<リプレイ>
●タイムリミット 白い月の輝き、闇色に染まる空。 星一つ見えない夜空の下、静寂漂う街の公園。 静かな風が吹く広場で、眩い光を身に浴びた一人の女性……冴原涼子は動きを止めた。不可視の力に、縛られて。 力を放ったのは、ベンチに俯き座る一人の男。……場所に、妄念に囚われた、地縛霊。 ――様子は、遠目にも見えていた。 「守り抜いてみせる!」 冴原と地縛霊が対峙する静止した広場に、いち早く到着した浦澤・まこと(パンニ仇ナス悪ヲ討ツ・b15519)。彼は二人の間に割って入り、コアを周囲に漂わせる。 「しばし、眠っていてください」 まことが地縛霊を牽制する中、冴原に向かい十六夜・紫苑(古の水を湛えし水鏡・b03679)が導眠符を投げつける。 体が麻痺し動けない冴原は、立ち止まった姿勢のまま眠りについた。 「出来れば暴れてくれるなよッ!」 眠ったのを確認し、平良・虎信(荒野走駆・b15409)は冴原を軽々と担ぎ上げ、一目散に退散する。 地縛霊が衝撃波を放つような素振りを見せたから。 女性を傷つけさせるわけにはいかないから。 「確保したのなら長居は無用だ。退がれ」 男の素振りはやはり、衝撃波を放つためのもの。白い能面で表情隠す軒猿・志摩(高校生牙道忍者・b29413)が射線に入り受け止めて、冴原の安全を一時的に確保する。 全ては、無差別の破壊が繰り出されるまでに、女性を射程外に運ぶため。 「折角お出いただいたところ申し訳ござらぬが、しばしお相手願いたい」 地縛霊に語りかけ、森の香がする装束をはためかせながら炎を生み出す柊・刀(血まみれ抹茶アイス伝説・b17654)。彼女は地縛霊を中心に、虎信とは反対側を陣取って、慣れた動作で魔弾を放つ。 不運にも受け止められてしまったが……別に構わない。今は、こちらに注意を向けさせるのが重要だから。 近くで雑霊集わせる泉野・終夜(死人だけがお友達・b12019)、及びフード付きのロングコートを身につけたスカルサムライも、今攻撃する理由は同じもの。力による衝撃が伝わる刹那に、スカルサムライの刀が地縛霊の体を薙ぐ。 すべての攻撃音に重なるように、麻田・駿喜(家出放浪娘・b23751)は眠りの歌を奏でていく。 攻撃を重ねる状況。すぐに目覚めてしまうけど、一瞬でも意識を飛ばせれば上々。その、思考の元。 眠りについた地縛霊は、やはりすぐさま目覚めてしまう。しかし、しばしの時が稼げたなら……それは、冴原が安全圏へと運ばれる事を意味する。 「そろそろ、攻撃に移りましょうか……」 冴原の警護をするために、近くで魔法陣を描く霧生・颯(双子の妖草使い〜兄〜・b01352)が地縛霊へと向き直り、宣言する。 安全確保完了の旨を。本格的な戦いの、始まりを。
●慟哭 風が止まった。男の心の動きを、写し取っているかのように。 静寂が告げるのは、嵐の到来。月明かりが照らす広場の中心で、男が叫ぶ。 叫びは怒りか哀しみか。湿った感情に満ちる音は力となり、周囲をなぎ払う。 (「同情してやりたいところだが……」) なぎ払われた志摩は、すぐさま体勢を立て直す。 (「生憎とそうもいかなくてね」) 立て直しながら、深く深く息を吐く。自らの身を、癒すため。 最中、駿喜の癒しの歌。彼女の心を写すのか、少し寂しげな悲しい歌が、聞こえてくる。 後方からは、颯が魔法陣越しに雷を放つ。 放った後、雷の行く先は気にせずに、すぐさま続く攻撃への準備入る。近くで眠る冴原に、常に気を配りながら。 次いで男から放たれた眩い光は、終夜を麻痺させる。が、すぐさまスカルサムライが助けてくれた。 動ける上、今は自分に注意が向いている。判断した終夜は、雑霊をたたきつけながら口を開く。 「女は、事故にあったらしい」 淡々と語るのは、運命予報士から聞いた伝承。女が裏切ったわけではないとの、言葉を添えて。 「……」 男の反応は無きに等しい。ただ、俯いた顔を上げ、姿勢を正している。そんな気がした。 すでに一分半以上のときが立った今。女性は目覚めず、窮地に追い込まれるものもいない。 故に、今は回復は必要ないと判断し、紫苑はグレートモーラットの円に攻撃の支持を飛ばす。指示された円は、小さな身から衝撃波を放った。 お返しと言うわけではないだろうが、男は虎信へ向かい衝撃波を放つ。 黒革のジャケットを着込む虎信はしっかりと受け止めて、流れに乗るまま得物を振るい、毒の力を送り込んだ。 続くまことは光を集わせる。 思い出は、明日の糧となるためのものだから。 決して、縛るためのものじゃないから。 光に込めるは解放の願い。願いは力となって男へ届き、身を確実に貫いた。 願いに返されるは、叫び。 声にならない想いは暴力に形を変えて、周囲の者を巻き込み消えていく。 伝わるのは、悲痛な想い。 「貴殿の想い、分からなくはありませぬが……」 目を細め、見据える刀。 「どうか御覚悟を」 今はまだ、同情しない。 思いの力を炎に変えて、放つ。 炎は男だけを包み込み、焼いていく。 虎信の、癒しをもたらす歌声が、広場に響き渡る。 ある種場違いな、豪快な歌。彼自身、嫌そうな顔をされるかもしれないと苦笑いを浮かべていたが……否。 広場に漂うは、過去に囚われ停滞した時の中を生きる、静寂の風。 ならば騒がしい音色は未来へと進むための力を持った、突風。誰が、拒むことなど考えよう。 十分に持ってきた回復。流石に麻痺の治療まで潤沢だったわけではないけれど……倒すのに十分すぎる戦力、作戦。 アキレス腱だった冴原も確保済み。危険に晒さぬよう、颯が警戒し、起きたならば紫苑が眠らせる。 ならば、危うき理由はどこにもなく……戦闘中放たれた炎が、毒が、常に地縛霊を蝕んで。 苦しみ悶える中、放たれるは眩き光。 志摩は意志の力で光を撥ね退け、勢いのまま龍の如き拳を叩き込む。 死者を、ゴーストをできるだけ救える形で倒すのは、霊媒師の義務。思い、戦いに臨んだ終夜は、スカルサムライと呼吸を合わせて、得物による一撃を叩き込んだ。 (「恋人の下に送って差し上げるのが、せめてもの手向けでござろうか」) 刀が、再び炎を燃え上がらせる。 まことが放つ光が、駿喜の二対の刃が、誤る事無く男の体を貫いた。 ――刃が引きぬかれた後、男がベンチにもたれかかったのは、滅びの合図だったのだろうか。 (「死後の世界等は信じておらん、が!」) 心で呟く、想い。 込める場所は、脚。 (「もしも会える可能性があるのならばそれも良かろう!」) 「向かわせてやる、新たな待ち合わせ場所になッ!」 多くの者が考えた、地縛霊にとって最良の結末を導くため、激しい蹴りを叩き込む。 叩き込まれた男は、出現してから初めてベンチから離れ……静かに消滅した。 存在した痕跡すら、何も残さずに。
●未来の事は分からないけれど 私がいたら怖がるかもしれないからと、僕が言うような事は無いよねと、志摩とまことが先に帰宅した公園。 輝く月明かりの元、少し離れた場所で駿喜は歌う。明るい、歌詞にの裏に再会を隠した歌を。 もう、待ち人が来ないなんて、悲しい事が起きないでほしいから。 「お姉さん……こんな所で寝ていると風邪を引いてしまいますよ?」 彼女の歌を聴きながら、刀の黙祷が終わり人心地ついた頃。 静かに、颯が冴原を起こす。事件はもう、終わったから。 「……ここは……私は一体……」 目を擦りながら、周囲を見回す冴原。混乱している彼女に、颯は予め用意していた嘘を話す。 数人の確証が含んだ言葉。特に不審がる様子もなく……代わりに、と言った様子で尋ねてきた。 夜も深けようかと言うこの時間。一体何を、しているのかと。 「お兄ちゃんたちと一緒にお買い物に行く所です〜。ここは近道なんです。ちょっと怖いけど、お兄ちゃんたちと一緒なら平気です〜」 虎信たちを視線で示し、ぬいぐるみを抱きながら明るく答える。 可愛らしい様子に、冴原は小さく笑う。私のせいで時間をとらせちゃったみたいで、ごめんなさいと。 「一つ、尋ねても良いでござるか?」 首をかしげながら切り出してきた、刀の言葉。時代がかった言葉遣いに微笑みながら、冴原は先を促した。 「貴殿は、ここで何をしているのでござるか?」 あくまで自然に尋ねる刀。事情は、知っていたけれど、話す事で楽になれば、と。 「……ごめんなさい。人に、話すことじゃないから。それに……」 寂しげに微笑みながら、冴原は言葉を紡いでいく。 「話したら、真実になっちゃいそうだから」
――いつの間にか、歌も風も止んでいた。 寂しげに微笑む女性。かけるべき言葉が見つからない皆。 時が動き出すにはきっかけが必要で、きっかけは他に頼るしかなくて……。 空気が変化した事を感じた駿喜が、草の陰から姿を現した。 「みんな、遅いよ」 おどけるように、かけられた言葉。契機となって、時は再び動き出す。 「いや、すまねえ。迎えに越させちまったな」 頭をかきながら虎信は、駿喜が一緒に買い物をする仲間だと、冴原に示す。 冴原はそうと、静かに笑った。 ――次いで漂う空気は、別れを告げていた。 「お姉さん、さようなら」 「ふふ、さようなら」 皆それぞれの形で別れを交わし、公園から離れてく。男を待ち続ける、冴原を一人残して。 「……ありがとう」 風に運ばれた微かな声を、聞きながら。
月明かりが照らす公園の、広場にあるベンチの話。 男は過去を、決して訪れない事も知らぬままに待ち続け、朽ち果てた。 女は過去を、決して訪れない事を知るままに、今もなお待ち続けている。 楽しき日々を慈しみ、今を生きる糧とするために。 ――時と共に想いは、事象は変わり行く。 今宵出会った少年少女。彼らの心遣いは、心に一つの波紋を投げかけた。 波紋がどんな形を作るかはわからないけど……きっと、未来という名を含んでる。 ――次は良い夢が見られると良いですね。 紫苑が別れ際に呟いた願いに、導かれるように――。
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参加者:8人
作成日:2007/11/11
得票数:笑える1
ハートフル2
せつない13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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