ひとぺったん


<オープニング>


 お日様輝く、爽やかな朝の事。
 お餅をつくための木槌……杵を肩に乗せ、意気揚々と歩く老人が一人。
 目指すは町の、大きな公園。本日行われる餅つき大会。
 隠居生活を楽しんでいる老人にとって、それは生甲斐の一つであったから。
 ――ほら。耳を澄ませば聞こえてくる。杵で餅つく軽妙な音が。
「……?」
 否。それはおかしかった。
 まだ餅つき大会が始まるまで一時間はある上に、会場までの距離もかなり離れていたのだから。
 老人は音のした方に視線を移す。そこに居たのは、臼に放り込まれた白い物体を杵でつく少年。
 異様な様子に、老人は腰を抜かす。大きな音を立てて。
 音に気がついたのか、少年が老人の方に顔を向けた。後、張り付いた笑みと共に近づいてくる。
 重いであろう杵を持ってなお軽快に動く、子供らしからぬ姿。老人は言葉を失い、動けない。
 ――動かない獲物を、殺すのは容易い。
 少年は、老人に向かい杵を振り下ろす。そうすれば、ほら……。
 ひとぺったんの、できあがり……。

「色々と忙しい時期にすまないが、事件が発生した」
 挨拶は手短に。
 秋月・善治(高校生運命予報士・bn0042)は頭を下げた後、早速本題へと移っていく。
「事件が発生したのは、とある住宅街。現れたのは、特殊空間を持つ地縛霊だ」
 今のところ被害者はいない。
 だが、運命予報により、赴く当日、その特殊空間に囚われてしまう者が存在する。
「囚われるのは、長浜総一郎。今年七十歳を向かえる、ご老体だ」
 そして運の悪いことに、交通などの関係上現場に辿り着くのは、長浜老人が囚われた直後。
 つまり、放置しておけば、確実に被害が出る。
 その前に、退治しなければならない。
「それでは具体的な説明に入るぞ。まずは場所だな」
 善治は地図を広げ、住宅街の一角に丸をつけた。
「この辺りに、空き家となっている住居がある。特定の条件下にその前の道を通った場合、特殊空間に引き込まれる。条件は、朝方に杵を持って、その道を通ることだ」
 もっとも、今回は長浜老人がその条件を満たしてくれるため、その部分を考える必要は無い。特殊空間に誰かが引きずり込まれた直後なら、能力者ならば容易に侵入可能なのだから。
「続いて、特殊空間の地形だな」
 地形は、中心に臼の置かれた広い庭。
 地面は固く、広さも十分。戦うにも長浜老人を保護するにも、十分な空間があるため、有利不利は発生しない。
「それでは地縛霊の特徴に移ろうか。まず、少年である事が挙げられる」
 服装などに特異な点はない。ただ、どう見ても大人用の杵を、軽々と持ち上げているため、見間違える可能性はないだろう。
 続いて戦闘方法について。
 通常は手に持つ杵を横薙ぎに振るう攻撃。中程度のダメージと、吹き飛ばしの効果がある。
 特殊なものは二つ。
 一つは餅のような物を大量に生み出し、四方八方に飛ばす行動。ダメージは無いが、締め付けとブレイクの効果を持つ。
 もう一つは、杵を大上段から振り下ろし、目標を叩き潰す攻撃。体力の高いものでも、直撃すれば意識を失いかねないほど威力が高い。幸いなのは、移動と同時には放ってこない点だろうか。
「また、地縛霊は、一番初めに長浜老人を叩き潰そうと行動する。邪魔され無い限りな」
 邪魔されたならば、邪魔した者に攻撃対象を移すだろう。
「以上が、今回の情報だ。元に策を考え、行動してくれ」
 説明を終えた善治は、一度息をつく。後、優しく微笑みながら、関係する話題を紡ぎ始めた。
「当日、近くで餅つき大会が開かれている。長浜老人も、それに参加するつもりなのだろう」
 故に、と善治は声音を強めた。
「長浜老人をいかに救出するにせよ、何らかのフォローを行って欲しい。毎年楽しみにしているイベントだ。参加できないのは、とても悔しいだろうからな」
 告げた善治は、続けて締めの言葉を皆に告げていく。
「それでは頼んだぞ。確実に地縛霊を倒し、長浜老人を救ってきてくれ。吉報を、待っている」

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参加者
天地・太陽(バカ・b02994)
轟・ツバメ(鉄ちゃん・b04795)
異黙・義和(三毛猫迷走曲・b17356)
銀・桃香(三日月の華・b29757)
新條・守人(空の彼方・b30725)
暁・明美(パッションパープル・b32092)
閂・枢(守護者・b34061)
池澤・小結(平凡と平穏の守り手・b35075)



<リプレイ>

●ついていいのはお餅だけ
 太陽が街を照らし出し、冷たく澄んだ空気が漂う朝の事。住宅街を、急ぎ足で通り抜ける能力者。
 全ては、地縛霊に襲われんとしている長浜老人を、救うため。
「ふぁぁ……参るな。年明け早々朝っぱらから」
 あくび混じりに言葉を吐くのは、新條・守人(空の彼方・b30725)。冷気は程よく肌を刺すが、それでも頭に溜まる眠気を払ってはくれないらしい。
「ま、そうも言ってられないか……」
 けれども、サボるわけにもいかない。守人は頭を振りながら、この度の目的を再確認し、再び視線を前に定める。
 時折漏れる呟きを除けば、言葉はほぼ無い。意識は長浜老人。そして、杵を持つ少年の地縛霊へと、向けられていたから。
「……人をぺったんしちゃダメだよな」
 地縛霊に意識を向け、その姿を想像した天地・太陽(バカ・b02994)。
「ぺったんはお餅と胸だけで……」
 先の言葉だけなら皆に共通する想いだったろうに。つい口に出てしまった一言を拾われ仲間に睨まれて、しまったと両手で口を塞いでる。
 ともあれ、行程は順調。地図を頭に叩き込んできた閂・枢(守護者・b34061)の先導により、数秒前まで老人が居たと思われる、特殊空間の入り口に一行は辿り着いた。
 誰も顔を見合わせる事は無く、一目散に飛び込んでいく。
 命を、救う為に。

 近い場所には、古びた杵を取り落とし、腰を抜かしている長浜老人が。少し遠くには臼と、自分の背丈より高い杵柄を構える少年の地縛霊。
(「まだ少年なのに、正月の餅つきでどんな無念があったか知らないが、困った相手だな」)
 姿に、銀・桃香(三日月の華・b29757)は想い抱きながらコアを発生させる。
 視界に入るのは、老人に駆け寄る暁・明美(パッションパープル・b32092)たち。そして、異黙・義和(三毛猫迷走曲・b17356)が放つ炎。
「悪いが、こっちの相手をしてもらう!」
 地縛霊が残り火に焼かれた頃合に、桃香は光の槍を投げつけ牽制となした。
「私が本当の槌の使い方を教えてあげるわ!!」
 続いたのは、轟・ツバメ(鉄ちゃん・b04795)の燕マークの槌による強き一撃。吹き飛ばす事は叶わぬものの、少年の気を引くには十分で。
「お爺さん、大丈夫です。私たちがきっと、導きますから」
(「平凡でも、平穏な世界へ」)
 数回の打ち合いが終わる頃にはもう、池澤・小結(平凡と平穏の守り手・b35075)が長浜老人を敵の射程距離外へと運んでいた。
 後、富樫・出澄の歌声により眠りにつかせる事ができたなら、本格的な戦いへと参ろうか。

●ひとぺったんになんてさせはしない!
 長浜老人を眠らせたのは、世界結界を守るため。それ以上に、彼自身を救うため。
 原因たる地縛霊は、笑っている。邪に口の端を持ち上げて、いやらしく笑ってる。
 ならば姿に怒りを感じるのも、道理。
 横なぎに払われた杵を、明美はステップを踏んで避ける。
「ご老体に対するその行為、情状酌量の余地は無しだな」
 相応の……いや、それ以上の対価を払ってもらおうと、避けた勢いのまま明美は動いた。地縛霊を、惑わすように。
 地縛霊が動きに翻弄されてできた隙を見逃さず、鋭き蹴撃を叩き込む。
 刹那、ダメージを受け若干バランスを崩したのを見逃さず、桃香が光の槍を投げつけた。
 攻撃の手数はこちらが上。そして、片桐・彩音らにより補助が、多数の癒しがある。防がれる事も多いといえど、体力は確実に削れている。
 先ほどツバメに近づいていた地縛霊が、身の丈に似合わぬ杵を、高々と振り上げる。
「その攻撃が厄介なのはよーく知ってるから!!」
 振り下ろされた重々しき一撃を見切り、ツバメは受け流す。
 攻撃した後すぐ動くのは困難であるが故、近接攻撃を主とするならば敵の最も強き一撃を受ける可能性を常に気にする必要がある。
 ならば避けるのは諦め受け止め受け流すのが最良との判断。
 成し得るための観察と、大きな動作を読むのはある程度容易いとの読みは、概ね正しい。
 もっともその威力は高く……ダメージを全て殺しきる事は、できなかったけど。
「杵はお餅をつくための物です。人を叩くなんて言語道断! そんな間違った使い方は、私が許しません!」
 ツバメが杵を弾いた間隙に、白く小さな花をつける飾りのついたネックレスを揺らしながら、小結は雷を差し向ける。
 直撃はせず、目的である足止めは叶わなかったけど……小さくは無いダメージは、与えてる。
 刹那、横合いから放たれた枢のオトリ弾が、この度初めて直撃した。
「枢から逃げるなんて許さない。……目を離したら殺すから……」
 それは、地縛霊が怒りに囚われ、枢に狙いを定めた合図。
(「杵は普通に武器有効だから、叩かれたらいたそうだけどね……」)
 枢はカーキ色のコートをはためかせ、守りを固めながら続く攻撃に備えてる。
「おっと、ここは通さへんで」
 牙と茨姫の名を持つ二つの得物を構えつつ、義和は地縛霊の道筋を塞ぐように立ち回る。枢の元まで辿り着かせなければ、攻撃を受ける事は無いのだから。
 そう。地縛霊が怒りに囚われている今が、攻撃のチャンス。
「餅つきも戦いもパワーが命だぜ!!」
 赤黒く不気味なハンマーを振り回し、太陽が強い衝撃を与えたなら。
 小結の雷が、体の芯まで痺れさせる。
 そして、多数の攻撃が重なった後、地縛霊が呪縛から解き放たれた。
「来るぞ!」
 叫ぶ義和が見たのは、生み出される餅。それは巨大な白い餅。
 天高く掲げられ、四方八方へと千切れ飛ぶ。
「く……けど……!」
 運よく逃れることのできた明美だが、見回せば半数の仲間が餅に囚われ動けない。
 ならば今は守りの時か。彼女はドリンク剤を生み出しながら、敵の攻勢を抑えるべく古風なナイフを構え直した。
「もう一度……!」
 後ろに立つ小結は、敵の攻撃を縛るため今一度雷を放つ。
 注意を引くことは出来たが、直撃させる事がで傷縛ることは叶わなかった。
「皆、今解き放つ」
 後、幾人かが締め付けのダメージを負った頃合に、桃香は舞った。邪を払い、解放する舞を。
 生じた清浄なる空気は呪縛を祓い、全ての者が自由となる。
「……何度だって、やってやる……」
 自由となった枢はいち早く対応し、赤く不快に点滅する弾を生み出す。
 放つそれは有効打とはならなかったけど……確実に体力は、削れてる。ダメージを蓄積させる事が、できている。
 癒しも補助も充実し、攻撃の手もほぼ緩めない攻勢。終始有利に立ち回る能力者たちに、敗北の影など生じるはずもなく。
「小さいなりでよくそんなもん振り回すな……。誉めてやりたいが、そうもいかないからな」
 どこか呆れたような、感心したような守人の言葉。
 共に放つ無銘の太刀は影の軌跡を描き、地縛霊の肌を切り裂いて。
 続く太陽の一撃は、地縛霊の胴を強く打ち据える。
「さあ、そろそろ鏡開きといこうかしら?」
 重なる攻撃。蓄積するダメージに地縛霊は溜まらずバランスを崩す。
 見逃す、彼らではない。
 ツバメは再び槌を大きく振り被り、振り下ろす。
 楽しみにしていた日を災難にしようとしている地縛霊を粉砕し、長浜老人を解き放つため。
 上段からの一撃は地縛霊の頭へ直撃し、勢いのまま地に伏せさせる。
 地縛霊は地に伏したまましばし痙攣し……起き上がる事無く、静かに消滅して行った。
 彼の生み出した、特殊空間と共に。

●昔取った杵柄は今も
 現在の時間は、九時半前といったところ。急がずとも、餅つき大会会場へは十分に間に合う。
 事実に皆、ほっと息をつく。後、静かな動作で、長浜老人を揺り起こした。
「……ん、わしは……む、お前たちは一体……?」
「貧血を起こして、倒れていたみたいだな。……大丈夫か?」
 長浜老人の問いに、明美がさりげなく答えを返す。
 予め用意していた返答なので、淀みも不自然さも無く……。
「なるほど、そりゃすまんかったのぅ。年を取ると体が言う事をきかなくなっていかん……しかし、妙な夢じゃったのぅ」
 その疑問が浮かぶのも予測済み。慌てず騒がず躊躇わず、枢が別の事項へと意識を向けさせるべく口を開く。それが一番、忘れさせるのに効果的だと思ったから。
「それより、時間は大丈夫でしょうか? なにやら、杵を持ってどこかへ行こうとしているように思えるのですけど……」
「おお、そうじゃった。すまん、助かる」
 これから公園で餅つき大会が開かれるんじゃよと、子供のような笑みを浮かべる長浜老人。彼らの体を支えに借りて立ち上がり、少し体を動かしてみる。
 幸いにも……守ったのだから当然というべきか、体に異常は無く、年齢の割りにとても元気で……一人で歩くのに、支障はない。
「それじゃ、若いの、ありがとう」
 後、長浜老人を背を向ける。餅つき会場へ、向かうため。
 皆、無言でその姿を見つめている。
 本当は餅つき大会に参加したかったけど……町内大会という性質上、町興しというより交流の意味合いが強く、部外者である自分達が参加するのは躊躇われたから……。
 その折、一陣の風が吹いた。
「そうじゃ」
 風に吹きつけられた長浜老人は立ち止まり、首をかしげながら振り向いた。
「助けてもらったのも何かの縁じゃ。礼というわけではないが……わしのついた餅、食ってみんか? ほっぺたが落ちるほど上手いぞぉ」
 優しく眉を下げ、微笑む長浜老人。
 伝わるのは笑顔で、広がるのもまた……。
「……ああ、喜んで!」
 太陽の言葉が示すよう、誰ひとり欠けることなくついていく。老人の誘いを断る理由など、何処にも無く……受ける理由なら、沢山あったから。
 義和などは、すでに黄な粉などを用意してきていたことだし。

 何はともあれさておいて、長浜老人の危機は去った。
 陽の光が降り注ぎ、明るく照らすこの町で、長年楽しみにしているという餅つき大会は開催される。
 皆に約束した、長浜老人のお餅。柔らかく温かく、美味であろう事は、彼の自信から伝わってくる。
 能力者たちは胸躍らせ進み行く。長浜老人と共に、会場たる公園目指し。
 一期一会の時を大切に。心に残る思い出と成す為に。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/01/09
得票数:楽しい1  ハートフル9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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