<リプレイ>
●小夜鳴鳥が鳴く前に 太陽が西の彼方へと完全に隠れる、少し前のこと。 『Cafe・ナイチンゲール』にて、制服姿の神凪・刹菜(高校生フリッカースペード・bn0010)が運営スタッフと打ち合わせを行っていました。自身が把握している範囲で、来客数はどれくらいになりそうか。また、どのようなものが持ち込まれるのか。パーティの流れはどうなるのか、など。どうやら開始前に詰めていけるところを詰めて、開始後は全力で楽しむ心積もりのようです。 その最中、 「こんばんは。ちょっと早いですけど、お邪魔しますよ」 番場・論子(バロネス・b03752)が、そう告げて入口を潜りました。手に提げた包みの中身は、お稲荷さんとのこと。 「手作りです、恥ずかしながら。それでですね、刹菜さん……」 他の方々も来ちゃいました、と。彼女の言葉を皮切りに、次々と(便宜上)開店前のカフェに生徒たちが訪れます。 「あなたたち、まだ開始前だって言うのに……」 「水臭いですよ、刹菜さん。私達だって三年生ですし」 「友達を手伝うのは、そんなにおかしいことかな?」 論子の言葉を緋勇・龍麻(龍の伝承者・b04047)がそう繋ぎ、 「前々から興味がね、あったんだ。駄目かな?」 「って、相棒がワガママ言うもんだからさ。ここはちょっと大目に見てくれねえか? 今ならなんと、俺達二人の労働力もおまけにつけちゃうしさ。どう?」 玖崎・真実(嘆きの小夜啼鳥・b05473)と風早・裕(風誓の剣士・b00009)が更に続けました。 「それにさ、クリスマスと言えばこいつが必要だろ?」 (「ワガママ男。かっこつけたがり。お節介焼き。後でどうしてあげようかしら、もう」) 敷武・雷(絆護りし紅蓮の閃撃・b03138)が、床に降ろしたもみの木を軽く叩きます。彼の側に控える神谷崎・刹那(漆黒の教誨師・b01301)は、どうやらツリーの装飾を持参した模様。彼女からそこはかとなく感じる黒さは、真冬の冷気のせいなのでしょう。きっと。 「身体が温まるとは言え、流石に重い品だ。早めに持ち込まねば売れ残ってしまいかねん」 八神・戒(鉄の戦蜘蛛・b33768)が、持参した深鍋を軽く叩き、 「こいつが加わりゃ、雰囲気良くなると思うんだけどなあ。ピアノだけってのも悪くないけどさ」 「どう、ですか。駄目なら駄目で、手は考えてあります」 その上で、サックス用のハードケースを軽く掲げ、黒詩・刹莉(シルバーラビット・b13464)と八霧・紫苑(刀使い・b06468)が駄目押しとばかりにそう続ければ、 「……解った。まあいいわよ、折角だし。人手はあるにこしたことないし」 刹菜は、受け入れる他ありません。 かくして準備は進み、パーティの開始時刻を迎えます。
●小鳥たちのトッカータ 西の彼方へと太陽が完全に沈んだ頃、時刻にして午後五時過ぎ。 『Cafe・ナイチンゲール』は、クリスマスパーティの会場として機能し始めました。 クリスマスパーティを行う上で最低限必要であろう品は揃い、クリスマスを祝う客もまた、ちらほらと集まり始めます。 刹菜を知る者や前々からこの催しを知っていた者、それに、早く訪れて準備に携わった面々に縁する者。また、生演奏の調べや食べ物の香りに惹かれた者など。様々な人々が手に品を携えてこの場を訪れ、談笑し、交流を深めています。 そしてここに、三角パック入りの苺牛乳を目の前にして、目を白黒させている少年が一人。 「苺……牛乳?」 「ああ。俺の一押し、この冬の……いや、この国のマストアイテムとすら言っても過言じゃないね。知ってるか? 苺牛乳」 「ええ、まあ、知ってますけど……」 僕はどうしてこんな人にひっかかったんだろう。そう、片平・怜磨(虚空を廻りし愚者・b28992)は内心でそう零します。 (「いや、決して悪い人じゃない。隅っこで一人きりの僕を気にしてくれたんだろうとは思う。思うんですけど……ああ七さん、姉様、僕は今大変なことになってます……!」) 目の前には、苺牛乳について熱く語る先輩の姿。手渡された苺牛乳は確かに美味しかったけど、いちごオレじゃ駄目なのかな。などと、胡乱な思考が浮かんだ刹那の後。運良く(?)彼の視界の端に、思い人の姿が映りました。 それは入口を抜け、持ち寄ったダージリンを好青年風のウェイターに預けた七織・七(真白なる影絵人形・b29768)でした。 「こっち、こっちですよ七さーん! あああ、今行きますから待っていてくださーいっ!」 「あ、怜磨さ……」 彼女の声は、人陰に紛れて消えてしまいそうな小柄な姿同様、談笑の中に解け消えてしまいそうで。だから怜磨は、目の前の先輩に頭を下げてから思い人を迎えに出るのです。 気にするなと片手を振り、怜磨を送り出す彼。その視線は怜磨達ではなく、入口で品物を受け取るウェイターへと注がれています。今日はそれなりに働いたし、もうそろそろ隅っこでだらだらしていても文句は言われないだろう。その時にでも軽く、サービスしてやるか。 そう決めて、真実の側へと向かう裕。 宴はまだ、続きます。
●比翼の調べ BGMからサックスが抜け、代わりにヴァイオリンが加わりました。 演奏するのは久遠寺・紗夜(光龍の蒼月姫・b05369)と天宮・龍巳(天象の調律師・b05868)。夢見心地でヴァイオリンを弾く紗夜と、ヴァイオリンの音色を支えるかのように絡み合う龍巳のピアノ。二人の奏でるクラシックの調べは、アンティーク風に統一された内装に酷くマッチしていて。賑やかではあるけれど慌ただしさを感じさせない、独特の雰囲気を作り上げていきます。 フロアの中程、やや後方の席に陣取る天見・日花(光輪のカノン・b00210)と鬼無瀬・織葉(白と黒のヴァルツァ・b28825の二人は、この場の雰囲気に誘われて足を運んだ者達の一部でした。 「織葉、いいの? 頼めば加えてくれそうだけど」 演奏者二人のほうを一瞥した後に、日花が問いかけます。 「ううん。今は弾くよりも聞いていたい気分だし、それに、ね?」 蹴られたくないわ、と。紅茶の香りを楽しみながら返す織葉。 「まあ、確かにお邪魔はね。……ちょっと我慢してようかな、私も。今は色気より食い気」 「私は、聞きたいけど? 日花の歌」 あの人に対する興味とは別で、と。微かに笑い声を零しながら織葉が視線を向けた先には、 「流石は先輩、何を着ても似合いますわね。……ふふ、眼福ですわ」 「全く、わたしはコスプレをしに来たんじゃないのよ……?」 何故か小豆色を基調としたメイド服を着た刹菜が、神薙・真名(緋色ノ魔剣士・b09202)にからかわれているという光景が広がっておりました。軽く肩を落とし、溜息混じりにそう零す刹菜に対し、 「それでも、着てくださったことには感謝いたしますわ」 悪びれずにそうのたまう真名。けれど、刹菜が食って掛かるようなことはありません。愚痴や文句も程々に、時にはメイド宜しく持ち寄られた料理を取り分け、時には談笑の輪に人を巻き込み。限られた時間の中で出来るだけ絆を結ぼうと、動き回っています。 そんな刹菜たちを見て、三船・琶月(夏幻遠儚魅音響夜・b08493)は、満足げに笑っていました。 「うん。綺麗な先輩達の仲が良いのは、素敵なことなのです。ねー、鈴音さん?」 と、近くに座っている九段下・鈴音(藍玉の巫女・b26367)にも同意を求めれば、 「そこでどうして妾に振るのじゃ。ただ、妾はじゃな……その……」 「うんうん。みなまで言うな、なのです。刹菜先輩はかっこよくって憧れるって、鈴音さんはさっき……はわっ」 「しゃーらーっぷ! すとーっぷ! どこがシャイじゃー!」 口封じとばかりに、彼女お手製の唐揚げ(?)を口に放り込まれてしまいました。 「い、いってないのれふよ……はむ。あ、味付けはなかなか……」 「お行儀がわるーいっ! 食べるか喋るかどちらかにするのじゃっ!」 「!!?? た、食べさせたのは鈴音さ……」 穏やかさとかしましさを内包しながら、宴は、終幕に向けて動き出します。
●ラスト・クリスマス#1 ソランジュ・アンベール(養花天・b30904)には、目の前にそびえ立つそれが何なのか理解できませんでした。既知の外に存在する品という意味合いで、既知外の品です。先程、論子に分けてもらった稲荷寿司は、彼女にとってはとても刺激的で興味深い品でした。 ですが、これは何かが違うのです。見知った物に類似こそしているのですが、何かが決定的に違う。 故に、彼女は問いかけます。 「あのぉ……これはぁ、本当にぃ、ジャポネーゼのプリンなのですかぁ……?」 「はい。日本で密かに流行っているスイーツ、バケツプリンです」 出品者、柊・小雪(白銀の雲・b27572)は淀みなく答えました。その手には、イベリコ豚のハムをあしらったピザが一切れ。 「流行っていると言っても、カルト的な意味合いに近い気がしますよ……」 「酷いです源夜さん、私(の持ってきた品)をカルト扱いするなんて……私、私……」 「そんなつもりありませんよ小雪さんっ! だからストップ、すとーっぷ!」 男には、例え相手が嘘泣きをしていると気付いてもフォローしなければならないときがある。阿門・源夜(風纏う愚者・b21774)は、出典不明のそんな教えを頭の中に思い浮かべながら紅茶を一口すすりました。砂糖やミルクなしでも口内に広がる甘みは、間違いなく高級な茶葉の証。おすそわけついでに少し話をした、紅茶に最近はまっているという先輩が強くこれを勧めていたのも頷ける話です。 「それにしても沢山食べますね、小雪さん」 「食べられるうちに食べる。基本ですよ?」 源夜はティーカップを降ろしながら、ゆるゆると吐息を零しました。 ソランジュから承諾を得たのを皮切りに、甲斐甲斐しく動き回っていた悟桐・頼人(翠林に佇む光の陰陽師・b03904)をも巻き込んでバケツプリン攻略隊を編成せんとする恋人の答えに目を細めつつ、思います。 こういうのも、まったりすると言うのかな、と。 気付けばヴァイオリンとピアノの調べはいつしか途切れ、何やら話し合いが始まっていました。 宴の終わりは、さほど遠くないところまで近付いてきているようです。
●ラスト・クリスマス#2 賛美歌の合唱が始まる少しだけ前。その瞬間しか有り得ない。 怜磨はそう、時期を読んで行動を起こしました。胸の高鳴りを抑え、そっと縮めた距離。意を決して放った、誓いの言葉。触れ合わせた唇と唇。 後は、可及的速やかに離れるだけ。なのに、そうできないのです。 離れたくない。もっと触れていたい。まるで、唇を重ねたことで何かのスイッチが入ってしまったかのようでした。定期的にオンにし続けなければ、心臓が破裂してしまうかのような。 (「こんなに沢山の勇気と決意が必要なんですね。好きになった人と触れ合う、って。……始めて知りました、姉様」) 内心、浮いた言葉を秘めながら。彼は、愛しい少女を誘います。 「……一緒に歌いましょう? 僕も貴女の為だけに歌うから、ね?」 彼女が首を縦に振る様を確かに認めれば、柔らかく笑みを浮かべて、伴奏が始まるのを……、 「OK、神凪センパイ。ちびっこカップルも準備完了みたい」 「って、えーっ!? ちょ、え、あ、そ……えええええ!?」 (彼にとっては)唐突に響いた草間・静音(ナイトダンサー・b02758)の言葉。その意味するところに気付いてしまえば、もう、取り乱す他有りませんでした。 誰にも気付かれずに行動を起こしたつもりが、実は衆人環視の状況下であったなんて。 しかも、恐らく最初から最後までばっちりと目撃されていたらしい、なんて。 「ひ、人が悪いですよ先輩方ぁ……!?」 「いやあ、ごめんごめん。流石にストップとか言えないしさ。……神凪センパイは見事に真っ赤だから、まあ、許して?」 「ヴェール越しで見えないとおっしゃるなら、めくって差し上げますわよ?」 「うっさいわよそこの二人っ!?」 へなへなと崩れ落ちる怜磨の頭上で、などと言う照れ隠しの罵声が飛び。 「だけどさ、雰囲気出るだろ?」 ヴェールを渡した張本人、闇野・啓(呪われし破滅の魂・b25609)が小さく呟き。 「……怜磨さんの為だけに歌いますから、聞いて頂けますか?」 七の囁きに、崩れ落ちた少年が再び立ち上がれば。 ヴァイオリンとピアノが、旋律を奏で始めます。パイプオルガンに負けじと、厳かに。 (「ごめん、ね。……今は暫く、時間をちょうだい……?」) 怜磨たちのキスシーンに紛れて、密かに何事かを交わし合った氷室・雪那(雪花の歌姫・b01253)と御巫・終凪(從冥入於冥・b00295)のように。 聖者の誕生を言祝ぐ歌を歌う者と聞く者、それぞれの感情を交錯させながら。 夜が、深まっていきます。
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参加者:29人
作成日:2007/12/24
得票数:楽しい1
ハートフル10
ロマンティック5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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