失われたマフラー


<オープニング>


「フフフ……」
 男性は足を止めて、辺りを見回すと、暗い夜道には珍しいコートを着た女性が微笑んでいた。
 女性は滑るように歩いて近づいてくると、男性の首にあるマフラーを手にして顔を埋める。
 男性は驚きながら、手を宙で踊らせていると、女性が顔を上げた。
「マフラー…は?」
「は?」
「私のマフラーは…どこにやったの?! 殺してやる、殺してやる、殺してやるぅ!!」
 女性は怒り狂った形相で男性の首にかかったマフラーを引きちぎると、ヒールで蹴り倒し、咳き込む男性を踏みつけた。
 そのヒールの足元から出た鎖のようなものが、男性の目に映り……。
「殺してやる!」
 女性……いや、女性の姿をした地縛霊は、手を大きく振ると、鋭利な風の刃が男性に飛んだ。


「集まったようですね」
 桂・樹月(高校生運命予報士・bn0130)は、扇越しから集まった能力者を出迎えた。
「ある街の裏道に女性の地縛霊が現れ、男性が一人犠牲になりました。残念ながら、この男性はリビングデッドと化し、地縛霊とともに行動しています。このまま放っておくと、犠牲者も増えるだけです。一刻も早く、地縛霊とリビングデッドを退治してください」
 樹月は、開いていた扇を閉じ、一枚の地図を差し出した。

「地縛霊は、日が完全に暮れた夜に、この細い裏道にマフラーをした男性が一人で歩いていると現れます。出現する場所はここです」
 樹月が示した場所は、街の住宅街から少し離れた所にある道の中央。周りの道より細く描かれ、見る限り長い道ではないが、民家がまばらに隣接している。
「裏道は大人2人がすれ違うと、肩が触れるほどの狭さです。ここは、隣接している民家の裏側に位置するため、民家に住む人が通ることはなく、深夜の12時を過ぎれば、朝まで誰も通ることはありません。もし、道で戦闘がしづらければ、道の中央から少し離れた場所に空き家があります。塀などの障害物はありませんので、こちらを利用するのも手でしょうが、偽装できる範囲までの被害に抑えてください」
 樹月は、地図から指を離した。
「地縛霊は、コートを着た20代の女性で、マフラーはどこにやったのかと聞いた後、殺すと叫びながら攻撃してきます。手を大きく振ることによって飛ばされる鋭利な風の刃が最大の武器で、追随するリビングデッドは、まだ腐敗が始まっておらず、俊敏な行動で女性を守るように身体攻撃をしてきます」
 樹月は、瞳を閉じたまま扇を開いた。


「何故、地縛霊がこの裏道に現れるかはわかりませんが、一般人を守るためにも、ゴーストは退治しなくてはいけません。みなさん、無事に帰ってくるのですよ」

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参加者
葉月・玲(高校生青龍拳士・b00462)
咲守・斗哉(竜脈の防人・b01336)
敬櫻院・囁(愛と自由と好奇心の貴公子・b01369)
月守・千歳(剣舞の巫女・b03239)
冬木・誠一郎(高校生フリッカークラブ・b04066)
上山・誠示郎(駆け出しの剣士・b05167)
波多野・のぞみ(這いずる者達の女王・b16535)
シャンフォン・チュン(黒衣のトンデモ少女・b18843)
九業・時経(愚者・b19544)
鈴原・彩乃(紫陽光・b24140)



<リプレイ>


 さっきまで過ごしていた日付が変わり、新たな時が刻まれる。
 一般人が通らないという時間を選ぶと、静かな夜が訪れていた。
 裏道の入り口に集まった10人は、家に阻まれた細い道を確認すると、マフラーを巻いた敬櫻院・囁(愛と自由と好奇心の貴公子・b01369)に視線が集まった。
「マフラーヘビーユーザーとしては、野放しに出来ないからね。早く退治して、夜道に平穏を取り戻さないと…」
 まるで、張りついた仮面のように笑顔を絶やさない囁は、下がっているマフラーをもう一度首に巻きつけた。
 囮となる囁の準備は整っている。
 いつでも地縛霊をおびき出せる時間に、9人が二手に分かれようとしたとき、葉月・玲(高校生青龍拳士・b00462)が、ちょっと待って、と仲間を呼び止めた。
「2班に分かれる前に、作戦を再確認しておきたいの。依頼を成功させるためにも、隊列とか、地縛霊が現れた時の確認方法とかを念入りにね」
 地縛霊を倒す今からかと仲間は思ったが、玲の言葉にも一理ある。
 改めて見る裏道の狭さに、9人は玲を中心に囲んだ。
「まずは、A班とB班に分かれて、この裏道を挟む込む形で待機よね。一度、班ごとになってみよう」
「にゅ、あたしは玲さんと一緒だよ」
 月守・千歳(剣舞の巫女・b03239)が元気よく玲の隣に飛び跳ねる。
 続いて、シャンフォン・チュン(黒衣のトンデモ少女・b18843)、九業・時経(愚者・b19544)、冬木・誠一郎(高校生フリッカークラブ・b04066)が並び、反対側に、囁を中心に鈴原・彩乃(紫陽光・b24140)、波多野・のぞみ(這いずる者達の女王・b16535)、上山・誠示郎(駆け出しの剣士・b05167)、咲守・斗哉(竜脈の防人・b01336)が集まる。集まった顔ぶれに、間違いはない。
「囁くんはここから、裏道に入る?」
「そのつもりだよ」
「それじゃあ、わたし達は向こう側ネー。このまま、裏道突っ切っていいネー?」
「向こうで回り道が出来ただろう。これから襲撃する相手の前をわざわざ通ることはないと思う」
 シャンフォンがまっすぐ指した先を、斗哉は別の方向を指す。
 どうするかで行く先を少しもめると、出現条件には当てはまらないが、無駄に精神を消耗することもないと、迂回する方法で話がまとまった。
 ならば、迂回して向こう側についたとき、どう合図するかに話が移ると、誠一郎が持っていた懐中電灯をつけ、準備が出来たら懐中電灯の明かりを大きく左右に振ると、提案してくれた。
「じゃあ、合図をしたら囁くんが、裏道に入って地縛霊をおびき寄せるということで、いいわね。そして、地縛霊を発見した場合は、懐中電灯か何かかしらで合図かしら」
 玲が尋ねると、囁が笑顔のまま携帯電話と懐中電灯を取り出した。
「携帯電話を通話させてまま、声をあげて伝えるつもりだったけど、懐中電灯も使った方がいいかな?」
「携帯電話ですと、一方にしか伝わらないですわね。携帯電話はこちら側と連絡していただいて、わたくしがヘリオンサインで、そちら側に連絡するという形はどうでしょう?」
 おっとりとした口調で彩乃が上を指さすと、誠示郎が携帯電話を自慢げに広げた。
「携帯電話なら、俺に任せてくれ。ギリギリまで充電してきたから、電池切れにはならないぜ」
「もし余裕があれば、一刻も早く駆けつけたいから、懐中電灯でも合図してもらえるといいな」
 時経の言葉に、囁は「いいよ」と答えて懐中電灯を何度か点滅させた。
「あとは、最後に隊列を確認しておきんだけど、これはそれぞれの班で確認してからでいいかしら。道も狭いから、行動を阻害しない範囲で並んだ方がいいと思うのよね」
 玲がそういうと、2つの班はそれぞれで陣形について語り出した。
 話し合いが終わると、玲達の班は、千歳と時経が前衛となり、中衛の玲を挟んで、後衛に誠一郎とシャンフォン。囁達の班は、誠示郎と斗哉が前衛に、中衛をのぞみとし、後衛に彩乃として、囁は出来れば中衛、出来なければ前衛ということになった。
 地縛霊を挟み込むとき、迅速に動けるよう、互いの位置を頭にいれ、玲達の班は動き出した。振り返った誠一郎が、額に当てた指を気前よく掲げた。
「じゃ、向こう側で会おうぜ」


 裏道の向こう側に、小さな灯りがともり、ゆらりと左右に揺れた。
「着いたようですわ」
 彩乃が光を確認すると、イグニッションを唱えた囁が一歩踏み出した。
「じゃ、行こうかな」
 すると、携帯電話が鳴り、受話器を耳に当てると、
「このままにしてくれよ」
 肉声から少し遅れて、受話器から同じ言葉が繰り返させる。
 誠示郎がにっと笑うと、囁は通話状態にしたままポケットにしまった。
 目の前にある光が消えると、囁は「皆さん、よろしくお願いします」というのぞみの言葉を聞きながら、裏道を進んでいった。

 電灯もなく、うっすらと見える地面に隣接する民家の塀を通り過ぎ、また一つ通り過ぎる。
 そろそろ、裏道の中央に当たるところだろうと囁は、歩調をわずかにゆるめていると、女性のか細い笑い声が飛び込んできた。
「フフフ…」
 囁は足を止めて、聞こえてきた方向へ振り向いた。
 いつの間にいたのか、コートを着た女性が滑るように囁に駆け寄ると、マフラーを手にして顔を埋めた。
 女性の足下に目を移すと、鎖のようなものが続いている。
「出たよ!」
 囁は大声をあげると、手に持っていた懐中電灯を両側にいる仲間に見えるよう、上に掲げて地縛霊の存在を知らせる。
 同時に、彩乃のヘリオンサインが空中に現れ、地縛霊の出現を向こう側に伝えた。
 囁は、地縛霊にマフラーをどこにやったのかと聞かれ、笑顔で地縛霊を見下ろした。
「残念ながら、私はしらないよ」
「殺してやる……殺してやるぅ!」
 怒り狂った形相に変わった地縛霊は、囁のマフラーを引きちぎると、足を掲げてヒールで蹴り上げてきた。
 囁は、地縛霊の攻撃を紙一重でかわす。
「避けるだけで、精一杯…だね」
 背中に何かが辺り、塀にしては柔らかいと振り向くと、乾いた血に覆われた男性が囁の脇に手を入れて動きを拘束した。
「しまっ…!」
 地縛霊の動きに、リビングデッドまで気が回らなかった。
 地縛霊は、取り押さえられた囁に腕を振り上げる。
 現れる風の刃。
「囁!」
 暗い道に灯りを激しく揺らして駆けつける仲間は、止められない地縛霊の攻撃を目の当たりにした。


 無防備にさらされた体を斬りつけた囁は、悲鳴をあげると、リビングデッドの腕に支えられるように体を崩した。
 地縛霊の攻撃がどれくらいの強さかはわからないが、囁の身が危ないということだけはわかる。
 誠示郎は持っていた懐中電灯を道端に投げ捨てると、即座にダークハンドをリビングデッドにのばし、再度攻撃をしかけようとしている地縛霊を牽制しようと、斗哉はバレットレインを降らせる。
 突然の攻撃に、地縛霊とリビングデッドは体をすくませると、囁はリビングデッドの腕から抜け出し、ふらついた体を立て直して、向かってくる仲間の元へ向かった。
 しかし、すぐに攻撃の余韻から抜けた地縛霊とリビングデッドは、逃げ出した囁を捕まえようとする。
 リフレクトコアをかけた彩乃が、後方からリビングデッドに向かって光の槍を放つと、斗哉は地縛霊達の後ろにいる仲間に向かって叫んだ。
「地縛霊を止めてくれ!」
 今にも攻撃をしかけてきそうな地縛霊に、リビングデッドを狙おうとしていた千歳と時経は地縛霊に向けてダークハンドを伸ばし、魔弾の射手で攻撃力をあげた誠一郎も炎の魔弾を撃ち込むと、玲からギンギンパワーZでもらったドリンクを一気に飲み干しながら、シャンフォンは治癒符を手にした。
「よけるネー!」
 シャンフォンの前にいた玲、時経、千歳がとっさに道を空けると、のぞみに手を引かれた囁の背に、地縛霊達を通り過ぎた治癒符が傷を癒す。
 しかし、まだ回復し切れていない様子に、のぞみは後方へ連れてきた囁に白燐奏甲をかけた。
「今、回復しますね」
「悪いね。私は、ここで死ぬわけにはいかないんだよ。……幸せになるために」
「え?」
 聞こえなかった最後の下りにのぞみが聞き返すと、囁は笑顔のまま立ち上がって、雷の魔弾を掲げた。
 10人に挟まれた地縛霊は、ゆっくりとうつむいていた顔を上げると、スッと細い指を囁に向けた。
「殺して……やる…」
 地縛霊は指を向けたまま、突進してきた。
 のぞみは、白燐光で白燐蟲を四方に放つと、地縛霊達を中心に周りが見えやすいよう、淡い光の空間を作り上げた。
 後ろには行かせないと誠示郎が構えると、地縛霊はまっすぐ斗哉に向かって足を振り上げてきた。
 腹部を蹴り上げられた衝撃に斗哉がかがむと、リビングデッドが地縛霊にダークハンドを伸ばそうとしていた誠示郎に、拳を振り上げてきた。
 寸発でかわすと、地縛霊達の後方からリビングデッドに向かって攻撃が飛んできた。
「行けっ、ダークハンド!」
 千歳と時経がダークハンドを伸ばし、シャンフォンがフレイムキャノンを撃ち放ち、誠一郎が炎の魔弾を飛ばす。
 少しでも周りに危害を加えないよう、玲はスピードスケッチで簡略化したリビングデッドの絵を体当たりさせる。
 まだ、強力な力を得ていない若いリビングデッドは、背後からの総攻撃に唸りながら振り向くと、今度は前から彩乃の奥義である光の槍で攻撃され、一唸りすると膝を折った。
「これで、残るは地縛霊のみっ!」
 千歳は握り拳を作ると、武器の大太刀「月陽炎」の刃先を向ける。
 地縛霊は倒れたリビングデッドに見向きもせず、再び斗哉に目を向けると、腕を大きく払った。
 風の刃が吹き飛ぶ。
 前にいた斗哉だけではなく、側にいた誠示郎も切り裂いた。
 彩乃がすぐに祖霊降臨で、ダメージが蓄積された斗哉を回復させる。
 前から囁が雷の魔弾を放つと、背後から千歳が妖気を具現化させた炎を武器に宿した紅蓮撃で、思い切りたたきつけてダメージを与えた。
 封術され、武器攻撃に切り替える千歳の横を時経がすり抜け、続けて武器の日本刀で斬りつける。
「なかなか過激な気性の持ち主のようだが、殺すという言葉は叫ぶ台詞じゃないな」
 地縛霊は、時経の首に巻かれているマフラーに目を見張る。
「私の……マフラー……」
 様子が変わった地縛霊に、シャンフォンと誠一郎は、胸に嫌な予感を抱き、急いで攻撃を放つ。
「私の……!」
 地縛霊は、10人に対して横を向くと、両腕を掲げて、激しく振り下ろした。
 それぞれの班を大きい風の刃が襲い、前衛にいた4人を負傷させる。
 しかし、なぜか斗哉と時経の怪我が酷い。
 切られたマフラーの端が落ちる。
「殺してやる!」
「マフラー……これか」
 斗哉が口の端をぬぐうと、限定空間で戦闘訓練したことを思い返しながら、突進的な奥義のロケットスマッシュを放った。
 仲間も次々と攻撃を繰り出すが、地縛霊も負けずと攻撃を繰り出す。
「下がれ!」
 時経と斗哉は隣にいる前衛の相方に指示すると防御を構える。
 狙らわれている対象が分かっている今、無駄な負傷者を出す必要はない。
 攻撃をくらい、彩乃、玲、シャンフォンに回復してもらう中、攻撃できる仲間がアビリティや武器を放つ。
 地縛霊は次の攻撃を出す隙を与えない攻撃に、悔しそうな声を荒げた。


 荒ぐ息が静まった空間に響いた。
 肉体的には動いていないが動きしづらい狭い空間と、攻撃を与えるタイミングに使った精神的疲労が大きい。
 地縛霊が消えて、しばらく様子を伺っていた10人は、安堵の息とともに武器をおろした。
「うにゃ、終わったね」
 千歳がにこっと笑うと、地面に倒れているリビングデッドに目を落とした。
「多分、通り魔か何かの仕業になると思うから、男性の遺体はこのままにしておきましょう」
 完全な屍となった男性が、早いうちに誰かに発見されることを、玲は願う。
「怪我の痕もありますから、怪しまれないですわね」
 彩乃は、リビングデッドの肩から胸にかけて切り裂かれた傷を見下ろして、戦いによる周辺の損傷を調べ始めた。
 のぞみは、白燐蟲の光を強くして、周辺を見回る。
 地縛霊が攻撃対象を絞っていたせいか、塀に出来た傷は浅い物だった。
 投げ飛ばした懐中電灯も回収し、後片付けも終わったところで、誠示郎は線香に火をつけて道の端に横たえた。
「女って、怖いなぁ。くわばらくわばら」
 地縛霊と犠牲者の冥福を祈りながらも、本音を隠しきれなかった誠示郎は呟く。
「哀しい夢は終わりヨー。やすらかに眠るネー」
「何があったかは知らないが、来世を信じるなら、恨まなくていい相手にめぐり逢えるといいな」
 シャンフォンと時経が倒した相手に祈りを捧げ、全員が手を合わせ終えると、のぞみが白燐蟲を手の中に戻した。
「蟲達、お疲れ様」
「物騒な事件だったな。なぜ地縛霊がああなったのか、真相を知りたい気もするが、限りなく知ることは難しいだろう」
 暗くなった裏道で、斗哉は空を見上げる。
「とにかく、これで安心だね」
 囁がいうと、誠一郎は依頼の成功に上機嫌で一伸びし、
「俺にも、マフラーをくれる女とか欲しいもんだ。ただし、地縛霊にならない子で」
 首に巻いていたマフラーを外した。


マスター:あやる 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2007/12/29
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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