<リプレイ>
●地下室をリングに模して 程よく夜もふけた頃。街外れに位置する廃ビルに侵入し、突き進む能力者たち。 灯りのない足元は暗いけど、道は月明かりが照らしてる。様々な場所から流れ込む風は冷たいけど、無視できるだけの意志が、彼らにはある。 プロレスラーの地縛霊を、退治するという。 (「……む」) けれども、決戦前に思考する事はバラバラで……ケイン・ハイアット(魔法貴族・b04058)は、歩む中いつもより少しだけ重く感じる体に唸る。曰く、日本で言う正月太りという現象が起きている。ならば、この度の戦いは、良い運動になるだろうか。 近くでは、仲良く会話しているアルテア・マッコイ(商会の看板娘・b25367)と春宮・静音(バトルマニアガール・bn0097)の姿。 話題はアルテアの尋ねた、今年の正月いかに過ごしたか? といった他愛の無いもので……。 「……というわけで、非常にストレスが溜まっておりますの。口調も、叔母様たち向けのものから戻りませんし……」 「ナルほど。色々あったのデスね。……ゴホゴホ」 ……どちらかといえば静音が愚痴っているという方が近いだろうか? 後、アルテアが少し風邪気味だったとか。 ともあれ、話しているうちに地下室の入り口へと辿り着く。ここから先は、月明かりの届かぬ暗闇の世界。足を踏み外さないよう気をつけながら、御剣・荒神(暴を以て暴に易う・b06288)らは階段を下り始めた。 「それにしても、わざわざ地下に現れるなんておかしな方でございますね?」 暗闇を突き進む中、疑問符と共に首を傾げたのは賀茂・冬月(月下の氷華・b07864)。曰く、以前は何をなされていた方なのでございましょうか? と。 もちろんルチャドール、地下闘技場でもあったのではないでしょうか? など、冗談交じりの意見は挙がるが、確証は無い。あくまでも、緊張をほぐすためのレクリエーションといった装いである。 もっとも、冬月自身具体的な答えが返ってくると期待しての疑問ではない。特に肩を落とす様子も無く進み、階段を下りきる。後、ケイン、荒神、葬月・黒乃(審判を下す者・b01168)らと共に、灯りをつけるべく……地縛霊を呼び出すべく、室内へと先行した。 一方、待機組。面子は、戦闘の際突入する順に、静音、ローザマリア・クライツァール(翠薔薇・b34527)、ベアトリス・ロハス(技巧派ルチャドーラ・b14289)、シアリーズ・ホルバイン(兇劍・b25324)、如月・美香(スノーダスト・b03342)、アルテア。 灯りが無いため中を見る事はできないが、確かな足音や呼吸音から順調に進んでいることだけはわかる。様子に少しだけ安堵しながら、美香は自分自身に確認するかのような声音で呟いた。 「……今回は、戦いの場に一般人が居ないのが幸いです」 任務の遂行も、一般人の警備も、両方やらなければならないのが能力者の辛いところ。ならば、片方の役割を担わなくて済む今回は……そんな思考を、抱いていたから。 「そうですわね。目一杯、暴れられますわ……」 何気なく、静音が呟きを拾っていた。 誰かに向けた言葉だったわけではないため、あるいは言葉が返ってきた事に美香自身驚いたためだろうか。それ以上の会話は、繋がらない。 沈黙が、地下室内を支配する。冷たい空気が入り口から入り込み、淀んだ空気をかき回す。 最中、足音が止んだ。軽い音を立てている所から、即ちそれは、準備が整った合図。 待機組は気を引き締め、室内が明るく照らされるのを。地縛霊の出現を待つ。 先行組は構えを取り、不意を打たれないよう警戒。後、軽い音と共に、放置されていた全周型のライトのスイッチを入れた。 (「さて、と。見せて貰いましょうか? あなたのプロレスを」) 光に満ちる室内と、戦いの構えを取る面々。そこに敵たるプロレスラーが加われば、さながら戦いのリングといった趣か。抱くシアリーズはコアを発生させ、戦うための準備を完了させる。 ――さあ! どちらかが倒れるまで続く、デスマッチの開幕だ!
●漲る剛力示す者 全身から盛り上がる筋肉を誇示する巨体。横なぎに振るわれる腕は鋭く、重い。だが、不意を突くものではない。 前衛に立つ荒神は体を捻りそれを避ける。 避けた勢いのまま手を振るい、生み出した手裏剣を投げつけた。 その手裏剣が突き刺さる頃。少し後ろの、中衛と呼ぶべき位置では、使役するシャーマンズゴースト・フレイムの影に隠れつつ、手に良く馴染む弓を引く冬月。 彼女は矢を放ちながら、待機組にも注意を向けていた。 「まずは、春宮様」 呼ばれた静音は弾む勢いで駆け出して、静かな微笑みと共に前衛へと合流した。 その様子を、そして戦場全体を眺め言葉を洩らすのは、美香。 「ラストマンスタンディングハンディキャップマッチといったところでしょうか?」 今の状況と、作戦。プロレス部に所属する経験からかそんな言葉を当てはめつつ、今は待機すべきと自らに言い聞かせる。癒しの歌と眠りの歌。必要な状況が来たら、即座に奏でられるように。 初撃の時が過ぎた頃、地縛霊は素早く手をクロスさせ、俊敏な動きで黒乃に襲い掛かった。 「っと……」 防具の加護がなければまともに食らったかもしれない、不意を突く一撃を、何とか大鎌で受け止める。伝わる力は強く、受け止めてなお体中が軋んだ。 (「……結構面白いじゃないか」) 情報以上の一撃に、黒乃は楽しげな笑みを浮かべてる。しかし続けて受けては危ないとも判断し、一度下がってローザマリアと交代した。 このように、二組に別れ消耗を抑えながら戦う作戦。敵に遠距離攻撃はないため、回復さえ怠らなければ。一番威力の高いクロスチョップさえ直撃しなければ、恐らく倒れる事はない。だが……後衛に立った時、遠距離攻撃も援護の術も持たないため、待機せざるおえない者もいる。 自分の出番が来る事を今か今かと待ちわびていた、ベアトリスもその一人。 「真打は遅刻して現れマースっ」 ベアトリスは華麗な動作を取りながら、荒神と交代。最後のステップの代わりとして、弧を描く蹴撃でご挨拶。 相手はルチャドール、不足はない。それに……。 (「ルチャは子供たちに夢を与えるものデース。それを悪用する人は神様に変わってオシオキしマース!」) 彼女なりの憧れが、倒すべきと突き動かし。 「おお、ベアトリスちゃんのクレセントファングが華麗に決まったデス。漲るボディの間をかいくぐる一撃。かなりの痛手かもなのデス! ……ゴホゴホ」 実況に声を張り上げるアルテアの存在が、モチベーションを高く保たせていた。 もちろんアルテアもサボるではなく、いつでも怪我人を癒せるよう、ギンギンパワーZの準備をしながらの行動。二種の支えとなる行動は、精神的な面で非常に有益。 続き、地縛霊はバネを使って跳び、その場に着地。 大きな音をたてると共に衝撃波を発生させ、前衛陣をなぎ払う。 地震ではなく、衝撃波による攻撃。避けきれずにそこそこのダメージを前衛は負い……即座に、歌声が聞こえて来た。 振り向く余裕などありはしないが、その声音は美香のもの。彼女の優しき音色は地下室中に響き渡り、ダメージの大半を洗い流す。 流れに乗るように、後衛に立つシアリーズが声を張り上げた。 「貴方のプロレスがどうして私達に届かないか御分かりかしら? そのベルトには貴方の情念も矜持も篭って無いからよ」 手元には光を集わせて。纏うコアの力も借りて。 愛するプロレスへの想いを、気迫込めて放つなら、白い軌跡を残して地縛霊の肩を貫き通す。 地縛霊は苦悶の声をあげながら、ポーズを決め気合を溜めて、自らの身を癒している。 最中も攻撃は、重なっていく。 「そのベルト、王者のつもりか? 貴様は所詮、人殺しのチャンピオン気取りでしかない」 前衛に立ち続けているケインは、人殺しには人殺しの道具で十分と、特注の詠唱銃から弾を打ち出して、地縛霊の肉体を掠めてく。 対する地縛霊は再び回復と、肉体誇示するポーズを取った。 「させないわ」 動じる事無く動くのは、二本の刀を振るうローザマリア。 振るえば影が軌跡を残し、黒い傷跡身に刻む。回復量以上のダメージを、与えるため。 ……美香の眠りの歌によるブレイクが尽きた今、それが一番の近道だから。 荒神がナイフで切りつける。 ダメージは重なり、積もっているはず。 けれど、地縛霊はポーズを取らず、クロスチョップでベアトリスを襲った。 (「ワタシもソンケーする伝説のレスラーの得意技ですネ。流石に……」) 赤いライダースーツの加護により、とりあえず直撃は避けられた。けれども二本のナイフを通して伝わる衝撃は、鋭く体を軋ませる。 ……けれど、退かない。 「癒します」 素早く癒してくれる、冬月の存在があったから。アルテアのドリンクもまた、心強き支えとなっていたから。 それ以上に……地縛霊が、ポーズを取らなくなったという事実が、大きかったから。 「……どうやら、もう回復はナシ、みたいデスね」 策として決めていた、攻め込む時。それは、地縛霊のポーズが……癒しがなくなった刹那の事。 「それでは、rest in pease。今度こそ安らかに眠らせてあげましょう」 彼の愛したリングで、永遠に。 シアリーズが、結社仲間のベアトリスと呼吸を合わせながら音頭を取る。 後、ベアトリスのナイフが地縛霊に十字の傷を刻み込み……中心を、シアリーズの光が貫いた。
●貫く光明、盛る紅蓮 突き刺さる光が消える頃にはもう、前衛陣は全て地下室内に集っていた。 これまでの戦いで攻撃用アビリティを使いきり、堅い守りを突破するのが難しいものも居たけれど……逆に、温存していた者も居る。彼らが確実に、削り行く。 懸念は一つ、敵の行動。癒しという、戦いは長引くがこちらには被害の生じない行動がなくなった今、地縛霊は攻撃だけを行っている。 けれども、その事実に戦慄するものは居ない。こちらに大きなダメージが通る以上に、地縛霊もボロボロなはずだから。 ベアトリスと静音が息を合わせ、地縛霊を翻弄する。 ほぼ同じタイミングで地を蹴れば、二つの弧が猛る肉体に噛み付いた。 重なり重なる攻撃の嵐。最中、生じたのは紅蓮の炎。黒乃が大鎌に纏わせて、鋭き残撃を空に刻み込む。 「……業火に焼かれて朽ち果てろ……!!」 軌跡に残るは焼かれた肌。残り火は地縛霊を燃え上がらせ、命を奪う。 大きな音を立て倒れ伏したなら、うめき声すら洩らさず消滅する。初めからここには、何もなかったかのように。 ……代わりに生じたのは、微かな沈黙。疲労した体を労わり、息を整えるための。 「……ああ」 破ったのは、黒乃。手に残る感触に、微かな笑みを浮かべつつ。 「……久しぶりに楽しめたな……」 勝利の言を、皆に告げて……。
冬月が地縛霊の冥福を祈る中、荒神がケインに肩を貸していた。最後の猛攻に思考が追いつかず、やや大きなダメージを負っていたから。 後、生じたのは優しい空気。 長い戦いの疲れを癒すため皆が身を委ねる中、ローザマリアが静音に声をかけた。 「ねえ、少し時間は遅いけど……帰り、どっかでお茶して休んでいかない?」 「あ、いいかも。何処にしよっか?」 ストレスが解消されたからだろうか? いつの間にか口調が戻っている。まあ、それはさておいて、静音は誘いを快諾した。 そして二人が話し合うのを、幾人かが覗き込む。参加したいと、示してくる。 断る理由はなく、彼女達も一緒に向かう事となり、ついでに離れて眺めていた美香の事も、やや強引に誘い込んだ。 増えるメンバーにローザマリアは小さく息を吐きつつ、思い抱く。折を見て、静音をプロレス観戦に誘おっか、と。 ――やがて能力者が去ったなら、地下室は再び暗闇に閉ざされる。 いずれ廃ビルが取り壊され、存在しなくなるその時まで。あるいは誰かがこの場所に、こっそり入るその時まで。 その時まで、いつも通りの静寂を――。
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参加者:9人
作成日:2008/01/13
得票数:カッコいい9
えっち1
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冒険結果:成功!
重傷者:ケイン・ハイアット(魔法貴族・b04058)
死亡者:なし
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