温泉と朝霧の里へ


<オープニング>


 九州は、とある有名温泉街。急速に発展したこの町も、夜となれば人通りはそれなりに少なくなるものである。
 町の中心から少し外れた場所にある、大きな湖。
 ここは暖かい水が湧き出す事で、冬ともなれば水面を漂う白い湯気が風情をかもし出す、町の名所のひとつである。
 そんな湖の辺りを浴衣姿で歩く女性。夜の湖は、昼間とは打って変わり暗い湖面を晒している。が、町の灯りが反射して、一味違った風情があるのもまた事実。
「……あら?」
 女性がふと気付く。湖の傍、柳の木の下。何かが動いたように見えたのだ。
 タヌキなどの野生動物が現れるのも珍しくは無い。女性が確かめようと、木の下に近付いた時。
 不意に伸びる赤い物。瞬く間にそれは女性の身体を捕え、身体に、顔に巻きつく。
 次の日。湖には只1枚、浴衣だけが浮かんでいた。

「今回は皆さんに、九州のとある温泉地へ行って欲しいのです」
 開口一番、鷹取・月乃(小学生運命予報士・bn0058)が静かに告げる。九州は遠い地、しかもこの時期にぴったりの温泉。一同の間に歓声が沸き起こる。
「遊びではないのですが……ええと、説明するのです。その温泉街の近く、大きな湖のほとりに……大きなカエルの妖獣が出たのです。残念ながら……散歩していた女性が1人、犠牲となっているのです」
 観光地とは言え、夜間は人通りが一気に少なくなる。残留思念を求めて、妖獣が山奥から現れても不思議では無いだろう。
「流石に場所が場所だけに、これ以上の犠牲は避けなくてはいけないのです」
 月乃が静かに、それでいて力強く語る。
「話は判ったわ……そのカエルはどんな能力なの?」
 カエルは範疇外なのだろう。金森・あかね(中学生符術士・bn0003)が冷静に質問する。
「ええと、カエルが現れるのは夜だけなのです。湖の傍、柳の木の下に人が1人で通りかかると現れて、長い下で巻き取ってしまうのです」
 舌といえばぬるぬる、べとべと。流石に嫌なのか、あかねも表情を歪ませる。
「舌で拘束する以外に、粘着質な唾を飛ばしてくるのです。これは酸性で、衣服なんかについたら溶けてしまうのです。肌についたりしたら大変なのです」
 その他には、特にこれと言った能力は無いらしい。作戦にもよるが、力押しで何とかなるだろう、とは月乃の談。
「ただし、くれぐれも油断はしないで下さいなのです。皆さんが失敗すれば、更なる犠牲を生むのは確実なのですから」
 その言葉に、無言になる一同。そう、決してこれは遊びではないのだ。
「ですが、流石に事件解決してはいサヨウナラ、は酷なのです……ちゃんとご褒美も用意してあるのです」
 月乃はそう言うと、パンフレットを数枚、テーブルの上に置く。一斉に覗き込む一同。
「この町の観光名所を纏めたパンフレットなのです。温泉は当然ですが、オルゴール館なんてのもいいのです。ですが、この町の名物はなんと言っても朝霧なのです」
 えっへん、と胸を張る月乃。本当は自分が行きたいんじゃ、と呟くあかねの言葉は耳には届いていない。
「宿泊場所はちゃんと確保してあるので、心配しなくてもいいのです。たまには羽根を伸ばしてきてくださいなのです」
「月乃ちゃん、やけにサービスいいわね。何か企んでる?」
 あかねの指摘に、少し動揺の色を見せる月乃。
「な、何もないのです。お土産よろしくなのです、なんて一言も言ってないのです」
「……判り易いわね」
「な、何でもいいのです。とにかく、決して油断はしないで下さいなのです」
 慌てる月乃の言葉に送られ、能力者達は一路、九州を目指すのだった。

マスター:嵩科 紹介ページ
温泉が恋しい時期になりました。
嵩科の提供でお送りします。

舞台は九州の温泉地。町外れにある湖の辺に現れる、カエル妖獣を退治して下さい。
敵は1体のみ、長くて赤い舌による巻きつき(拘束)と、粘着質な酸性の唾による攻撃のみです。唾は衣服にかかれば溶け出し、肌にかかれば激痛が襲い、追撃の効果を持ちます。くれぐれも油断しないで下さい。
夜、湖そばの柳の木の下を1人〜2人の少人数で通れば、姿を現します。夜遅くなら人通りはまずありません。遠慮なくどうぞ。

事件が片付きましたら、温泉街でゆっくり過ごしてください。主な見所は、以下の通りです。どれか一つに絞ってプレイングをかけるといいでしょう(明記しなくとも全員同じ場所に行ってます)

◆『朝霧』…早朝、町を見下ろす高台に上れば、朝日が昇ると共に目にする事が出来ます。街が白い霧で包まれており、まるで盆地に出来た雲の湖のような、神秘的な光景が見られます。

◆『温泉』…皆さんが宿泊する場所にも温泉があります。ゆっくり浸かって疲れを取りましょう。覗きはいけません。いいですか?いけませんよ?

◆『オルゴール館』…オリジナルオルゴールを作成できます。お土産として希望者に配布します。その場合、名前を全角35文字以内、設定を全角40字以内でお書き下さい。明記がない場合は、こちらで判断してお送りします。いらない方はお手数ですが、プレイングの最後に◆のマークを入れてください。

今回はあかねも同行します。何か言いたい事、して欲しい事などありましたら、プレイングにてどうぞ。

それでは皆さんの、心も身体も温まるプレイングをお待ちしています。

参加者
星塚・彗藍(金藍の彗星・b01570)
リディア・クライトン(妖艶なる剣士・b20049)
右意・一郎(青春オーバードライヴ・b21829)
双龍・拓也(双頭の片割れ・b24432)
ヴィルヘルミーネ・タカナ(灰色子熊・b28381)
文月・昇(中学生青龍拳士・b30087)
小蓋・裕太(アルバイター魔剣士・b30251)
フィアッカ・フォンティーユ(アトミックガール・b30457)
堀北・吏緒(月虹の氷刃・b31573)
小蔵・大蔵(自宅警備員・b31735)
ジーヴ・イエロッテ(インフレイムス・b33147)
華月・麗音(高校生ヘリオン・b33431)
NPC:金森・あかね(中学生符術士・bn0003)




<リプレイ>

●寒空の下で
 温泉で全国的に有名なこの地は盆地と言う事もあり、昼夜の寒暖の差が激しいのが特徴である。更に昼は賑わいを見せるメインストリートも、夜には人通りがめっきり少なくなるのが現状だ。
 そんな街中に広がる、大きな湖。かつては池と呼ばれていたが、とある儒学者の「池と呼ぶのは誤りである」の言葉がきっかけとなり、湖に改名されたと言う逸話も残っている観光地である。ここも夜になれば、人の通りなどは滅多に無いのだが……。
「うぅー、寒みぃー……」
 厚手の服装で身を固めてはいるが、夜の深々とした冷たさが染みるのか。物賭けに身を潜める者達の中で、星塚・彗藍(金藍の彗星・b01570)が震えながら呟く。
 彼らが待つのは、この湖の辺に現れると言うカエルの妖獣。既に観光客と思しき女性が犠牲になっており、能力者として看過する事は出来ない、と有志の一同が退治に立ち上がったのだ。誠に殊勝な心がけである。
「カエルなんて適当に倒して、早く温泉に行きたいな」
「本当、早く暖かい温泉とお布団に入りたいよね」
 ……前言撤回。何だかカエル退治などどーでもいい、と言わんばかりなのは、堀北・吏緒(月虹の氷刃・b31573)と金森・あかね(中学生符術士・bn0003)の2人。その気持ちは分らないでは無いが、能力者のお仕事はちゃんと行ってください。
「オレ、普段はシャワーしか使ってねーからなぁ……オンセンってどんなのだ?」
 温泉と言う物をよく知らないのか、ジーヴ・イエロッテ(インフレイムス・b33147)が小声で皆に質問する。
「温泉……それは命の洗濯。裸と裸の付き合いを行う社交場だな」
 ジーヴの質問に真っ先に答えたのは、右意・一郎(青春オーバードライヴ・b21829)。遠い目をして熱く語る辺り、何を考えているのか判った物では無いのだが、誰一人ツッコミを入れようとはしない。
「戯言はさておき……さっさと事を済ませるのには同感だ」
 一郎の言葉をさらりと流し、双龍・拓也(双頭の片割れ・b24432)が冷静に周囲を観察する。予想通り、湖の周囲に人影は無いが、同時に照明となるような灯りも存在しない。戦闘の際には、気を配る必要があるだろう。
「そうだな、サクッと倒せば後は自由行動なんだろ? 初依頼だけど意気込んで張り切ってくぜっ!」
「能力者としての初依頼……気合いれていきますっ!」
 共に今回が初めての依頼となる華月・麗音(高校生ヘリオン・b33431)と文月・昇(中学生青龍拳士・b30087)が、気合を前面に押し出す。その意気や良し。
「ちらりと街中見たけど、街中観光地って感じだよな。外人もたくさんいたし」
「そうよね〜。明日は皆で観光を堪能出来るんだから、頑張りましょ♪」
 既に気分は観光へ。小蔵・大蔵(自宅警備員・b31735)とフィアッカ・フォンティーユ(アトミックガール・b30457)も楽しそうに声を弾ませる。カエル退治も忘れないで下さい、と何処かの運命予報士の声が聞こえてきそうである。
「温泉の前に朝霧なんやけど……巫女さんって何処にいるんやろか……」
 温泉を期待する一同の中で、朝霧を楽しみにしているヴィルヘルミーネ・タカナ(灰色子熊・b28381)が、知人から渡されたカメラを手に一人悩んでいる。朝霧と巫女。どう考えても結びつかない。
「でも、カエルってまだ出ないのかしら? いい加減寒く……っくしゅ!」
 物影に潜んで既に30分。盛大にくしゃみをするあかねであった。

●さらば両生類
「あの……寒くないですか……? 良かったらコレ、どうぞ」
「あら、有難う。気が利くのね♪」
 柳の木の下、寒風の中を歩くのは小蓋・裕太(アルバイター魔剣士・b30251)と、リディア・クライトン(妖艶なる剣士・b20049)。裕太は女性と2人きり、と言う状況に緊張しつつも、男らしく色々と気を使っているようだ。
 情報によれば、敵はこの柳の下を少人数で通りかかれば姿を現すらしい。そこで2人が囮となり、誘き寄せようと見張っているのだが……かれこれ30分間、その姿を今だ見る事は出来ない。
「そろそろ出てくるかしらね?」
「どうでしょうか……いい加減出て来てくれないと待機組が……ん?」
 ざばっ
 突然、僅かにだが辺りに水音が響く。何事か、と裕太が懐中電灯の灯りを向けた瞬間。突如暗闇から、真っ赤な長い舌が伸びる!
「きゃっ、いや〜ん♪」
 腕を捉えられたが、何故か嬉しそうなリディア。異変を感じ取った待機組も、即座に駆けつける。
 暗闇の中、懐中電灯で照らし出されたモノ。それはぬめぬめと輝く巨大な、体長2メートルはあろうかと言うカエル。
 その姿から敵と判断し、直ぐさま起動を終えた裕太と昇が、カエルの舌からリディアを解放しようと奮闘している間にも、戦闘準備を整えた者達がカエルの本体に対し、攻撃を開始する。
「さぁて、ライブ開始といくわよっ!」
 真っ先に動いたのはフィアッカだ。スラッシュギター『Largo』を構えると、一音を靡かせる。その音に誘われるように集まる炎が球体を形取り、直後にカエル目掛けて放たれる。舌が長いため、カエルの本体と囮の者達との距離が離れていたのが幸いした。仲間を気遣う事無く放たれたフィアッカのフレイムキャノンは、違う事無くカエルに命中する。
『ゲロロッ!』
 耳障りな悲鳴を上げるカエル。その衝撃からか、拘束から逃れた囮組が直ぐ皆と合流。僅かに負った傷は、ヴィルヘルミーネの白燐奏甲で即座に癒されていく。
「惜しい……な、妖獣でなけれ良き食材に……あ、いや、何でもない」
 危険な言葉を呟きつつ、拓也が日本刀を構える。その切っ先に集まるのは、放電を繰り返す雷の球体。極限まで大きくなった瞬間、放たれし雷の魔弾は避ける間も与えず、再びカエルへとヒットする。
 だが、敵もやられてばかりでは無い。攻撃の間が開いた瞬間、大きく息を吸い込むと。
『ゲロッ!』
 その口から猛スピードで放たれたのは、見るからに粘着質な液体。これが強酸性の唾――!
「……つぅ……!」
 狙われたのは吏緒。しかし瞬時に間に入り、攻撃をその身で防いだ者がいた。麗音だ。短く呻き声を上げると、その場に蹲る。運が悪かったのか、大きなダメージを受けたようで、その腕の衣服が嫌な匂いを発しながら煙を上げている。だが女性を庇って盾となる辺り、この場の女性にポイントを稼いだのは確実であろう!
「よくもやってくれたね……お返しですっ!」
「うんうん、大人数でタコ殴りにするのは中々爽快感があるな」
 怒りに燃える吏緒と、余裕綽綽の大蔵。2人が同時に長剣を構える。瞬間、その足元から伸びる影。腕の形をした影はカエルまで闇を貫くように伸び、ほぼ同時に直撃!
『ゲロロ〜ッ!』
 それはカエルにとって、避ける事の出来ない終焉。一声上げると霧散して消え失せていく。
「……本当に力押しだったなー」
 彗藍がしみじみと語る。大きなダメージを受けた麗音も幸い大事には至らず、ヴィルヘルミーネとあかね、女性二人の嬉しい回復により瞬く間に全快する。
「欲を言えば、アカネには是非『オトリのウデマエ』と言うものをヒロウして欲しかったな」
「いやいや、囮になったらあの唾を喰らうからな。まぁ女性の服が溶けるのを見たいのは、本当は俺もおな――」
 ジーヴの言葉に一郎が本能丸出しの回答を行う。が、その言葉は最後まで続かなかった。
「き〜こ〜え〜て〜る〜わ〜よ〜?」
 女性の服が溶けるのを見たいとは何事。あかねが思いっきり、その足を踏んづけたのだ。悲鳴を上げ、飛び回る一郎。
「……そぉ? 私は別に構わないんだけどぉ」
 いや、それは危険ですリディアさん。

●心に残る想い出は
 早朝、朝6時。
 暖かい布団の中で一夜を過ごした一同は、『狭霧台』と呼ばれる展望台に立っていた。周囲はまだ薄暗いのだが、辺りには既にちらほらと人の姿が見える。更にこの場所には簡易の喫茶室があり、早朝にも関わらず暖かい飲み物の販売など行っている。
「このパンフによると、この場所は一番有名で、一番景色のええ場所なんやて」
 ヴィルヘルミーネが暖かいココアを片手に、パンフを見ながら嬉しそうに語る。
 狭霧台はこの温泉街がある盆地へ続く、坂道の途中に存在する。この温泉街に来たなら一度は足を運ぶべし、とは一同が宿泊した旅館の女将の言葉。その言葉に従い、足を運んだ一同。夜明けを今や遅しと待ちわびる。
「! 太陽が昇ってきましたよ〜」
 どれほどの時間が経過しただろうか。昇の呼ぶ声に、一同が喫茶室から出て来た次の瞬間。
「うわぁ……」
「美しい、な……」
 あかねと大蔵が思わず感嘆の声を上げる。
 そこは一面、雲のパノラマ。盆地の中心にあるべきはずの街は、全く見る事は出来ない。まるで雲の海に沈んだかのような光景。
 昨晩死闘を繰り広げた湖も、宿泊した旅館も、町の中心部さえも、何一つ見えない。ただ広がるのは、朝日に照らし出された美しい雲海――。
「今まで様々な場所を見てきたが……俺もまだまだだ、な」
「……綺麗やなぁ……実際に見るのはほんまにすごいわ……」
 拓也とヴィルヘルミーネは、夢中でカメラのシャッターを切っている。この朝霧は、昼夜の寒暖の差が激しい時に起こる現象で、見られるのは朝日が昇り気温が上昇するまでの僅かな間。その神秘的な光景に、心を奪われ何度もこの地を訪れる者も多いらしい。
「金森さん、実は頼みごとがあるのだ。後でその……だ、鷹取さんへのお土産を……だ……」
 景色を楽しんでいたあかねに、拓也が何かを言いかけて口篭る。その様子にピンと乙女の勘を働かせたあかね。
「月乃ちゃんにお土産を渡すのね。いいわよ」
 二つ返事のOK。拓也も僅かに安堵した表情を浮べる。
 一同は霧が消え去るまで、その場の光景を目に焼き付けたのだった。

 再び街中へ戻った一同は、ゆっくりと中心街の散策を始める。次に訪れたのは――。
「オルゴール館……ここか」
 彗藍が指差したのは、木造の趣のある建物。看板には『オルゴールの森』と書かれている。ふらりと誘われるように足を踏み入れると、そこには。
「……凄い量じゃん! これ全部オルゴールかっ!」
 今度は麗音が感嘆の声を上げる。
 無理も無い。室内に所狭しと置かれたオルゴールは多種多様、数える事も出来ない程大量に展示されている。本物の卵の殻で出来たオルゴールから、最近のヒット曲を使ったオルゴールまで。果ては自作のオルゴールまで作れるらしい。
「作ってみようかな。イメージは……そうね。さっき見た朝霧。あれで作ってみようっと♪」
 フィアッカが早速オルゴール作成を申し込み、作業に取り掛かる。音楽に多大な興味を持つフィアッカらしく、完成したオルゴールは晴れ渡った秋空のような、素晴らしい音色を奏でる事であろう。
「な、なあ、金森。オルゴール作りやってみないか? 記憶や思い出を形にして残すってのも良いと思うんだ」
「そうね……じゃ、頑張って作ってみようかな」
 怪しくどもりながら、あかねを誘う一郎。その誘いを快諾したあかねだが、申し込んでいるその後ろで一郎がガッツポーズをしていたのは、見ていた皆以外には密かな秘密である。
 それぞれ、思い思いにオリジナルのオルゴールを作り上げた一同。これもまた旅の思い出である。

●温泉へようこそ!
 思う存分街中を探索した一同。この地で過ごす、最後の夜が訪れる。
「最初にはっきり言っておく。覗きはおススメしない」
 彗藍が脱衣所に入るなり宣言する。そう、彼は過去にもあかね達と共に温泉を訪れた事がある。しかしその際に、桃源郷を目指す勇者達が尽く撃沈したのも目にしているのだ。
「まぁ、無理にする必要もねーしな。湯船にジュース浮べて、温泉気分を満喫するだけにしようじゃん」
「それが正論でしょうね。ジュースも自販機の品物全て揃えてます。ゆっくりしましょう」
 腰にタオルを巻き、両手にジュースやコップの詰まった桶を抱えた麗音と裕太が、納得したように頷く。大蔵は既に一足先に湯船に浸かっており、持参したアヒル君を浮べて遊んでいるようだ。と、そこでとある事実に気が付く一同。
「そういえば、昇は?」
 その時。けたたましい悲鳴と共に、何か暴れるような大きな物音が響く。そして静寂が訪れ、それからしばらくした後。不意に男湯のドアが開く。
「……し、昇っ!」
 吐き出されるように放り投げられたのは、簀巻きにされた昇の姿。意識を失ってはいるが、鼻から垂れる一筋の血が、何が起こったのかを物語っているようだ。
「……今宵も犠牲者が1人、か」
 彗藍が遠くを見つめる目をして、ぼそりと呟くのだった。

「わぁ、ひろーい! 素敵な温泉だねっ!」
 一方、こちらは女風呂。女同士で気兼ねはいらないのだが、一応タオルで身体を隠した吏緒が嬉しそうに声を上げる。予想通りの露天風呂である。
 侵入者はあったものの、撃退し温泉を満喫しようと女性陣がお風呂場に集う。殆どの者はタオルで身体を覆っており、温泉が初めてというジーヴも皆に習い、その格好を真似ている。まぁ、拝観上等のリディアのみはすっぽんぽんなのだが。
「まずは湯船に入る前に、数回身体を流すんだよ」
「なるほど、オンセンってのはそういう風にするのがマナーなんだな」
 何事も初体験のジーヴに対し、親切丁寧に教える吏緒。見ていて微笑ましいものがある。とは言いつつも、男性陣に感化されたのか。ジーヴもジンジャーエール持参で、「湯船で一杯」をする気満々な様である。
「あかねちゃん、背中を流すわよ♪」
「え? え? い、いや、わたしはいいから」
「いいからいいから。ほら、裸の付き合いって言うじゃない♪」
「楽しそうね〜。あたしも仲間に入れて〜♪」
「いやぁぁ! 助けてぇ〜!」
 これが女の連帯感なのか。嫌がるあかねに対し、結託して迫るリディアとフィアッカ。あかね、乙女のピンチ。
 そして湯船の中から、そんな様子をじーっと眺める者がいた。ヴィルヘルミーネだ。
「(あの3人……胸大きいなぁ……うちもあないなれるんやろか……)」
 まだ小学生のヴィルヘルミーネ。まだまだこれからである。

「あいつら……声でかいな……」
 隣の女風呂から響く声に、彗藍や大蔵は気が気ではない。だが、覗きは紳士の行いにあらず。惑わされる事無く、誰一人動く者はいない。
「まぁ、楽しいのは良いこった。こっちはこっちで楽しもーぜ♪」
「ですね」
 麗音と裕太がコップにジュースを注ぎ、皆に配る。そしてグラスを掲げて。
「それでは、依頼解決と素晴らしい温泉、そして……出会いに、乾杯!」
「「乾杯ー!」」
 カチン、と皆が一斉にグラスを合わせ、一気に飲み干す。暖かい温泉に冷たいジュース、そして信じられる仲間達。なかなか良い物である。
「だから自分で洗うからぁ! 助けてぇぇぇ!」
 女風呂からは、なおもあかねの悲鳴が夜空に木霊していた。


マスター:嵩科 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:12人
作成日:2007/11/20
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