半身


<オープニング>


 あのこは少し変わった。
 学校に行かなくなったし、ぜんぜん笑わなくなった。
 でも、そんなの関係ないもの。あたしだって同じ。
 あんなことがあったんだからそれぐらいふつうよ。
 よごされちゃったから、見られたくないんだわ。
 あたしにはわかるもの。
 あたしたちは同じ。あたしの血はあのこの血。
 だからあたしの血できれいにしたいんだよね。
 あたしの血でぜんぶ洗い流したら、きっとまた笑えるようになるよね。

 あたしたちはずっといっしょ。いつだって。
 あたしが守るの。
 ぜったいに。
 
●教室
「亡者と人が、共に在り続けることは叶わない」
 王子・団十郎(高校生運命予報士・bn0019)は重く告げる。
「とても仲の良い姉妹がいる。容姿も言動も瓜二つの一卵性双生児だ」
 ある日、一人が泣いて帰宅し、もう一人は帰らなかった。捜索願いを出されたが、二日後にはふらりと帰って来た。衣服は汚れていたが目に見える外傷はなく、皆は無事を喜んだ。
「だが、少女はリビングデッドと化していた。いつか家族を手にかける。……その未来は絶対だ。死に反した少女を倒さない限りは」
 団十郎は眉間に皺を刻み、視得たものの中から討伐に必要な情報を語る。
 
 朝、家を出た二人は学校には行かず人目を忍んで時間を潰す。
 路地裏で猫と戯れたり自然公園で鳩を追ったりと、いくつかの居場所があるらしい。
「みんなが行く日は、下校時刻まで空き地――計画が頓挫し放置された建設予定地――で本を読んで過ごすようだ。金属板の仮壁で囲われ人目もない絶好の隠れ場所だ。角の壁の一部が錆びて捲れ、屈み込めば人ひとり通れる隙間があるので、そこから入り込むのだろう」
 広さも充分で、能力者達には戦場として申し分ない場所でもある。

「中に入ればすぐ二人が見える。隅に建材が多少積まれている他は何もないからな。当然、向こうも気付くだろう。まずはいかに自然に、警戒されずに近付くか。二人は人間不信に近く、他人への警戒心が非常に強い。特に大人の男には過敏だ」
 小学四年の少女には高校生は立派な大人、中学生もだいぶ大きく感じるものだろう。
「次に、違いを見抜くこと。一人は生身の一般人、もう一人はリビングデッドだが腐敗も見られず知性も残っている。姿形も言動も酷似した二人を見分けるのは難しい。だが、どこかに決定的な違いがあるはずだ」
 そして、と団十郎の声に力が込もる。
「二人は互いに離れまいとするが、戦闘に入られる前に引き離すべきだろう。戦闘になれば鳩のリビングデッドが十数羽現れる。リビングデッドの少女が半身であるもう一人の少女を攻撃することはないが、鳩はそんなものお構いなしだ」
 逆に言えば、引き離す前に戦闘態勢に入られないように気を付けろということでもあった。

「リビングデッドの少女は後方から髪を蔦のように伸ばして攻撃してくる。絡ませ縛り上げることも出来るようだ。戦闘時に現れる多数の鳩は腐敗しあまり空高くは飛べないだろう。攻撃は突つくだけだが、鳩が多数舞い飛んでいればリビングデッドの少女への攻撃は通り難いだろうな」
 為すべきはリビングデッドの討伐。求められる責務はそれだけだが、分かたれる少女達にせめてもの救いはないものだろうか。
「どうか、……頼む」
 多くは語らずに頭を下げた団十郎は、しばらく顔を上げずにいた。

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参加者
霧生・楓(双子の妖草使い〜妹〜・b01351)
水流・奏(魂の救済を歌う道化・b09362)
芙倭・暦(舞うは愛しき貴方のために・b16382)
篠宮・沙樹(死ノ宮ニ咲ク沙羅樹・b18858)
綾瀬・菜乃香(高校生駄目人間・b29939)
十・しづ璃(淡粧の花・b33216)
守衛・刹那(記憶無き守護剣士・b34281)
御堂・十六夜(パラディエンヌ・b36339)



<リプレイ>

●あたしが守るの
 厳冬の一日。
 少女達は地面に並べ置いたランドセルに座り、膝の本に目を落としている。
 一人の少女がふと、もう一人の手を取った。互いに本から目を離すでもなく、慣れた日常の一動作のように。
 引き寄せた指先を少女が口に含みかけた、そのとき。
「変な人が居るの……隠れさせて……?」
 囲いの端、金属板が捲れた穴を掻い潜って霧生・楓(双子の妖草使い〜妹〜・b01351)が、続いて十・しづ璃(淡粧の花・b33216)が駆け込んで来た。
 双子の少女達は肩までの長さの髪を揺らして同時に顔を上げ、揃いの服、瓜二つの顔と仕種で侵入者を見る。髪の一部を結わえたリボンだけが、赤と白とで異なっていた。
 放棄された建設予定地など、普通、人が入って来る場所ではない。双子は一瞬怪訝な顔をしたが、楓達の言は駆け込むに足る理由ではあった。
 だが。
「怖いお兄さんが追いかけてくるの……っ!」
 それは双子の危機感を最大限に煽った。
 大きな脅威の前には小さな真偽など吹き飛ぶもの。しづ璃と楓は疑われなかったが、双子は顔を強張らせ身を寄せ合い警戒を周囲に向けた。
「お願い。早く隠れて……、お姉ちゃんたちも見つかっちゃう……!」
 しづ璃の求めにハッと立ち上がった双子の膝からバサリと本が落ちる。一冊は女が迷い猫を探して入った廃屋から異世界へ迷い込むファンタジー。もう一冊は街を探険し様々なものに巡り会う少年の成長を描く児童文学のシリーズだ。
 楓が双子を入口と反対の奥壁――すぐ外に仲間が潜む場所へ誘導する。
 仮壁を隔てた外では篠宮・沙樹(死ノ宮ニ咲ク沙羅樹・b18858)と、彼女に引っ張られて来た水流・奏(魂の救済を歌う道化・b09362)が息を潜めている。残りの皆は入口近くで待ち構えているはずだ。

 囲いの内側で四人の少女が駆け寄った壁際の雑草の中に、どこかから飛び込んだのか……野球の白い球が転げていた。
 隠れてと言ったものの、建材は僅かで隠れる場所など碌にない。それを逆手に、分かれて隠れれば双子を引き離せるかと思い至ったが、楓はすぐに頭を振る。
 幼いしづ璃達は警戒を解すだけでなく油断を誘うにも有利な人選だったが、能力者達は緊張の糸を張り詰めさせてしまった。自分達の言葉を信じて怯え、互いを抱き固く密着している二人を離すには、脅威は去ったと安心させるか、力尽くしかないだろう。
 怯えたふりをして、しづ璃は双子に縋った。
 脈を確認しようとその手に触れた瞬間、悟る。
 凍えるように冷たい。
 寒空の下で肌はどちらも冷えきっていたけれど、内側に命の熱を宿すものとそうでないものの差は歴然。思わず二人の手を掴み上げて見れば、一人の手は傷ひとつなく、もう一人の指は切り傷と絆創膏だらけ。
 確信を胸に振り向いたしづ璃は、今まさに仮壁の隙間を潜り抜けて空き地に踏み込む守衛・刹那(記憶無き守護剣士・b34281)を目にした。
「イチカ……ッ!」
「……!? どうしたのニナ……っ」
 白いリボンの少女が一点を見つめ引き攣ったような声を上げた。赤いリボンの、イチカと呼ばれた少女は相手の顔と視線の先とを見比べ眉を顰めた。徒ならぬ事態なのは伝わっても、それが見えないのだ。刹那は一般人とゴーストを見分ける為に闇を纏っていたのだから。
 ゴーストにとって能力者は敵。少女にとって『大人の男』は敵と言っても過言ではない。
 ならば反応は明解だ。

「あぁぁぁぁァァッ……!!」

 少女達の叫びが重なる。
 一人は力を喚ぶように喉を震わせ、もう一人は極限の緊迫に共振して悲鳴を上げた。
 赤いリボンの少女イチカは、命ある者。
 白いリボンを靡かせ髪をざわめかせる少女、ニナコこそがリビングデッドだ。

●ニナコとイチカ
 ぞわりと肌が粟立つ。
 場に満ちたのは、殺気。
 沙樹は即座に動いた。
 錆びて浮いた金属板の継ぎ目に刀を差し入れ、梃子の要領で一枚を剥ぎ取る。戦闘は既に始まっている。猶予はない。奏の魔歌を届けねばならないし、入口へ回り込むのでは遅過ぎる。
 抉じ開けた隙間から、灰銀の翼の群れが見えた。
 リビングデッドの少女の髪の一部が伸び、捻れ、蔦のように振るわれる。その周囲を十数羽の鳩のリビングデッドが渦巻くように飛び交っていた。
 死した鳩達は血肉を欲する衝動のまま手近な餌を襲う。
 刹那は全力で駆けた。
 充分に広い空き地の、入口から最も離れた壁際まで遠ざけた所が戦域だ。決して近くはないその距離がもどかしい。
「その子よ! 白いリボンの、その子がリビン――……!」
 イチカの前でその事実を、双子の姉妹が動く屍なのだと口にするのは躊躇われて声は途切れたが、しづ璃の言葉は奏に充分に伝わった。
 救うべきは赤いリボンの少女。
 イチカを……彼女の心を護るべく、残酷な現実を見せぬように、また引き離す為にも彼女を眠らせようと奏は声に意識を集中する。
 だが、救いたいのは心だけではないはずだ。
 命を守らねば意味がない。イチカの命を脅かすのは鳩のリビングデッドではないのか。
 双子を引き離すのに片方だけ眠らせても、もう一人に抵抗されるのも明らかだ。
 既のところで気がついて、奏は対象を絞ることなく仲間以外の全てに眠りの歌をぶつけた。
 鳩の大半がぼとぼと地に墜ち、双子が揃ってくたりと寝入ると、すぐさま楓がイチカを引き寄せる。ニナコも眠ったのは幸運だったが、確と抱き合い指まで絡めて手を握る双子を離すのは厄介だ。
 蜘蛛童・膨が糸を吐き、沙樹が闇の手で鳩を握り潰して、自身も身を挺して庇ったが、仲間が来るまではイチカを傍で守るのは楓だけ。鳩に囲まれ、それを一掃出来る術もない楓一人で守りきるには荷が重過ぎた。
 鈍く光る鳩の嘴がイチカを掠める。
 苦痛を露に悲鳴を上げる少女に楓も息を呑み、抱き合う双子の指を外し腕を外して二人を離す。血を吹く傷口を押さえ、頑張って、と呼びかけながら。
「あんたたち、なんなのッ。イチカを離して!」
 眠りを振り払ったニナコが激昂する。
「かえして!」
 ニナコが楓に髪の刃を突き立てる。
 イチカ、イチカ、と少女が名を呼ぶと、痛みに朦朧としながらイチカもニナコの名を呼んだ。
 イチカはざっくりと背を抉られ、出血も夥しい。
 能力者達は『闇纏い』で双子を判別する危険性も認識していた。戦闘前に引き離すべきと忠告もされていた。だが引き離す策を考えていた者はいなかった。
 いっそ、判別がつかないままであっても事前に引き離しておけばイチカの危険も減っただろうか。
 入口を潜った御堂・十六夜(パラディエンヌ・b36339)は、唇を噛み戦場へ駆ける。

「なぁ……」
 誘眠の力を乗せる歌に更に思いまで乗せることは叶わず、奏は直に言葉を紡いでニナコに呼びかける。
「……判る、だろ……。血で人、は綺麗……ならない」
 自ら終わりを受け入れてはくれないかと一縷の望みをかけて問い質すと、 ニナコは「おまえなんかには関係ないわ!」と『大人の男』に憎悪を滾らせ蔦を叩き付けて応じた。
「人間……、餌、でしか……な、いなら、…………オレ容赦、ない」
「あのこにはあたしがひつようなの! あたしだって、あのこが要るもの」
 しづ璃も手を止め少女を説得しようと叫ぶ。
「わたしたちは、決してあの子を傷つけない。でも、あなたはいずれあの子を傷つけるわ……!」
「あたしたちをだましておいて、なによ。あたしが消えればあのこは傷付くもの!」
 あのこはあたしを守りたいんだから。
 あたしがあのこを守ってあげたみたいに。
 戦線に追い付いた刹那が前衛に立つと、眠りを逃れた鳩が群がった。
 鋭敏な感覚は足しにはならないが、回避に専念することで鳩の半分以上を躱し残りも刀で受け流して、刹那は体力のほとんどを保った。
 忌まわしい『男』にニナコは表情を険しくしたが、イチカを連れ去る者を潰す方が先決と再び楓を睨む。
 その脇腹を炎が包んだ。
 怒気を孕んだ悲鳴が上がる。
 ニナコの狙いを読んだ沙樹が横合いから魔弾を放ったのだ。
 前に立ちはだかっても、髪は脇をすり抜けて後衛を襲う。ならば攻撃で気を引くしかない。
「じゃましないで!!」
 ニナコは苛立ちをぶつけた。伸びた髪が沙樹に絡み付き、黒く澱んだ炎が四肢を這う。神経を灼かれるようで沙樹の身体が痺れた。
 戦域に到達した十六夜はイチカの下に血溜まりを見て瞳を曇らせる。嫌な予感を胸に押し込め、楓と共に少女を抱えて戦場から遠ざかる。
「イチカ!」
 悲鳴のような叫びと共にニナコの髪が追い縋ったが、刃物のように尖った毛先は十六夜に届かず空を切る。
 生を求めるのは人の正直な姿。見苦しいとは思わない。
「でも、貴方はもう死んでいるんです。この子を道連れにはさせません……!」
 イチカを自分の背後に隠して向き直り、十六夜は凛とした声で告げる。
 綾瀬・菜乃香(高校生駄目人間・b29939)は十六夜の背を追い、そのまま追い越して前衛まで駆け抜ける。
 菜乃香は後衛やイチカが狙われぬようにと前に立ち、ニナコに対峙する者を支援すべく邪魔な鳩を撃墜することに集中した。
 少女から見れば自分は『大人』だからと身構えたが、少女は敵の数が増えたと一瞥した以上の反応は見せなかった。イチカを護衛する者に手が届かない今、ニナコの憤りの矛先は刹那と奏に向いている。
「兄様……」
 戦場へと駆けながら人知れず零した呟きは、芙倭・暦(舞うは愛しき貴方のために・b16382)の心にぽつりと落ちる。
「一緒には、いられないんです……」
 それは誰に向けた言葉か。
 暦はただ深く息を吸い込み左手首で揺れるビーズの連なりを握ると、キッと前を見据えた。戦場では、泣き言は言わない。

 ヒュプノヴォイスを放つ奏の他に範囲攻撃を持つ者のない能力者達は長期戦を強いられた。
 一撃では鳩を倒しきれぬ者も少なくなく、戦いは長引く。
「私に姉妹は居ないけど、でも…………気持ちは判ってあげられると、思う」
 依頼の目的はリビングデッドを倒すこと。頭では解っていても、菜乃香は生きている命を助けることに主眼を置かずにはいられなかった。
 自分勝手でも自己満足でもいい、生き続けて欲しい。助けたい。
 その想いに突き動かされるように、硝煙を散らし炎の弾を撃ち放つ。
 何度も。何度も。
 炎に焼かれ、幾羽もの鳩が羽ばたきを止めた。
 十六夜は後衛よりも更に後ろでイチカを抱き締め、冷えていく身体をさすり続けた。
「灰は灰へ、塵は塵に還そう……。その魂、楔より解放させんが為に……!」
 唄うように文言を唱えて闇色の靄を放つ。
 イチカと鳩の群れの間を狙った靄が弾け強烈な眠りを誘って鳩の襲来を防げば、しづ璃の矢が魔を滅し、暦が振るう蟲檻が鳩の翼を砕き折る。
 互いに互いを信頼する暦と十六夜はときに声を合わせ動きを揃えて敵を討った。
 嘴に抉られ蔦に裂かれた傷は、射手の気を練り、幻夢を解放して癒される。なによりも暦の豊富な回復が皆を支えた。舞い、放ち、宿す光は震える脚に活力を戻し、武器を握る腕に力を漲らせる。
 一羽ずつ地道に鳩を潰していく彼等の戦いにも、いよいよ変化が訪れようとしていた。
 周囲を取り巻く鳩はもういない。
 リビングデッドの少女も幾多の傷を受けていたが、瞳だけは強い光を放ち能力者を睨み付ける。
 心臓が動くのを止めていても、斬れば肌は血を流した。
 誰かが刀を振り抜き、誰かが銃を放つ度にニナコの白いリボンが赤く色付いていく。
「僕達は、あの子に何もしないよ……。約束するよ。……だから」
「うそ! あたしを消して、こんどはあのこに何しようっていうの!」
 刹那が静かに言えば、ニナコは噛み付くような形相で叫ぶ。 
 形見にしたい物があれば……と告げられ、少女は「おまえなんかに、誰が」と嫌悪に満ちた口調で吐き捨てた。
「あたしのものはあのこのものよ。渡すも遺すもないわッ」
 差し伸べた心は無下に払い除けられた。ニナコの髪に肩を貫かれ、刹那は悲しい笑みを浮かべる。
 ゆるゆると首を左右に振ると、肩を穿ったままの髪に気もくれず、一気に駆け少女に肉薄し下から跳ね上げるように刀を振るう。影を纏う剣技は使い果たしていたが、旋剣で重みを増した刀が肉を深く斬り裂いた。
 甲高い悲鳴を上げ、血を吐きながら半身の名を呼ぶ少女を沙樹が屠る。
 雲と雷を思わせる双刀が長い長い戦いに終止符を打った。

●ずっといっしょ
 少女の――イチカの傷は深過ぎた。
 いや、僅かなりと息が続いているだけでも奇跡のようなもの。やがて意識も途切れるだろう。
 沙樹は知っている。
 リビングデッドと化した少女も、犠牲者なのだと。
 すべての発端が何であろうと、少女が不死者と成ったことで事件は闇に葬られ法で裁かれることはない。
 能力者に出来るのは、終わらせることだけ。
「もう一人のお姉ちゃんは、最期まであなたを守っていたよ」
 しづ璃が耳元で囁き十六夜がそっと頭を撫でると、イチカはうっすらと微笑んだ。
 声が聴こえているのか、目が、まだ見えているのか、意識が働いているのかも、もう分からない。それは酷く朧な反応で、自分達がそう思いたいだけなのかも知れない。
 それでも。
 少女は微笑んだのだと、思う。
「おやすみなさい……」
 菜乃香は黙祷を捧げる。
 せめて早く発見され家に帰れるようにと、十六夜が携帯を取り出し三桁の番号を押す。声が詰まりそうで、二人に背を向け目を閉じた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい」
 泣いてはだめ、と暦は左手の丸ビーズの飾りを握るけれど、視界が滲み、世界が揺らいで、いくつもの雫がぱたぱたと落ちた。
 死者と生者。
 二人は似て非なるものだったはずなのに、少女達はまた同じになろうとしている。
 白かったリボンも紅に染まって、今は同じ色。
 頬の色が抜け、唇から生気が消えて……。繋ぎ止めてあげたいのに、もう何も出来ない。
 暦は、握った左手首を胸に抱き寄せて声にせず兄の名を呼んだ。
 身体を寄せ合うように二人を並べ、繋げてあげる為に触れた手は、外気と同じ冷たさだった。もう、触れても二人の違いは判らない。
 どうして……、と問うても答えはない。
 手を携えて逝った二人の少女を想い、刹那は空を見上げる。

 二人は笑えるようになっただろうか。
 永遠に一緒の、空の上で。


マスター:篠崎ケイ 紹介ページ
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参加者:8人
作成日:2008/01/27
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