どこか古くて新しい


<オープニング>


 銀誓館学園のクリスマスパーティー。
 毎年、様々な趣向を凝らすパーティーが開催され、学園はクリスマス一色に染まります。
 冬休みを目前としたクリスマスイヴの日は、振替休日という事もあり、本当に様々なパーティーが開かれるようです。

 クリスマスパーティーは無礼講。
 たとえ、今まで一度も口をきいた事が無い人とでも、一緒にパーティーを楽しむ事ができます。
 クリスマスパーティーは、新しい友達を作る為のイベントなのですから。

 気に入ったクリスマスパーティーがあれば、勇気を出して参加してみましょう。
 きっと、楽しい思い出が作れますよ。


 仮初めの夜がそこに在った。
 暗幕を張った教室。
 冬の弱い日差しは遮られている。
 鋭く冷え切った空気から隔絶された空間。
 暖かさに包まれた室内は、淡い光で満たされた。
 各所に配置される照明器具。
 ランプやフロアライト――。
 それらに照らし出されるのは、レトロモダンな雰囲気に作り替えられた教室だった。
 歴史浪漫を感じさせる灯り。
 懐かしく、それでいて新しい世界が演出されていた。

『クリスマス・イヴのひと時は、レトロモダンな空間で紅茶の一杯を』
 そんな謳い文句がポスターを飾っていた。
 その下には、予算が足りないのでお菓子の持ち込み歓迎の文字がある。簡単な軽食がある旨は記載されているが、どうやらメインとして提供されるのは紅茶と静かな空間ということらしい。
「騒ぎから離れて、一息つくのもいいかも」
 ポスターを見た生徒が言葉をこぼした。
 お祭り騒ぎとなってる銀誓館学園のクリスマスパーティー。ゆっくりと落ち着いて話せる場所は意外と少ないものだ。
 真昼に開催されるパーティーだが、暗幕によって作られた雰囲気は独特なものだ。仮初めの夜で話に華を咲かせるのも悪くない。

 特別な日に、大切な誰かと静かに話せる場所を提供したい。
 それが主催側の意図のようだった。

マスターからのコメントを見る



<リプレイ>

 クリスマスのひと時を過ごす者達が、それぞれの想いを持って幾人も訪れていた。
「「「メリークリスマス!!」」」
 交流用の教室からクラッカーが鳴る音が聞こえてくる。
 仮初めの夜の中、そこではレトロな雰囲気を増す料理が振舞われていた。
 柔らかい灯りに照らされるのは、昭和レトロなオムレツにミートソーススパ。デザートにと冷凍パインも用意されていた。
「これくらいしか思いつかなかったけど……」
 場の雰囲に合うようにと龍麻が考え抜いた品々だった。
「ご好評でしたら、正式な商品化も考えています」
 同じく持ち込んだ品を振舞っているのは梨花だ。凝ったプリンの類も用意していたが、メインとなるのはタピオカ粉をたっぷり使った蒸しパンだった。
「それにしても、数日後には年も明けるというのに忙しい事だ」
 急遽呼ばれた場を、理解し切れていない誠一郎が呟く。料理を口に運びながら、緩やかな時間の流れる場に身を委ねていた。
「結局あいつら、こなかったのな。今度会ったらシメとくか?」
 剣呑な物言いの惣一郎に、首を横に振りながらも止めない誠一郎。
「新年早々の災難になりそうだが……まあ、今はメリークリスマス、だな」
「塩谷と一緒なのが気に入らないが……ともあれ、メリークリスマス」
 そこにあるのは、平和を感じられる戦友とのひと時だった。

「だからね、そのとき私は言ってあげたんです〜」
「はは、でも頼人くん、それじゃフォローになってないよ?」
 知人の話題で盛り上がるのは頼人とテオドールだった。
 共通の知り合いがいれば話にも華が咲く。持ち込んだラムレーズン入りのクッキーをつまみながら談笑は続いた。
 次第に話は変わり、テオはここにきた理由を頼人に告げる。
 自分を振り返りたかったこと。
 片思いの子のこと。
 届かない思いは――。
「気持ちを整理しないとね、うん」
 普段会わない相手だから言えること。
 頼人に話すことで落ち着いたテオは、冷めてしまったティーカップに口を付けた。

「うーん、沢山のお菓子がいっぱいで幸せ……」
 遠夜が思わず息を吐いていた。
 その横で春蒔が自分も用意してきたのだとはしゃぐ。
「じゃじゃーん! 冬限定ちょこれーとじゃ!」
 遠夜を驚かせたい。
 遠夜を喜ばせたい。
 だが、注意の欠けた動きは、机の上のカップを倒してしまっていた。
「わ! 橘さんっ…!?」
 お茶に濡れてしまった春蒔見て、慌てて遠夜が手持ちのハンカチで拭きにかかる。
(「あーやってしまったのじゃ……」)
 浮かれた気持ちも一転。
 沈んだ顔で大人しくする春蒔。
 それでも包むような優しさで接してくれる遠夜。
(「兄様のようで……何か違う気がするのぅ……ぬーん」)
 春蒔は自分の中の気持ちを、上手く言葉にできないでいた。


 仄明るさを感じる、もうひとつの教室でも言葉が交わされる。
 ドイツ菓子のシュトーレンについて、瑛実が拝音と上総に説明した。
 見た目は地味だが甘く、紅茶に良く合うこと。
 時間を置くと、より美味しくなること。
「だから私たちの仲も、時間をかけて更に深まれば良いなとか……」
 いつもとは違う安寧の時間は、思わず瑛実の本音を吐露させていた。
「いや、何でもない! 今のは忘れてくれ!」
 瑛実は顔を真っ赤にして声を荒げる。
「……少しずつ触れていくのも、これからの楽しみ、だな」
「緩やかに過ぎる時間を共有していけたら、私も嬉しい」
 真摯な返しを聞いて、照れ隠しに瑛実が軽く咳払いをした。
「そ、それはそれとしてだな」
 瑛実は拝音に『さんたさん』の解説を始める。
「さんたさんは思い出作りが仕事なんだ」
「……わざわざ旨い物を食いに来て遊んで行くというのも、忙しい話だな」
「良い物が有るわ」
 何か誤解している拝音に、上総が『さんたさん』の描かれたチラシを渡した。
「ケーキ屋さんで貰ったの」
「多分、先輩と蓮見になら会いに来てくれると思う」
 良い子にはプレゼントをくれるんだ。
 チラシに視線を落とす拝音と上総に、瑛実は優しく微笑んだ。

「どうやら、自分で食べてしまった……とはならずに済んだようだな」
 戒は言って笑いながら、ひなたが用意したアップルパイを口にした。
「ひどいなあ。あ、でもあたしも食べるからねっ!」
 いつかのお礼。
 今日はひなたが料理を振舞う番だった。
 だが、好物であるアップルパイの誘惑には勝てない。
「こっちもうまいけど、俺にも!」
 ひなたに頼んだカニクリームコロッケを味わっていた十六夜も声を上げた。
 その後も、戒の用意したボルシチで温まりながら三人は話を続ける。
 それは他愛もない時間。
 ソースから作ったというクリームコロッケに驚いたり、ピリ辛のボルシチに色々言いながらもお腹を満たしたり。
 だが、そこにある空気は確かな信頼。
 落ち込んだときに支えてくれる関係。
 満たされるのはお腹だけじゃなく――ひなたは想いを口にした。
「十六夜さん、戒くん。……ホントに、ありがとね」

 真魔の作ったザッハトルテを味わう餞は、紅茶を一口含んで喉を鳴らすと言った。
「思ったとおり絶品だな」
 かつては同じ結社で過ごしたふたり。
 久々に食べてもらう姿を見ながら真魔は満足そうに頷く。
「少し早いが……今年は世話になった。来年も宜しく頼むな? 餞」
 微笑む真魔に、餞も笑みで返した。
 この穏やかな時間も、いつかは消えてしまう。
 消えるからこそ、誰かと思い出を共有したくなる。
 餞は感謝した。
 ――共有する誰かが居ることを。

 律花の用意したラスクに、少しだけ手を付けた籐眞が口を開く。
「……まずは、こちらへの急な編入の件、ですね」
「結構、怒っているんだから」
「あまりに急に決まった事なので」
 謝罪しながらも、どこか追求を逃れる様子の籐眞に、律花はひとつだけ約束をさせた。
「もう……黙ってどこかに行ったりはしないで」
 淡い灯りがふたりを照らす。
「……貴女にはもう、悲しんでほしくないんですよね」
「……キミの事は、かなり気になっているんだから」
 考えはすれ違いながら。
 それでも想いは寄せて。
 ふたりの声にならない呟きは、静かに優しい灯りの中で消えた。

 犬を思わせる少年と、静かな藍の瞳を持つ少女が向き合っていた。
「皆と作ったので、良かったら……」
 そう言って嵐がケーキを差し出した。
「嬉しいな、ありがとう」
 晶が優しく微笑んだ。
 静かな暗闇を照らす、淡い輝きの中。
 自分の事、相手の事、家族の事、学校の事。
 晶の生き甲斐である音楽の事。
 もっと知りたい――その気持ちを。
 もっと知って欲しい――この気持ちを。
 ふたりは言葉を交わす。
 穏やかな時間の中、それは想いとなって心に残った。

「あ、味見はしてきましたから、見た目は悪いですが……大丈夫です」
「うむ、何事も挑戦することが大事じゃな」
 鴻之介に撫でられながら天華は思う。
 いっそ持って来ない方が良かったかも知れない、と。
「おいしい……です、か?」
「うむ、うまい」
 形は歪で、焦げたクッキー。
 それでも美味しいと言う鴻之介の笑顔に、天華の不安は薄らいだ。
「良かったです」
 再び、優しく天華の頭を撫でる鴻之介。
「失敗を不安がるよりも、成功したいと思う方が楽しい。だから、そう弱気にならずに、やりたいと思ったことはなんでもやってみて欲しいのう」
 説教くさいかと自嘲的に笑う鴻之介に、天華は首を横に振って応える。
 慕う人の真摯な言葉。
 それは教室を包む灯りのように、天華を包んだ。

 暗幕の闇の中、淡い光がふたりを照らし出す。
 祖父の名を継いだ少女『是空』の肩を章人が抱き寄せた。
 今日は、ふたりが寄り添い始めて一周年の記念日。
「今夜は何を作ってくれるんだ?」
 章人が優しく少女の藍色の髪を撫でた。
「まだ内緒です」
 白一色のクリスマス。白い服に着替えて、雪みたいなケーキを焼いて。
「楽しみにしていてください」
 静かな時間で再認識する互いの存在。
 これからもずっと大切にしたい。
 想いは、灯りと共にふたりを満たしていた。

 莱花が苦戦して作ったヨモギ餅。
 アキシロは少し驚きながらそれに見入っていた。
「食べてみて? 初めて作ったのだけど」
「従僕は主人と一緒に食事は取らないものですよ、お嬢様」
 莱花は首を横に振った。
 普段は莱花がアキシロに世話になっている。
 だからこそ――。
「私はお返しがしたかったの。与えられるばかりは嫌なのよ」
「……そうですか。それでは、本日は緑茶に致しましょうか」
 ゆっくりと食べ終わった後、アキシロから莱花に渡される小さな箱。
「来年のクリスマスも、一緒に過ごせるといいですね」
 プレゼントを贈ったアキシロは、そっと微笑んだ。

「ほら、みゆう」
「……、あ、あーん?」
 恋人の拓也が口元に差し出すケーキを、照れながらもみゆうは口にした。
 お返しとばかり、今度はみゆうが拓也の口元にケーキを持っていく。
「ほら、たっちゃんー♪」
 思わぬ反撃に拓也はうろたえた。
 泳ぐ視線が、みゆうの口元に付いたクリームを捉えた。
 拓也はそれを舐め取ってやろうかと、冗談まじりにみゆうをからかって難を逃れる。
 顔を赤く染めながらも、みゆうは思った。
 こうして気恥ずかしい思いをしながらも、ふたりきりで過ごせているのだから、何より幸せだと。
(「これからもずっと、一緒に居られますように」)
 ささやかな想いは、淡い光の中で静かに願われた。

 氷姫は、稜牙と過ごした一年を振り返る。
 思い出と共にそのとき感じていた気持ちが、いくつも氷姫の心の中に浮かぶ。
「好きだよ」
 気付けば、そう口にしていた。
 普段それを声にしない氷姫の突然の言葉に、稜牙の目が僅かに見開かれた。
「やっぱ……いいモンだな」
 稜牙は照れたように頬をかきながら。
「好きな人と過ごすクリスマス、っていうの」
 続けた言葉は微笑んで。
 言い終わったあとは、お互いに照れて視線を外してしまう。
「……あー、と。メリークリスマス、氷姫」
 静かに紡がれるふたりの時間を、氷姫と稜牙は楽しんでいた。

 暗幕と灯りが演出する教室。
 今日が特別な日であることを、夜守と樹に意識させた。
 耳を傾けなければ聞き逃してしまいそうな小声。
「……いつから」
 視線を外しながら夜守は問う。普段は決して聞けないことを。
「……私に、気を寄せてくれていたのだろうか?」
「ん、そうだなぁ……初夏ぐらいかな?」
 その辺から気にしだして、好きと気付いたのが運動会だと続けた。
「実は俺、結構前から好きだったんだよ? 夜守のこと」
 少し悪戯っぽく笑うと、不意に樹は夜守の額にキスをする。
「――っ!」
 突然のことに顔を赤くしながら、夜守は樹を問い詰めた。
「した理由? 夜守が可愛かったからじゃ駄目?」
 夜守の反応を楽しむように、樹は屈託なく笑った。

「なんてーか、その……気恥ずかしいな……」
 不慣れな雰囲気に、璃御は小さく呟いた。
 それでも、璃御はツカサと久々に過ごす時間に、自然と笑顔になっていく。
 紅茶の香りと味を楽しみ、そして語らう。
「ああ、璃御」
 声に反応して顔を上げた璃御――その唇にツカサの唇が重ねられた。
 突然のその行為に硬直していた璃御が、少し時間を置いてから我を取り戻す。
「なっ……お、お前なにすんだよー! うがーっ!」
 顔を真っ赤にしながら吠える璃御。
 それをツカサは周囲の迷惑になるだろうとたしなめる。
「璃御の唇見てたらキスしたくなったのでな、だからしてみただけだ」
 更に追い撃ちをかけるツカサの言葉に、耳まで赤くした璃御は黙り込んでしまった。

 工夫を凝らしたクッキーを、有栖はテーブルに広げていた。
「今日はクッキーも有栖ちゃんも独り占めですね。……何だか皆に申し訳ないです」
 雪兎は心躍りながらも、有栖がこの学園で巡り合った、大切な人達を思い出していた。だが――。
「雪兎さんになら、私のこと……独り占めして欲しいって思ってるわ」
 目の前の想い人が口にしてくれたのはそんな言葉。
 雪兎は、素直に自分の気持ちを伝えたいと思った。
「有栖ちゃんが大好きです。これからも一緒にいて下さい」
「……私も……雪兎さんのことが大好き……」
 照れながらも告げる雪兎に、有栖は微笑んだ。
 それは普段の冷静な面持ちとは違う、強く、感情のあふれる笑みだった。
「これからもよろしくね、雪兎さん」
 そっと短く、雪兎の頬に有栖の唇が触れた。

「雪は降るましょうか?」
 拙い日本語でアリスティドが話題を振った。
 だが、リリーは気恥ずかしさから短く答えるだけで会話が続かない。
 プレゼントを渡してしまおうと、意を決してリリーはアリスティドを見る。しかし、その顔があまりに真剣だったので気後れしてしまった。
「こ、紅茶のおかわり欲しいね!」
 羞恥から逃れるように、リリーが席を立とうとする。
 その腕を、アリスティドが優しくつかんで引き止める。
「……リリー」
 そこにあるのは、穏やかで真摯なアリスティドの瞳。
「ボクとお付き合いするしてくれるませんか?」
 突然の告白にとまどい、言葉を探すリリー。
 少しして、俯いたまま小さくリリーは頷いた。
 受け入れたリリーも、告げたアリスティドも――。
 ふたりは、互いに顔を赤く染めていた。

「クリスマスって特に恋人の日というわけではないと思いますが」
 理尋の黒髪がランプの灯りを受けて淡く光を返す。
「こういうのもいいものですね」
 言うと、理尋はくすりと笑った。
 自然体でいる理尋に比べ、対する影斗は酷く緊張していた。
 いつもは騒がしい場でしか会わない故に、こうして静かに相対するのは影斗にとって、酷く落ち着かないものだった。
「普段麻雀を打ちながらだと、皆居るので中々言えませんけど……」
 紅茶にどれほど口を付けただろうか。
「理尋さん……大好きです……」
 赤面しながらも影斗は意を決して、想いを伝えていた。

「……剛さん。あの……手、繋いで良いですか?」
「駄目な訳、無いだろう」
 剛の返答が嬉しかったのか、琉架はぎゅっと握り返していた。
 感じられる紅茶で温まった体温。
 剛は照れ笑いで返しながらも、隣に座る琉架を見つめていた。
 きょとんとする琉架の唇に、視線が絡む。
「キスしても、良いだろうか……」
 剛の予想外の言葉に、琉架は驚きとはにかみを見せた。
「……ん」
 承諾を意味する琉架の小さな頷き。
 鼓動を高鳴らせつつも、琉架は剛を直視できずに視線を逸らしていた。
 そんな様子を微笑みながら、剛は目を閉じ琉架に唇を重ねていく。
 淡い灯火に照らされ、静かに過ぎる僅かな時間。
 唇が離れた後、静まらない鼓動をそのままに、琉架が想いを告げる。
 言葉にして伝えたい気持ち。
「……大好きです、剛さん」
 瞳に灯りを揺らして。
 頬を赤く染めながらも、少女は優しく微笑んだ。


 移ろいを感じる燈灯の世界。
 新しく見つけたそれは――ずっと、そこに在ったモノ。


マスター:唯代あざの 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:45人
作成日:2007/12/24
得票数:楽しい5  知的1  ハートフル6  ロマンティック10 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。