オモチャが来たりて

<オープニング>


 そこは、とても長閑な世界だった。
 クレヨンで描いたような空、ブロックで出来た木。
 ぬいぐるみのウサギが跳ね回り、ブリキの人形がゼンマイ自動車を運転する。
 太鼓を持った猫、シンバルを持った猿、ラッパをくわえた犬が、トントンパフパフシャンシャンシャーンと通り過ぎてゆく。
 所謂、オモチャ達の世界。
「こりゃまた、随分ほのぼのとした夢だな」
 一体これのどこが悪夢なんだと、ひとりの能力者が首を傾げる。
 その声に合わせて、プラスティックの花が揺れる。
 とにかく、一見平和きわまりない。

「おーーい!」
 どこからか、声が聞こえてきた。
 声の方を振り返ると、そこには、ぬいぐるみが山積みになっていた。
「助けてよー!」
 そしてよく見ると、ぬいぐるみ達の一番下に、中学生くらいの少年がひとり埋もれていた。
 慌てて駆け寄る能力者達。
 するとぬいぐるみ達は、今度は能力者達までをも埋め立てようとするかのように、大量の仲間を呼び寄せた。
 木や車の陰から、ワラワラと押し寄せるぬいぐるみ達。
 辺りは、忽ちぬいぐるみに埋め尽くされてしまった。
「あーもぅまた増えたよ……何なのさこの変な夢!」
「……え?」
 少年の発した言葉に、一瞬、ぬいぐるみを掻き分ける能力者達の手が止まった。
 
 
 能力者達が教室へ出向くと、久慈・久司(高校生運命予報士・bn0090)が、熊のぬいぐるみを抱えて待っていた。どうやら、私物らしい。
「みんな集まってくれてアリガト。あのね、男の子がひとり、オモチャの国に迷い込んじゃってるの。なんか、沢山のぬいぐるみに押し潰されそうになっちゃってて、大変みたいよ?」
 少年は中学生くらい。パジャマ姿でぬいぐるみに埋め立てられている。
 そしてどういうわけか、自分が悪夢の中にいるということを自覚していて、どうしたら目覚められるのか、とりあえず朝になるまで待てばいいのかと、色々考え込んでいるらしい。
「事情はよく分からないけど、これがナイトメアの仕業なのは確かなの。放っては置けないワ!」

 久司は抱えていた熊のぬいぐるみを椅子に座らせると、能力者達に夢の世界についての説明を始めた。
「彼の見てる夢はネ、さっきも言ったようにオモチャの国なの。おっきなぬいぐるみが歩いてたり、ゼンマイ自動車が走ってたりするワ」
 そんな世界で、動くぬいぐるみ達に囲まれる少年……。
「ちょっと……和やかだな……」
「でも、身動きできないほどに埋められちゃってるのヨ?」
 それは流石に嫌だなと、ひとりの能力者が溜息をつく。
「彼を埋めてるぬいぐるみ達は、多分、100体はくだらないと思うの。それ以外にも、戦いになれば沢山のぬいぐるみ達が押し寄せてくると思うわ。あ、でも、ものすごーーーく弱いから、ちょっとだけ安心していいわよ」
 しかし、ぬいぐるみの山から少年を救っても、悪夢からはまだ解放されない。
「夢から出るためにはネ、ブロックの森を抜けたところにある池に沈んでる目覚まし時計を鳴らさなきゃいけないの。でも、ブロックの森にもぬいぐるみが待ち構えてるから、油断しちゃ駄目ヨ? 特に怪力クマちゃんと非力カッパちゃんは要注意ネ!」
 森のぬいぐるみ達は、大半がフワモコの手足で殴る蹴るの攻撃をしてくるのみなのだが、怪力クマちゃんはブロックの木を振り回し、非力カッパちゃんは水鉄砲を撃ってくる。
「それと多分、後ろからもぬいぐるみが追いかけてくると思うから、頑張って逃げてネ」
 そして森を抜けきると、目前に大きな池が広がる。
「池には水の代わりに透明カラーボールが入ってるの。深さは大体アタシの腰くらい……一番深いところでも、胸まではいかないワ。あっ、夢だから、ボールが邪魔で動きにくいなんて事はないと思うわよ」
 池の中には目覚まし時計が沈んでいて、これを鳴らすことが出来れば現実世界に戻ることが出来るのだが……。
「でもネ、その肝心の時計を、池にいるワニさんが呑み込んじゃったのよ……」
 ボール池の主、バクバクワニは、ビニールコーティングされた生地で出来た体長3メートルにも及ぶ巨大なぬいぐるみだ。強靱な顎での噛みつき、太い尻尾での吹き飛ばしを得意とし、他のぬいぐるみ達からも恐れられている。こいつばかりは、ぬいぐるみだからと甘く見るわけにはいかない。
「ワニを倒したら、お腹にファスナーが付いてる筈だから、そこから目覚まし時計を取り出してあげて」
 そして、それを鳴らせば、漸く夢から目覚めることができる。
 
 ひととおりの説明を終えたところで、久司は、能力者達にティンカーベルの不思議な粉が入った小袋を手渡し、ふたたびクマのぬいぐるみを抱き上げた。
「少年の夢に入るには、この粉を使ってネ。幾らファンシーな夢だからって言っても、夢の中では何が起こるか分からないワ。よぉーっく注意して! それと、ぬいぐるみの大群に呑まれたり池で溺れたりしたら、その時点で現実世界に戻されちゃうし、大怪我や……もし命を落としちゃったりしたら、現実でも同じようになっちゃうワ」
 可愛らしさに惑わされず、よく注意して戦ってきてね。
 久司はそう言って、能力者達を激励するかのように、クマのぬいぐるみの手に能力者達の手を握らせた。

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参加者
一花・糸(見習い帽子屋・b13033)
草壁・志津乃(白鳥奏歌・b16462)
武羅雲・生摩(蝿の王・b18211)
綾瀬・律(日日是事無・b18293)
向坂・結奈(夢の国から来た小悪魔・b18887)
雪白・ハクヤ(マシュマロ雪狼・b22971)
八歳・沙紀(香木の枝・b23537)
烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)
峰谷・清士郎(魔弾演奏者・b30614)
明星・心和(泣いた土蜘蛛・b32742)



<リプレイ>

●これって悪夢?
 そこは、とにかく長閑だった。
 どのくらい長閑かというと、フェルトの団栗を抱えたリスのぬいぐるみが、能力者達の足に擦り寄ってくるくらい長閑だった。
「なんつーか、ほんとにファンシーだなここ!!」
 目前に広がる風景に、雪白・ハクヤ(マシュマロ雪狼・b22971)が思わず感嘆の声をあげた。
 予報士から話は聞いていたが、実際目の当たりにすると、一体これのどこが悪夢なのかとつい疑ってしまう。
「これ、子供の頃に持っていたのと似てるような」
 近寄ってきたモフモフの鶏を抱き上げ、懐かしげに見つめる草壁・志津乃(白鳥奏歌・b16462)。
「ちっ、一昔前ならノれたんだけどよ、こういうのも」
「これが今回の敵かよ。何か戦い甲斐のなさそうな敵だぜ……」
 しかし、あまりの和み加減に、峰谷・清士郎(魔弾演奏者・b30614)と武羅雲・生摩(蝿の王・b18211)は、流石にちょっとゲンナリ気味だ。
(「可愛くていいなあこの夢、住みたいなー……」)
 未だかつて、ここまで心穏やかに依頼に望んだことがあるだろうか……隊列を組んでクェクェと歩いてゆくアヒルのオモチャ達を見つめる一花・糸(見習い帽子屋・b13033)の瞳は、すっかりウットリモードになっていた。
「でも、埋もれるほどの数だと困るよね。一人ぼっちで、動けなくて、遊びきれなくて……」
「「!!」」
 八歳・沙紀(香木の枝・b23537)の言葉に、皆はっと顔を見合わせる。
 そうだ、和んでいる場合ではない!
 この夢のどこかで、少年が大量のぬいぐるみに埋もれているのだ。早く見付けだして助けなければ!
 能力者達は、少年を捜し……。
「ぉーぃ……」
 捜すまでも、なかった。
 遠くからでもハッキリ分かる、ぬいぐるみで出来た巨大な山。そして微かに聞こえる少年の声。
「よし、行くぞ!」
 能力者達はイグニッションカードを掲げ、ぬいぐるみの山へ向かって一斉に走り出した。

●ふわもこ大掃討
「あはん☆ あちきの歌に痺れるがいいでありんすよ☆」
 ファンシーな世界にやけに溶け込んでいる気がする向坂・結奈(夢の国から来た小悪魔・b18887)が、アニメ声で思いっきり唄う。
 ぬいぐるみ山がブワッと揺らぎ、大量のぬいぐるみがあっと言う間に半減する。
「いっぱいいるね〜……せーの、でや〜♪」
 1つくらい持ち帰れないものだろうかと思いながら、綾瀬・律(日日是事無・b18293)が龍撃砲でぬいぐるみを薙ぎ払う。
「オラオラオラオラァッ!」
 木や車の陰からワラワラ沸き出してくるぬいぐるみに向かって、生摩が派手にバレットレインを放つ。
 ぶはーっと吹っ飛び、ポポポンと消えるぬいぐるみ。
「俺はぬいぐるみにときめいたりしねー! 蹴散らしてやるぜ!!」
 ハクヤは赤い鎖の巻きつけられたハンマーをブンブンと振り回し、どっかんどっかんとぬいぐるみを潰しまくった。
 しかし、消しても消しても、どこからともなく湧いてくる。
「とにかく、埋まってるお兄さんを助けるのー」
 烏森・メジロ(いつか月に行ってみたい・b26804)は、押し寄せるぬいぐるみ達を掻き分け、どうにか少年の前まで辿り着いた。明星・心和(泣いた土蜘蛛・b32742)も、蜘蛛童に指示を与えながらそれに続く。
「わぁ、君たち強いねぇ!」
 志津乃のブラストヴォイスで吹っ飛ばされてゆくぬいぐるみを見て、山の底辺に埋まっている少年が楽しげに笑う。
「そんなことより、起き上がって下さい」
 心和は危機感0な少年の手を掴み、少し小さくなったぬいぐるみ山の下から無理矢理引っ張り出した。
「おにーさんあのね、これは、ジッとしてても起きれない夢なのね。ナイトメアって言う人が無理矢理見せている夢なの」
「ナイトメア?」
 メジロが状況説明を試みるが、少年は今ひとつピンときていないようだ。
「とにかく3人とも、そいつ連れてここから離れろ!」
 目前のぬいぐるみを蹴り避けながら、糸が叫ぶ。
 沙紀は彼らの逃げ道を作るように、光の十字架で付近のぬいぐるみを消し去った。
 ぽかっと拓けた道を、心和とメジロが少年の手を引いて走る。
 その後方では、生摩達がぬいぐるみ達との熾烈な戦い……というか、凄まじく一方的な大虐殺を繰り広げていた。
「あ、なんかちょっと可哀相……」
 どうにか安全圏まで避難した少年が、その光景を見てポソッと呟く。
「そんなこと言ってる場合じゃないのね」
「そうです。このままここに居たら、貴方は死にます」
「えっ? そうなの?」
「だから、さっきからそう言ってるの」
 困惑気味……というか、何だかあまり深く考えていない風な少年に、ふたりは切々とここに居てはいけないのだということを説いた。
「ここで死ぬのと、わたしたちと一緒に来て助かるの、どっちがいいですか?」
 というか、一緒に来ないとブッ飛ばす。心和のそれは、既に脅しの域に達していた。
「それにこの悪夢を抜ければ、もっと思春期の少年的にお楽しみな大人な夢の世界が待ってるでありんすよ☆」
 ぬいぐるみを蹴散らした結奈が、少年に駆け寄ってパチリとウィンクする。
「うーん、死ぬのもブッ飛ばされるのも嫌だなぁ」
 大人の世界云々はともかく、一緒に行くのも面白そう。少年は、案外アッサリOKした。
「じゃ、早速出掛けようよ!」
 またどこからともなく湧き出てきたぬいぐるみを、沙紀が光の十字架で消し飛ばす。
 グズグズしている暇はない。
 さあ、冒険の始まりだ!

●森の熊さん河童さん
 能力者達は、少年を連れてブロックで出来た森の中へと進み行った。
 途中、後方から小さなぬいぐるみが追いかけてきたりもしたが、そのたびにハクヤ達が弾丸の雨を降らせて追い払ってくれた。
「あなた、名前は?」
「ん〜、なんだっけ?」
「何故ここが夢の中だと思ったのですか?」
「なんとなくかな?」
「誰かにそう言われたりしたのですか?」
「ううん、ここで会った人間は君達が初めてだよ」
 少年に色々と質問を投げかけてみる志津乃だが、どうにもパッとする回答は得られない。
 とりあえず、ここが夢だという自覚があり、それは他人から教えられた事ではない……間違いないのは、せいぜいそれくらいだろうか。
 さしたる危険とも出会さぬまま、音に反応して揺れる花をひやかしながら進んでいく一行。
 その前方に、不意に茶と緑の巨大なぬいぐるみが現れた!
『ウッハウーウッハウーウッハウッハウー!』
『カッパカッパカパパパ〜ァ〜ン!』
 それは、丸太を抱えた熊と、水鉄砲を持った河童だった。
 ぶっちゃけ、どっちも今ひとつ可愛くない。
「……前に出ないでくださいね」
 心和が即座に身構え、土蜘蛛とともに少年を護るように立つ。
 じっと敵を見据え、大自然の息吹をその身に取り込む生摩。メジロも、健気に少年を庇うように立ちはだかりながら、河童に向けて破魔矢を射る。
 志津乃も歌の力で攻撃を試みるが、残念、2匹の心に衝撃を与えることは出来なかった。
「ぬいぐるみは、切り裂くより縫う方が得意なんだけどね」
 糸は河童に駆け寄ると、その甲羅めがけて高速の蹴りを放った。裂けた甲羅から、ぽろぽろとスポンジが零れ落ちる。
『くにょ〜ぉ! よくも〜!』
 河童は水鉄砲を構えると、仕返しとばかりに糸目掛けて激しい水流を叩き付けてきた。
『ワイは非力河童ちゃん! 非力だから水鉄砲つかっちゃうんやね〜!』
 水流は、糸と、その後ろにいた清士郎をも巻き込んだ。
「てめっ……! ムカつく喋り方しやがって!」
 今度は清四郎が、河童に反撃の炎を飛ばす。
『ギョワワッ!?』
 ぶすぶすと黒煙を上げて転げ回る河童。
 熊の足止めに向かった律とハクヤ。
「そ〜れっ♪」
「ボカボカにしてやるぜ!」
『フゴーッ! ワシは怪力熊ちゃんじゃーーっ!』
 熊はふたりの攻撃を太くモフモフした腕で受け止めると、ブロックの丸太をブンッと振り回した。
「きゃっ!」
 ハクヤはどうにか避けきったが、律と、偶々傍にいた清士郎は思いっきり丸太の直撃を受けてしまった。
「あはん☆ みんな大丈夫でありんすか〜♪」
 結奈が癒しの歌で皆を助ける。
「あっ、後ろからまた……!」
「大丈夫、安心して」
 べふべふと追いかけてくるぬいぐるみの群れ。沙紀は少年を安心させるように微笑むと、後方に向けて光の十字架を放ち、追っ手どもを一掃した。
「オラァ! さっさとくたばれ河童野郎!」
『ギョギョギョーー!』
 生摩のチェーンソー剣、ベルゼブブが、ド派手な駆動音をあげながら河童を切り刻む。
 更に、河童の脳天にクリティカルで炸裂する糸の蹴り。
 皿を割られた……いや、裂かれた河童は黒焦げのスポンジを散らして倒れ伏した。
「わー! 凄い凄い!」
「……まだ熊が残っています」
 パチパチと拍手する少年に、心和がちょっと冷めた視線を向ける。
「今度こそ……てや〜♪」
『フゴフゴフゴー!』
 今ひとつ覇気に欠ける気合いだが、律の放った衝撃波は的確に熊を撃ち、ブロックの草木を薙ぎ倒した。ハクヤもハンマーを振り回し、熊の頭をボッコボコにする。
 熊も負けじと丸太を振り回すが、今度は能力者達に分があった。清士郎は空を切る丸太を見てニヤリと笑うと、熊に炎の魔弾を叩き込んだ。
『フゴゴッ!』
 燃え盛る熊に、志津乃の歌とメジロの矢が追い討ちをかける。そして最後は、生摩のベルゼブブが背中から真っ二つ。
「うわー、派手だねー!」
「でも、まだ安心は出来ないよ。ほらっ……!」
「そうでありんす。ささっ、前に進でありんすよ〜!」
 喜ぶ少年。けれど、立ち止まってる暇はない。またまた押し寄せてくるぬいぐるみ達を、沙紀がまたまた迎撃し、その隙に結奈達が少年の手を引いて走る。

 そして、どれくらい走っただろうか……。
 目の前に、ぽかんと大きな池が見えた。

●目覚まし時計を取り戻せ!
 池の中は、透明カラーボールで満たされていた。
 そしてその中に、鼻先だけを出した巨大なワニのぬいぐるみが一匹。
「あっ! あれ、僕の目覚まし時計!」
 少年がワニの鼻先を指差して叫ぶ。
 見れば、鼻先にちょこんと目覚まし時計が乗っている。
「あれを取り戻せば、きっと悪夢も終わりますね」
「よし、ならば早速!」
 糸は裁ち鋏を構えると、目覚まし時計を手に入れるべくボール池の中に踏み込んだ。
『ガーーッ!』
「あっ!!」
 その瞬間、ワニが咆吼をあげた。そして鼻先の目覚まし時計をごろんと口の中に落とし、そのままゴクリと飲み込んでしまった。
「目覚まし欲しけりゃ腹を割けってか……チクショウ、これが本物のワニなら倒した後にワニの塩焼きとか食えるのによう……ぬいぐるみだとモチベーションが下がるぜ」
 チッと盛大に舌打ちしつつ、生摩が宣戦布告とばかりに弾丸の雨を降らせる。それを合図に、皆も一斉に池の中へと踏み込んでゆく。
「離れないなら守りますから……」
 心和は蜘蛛童とともに岸に残り、流石にちょっと驚いた風の少年の護衛に付いた。メジロも岸に残り、少年の方を気に掛けながら破魔矢を射る。
『ガォーーーッ!』
 ワニの強靱な顎が、ハクヤの身体をとらえた。
「ぐっ……!?」
 その閉顎力は、とてもぬいぐるみのものとは思えない。
「お前も燃え尽きろ!」
「串刺しになるでありんすよ〜!」
 清士郎と結奈が、炎と光でワニを撃つ。律も、2本の宝剣を同時にワニの背に振り下ろし、ビニールコーティングされた(ぬいぐるみにしては)硬い体にザックリと裂け目を作った。
 後方に位置取った沙紀が、傷付いたハクヤを祖霊の力で癒す。
 生摩のチェーンソー剣が唸りを上げ、硬いビニールの皮を切り裂く。
「ファンシーな外見には騙されないんだぜ!」
 噛みつかれた仕返しにと、ハクヤがワニの頭にハンマーを振り下ろす。
『グギャァーーッ!』
 ワニはのたうち、尻尾を大きく振り回した。
「うわぁっ!」
 尻尾をもろに腹に受けた清士郎が、対岸近くまで吹っ飛ばされる。
 この距離では癒しの歌声も届かない……結奈はちっと唇を噛み、ワニに光の槍をお見舞いした。
「くそっ、やりやがって……!」
 魔法陣を描き出して自らの傷を癒しながら、清士郎が前戦まで駆け戻ってくる。残る傷を、律が癒しの符で塞ぐ。

「みんな大丈夫かな……」
「大丈夫、みんなとっても強いのね」
 少々不安げな少年に、メジロがニコっと微笑む。
 心和も無表情なまま頷き、蜘蛛童を加勢に向かわせる。
 その言葉通り、能力者達の力は徐々にワニを追い詰めていった。
『ガゥゥ!』
「ざんね〜ん♪」
 ワニの尻尾をひょいと避け、律がカウンターの一撃を決める。
 糸の鋭い蹴りが上顎を真っ二つに切り裂き、生摩がその傷を更に広げる。
 あと一息……仲間達を勇気づけるように、志津乃の癒しの歌声がボール池を包む。
「あはん、そろそろ終わりにするでありんすよ〜☆」
 結奈の放った光の槍が、大きく裂けたバクバクワニの口の中にぶすりと突き刺さった。
『ギャォーーーッ!!』
 ワニは大きく背中を反らせ、空に向かって吼えると、そのまま仰向けにボール池の中に倒れ込み、付近にカラーボールを撒き散らした。

 そして、腹のファスナーを露わにして、プカリと浮かんだ。

●NIGHTMARE
「うわー! みんなやっぱり強いや!」
 皆の戦いに、パチパチと賞賛の拍手を送る少年。
「目覚まし、あったよー!」
 沙紀はワニのお腹のファスナーを開け、中から目覚まし時計を取り出すと、笑顔でそれを高々と掲げ、岸辺に立つ志津乃へと放り投げた。
「「やったー!」」
 仲間達からも歓声が上がる。
「これは、あなたの手で鳴らして下さい」
「うん、アリガトウ」
 志津乃は投げ渡された目覚ましをそっと少年に手渡し、少年はそれを笑顔で受け取ると、ゆっくり針を動かした。

 ───と、その時!

『フハハハハハハ! このガキは貰ったーーーぁ!!』
「ぅわっ?」
「何ッ!?」
 画用紙に描かれたような空が突如破け、そこから、黒い馬が沢山のブリキの兵隊を引き連れて現れた。
 そして少年の首根っこをくわえ、自らの背に放り上げると、兵隊達とともに瞬く間に破れ目の中へと引き返してしまったのだ。
「心和ー! メジロー! みんなーー!」
「ナイトメア! ……くそっ!」
 少年は必死で手を伸ばし、能力者達はその手を掴もうとしたが、ブリキの兵隊がそれを阻む。
『フハハハハハハハハ! さらばだーぁ!』
 ──ジリリリリリリリリリリ!
 黒い馬……ナイトメアの高笑いに、目覚ましの音が重なった。
 空の破れ目は完全に消え、そして世界が揺らぎ出す。
「黒馬野郎、最後に人参持っていきやがった……」
 現実へと引き戻される感覚の中、清士郎がチッと舌打ちする。


 少年は、今もまだ悪夢を見続けている。
 ならばきっと、また出会うことが出来る筈。

 だから、今度会った時には、きっと──!


マスター:大神鷹緒 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/11/14
得票数:楽しい21  笑える10  知的49  せつない12 
冒険結果:成功!
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