初日の出を君と


<オープニング>


「綺麗ね……」
 海には、水平線の向こうから眩い朝日が昇ってきていた。その海を臨む崖の上に立ち、寄り添ってひとつになった二人の影が長く伸びる。
 女の呟きに、共にいる男は黙って頷くことで返していた。それほど、言葉に尽くしがたい美しい日の出だった。
 しかし。崖下からそんな二人の足元に向かって、ちゃらちゃらと微かな音を立てながら鎖が伸びてきて……男の足首に巻きつくと、物凄い勢いで彼を引き摺り下ろした!
「うわっ……!」
「きゃああっ!」
 たたらを踏む男と、驚いて思わず彼から離れてしまう女。すぐに両者が手を伸ばすも、その手は互いの手を掴むことは無く。
 男は、悲鳴と共に崖下へと転落していった。
「あ、あ……!」
 そして、恐怖に慄くしかない女の足元にも、鎖が伸びてきていた──程なくして、彼女も男と同じ運命を辿ることとなった。

「某県の海岸に、地縛霊が潜んでいます」
 運命予報士が発した言葉に、能力者たちの間には緊張が走る。
「そこは海に張り出した崖になっていて、地縛霊となった男性はどうやらそこから転落死したようです。既に幾人かの人が地縛霊の手によって転落死しています」
 運命予報士は一瞬、痛ましそうに目を閉じた後、説明を続ける。
「その崖は普段は人が寄り付かないのですが、そこから見える日の出は見事だという話で少し前までは観光客がいくらか訪れていました。しかし崖から転落死する人が相次いで、不吉な心霊スポットという噂が広まり、今ではほとんど人は来ません」
 ということは、人払いの心配はほぼないと言っていい。
「戦闘では地縛霊の他に、転落死したリビングデッドたちが四体、襲ってきます。こちらは大した力はありませんが、地縛霊の方には注意してください。彼は自分が独り静かに日の出を見るのを邪魔するものを全力で排除しようとします。体から生えた鎖を鞭のように振るったり、相手に巻きつけて締め付けたりしてきます。他にも、複数対象への衝撃波を発し、ダメージと共にブレイクの効果をもたらします」
 身振り手振りを交えながら、運命予報士は次々と敵の特徴を挙げていく。
「それと、地形にも注意してください。先にも言いましたが、現場は海に張り出した崖の上です。足場は先に行くほど……地縛霊に近づくほど狭くなり、横には三人が並ぶので精一杯でしょう。皆さんなら転落しても死亡することはないでしょうが、深手を負うのは間違いありません」
 言い切ると、運命予報士は一呼吸置いて付け加えた。
「今から向かえば、現場には日の出前に着くでしょう。戦闘中、灯りの準備は必要でしょうが、戦闘後には見事な初日の出が拝めると思いますよ」
「初日の出、か……」
 今まで運命予報士の話を隅で黙って聞いていた水谷・梨衣亜(中学生ゾンビハンター・bn0157)が口を開いた。
「私も行くわ。初日の出、見てみたいし」
 長い髪を軽く払いながら申し出る梨衣亜に、運命予報士も頷いた。
「先の注意点には気を配ってくださいね。年始早々ですが、ゴースト退治、しっかりと頑張ってきてください」
 運命予報士は一礼して、能力者たちを送り出すのだった。

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参加者
禊・綾(まじかるあやりん・b00164)
雪神・久遠(紫閃葬剣・b03746)
志野・主税(クリティカルフォーサー・b15493)
敦賀・春菜(秋の風・b26207)
高宮・了(高校生能力者・b30920)
国見・繭(鬼蜘蛛・b32693)
猪熊・虎鉄(恋する乙漢・b33289)
皐那・流海(小学生白燐蟲使い・b35713)
NPC:水谷・梨衣亜(中学生ゾンビハンター・bn0157)




<リプレイ>

 穏やかな潮騒と磯の香りが漂う中、波で削られた断崖絶壁の上に九人の人間がやってきた。銀誓館学園の能力者たちである。白み始めた空の下、灯りを持って妙な場所に集う彼らは目立ったが、それでも周囲に人影や民家はまったくない。
「初日の出は……独り占めするものじゃない……と思う。早く退治しないと、な……」
 ヘッドライトを点け、ぼんやりと呟くように言う高宮・了(高校生能力者・b30920)。
「素敵な景色は誰もモノでもありません。誰にも独り占めする権利なんてないんです!」
 国見・繭(鬼蜘蛛・b32693)もヘッドライトと地面に置くランタンを用意しながら同意する。同時に繭はイグニッションして蜘蛛童・膨を呼び出し、壁に張り付きやすい蜘蛛の特性を活かして崖の側面に張り付かせ、ゴーストが現れるであろう位置の背後へ潜伏させた。
「一人静かに綺麗な景色を眺めたい……というのは分かるのですが……」
 白燐光を最大光量で灯しながら、皐那・流海(小学生白燐蟲使い・b35713)はおどおどと続ける。
「犠牲となった方達も……安らかな眠りに……つかせてあげないと……」
「たぶん、こん地縛霊もこん崖から落ちた人ばい……ばってん、他の人も巻き込んでいいわけなか! 絶対退治ばい!!」
 猪熊・虎鉄(恋する乙漢・b33289)もヘッドライトを点けて、気合を入れる。
 そして、灯りに反応したものか、辺りに不穏な空気が漂い始めたかと思うと、崖の突端に鎖をぶら下げた人影──いや、地縛霊が現れる。
「さぁて、新年早々だがこちらも仕事なんでね。倒させてもらうぜ」
 禊・綾(まじかるあやりん・b00164)の粗雑な一言が口火を切った。

 地縛霊の前にリビングデッドが前後に分かれて四体現れた後、陣形を整え強化アビリティをかけると、先陣を切ったのは敦賀・春菜(秋の風・b26207)だった。
「てあ! ちょっと寒いけど水の刃!!」
 迫り来るリビングデッドを、後衛から放たれた水刃手裏剣が切り裂く。
「たのむぜ、おっさん!」
 続いて了のフランケンシュタインBが中衛から広範囲への電撃を放ち、二、三体のリビングデッドを巻き込む。その直後、後衛から了自身の穢れの弾丸がフランケンシュタインBの背後から打ち出されたが、これは目標を掠めていくにとどまった。
 続いて後衛から綾が光の槍を打ち出せば、これはクリーンヒットしリビングデッドの一体が倒れた。
 その時、地縛霊が動いた。その体から生えた鎖が、地縛霊の前で守るように立っているリビングデッドたちの間をすり抜け、前衛に位置していた志野・主税(クリティカルフォーサー・b15493)を鞭のように打ち据える。
「ぐっ……」
 苦悶の声を上げたが、辛うじて巻きつかれるのを回避した主税が呻く。
 目の前に迫ってきたリビングデッドを、虎鉄が代わりの仕返しとばかりに殴り飛ばした。
 しかし他の二体のリビングデッドも続けてやって来ては、前衛にいる主税と虎鉄に掴みかかり、殴りつけてくる。
 中衛に位置どっていた皐那・流海(小学生白燐蟲使い・b35713)が白燐装甲で主税を癒すが、全快には届かない。
「それ以上の罪を重ねる前に絶たせてもらう。お前達に当たるべき日の光は既に無い」
 同じく中衛から、雪神・久遠(紫閃葬剣・b03746)がダークハンドを伸ばし、リビングデッドの一体を引き裂く。先程、虎鉄が殴ったリビングデッドだ。それを沈めるまでには至らないものの、かなりのダメージを与えることができた。
 続いて主税がまだまだだと言うようにリビングデッドへと紅蓮撃をぶちかます。封術の代償とともに大きな傷を与え、リビングデッドがまた一体崩れ落ちた。
 そこへやはり中衛から、水谷・梨衣亜(中学生ゾンビハンター・bn0157)がダークハンドで残る二体のうち一体のリビングデッドを引き裂く。
「隙あり、そこです!」
 更に繭が飛斬帽を梨衣亜が攻撃したリビングデッドへと飛斬帽を飛ばした。飛斬帽は繭の手元に戻る前にもう一度リビングデッドを切り裂いていく。
「今です、八雲!」
 地縛霊の目がこちらに向いていることを確認した繭が、崖下にずっと潜ませていた蜘蛛童・膨に指示を飛ばすと、蜘蛛童・膨は粘り糸を吐いて地縛霊の拘束を試みるが、これは地縛霊を外してしまう。位置を悟られた蜘蛛童・膨は、そのまま地縛霊へと近づいて臨戦態勢に入る。本来ならすぐにでも繭の元へ向かいたいところだが、次の機会を待つ他はない。
 一体ずつ確実に敵を葬る作戦は効率よく、能力者たちの思惑通りに運んでいた。春菜が前に出ないように注意しつつ、再び水刃手裏剣を放ちリビングデッドを切り刻むと、了が穢れの弾丸でとどめを刺す。残るはリビングデッド一体と、地縛霊のみ。その二体のゴーストに、フランケンシュタインBが電撃攻撃を放つが、地縛霊にはあまり効果が見られなかった。
 綾が祖霊降臨で虎鉄を癒すも、今度は地縛霊が衝撃波を放ってきた。その衝撃波は中衛にまで及び、傷を与えると共に強化アビリティの効果を解いていく。
「うわっ……!」
 誰かの悲鳴が衝撃波に巻き込まれて消えていく。
 それが収まると同時に虎鉄は森羅呼吸法で自らの体力の回復を図る。全快とまではいかないものの、結構な傷を癒すことが出来た。
 流海もサイコフィールドを展開し、ガードアップを仲間たちに与えるが、傷の回復効果はいまいちだった。
 久遠も旋剣の構えを用いて自身の体力を回復させた。攻撃したいのは山々だが、それも自らの身体あってこそだ。
 回復手段を持たない主税が封術にも構わず、リボルバーガントレットで殴りにいく。やはりそれなりのダメージしか与えられなかったが、自分は殴りに行くだけ、と言わんばかりの一撃。
 梨衣亜も旋剣の構えで自己回復を行う。なかなか攻撃に移れないのがもどかしい。
 しかし繭の飛斬帽による射撃がリビングデッドを大きく切り裂き、最後のリビングデッドもどうっと倒れた。残る地縛霊に、主の傍へと素早く移動してきた蜘蛛童・膨がオトリ弾を撃ち出した。赤い輝きは地縛霊を挑発するように蠢き、地縛霊は怒りの咆哮をあげた。
 それと同時に、全員が動く。前衛と中衛が崖の突端へと回りこんで、地縛霊を挟み撃ちにした。怒りに我を忘れた地縛霊はそれに構うことなく、頭を抱えて暴れ狂う。
「足場、気をつけてね!!」
 春菜が言いながら三度、水刃手裏剣を放つ。その身が切り裂かれてもお構いなしの地縛霊は、さながら狂気に取り付かれたかのようだった。
 中衛から前衛へと移ってきたフランケンシュタインBは祈りを捧げ、主である了の傷を、そして了はゴーストアーマーを使用してフランケンシュタインBの傷をお互いに癒した。
 綾も祖霊降臨で主税を癒すが、思った以上に衝撃波の傷は深い。地縛霊に怒りを与えておいて正解だったと、内心冷や汗が流れる。
 その地縛霊は、怒り任せに鎖を振り回して虎鉄へと先端を投げつけてきた。巻きつかせようなどとも考えていないような、単純な一撃。かわそうとしたが足場に気を取られてそれはかなわず、肩口を強かに打たれる。
「うぐっ……」
 筋骨隆々とした虎鉄だが、それでも思わず呻き声が出る。虎鉄はその傷を再び森羅呼吸法で癒そうとするが、全快には届かない。
 流海が再びサイコフィールドを使用して皆を癒す。彼女のそれは回復量は多くはないものの、貴重な全体回復手段だった。
 それを受けて久遠が攻撃に移る。ダークハンドを放ち、地縛霊を引き裂くとこの世のものとは思えぬ金切り声の悲鳴が響いた。実際、この世にいてはいけない存在なのだが……
 続いて、封術の解けた主税が紅蓮撃をお見舞いする。炎を宿した拳が地縛霊を打ちのめし、これが最後の決め手となって地縛霊は悲鳴と共に空に溶けるように消えていった。

 空は大分明るさを増してきたものの、未だ日の光は現れようとしない。
「何か温かいものでも飲みながら初日の出見たいけど……自販機あるのかなぁ」
 自販機を探し始める綾に、流海が荷物の中のものを取り出して差し出す。
「さすがに……体が冷えると思いましたので……暖かいお茶を持ってきたのですが……みなさん……いかがですか?」
「おお、気が利くね。ありがと、遠慮なくもらうよ」
 他の仲間も次々と、流海が用意した紙コップに注がれるお茶をもらい、寒さに冷える己の呼気とお茶の湯気を同化させながら、水平線の彼方へと視線を向けた。
 空と海の境目に金色の光が一筋、すぅっと入る。海をきらきらと輝かせながら、まぁるい輪郭はこちらをじりじりとさせるようなじれったさで、ゆっくり、ゆっくりと昇ってきた。しかしそれが決して不快ではない。むしろ自然の雄大ささえ感じさせて、その筆舌に尽くしがたい美しさを際立たせていた。
「……あ……。朝日、美しか……。……ばってん、一人で見んより、皆で見た方がきれいばい」
「今年もきっといいことありそうだな♪」
「そうね、綺麗……来てよかった」
 虎鉄が、春菜が、梨衣亜が感動を口にする。
「この光景が墓標代わり……か」
 久遠が仲間たちと同じように地縛霊や犠牲者への冥福を祈りながら呟く。
「初日の出だナンだとありがたがる趣味はねぇが……人がいねぇってのァ悪くねぇな」
 喧騒を嫌う主税も、静かな海辺の自然を愉しんでいた。
「おっさん、今年も、よろしく……」
「ごめんね八雲、無理させて……あなたにも見える? この美しい景色が……」
 使役ゴーストを収めたイグニッションカードに触れながら、了と繭が呟くように語り掛ける。
 一度輪郭線が現れてしまえば、直視できないほど眩い日の出はあっという間に進んでいく。やがて、海から生まれたような朝日は、海から離れぽっかりと空に浮かぶ太陽の形を成した。
 それでも彼らはしばらくの間、その場で景色を愉しんでいたが、手元のお茶がなくなる頃合になると、もう一度死者への冥福を祈りながら、誰からともなくその場を去った。
 その背中を、太陽が優しく静かに暖めていた。


マスター:天風あきら 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/01/07
得票数:カッコいい1  ハートフル5 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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