 笑顔でエリアーデは皆に配ろうとしていたが、手を出すものは流石に居ない。
 彼女は他にもベーグルサンドや袋煮等、色々と準備をしてきていたが、先ほどのジャム入りおにぎりで懲りたのか、駆は遠慮がちにそれを避けた。
 駆がエレナへと水の礼を言えば、それをきっかけにエレナも話題を振る。
「ええと、駆さんは蜘蛛さんと一緒ですけど、お名前なんですか?」
 シエキゴーストさんはお友達だし、どうしても気になっていたから、といえば、駆は再び首を捻り、特別名前は付けてないが、蜘蛛童は大事だと告げる。
 彼の言葉にエレナは微笑む。
「蜘蛛さんはお米を守ってくれる虫さんなので大事で、好きですよ。かわいいし、おいしいです」
 駆は彼女へと正面から向き直り、告げる。
「蜘蛛童は、食べてはいけない」
 そもそも食べられないとは思うが、彼は大真面目だった。
 白おにぎりを皆へと勧めていたアドリーナは駆からおかずのトレードを申し込まれ、少し躊躇いつつも告げる。
「蕗味噌、というのは御飯に合いそうですね。少し頂いてもよろしいですか?」
 駆は快諾すると、代わりに大きさがバラバラのおにぎりを一つ貰う。若干不恰好ではあるものの、彼女が頑張って作ったのが伝わってきたのが嬉しかったのか、笑顔を見せた。
 駆の横にフルーツキャンディーの袋がおいてあるのを見て、八重は内心悶絶する。
(「おやつにフルーツキャンディー……どーしよ、可愛い……!」)
 思い切り撫でたいところだが、そこは必死に堪える。
「良かったら、食べるか?」
 視線に気づいた駆は彼女へとフルーツキャンディーを勧めた。

 コスモスを見つめ、食事の手を休めていた綾は、駆からフルーツキャンディーを渡され、はっとしたように呟く。
「すごい……こんなにいっぱいのコスモスを見たのは、ウチ初めてです!」
 確かに絨毯の如く広がるピンクの花は壮観だ。とはいえこれでもメインの丘に比べれば狭い方であるらしい。
 駆の視線が大量のおはぎへと注がれている事に気づいた綾は、慌てたように笑った。
「あ、あはは……よかったらおはぎ食べます? 食べ切れなくて」
「頂こう。……綾はそんなに甘いものが好きなのか?」
 彼女の弁当はおはぎのみだ。疑問に対し「ウチは料理が出来ないので……」と答えれば、申し訳ない事を聞いてしまった、と駆は非礼を詫びる。
「こんなに綺麗なコスモスを見ながら皆さんと食べるのは、楽しいものですね」
 駆に顔を上げるよう告げつつ、綾が再び視線をコスモス畑へとやれば、椿も同意する。
「秋桜を見ると、本当に秋だなぁ……と思うのです。白や濃いピンクのものも綺麗ですが、やっぱりピンクが可愛いくて好きです」
 椿は駆に玉子焼きを勧めつつ話しかける。
「……もう学園には慣れられたでしょうか?」
「皆の協力のおかげで、なんとか」
「改めて、これからよろしくお願いします、ね」
 丁寧に礼をすれば、駆もつられたように頭を下げた。

 鮭おにぎり2個がお弁当だった志郎は、他の皆からおかずを貰ったりもしたものの、早めに食べ終わってしまい、一人でのんびりとしていた。
 折角の機会だから、と彼はコスモスの直ぐ近くへと座りこみ、花畑を眺める。
「食べるの、早いんだな」
 声に振り向けばそこには駆と用宗がやってきていた。
 だって料理苦手なんだもん、と志郎は小さな声で呟いたが、彼らの耳には入らなかったらしい。
 駆も座り込むとコスモスの花弁へと触れる。
 用宗は携帯についているカメラでコスモスの写真を撮ろうと格闘をしていた。不慣れであるらしく、手当たり次第にボタンを押す。
 途端、ぱしゃりという軽快な音が響いた。
「おおっ。何やら面妖な音がしたでござる……じゃなかった、音がしました」
 画面にはコスモスと戯れる駆の姿が写っていたりする。
「山下さん、携帯で友人に画像を送る方法わかりませんか? こういう物には、うといもので……」
「俺も機械は得意ではないのだが……」
 用宗と2人、携帯をいじくりまわしたが、うっかり画像を消してしまう事となった。
 彼らの様子を食休みついでに眺めていた雨遂は微笑ましげな表情を浮かべる。
「どこが面白いんだ……?」
 珀琵は金平糖をパクつきながらも、視線は駆へと向けている。
 そんな彼らへと夕闇は次第に迫ってきていた。

●暮色の戦
「さて……始めますよっ」
 樹の前に立った志郎が告げれば、雨遂が詠唱銀を振り掛ける。
 その隙に他の一同は戦いの準備を行った。
 ゆるり、と空間が揺らめき、恐ろしい形相の地縛霊が這いずるように姿を現す。
 アドリーナに頑強なパーツを装着させられたフランケンシュタイン「マゴット」は地縛霊へと殴りかかる。
「てめぇに恨みは無い、だが此処にいてもロクなもんじゃねぇぜ?」
 珀琵の念動剣が宙を舞い、地縛霊に突き刺さる。
「今、調伏させる……」
 のたうつ地縛霊に対し、彼は飽くまで静かに言い放った。
 エレナもエネルギーの槍を撃ちだし、椿もそれに続く。彼女の手にした剣は闇に煌き、地縛霊を切り裂いた。
 雨遂も魔を打ち滅ぼす聖なる矢を撃ちだし、志郎が闇のオーラを纏い、斬撃を繰り出す。
 既に地縛霊は襤褸の如き姿であったが、せめて一撃でもとばかりに志郎へとかじりつく。
 志郎は苦痛に顔を顰めたが、後衛に攻撃を向かわせない為に堪えた。
 だが、用宗の射出した燕刃刀の刃が刺さり、地縛霊は地へと落とされる。
 もがく地縛霊に向かい綾が光の槍を放ち、蜘蛛童は全力で齧り付き、駆が飛斬帽を投げる。
「お眠りなさい。永久に」
 その言葉とともにエリアーデの放った光芒が地縛霊を貫き、見事滅した。

●終の名残
 夜の秋桜畑に穏やかな子守唄が響く。
「鎮魂歌なんて洒落たものは歌えないから」
 八重は地縛霊に安らかな眠りが齎されるようにと祈りを込めて唄う。
 蜘蛛童を撫でるアドリーナと、どう対応すべきか迷う駆を目にし、雨遂の表情が曇る。
 きっと思い出さない方がよさそうな事。それが心の裡で頭をもたげてくるような、不安。
 彼女の考えを断ち切るように、静かに黙祷をささげていた用宗は皆へと告げる。
「さて、コスモスも堪能したことですし、帰ってゆっくり休みましょう」
 彼の言葉に能力者達はコスモス畑へと背を向ける。
「……今日は、色々な事を知ったな」
 駆は立ち去り際にコスモス畑を一瞥すると、満足げに微笑み、他の皆の後を追い帰路へとついたのだった。


マスター:高橋一希 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/10/17
得票数:楽しい4  ハートフル36 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。