<幽霊船を討て>船護は光を抱く


<オープニング>


 英虞湾に流れ着いた幽霊船。そこから解き放たれたゴーストを迎撃すべく、多くの能力者が立ち上がった。
 そして災禍の根源を絶つべく、さらに多くの能力者が幽霊船へと向かう。
 幽霊船の中にあふれかえるゴーストの中には、特に強力なものも確認されている。生あるものすべてを滅ぼそうとするかのような、七体のゴーストだ。その強い怨念ゆえ、それらは「怨嗟の七柱」と呼ばれる。
 それらは船室にひそみ、能力者たちを待ちかまえている。決して広くはない船室のこと、一度に戦える人数は限られてしまうが……それでも、誰かがそれらを倒さねばならない。

「よう。お集まり頂いたことに感謝するぜ」
 弐番坂・亮平(高校生運命予報士・bn0071)は片手を挙げる。
「集まってもらったのは他でもねえ、幽霊船の中にいる厄介なゴーストを退治してもらうためだ。他のゴーストどもと同じように、皆で戦えたらいいんだけどな……そいつは船室にいるもんで、大人数じゃうまいこと攻め込めねえんだ。
 お前らに頼みてえのは、幽霊船の中心部にある船室のゴースト。朽ちちゃいるが立派な机や椅子もあるようだし、船長室かなんかだったのかもしんねえ。お前ら全員が入って戦うには十分な広さがあるぜ。ただ、人数がこれより増えると、ちょっと動きにくくなるかもしんねえな。
 相手は地縛霊だ。外見は、なんて言えばいいんだろうな、ムンクの絵に出てきそうな怨みがましい顔みたいなのが、ガス状になって寄り集まってる感じ……とでも言おうか。ガスみたいな形だが、ちゃんと斬りごたえはありそうだぜ。ちなみに、けっこう体力はありそうだ。
 ただ、問題があってな……真正面からガスを噴き出して攻撃してくるんだが、そのガスには毒があって、触ると体を蝕まれる。一人に向かって攻撃を集中させてきたり、ヤツの視界いっぱいに毒の霧を広げてみたり、けっこう器用だぜ。まあ広がるほうの毒は、運が良ければ吸わずにすむかもしんねえけど……強力な力を一人に集中させてくる攻撃は、食らったら相当なダメージだ。ずいぶん気合が入ってそうだし、万全を期しても結構ヤバいかもな。船室内にいる以上は誰が食らうかわかんねえ攻撃だから、それを考えて動いてくれ」
 ついでに、と亮平はつけ加える。
「周りにはヒラメっぽい妖獣が何匹かうろついてて、ちょっと気を抜くと襲ってくるぜ。地上だからって動きは鈍りゃしねえようだ。一匹一匹はそこまで強くねえけど、沢山いりゃあ鬱陶しいよな」
 こんな所かな、と彼は息をつく。
「入口までは他の連中が守ってくれるからさ、お前らは万全な状態で部屋の前まで行けるはずだぜ。部屋に入っちまった後は、外からじゃどうしようもねえんだけど。
 と言うわけだから、しっかりやって来いよ。お前らの肩にかかってるもんは結構デカいぜ」
 にやっと笑い、それから彼は「そうだ、重要なことを言っとかねえと」と手を叩く。
「敵のでけえ地縛霊なんだが、その真ん中がぼやっと光ってるんだよな。あそこに何かがあって、それを守ってるんじゃねえかと思う。何なのかはハッキリ分かんねえけど、どうもその何かが、幽霊船を動かしてる原動力……に思えるな。幽霊船がこんなところまではるばる旅をしちまったのも、その力のせいかもしんねえ。敵を倒したら、確認よろしく頼むぜ」
 しっかりカタをつけてやってくれ、と亮平は頭を下げた。

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参加者
春疾風・龍我(烈火ノ魔竜・b00613)
コレット・サプネール(碧蝶・b01132)
不破・周(宵の明星・b01183)
ファレル・ヴァルハーレン(銀の暗殺者・b01559)
森月・糺(紺青の氷輪・b01909)
葛葉・いなり(立喰い陰陽師・b05628)
北御門・玄月(玄夢・b14792)
クレール・アンリ(ディアマンノワール・b15435)
宇奈月・深空(守銭奴魔弾術士・b21542)
遠野・颯希(蒼穹に愛されし無垢なる翼・b22670)



<リプレイ>

●船護の居室
 錆び付いた扉を押し開ける。
 宙に描く魔法陣が淡い光を放つ。クレール・アンリ(ディアマンノワール・b15435)の放つ白燐光が部屋の中を照らし出した。そこは船長室。端々にかつての栄光を思わせるその部屋は、今や蠢く怨嗟の霧の住まう場所となっている。
「っと!」
 地縛霊が身を震わせた。息を合わせて飛び込んだ十人を、さっそく毒の霧が襲う。
「手荒な歓迎だな、おい」
 春疾風・龍我(烈火ノ魔竜・b00613)がニヤリと笑い、頭上の太刀を振りかざす。
「とっとと終わらせて、お宝鑑定と行こうぜ!」
「ちょ−スゴイお宝かもしれないし……これは、絶対に負けられないね」
 宇奈月・深空(守銭奴魔弾術士・b21542)は葛葉・いなり(立喰い陰陽師・b05628)と息を合わせ、皆の様子をうかがいながら立ち位置を定める。霧は運良く吸わずにすんだ。
「これ『も』よ。失敗していい依頼なんか存在しないわ。必ず、成功させなくてはね」
「皆が命がけで道を作ってくれたおかげでここまで来れたわけだしね……全力で決着をつけるよ」
 強い意志と蟲の力を込められたクレールの術扇が光りだす。遠野・颯希(蒼穹に愛されし無垢なる翼・b22670)は北御門・玄月(玄夢・b14792)を背中にかばうようにしながら、目についたヒラメの妖獣のもとへ迫った。
「竜宮の置き土産……とは違いますが、終わらせるべきものですからね」
 落とし前はきちんとつけなければ。玄月は味方の損害を確認しながら考える。幽霊船は、一般人にも被害を及ぼしているのだ。
「なんだか、ホラー映画みたいだけど……映画より、ずっとずっと本物の方が怖いわよね」
 浮かぶ刃を胸元に引き寄せ、コレット・サプネール(碧蝶・b01132)は不安げにつぶやく。それでも足は止めない。彼女を安心させるかのようにリフレクトコアが展開する。
「やれやれ、血飛沫の上がる様が見られないとは」
 霧状のゴーストを睨む、ファレル・ヴァルハーレン(銀の暗殺者・b01559)は不満げだ。
「おまけにカレイの妖獣ですか、魚臭い」
「ヒラメだよ」
「……同じじゃないですか」
「ヒラメはカレイと違って肉食! 気をつけて」
 迫る妖獣の口には、確かに鋭い歯が見てとれる。敵が何者にせよ、早く終わらせなければならないのは確かだ。
「こない遠いとおい所まで遙々まぁ、ようお越しなったなぁ」
 持ち慣れない魔導書を繰る、いなりの身の内に力が満ちる。
「せやけど、道を間違えはったな。船長さんか何かは知らんけど、そない一杯おるから……山に登らはったのとちゃう?」
 やわらかく微笑む彼女の、その目だけは笑っていない。
「……さぁ、もうおやすみ」
 吸い込んだ毒に一瞬だけ顔をしかめ、不破・周(宵の明星・b01183)は得物を構える。
(「何かを護ってる、か」)
 森月・糺(紺青の氷輪・b01909)は先頭に立って地縛霊の元へ走る。怨嗟に歪む奇怪な顔たち、その奥には確かに柔らかい光が見える。この災禍の根源たる船を導いてきたものだというのに、その光はひどく美しかった。
(「俺達も、護るものを背負ってるんだ」)
 怨嗟の響きが部屋を満たす。聞く者を苛立たせずにはいられないような、大きくはないが不安定に揺れる、乾いた声。

●猛り狂う妄執
 深空の放った栄養ドリンクは、周がしっかりと受け止める。
「急・々・如律令!」
 同時に動いたいなりは輝く雷の魔弾を撃ち出し、地縛霊を打ち据える。邪魔をするように舞うヒラメには周の攻撃が飛んだ。地縛霊は絶え間なく形を変える。その霧の中に生まれた一際凶悪な顔が、獲物を見つけてにやりと笑った。
「危ない、宇奈月!」
 糺の声が飛ぶ。深空はせめてもの逃げ場所を探すが、安全な場所を確保するには部屋は余りにも狭い。彼女をあざ笑うように霧が凝り、深空の細い体に叩きつけられた。
「大丈夫か!」
 うぅ、と声を上げて深空は床に倒れる。だが、その手は落とした短剣を求めて床を這った。
「まだだよ……みんな元気で帰るんだ。あたしはまだ倒れない、お宝のために!」
「その意気だよ」
 歯を食いしばって身を起こす深空。彼女の握る蒼い刃が、クレールが纏わせる白燐蟲の光に輝いた。彼女達を護るように糺と龍我が動く。
「おまえらのことは、後できちんと相手してやるからよ!」
 ある妖獣は吹き飛ばされ、ある妖獣はその場に留まる。しつこく迫るヒラメ目がけてファレルが斬馬刀を振り下ろし、颯希がそれに続いた。前衛に護られたコレットと玄月は、その隙に地縛霊を狙う。深空は自分で生み出した栄養ドリンクを勢いよく飲み干した。
「ほんま、この魔導書おもったいわぁ……よう持たんわぁ」
 ぼやきながらもいなりは再び魔導書を翳す。身に付けたアミュレットからは、これをいなりに渡した者の温もりが伝わってくるかのようだ。地縛霊を形作る霧の、その一角がいなりの一撃を受けてぱっと散る。どうか動きを止めてくれという願いは叶わない。しかし輝く雷は確実に地縛霊の体力を削っているはずだ。その間に、周はレンチを握りヒラメに受けた傷を癒す。あくまで敵は地縛霊。妖獣などに構っている暇はないと思ってはいるのだが、ヒラメたちも思いの外しつこい。
 ふと嫌な予感がしてコレットは息を呑んだ。霧の一部が深呼吸をするように膨らむ。
 来る、と思った。
 そしてそのターゲットは恐らく、彼女のすぐ前に立つファレル。地縛霊とはわずかに距離を取っているが、しかし大して広いわけでもない船室の中では、離れると言ってもたかが知れている。地縛霊から逃れる隙は、この部屋には見当たらない。毒は癒えたとはいえ、初撃で吸った毒の霧のダメージは未だ彼の中に蓄積されているはずだ。となれば、一撃で倒れる可能性は高い。
(「今回のメンバーの中だと、私がいちばん足手まといみたいだし……」)
 彼女はそう考える。勿論実際のところそんなことはないのだが、しかしどこか自信の無さをうかがわせるような緑の瞳には悲壮とも言うべき決意が浮かぶ。その決意が、どこか歪んでいたとしても……決意は、決意。
(「……いなくなるのなら、役に立たない私から」)
 コレットは足を踏み出す。ブルーのエプロンドレスがふわりと揺れる。だがファレルを庇おうとする彼女の行動は、他ならぬファレルによって邪魔される。
「何をしているんです」
 護るべき者が自分のために倒れるなど、言語道断。
 味方の元へとコレットを突き飛ばし、ファレルは地縛霊の攻撃をその身で受ける。予想を遙かに超えた力に息が詰まった。喉の奥へ入り込み身を内側から灼くかのような、遠慮のない激痛。耐えきれず膝を突き口元を押さえる。
「まずいな」
 空いた前衛の穴を埋めるように皆が動く。ファレルをせめて少しでも安全そうな物陰へ引き入れ、再び地縛霊のもとへ。糺が握る蒼銀の棍は霧の中へと突き入れられる。
「往生しやがれ!」
 邪魔な妖獣を龍我が排除する間に、できる限りの攻撃が地縛霊へと飛んだ。妖獣から受ける多少の傷は無視する作戦だ。
「こっちも行くよ!」
 颯希がエアシューズで地面を蹴り、ふわりと舞うように飛んで白銀の刃を振るう。じわりと消耗していく皆を支えるのは、他ならぬコレットの癒しの歌だった。

●長い長い旅路の果て
 慎重すぎただろうか、と玄月は考える。元々運の良い者たちが顔を揃えているのだ。広がる霧の毒は、運さえよければそもそも吸い込むことすらなく耐えきれる……。
 その瞬間、地縛霊が不気味な色の霧を吐き出した。部屋に入ってすぐに見舞われたのと同じ、大きく広がる毒の霧。
「あかんわぁ」
 いなりが顔をしかめて咳き込む。もともと火力を確保するために体力を犠牲にしているだけに、少しの怪我が文字通り命取りとなる。毒を吸いながらも、攻撃は最大の防御、とばかりに糺は攻撃を続ける。
「早く終わらせて、皆で帰ろう」
「ええ。でも無理は禁物よ」
 コレットの歌と玄月の舞が皆を癒していった。龍我の体からも毒が抜けていく。
「アリガトな、玄月、コレット!」
 太刀を振り上げた龍我のそばで、クレールがその太刀へと白燐蟲を戯れさせる。
「その調子でね」
「おう。いいよな、こういう一体感というか、連帯感というか……」
 にやりと笑い、龍我は袈裟懸けに霧を引き裂く。
「こうなったら、さっさと止めをささねぇとな!」
「ああ。……何に囚われているのかは分からないが、怨念や怨嗟なんて、手放してしまったほうがきっと楽になれるだろう」
 糺が低くつぶやく。颯希を包むのは力強い風。終わりはきっと近い。その奥にある光が、先ほどよりもはっきりと見えてきたような気がする。
 クレールは迫り来るヒラメを避け、自分の身を癒す。あしらわれ、放置されたヒラメ達は確実に皆の体へと傷を刻んでおり、深空やクレールは玄月達の全体回復から漏れたところ、そして癒しきれない傷を塞いで回る。
「それにしても船長……船長さんかぁ」
 いなりが魔導書に指を滑らせる。
(「責任感強すぎて、こない怨念になってしもたんか? 船長さんて、皆そうなんやろか……」)
 それでも。この地縛霊の歪んだ魂の奥底に、どんな想いがあろうとも……彼女の手は止まらない。
(「この船も、なんでこんなトコまで来はったんやろ。……帰りたかったんやろか」)
 雷の魔弾が白い光を曳いて飛び、地縛霊の動きを止めた。
「終わりの無い航海も、ここが終着点のようだね。もう悪夢の旅を続ける必要はないから、ゆっくりおやすみ」
 周と颯希の攻撃が地縛霊を捉え……そして、霧は晴れ始める。

●船護が抱きしもの
 未だに諦める様子なく暴れ回る妖獣を片づけながら、一行は光を取り囲む。その顔に浮かぶのは期待と緊張。巨大な船をここまで導いてきた光、その正体は何なのか。
「しかし、どうやらベターだったみたいだな!」
 顔に疲れを見せてはいても、傷を負っていても、それでもこの場に死者はいない。
「原動力って言ってたけど……そんなに強力なものなら、何かのメガリスだったりするのかしら?」
「海の中でも光るもの……そうだといいね」
「ええ。幽霊船を動かせる物なんて、メガリスくらいしか思いつかないわ……」
 口々に言う皆の前で、深空が目を輝かせている。
「お宝さんが、あたしを呼んでるんだよー」
 未だ残る霧を手で払う。
「何であろうと、良い方向に導くものであってほしいね」
 颯希がつぶやく。話し掛けてみようかと思ったが、どうやら人格はなさそうだ。
「……失礼します」
 玄月がそろそろと和弓を伸ばす。
 その先が光に触れた途端、残っていた霧がまるで最後の足掻きのように一行の視界を覆った。さながら、船に囚われていた妄執が解放され、彼方へ飛び去ろうとするかのように。
 ガラン、と床に何かが落ちる音がする。
 霧の晴れた先にはもはや光はなかった。その代わり、床の上に奇妙なものが現れている。額をつき合わせながら、その何かをじっと観察してみる。
「これは……」
「たぶん、あれよね……船を操縦するのに使う」
「舵輪?」
「そう、それ」
 大きな輪に数本のスポークを突き通したような形のそれは、不思議な存在感を放ちながら床の上に転がっている。一見すると木製のようだが、よく見れば違うようにも見える奇妙な舵輪。長い年月を経てきたかのような風格を持ちながら、朽ちる気配もない。
「お宝っぽいね。持って帰らなきゃ」
「ちゃんと学園に提出するのよ」
 颯希がかがみ込み、周や、律儀に手袋をはめた玄月と共に、再びそっと突いてみる。
「船の原動力かもって……下手に触って、この船沈んだりとかしないよね?」
 周は何気なく口を開く。
 ……ぐらり、と床が傾いだのは、その次の瞬間だった。
「…………」
「…………」
「……おい、逃げるぞ!」
 ほとんど反射的に龍我が叫ぶ。
 周が謎の舵輪を抱え上げると、玄月が手際よく袋を取り出す。扉を開き支えるのは糺だ。ファレルに肩を貸し、舵輪を護るようにしながら、一行は船の外を目指す。
 長い旅路を支えてきたのであろう舵輪は、人間たちの喧噪をよそに、ただ静かに能力者の胸に抱かれていた。


マスター:田島はるか 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/10/29
得票数:笑える2  泣ける10  カッコいい78  知的1  ロマンティック3  えっち1 
冒険結果:成功!
重傷者:ファレル・ヴァルハーレン(銀の暗殺者・b01559) 
死亡者:なし
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