<Halloween>電柱の上から愛を込めて


<オープニング>


 とある地方都市のとある路地。
 深夜になると人通りの途絶えるその道を、足早に進むスーツ姿の女性が1人。
「トォリィィィック。オ、ア。トリィィィトォォォ」
 唐突に何処からか響いてくる独特なイントネーションの大音声。
「な、何っ?」
 持っていたビニール袋を抱え、周囲を見回すが自分以外には誰もいない。
「トォリィィィック。オ、ア。トリィィィトォォォ」
 再び響く大声。
 その声で女性は数m先の電柱の上に異様な影が立っている事に気付いた。
 そう、その影は電柱の上に腕組みをして立っていた。
 月光に浮かび上がるのは全身を鍛え上げたられた筋肉で包んだ2mはあろうかと言う巨漢。
 その出で立ちはしっかりとした編み上げブーツにラメ入りのブーメランパンツ。そして、頭には大きなカボチャで作られたハロウィン用のマスク。
 その姿は正に。
「……変質者?」
 であった。
「トォリィィィック。オ、ア。トリィィィトォォォ」
 三度男が吼える。同時に、その身体が宙を舞った。
 指先からつま先までピンッと張った見事なフライングボディーアタック。
「ひっ……!」
 呆然としていた女性が迫力に押されてしゃがみ込む。
 狙いを外された男はそのままアスファルトに激突し、ものすごく痛そうな音が響いた。

「……と言う地縛霊の退治が今回の依頼です」
 状況を説明した茨木・レオン(高校生運命予報士・bn0119)は平静を装っていたが、よくよく注意して見れば何かを堪えるかのように手に必要以上に力が入っている。
「この地縛霊は人通りの少ない路地で、ある条件を満たした人が通った時に出現し襲い掛かっています。すでに1人襲われましたが幸いにも逃げることが出来たようで被害者は出ていません」
 件の女性は地縛霊が倒れている間に一目散に逃げて無事だったとか。
「しかし、危険な地縛霊には変わりありません」
 次に襲われた人が無事に逃げる事が出来るとは限らない。その前に退治する必要がある。
「地縛霊の外見は非常に特徴的で……一言で言えばカボチャのマスクを付けたレスラーです。外見が特異なら能力も特異ですが……まず、出現させる条件から説明します」
 その条件とは深夜にお菓子を持った人がある電柱の近くを通る事。
「地縛霊はこの電柱の上に出現し、お菓子を持った人にトリックオアトリートと呼びかけてから襲い掛かってきます」
 かなりの大声らしく、周辺に人はいないが何度も叫ばせるのは危うい。
「地縛霊は電柱にいる間はかなり能力が上がっています。その分、テリトリーは狭くてあまり強制力もなく、電柱から離れると弱体化します。襲われた人が逃げれたのもこの性質のお陰です」
 テリトリーの範囲はよくて電柱から半径20m程度しかない。
「地縛霊の攻撃手段は2つ。ひとつは強烈なラリアート。威力が高く、勢いがあるので吹き飛ばされる可能性があります。そして問題なのはもうひとつの攻撃。電柱から飛び降りながらのフライングボディーアタックです」
 このボディーアタック。基本の威力が半端ではない。
「よほど体力に自信がないと一発で潰されます。……その分、とても避けやすい攻撃ですが」
 力で受け止めるも、技で見切るもよし。しゃがみこんだら運良く避けれる場合もありうる。
「その上、使うと地縛霊自身もダメージを受けてしまいます。さらに、もう一度使うには電柱に登る必要があるようです」
 連続で使われることはないし、上手くすれば妨害する事もできる。
「色々とあれな地縛霊ですが……吉報を待っています」

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参加者
九条・楓(我ガ道ヲ往ク・b01747)
虚路・十字(金色天使・b07793)
耶依・俊伎(焔影・b11586)
アイリス・ローエングリューン(純銀の舞月・b16437)
羽角・ひなた(陽光の調べ・b17388)
櫛田・要(シェイディガール・b20624)
アルベール・ケデルヴロワ(青き風狼・b25081)
峰輝・司(力の限り前へ・b33019)



<リプレイ>


 すでに秋も半ば、日中ならいざ知らず深夜ともなれば気温は大きく下がってくる。その上、少しばかり風があるため体感温度は更に下がる。
「んー、この時間やとやっぱ寒い……」
 ぱんぱんに膨れた大きなビニール袋を片手に耶依・俊伎(焔影・b11586)が路地を進む。
 言葉とは裏腹に、その足取りは寒さと風を愉しむかのように軽いのは、袋の中身が様々なお菓子で一杯という事もあるようだった。
 そんな俊伎から少し離れ、残る7人の能力者達が雑談をしながら後に続く。話題の中心はこの先で出現するはずのいささかエキセントリックな格好をした地縛霊についてだ。
「面白い地縛霊ですね〜。生前はレスラーだったのでしょうか?」
「そうだな……」
 似て非なる笑顔を浮かべているのは虚路・十字(金色天使・b07793)と九条・楓(我ガ道ヲ往ク・b01747)。
 十字の笑顔はいつも通りの朗らかなものだが、楓のそれは何か企んでいますと言わんばかりの笑顔だ。共通しているのはプロレスと似た形になるかもしれない地縛霊との戦いをある意味で期待している事か。
 その一方でプロレスとはあまり縁がない羽角・ひなた(陽光の調べ・b17388)は困惑気味だ。
「……あたし格闘技とかよくわかんないだけど」
 口ではそう言いつつもインカムの調子を……詠唱兵器としてではなく、インカム本来のマイクとしての機能の調子を調べている辺り、判らないながらも実況する気満々だ。
「電柱の上からだいぶ……そんなにお菓子が欲しいのかな……」
 小首を傾げるアイリス・ローエングリューン(純銀の舞月・b16437)もよく判らないと言った様子だが、何処からか本格的なゴングを調達して来ていたりする。
 地縛霊との戦いにある種の期待を抱いている4人とは対象的に、呆れているのは櫛田・要(シェイディガール・b20624)だ。
「リングの上なら様になったかもしれませんが……」
 深夜の路地に人通りは全く無い。明りも街灯がぽつぽつと続いているだけだ。
 満月とまでは言わないが円に近い月の明りもあるので歩くに困るほどではない。しかし、プロレスのリングとは華やかさで雲泥の差がある事は間違いない。
「こんな場所ではな」
 憤りを隠さずアルベール・ケデルヴロワ(青き風狼・b25081)が吐き捨てるように呟く。仮面に一家言あるアルベールにとって今回の地縛霊は許せない相手らしい。
「ま、思いっきりぶん殴って、退場させてやるぜ!」
 峰輝・司(力の限り前へ・b33019)が感触を確かめるように、右拳を左手の平に打ちつけた。
 その視線は地縛霊の出現を見逃さないとばかりに電柱の上に固定。だから司が真っ先にその姿を見つけた。
「出やがったぜ!」
 司の指し示すのは俊伎の前方、10mほどの位置にある電柱だ。そこにはいつの間にか月光をバックに腕組みをして立つ巨漢が居た。
 2m以上の身体は歪なほど鍛え上げられた筋肉を鎧の如く纏い、衣装は全てカボチャの濃いオレンジ色、頭にはすっぽりとカボチャ型のマスクを被っている。
 何処からどう見ても変質者……いや、情報通りの地縛霊だ。
「……駄目ですね、あれは」
 要がひどく冷静な口調で言い切った。
 実際に目の当たりにすると地縛霊の外見は少々をすっ飛ばしてかなり奇抜だった。
 月光だけでなく、何故か突然光量を増した街灯に下から照らされ、パンパンに張った筋肉を誇示しながら電柱の上でポーズを決める様は。
「夢に出てきそうだな……」
 予想を超える有様にアルベールが見るに耐えないと言った様子で顔を覆う。仮面がどうとか言う以前の問題に怒りよりも呆れが勝った格好だ。
 気を取り直した能力者達がイグニッションすると同時に、地縛霊も吼えた。


「トォリィィィック。オ、ア。トリィィィトォォォ」
 雄雄しく吼える巨漢、いや変質者、いや地縛霊。
「さ〜て……世にも奇妙な異種格闘技戦が始まるです♪」
 カーンとアイリスがゴングを叩く。その音を待っていたかの様に地縛霊が宙に舞った。
「おっと、いきなりの大技だー!」
 ひなたが小声で叫ぶと言う器用な解説を入れる。狙われたのは当然、最も電柱の近くに居た俊伎だ。
「……っの! 負けるかっ……のわあ!」
 勢いよく落下して来た地縛霊の身体を、俊伎が受け止めた。
 しかし、均衡は僅かに一瞬。
 ドゴとかグシャとかとても物騒な音を立てて地縛霊の身体に俊伎が潰される。
「……えーと、受け止めたようにも見えたのですが、今のは一体どういうことでしょうか? 解説のアルベールさん」
「自分が解説ですか!? あ……ゴホン、向こうの勢いと威力が予想以上だったのではないかい? もうひと工夫欲しい所だったね」
 突然ひなたに解説を振られたアルベールが、少しばかり慌ててながらもコメントを返す。
 そんなやり取りの間にも、地縛霊の下から覗いている俊伎の腕が助けを求めるようにばたばたともがき……やがて力尽きたようにパタリと落ちた。
「……アッパーで迎撃はまずいか……」
「や、やってみなきゃわからないだろ」
 もしボディーアタックに狙われたら俊伎と同じ正面からの、しかも攻撃での迎撃を考えていた楓が何かをあきらめたように遠くを見ながら呟く。
 同じ狙いだった司は反論するが、僅かに震える声と表情は試す気がなくなった事を如実に表していた。
 フライングボディーアタックの衝撃から立ち直った地縛霊は、足元に倒れる俊伎を意に介さず、再び登るべく電柱に向かう。
 しかし、そこにはすでに能力者達が待ち構えていた。


「お菓子の代わりに受け取れ、熱い拳!」
「おおお!」
 炎のオーラを宿した司の拳と、獣のオーラを宿した楓の拳。纏う力は違うが双方とも渾身の一撃だ。
「うおっ!」
「くっ!」
 しかし、みっちりと詰まった地縛霊の大胸筋は鉄板以上の強度を持って叩き込まれた2つの拳を弾く。
「プロレスの観点から見ると……これは凶器攻撃ですね。あはは」
 それを言えば能力者達はほぼ全員が凶器攻撃を行っているのだが、ここはリングの上ではなく、相手も真っ当なレスラーではない。
 笑顔のまま遠慮はいらないとばかりに電柱を背にした十字がダークハンドを放つが、地縛霊の背筋はあべこべに斬り裂こうとした影の手の方を粉砕する。
「さすがの筋力だね……でも、手段がないわけじゃない」
「これで梱包してあげるわよ」
 要の声に応え、地面から無数の炎の蔦が伸びると包み込むように縛る。
 ほぼ同時にアルベールも攻撃に転じた。水流の刃が筋肉を引き締める間も与えずにその身体に食い込み、地縛霊は苦悶のうめきを上げた。
「……完全に気絶しているよね」
 唯一、他者を回復できるヒーリングヴォイスを用意してきたひなただったが、倒れた俊伎が意識を失っている事を確かめてリフレクトコアに切り替える。
 その光に地縛霊が一瞬気を取られた瞬間、小柄な影がその懐へと飛び込んでいた。
「あの世のかなたまで、ふっとんじゃえ〜♪」
 台詞通り、アイリスの爆水掌は完璧だった。理想的なタイミングと位置に決まったその威力は地縛霊のフライングボディーアタックすら凌いだかもしれない。
 それでも地縛霊が吹き飛ばなかったのは、体格の差と紛い物とは言えレスラーの意地だったのか。
「オォォォォ!」
 地縛霊が吼え、身体に絡みついた炎の蔦を引きちぎる。
 電柱に向かうため、邪魔になるものを吹き飛ばす。狙いは、目前の最も強力な攻撃をしてきたアイリスだ。
 丸太の太さを持つ豪腕が身体ごとぶつかる様に振るわれるラリアート。その瞬間、白銀の刃に黒い力を宿した楓がアイリスの目前に滑り込んだ。
「冴えろ! 黒刃!!」
 避ける事など微塵も考えない相打ち狙い。
 横薙ぎの刃と地縛霊の巨腕が交差し、路地に壮絶な打撃音が響いた。
「……縦回転での吹き飛びなんて始めて見たぜ」
「ちょっと、大丈夫〜?」
 司とひなたが呆然とした顔で見る先には、団子状態の4人の姿。
 楓の反撃は地縛霊にも浅くない傷を与えていたが、それ以上にすごかったのは強烈なラリアートをまともに食らった楓だった。
 後に居たアイリスを巻き込んでの縦回転。そのまま狙ったかのように電柱近く飛ばされ、更に待ち構えていた要とアルベールを巻き込んだのだ。
 巻き込まれた3人に怪我は無く、楓も喉を押さえつつなんとか立ち上がる。
 しかし、その隙を付いて満身創痍の地縛霊がすかさず電柱に辿り着いた。能力者達が阻む間もなく、巨体に似合わぬ俊敏さで瞬く間に頂点に登る。
「大技が来るよー! その気のある人以外は逃げてー!」
 その様子を見ていたひなたが慌てて叫ぶ。地縛霊も吼えた。
「トォリィィィック。オ、ア。トリィィィトォォォ」
 傷だらけの身体を鼓舞するように両手を上げ、人差し指で天を指す。その瞬間、月光に照らされた地縛霊の姿は確かにレスラーだった。
 巨体が再び宙を舞う。
「見事受けきってあげますよ!!」
 狙われたと察した十字が身構える。
「……やっぱりやめます」
 しかし、あっさりと構えを解いて後ろではなく、転がるように前に突っ込んだ。
 狙いを外され、アスファルトに激突した地縛霊はそのままピクリとも動かない。
「ちょっと、もしかして……」
「もしかするわね」
 呆れ混じりのひなたの言葉を、要が肯定する。
 地縛霊は自分の攻撃の反動による自爆と言うある意味で壮絶な最期を向かえ、大の字に倒れた姿のまま塵となって消滅したのだった。


「ごほっ……騒ぎ過ぎたな。急いで帰るぞ」
 ようやく声が出せるようになった楓の警告に、惚けていた能力者達が慌てて帰り支度を始める。
「意識はないけど……呼吸はしっかりしているようだね」
「俺も手伝うぜ」
 ぐったりとした俊伎をアルベールと司が両側から支える。
 当たり所がよかったのか、俊伎は気絶しているだけだった。しかし、僅かに防具の性能が低くければ、一瞬でも受け止める事が出来なければどうなっていたかは判らない。
 そして、当然の事だが俊伎が持っていたお菓子も無事では済まなかった。殆どが地縛霊に潰され、無事だった残りも戦闘のドサクサで潰されていた。
 その残骸の中、たった1つだけ無事だった飴を見つけたアイリスは少しだけ迷い、見つけた飴を拾い上げる。
「とりあえず供養代わりなの……」
 電柱の下に飴を置き、少しだけ祈る。
 そして、少しだけ騒がしくなった夜の街に追われるように、能力者達は慌しく帰路に着いたのだった。


マスター:石蝉 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2007/11/18
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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