夜空に咲く花


<オープニング>


 それは太陽が西に去り、夜の帳が下りた頃。
 夜空に咲く大輪の花を見上げようと、大勢の人々が集まった河川敷でのこと。
「きゃあ!?」
「い、今、何かが足の隙間を……!」
 浴衣姿の少女達が悲鳴を上げれば、どこかで転びそうになった男性の声が響き渡る。
 その元凶はというと……。
「もきゅっ? ――もきゅ〜っ♪」
 ちょっと小首を傾げたものの、すぐにまた楽しげな様子で、ぴょんぴょこぴょんと、人々の間を飛び跳ねて行った。

「皆さん、お集まり頂き、ありがとうございます」
 藤崎・志穂(高校生運命予報士・bn0020)は、教室に集まった能力者達を見回すと、早速用件を切り出した。
「今夜、とある河川敷で花火大会があるんです。菊に牡丹にスターマインに……いろいろな花火が、次から次へと打ち上げられるそうですよ。なんだか、わくわくしちゃいますね」
 幸いにも天気は晴れ。風も微風程度のようだから、絶好の花火大会日和となるだろう。
「ですが……花火を楽しむには、少し問題があって。実は、その花火大会の会場付近に、モーラットが現れるようなんです」
 花火大会の喧騒を感じ取っているのか、モーラットもはしゃいでいるらしく、会場内を飛び跳ねたり駆け回ったりするのだという。
「それだけなら可愛らしいですけど、混雑する河川敷での事ですから、人にぶつかったら危ないですよね。転んだりして怪我をしてしまうかもしれませんし……もし火花を出してしまう事があれば、大事故になりかねません」
 しかも、場所が場所だ。もし花火のそばで、モーラットがパチパチ火花を使うような事があれば……どんな大惨事になることか。
「だから、花火大会が始まる前に、モーラットを捕まえて欲しいんです」
 河川敷は決して狭くは無いが、モーラットは能力者を見ると駆け寄ってくるので、探すのはそれほど難しくないだろう。
 ただ、いざ捕まえようとすれば、モーラットはまるで追いかけっこを楽しむかのように、ぴょんぴょこ跳ねて逃げようとするから、上手く包囲して捕まえるなど、一工夫必要かもしれない。
「捕まえたら、この中に入れて、連れて帰ってくださいね」
 そう言いながら、志穂はモーラットを入れるためのキャリーバッグを差し出す。
「モーラットを捕まえた後は、花火大会を楽しんで来てはいかがですか? 折角だから浴衣に着替えて出かけるのも良いかもしれませんね。その位の時間は十分にありますから」
 どうせ出かけるのなら、楽しまなくっちゃ損ですよ? と、志穂は能力者達に笑いかけた。

マスターからのコメントを見る

参加者
御手洗・魔子(中学生フリッカースペード・b04557)
榊・悠(霞王・b05605)
久留米・華音(色んな意味で突っ込まれ体質・b40160)
玖珂・桜(シロイツキ・b43035)
高瀬・沙環(アリュア・b44199)
灰神楽・操(黒き闇に白い光を・b44747)
ヴィレ・ソンカネン(田舎貴族・b46941)
白露・狭霧(白くゆらめき露と消ゆ・b47505)



<リプレイ>

●モーラットを探せ!
 依頼を受けた能力者達は、夕方の河川敷を訪れていた。
「花火大会か……非常に楽しみだね……」
 まだまだ周囲は明るいけれど、夜になったら……その光景を想像して、呟くのはヴィレ・ソンカネン(田舎貴族・b46941)。
 でも、その前に、この場所のどこかにいるというモーラットを捕まえなければ。
「幽三もいたずら好きだけど、この子はもっとなのね」
 いたずらで済まなくなってしまう前に、何とかしなければと、御手洗・魔子(中学生フリッカースペード・b04557)も頷く。
「ええ、惨事になる前に捕まえて……もふもふ……い、いえ!」
 思わず本音が出てしまった、灰神楽・操(黒き闇に白い光を・b44747)は1つ咳払い。とにかく頑張りましょうと誤魔化すように言えば、今回が初依頼という白露・狭霧(白くゆらめき露と消ゆ・b47505)が「うんっ!」と意気込む。
(「それに……モーラットをモフモフ……楽しみ♪」)
 考える事は狭霧も同じらしい。
「これで全員分ですわね」
 皆の携帯番号を登録した久留米・華音(色んな意味で突っ込まれ体質・b40160)は顔を上げると、ふと、胸がドキドキしているのを感じた。
 もうじき始まる花火大会。向こうに見える屋台の列。お祭りだなんて久しぶりだったし、それに。
 家族以外と行っちゃいけない。そう言われていたのに、もう子供じゃないんだからと、その言いつけを破ってしまった。14歳の夏の小さな冒険に、胸が高鳴らないはずが無い。
「さ、お祭りを楽しむためにも、まずはモーラットですわね」
 そう捕獲に向けて動き出す華音の手首で、おめかしにと巻いてきたリボンのちょうちょ結びの部分が、爽やかな風に吹かれてなびいた。

 そうして、能力者達はモーラットを捕まえる為、河川敷に散らばった。
「どこで何してるのかな?」
 玖珂・桜(シロイツキ・b43035)は辺りをキョロキョロ見回しながら、水面のすぐ側を歩く。モーラットだから、きっと子供が好みそうな場所にいるはずだと、草茂みの中を覗き込んだり、遊具の陰を確かめたりするが、なかなかモーラットは見つからない。
「人の多いところ、とか……?」
 榊・悠(霞王・b05605)は人が集まっている所を重点的に探す。
 既に場所取りをしている人達の脇を通りながら、悠の指はポケットに忍ばせたイグニッションカードに伸びる。使わずに済めばそれで良いが、万が一の時はすぐに使えるよう、準備を怠らない。
「……これで本当に現れるのかね?」
 現れてくれなきゃ困るのだけど、と呟きながら、ヴィレが屋台で買ったのはりんご飴だ。モーラットなら甘い物が好きだろうという予測の元、ヴィレはりんご飴を手にしながら、モーラットが自分を十分追いかけて来れるよう、ゆったりとした足取りで歩く。
「おっちゃん、これ作って!」
 狭霧は飴細工の屋台に行くと、一枚のイラストを見せた。そこに描かれているのは、さっき魔子の幽三をモデルに描いたモーラットだ。
「こりゃまた可愛いねぇ。あれかい? ゲームのキャラかい?」
「うん、そうなんだ」
 妹が欲しいって言ってて、などと適当に話を合わせれば、よっしゃ任せとけと請け負ってくれるテキ屋のおっちゃん。流石に元の姿そのままとはいかなかったが、出来上がった飴細工は、もふっとした感じが十分に再現されていた。
「おっちゃん、ありがと!」
 思わず顔を綻ばせながら、狭霧は飴細工を手にモーラット探索を続けた。

「うん、なかなかカワイく描けてるわ」
 その頃、高瀬・沙環(アリュア・b44199)はマジックの蓋を閉めると満足げに頷いていた。反対の手には綿飴が2つ。その袋には、まんまるの中に渦巻きとおめめ……そう、モーラットの絵が描かれている。
 沙環が今いるのは、大きな橋の下だった。周囲には、仲間以外の姿は無い。ここは橋が邪魔で花火が見えにくい為、花火を見たい人が積極的に近付く場所では無いようだ。
「偽装してきましたわ」
 そこに戻るのは操。彼女は持参したロードコーンを並べて『関係者以外立ち入り禁止』の張り紙を出してきた所だった。
 彼女らは、モーラットを捕まえる時にあまり騒ぎを大きくしない為にと、捕獲場所を確保していたのだ。上手く誘導できれば、多少騒いでも一般人に影響は出ないはずだ。
 ただ張り紙をしただけでは、関係者が花火大会を指すのか銀誓館の生徒を指すのか分からないだろうが、そこはちょっと一工夫。操はコーンに、白いもふもふを取り付けていた。
 そう、いかにもモーラットを連想させるような、もふもふを。
「これなら、多分一般の方は来られないとは思いますけど」
 いざという時は追い返そうと、華音が絶えず視線をやるが、工夫が功を奏してか、コーンの内側に入ってくる一般人はいなかった。
「……あら」
 そんな中、華音の携帯にメールが届く。それは、仲間からのモーラット発見連絡だ。
「じゃ、みんなに知らせるわね」
 沙環は散らばっている仲間達に集合を呼びかける為、上空にヘリオンサインを描く。
「モラ〜ット発見! 集合〜……んん!?」
 浮かんだ文字を反芻して、あれ、微妙に間違えたかも……と呟く沙環だったが、まあ、この位なら大丈夫よね、と笑って誤魔化した。

●モーラットを捕まえろ!
「あれは……」
 時は、少しだけ遡る。
 それは、食桜が屋台でたこ焼きを買って、お釣りを受け取っていた時の事だった。
 視線の端を、白いものが横切っていったのだ。
 桜は、屋台の裏へ向かった影を足早に追いかけると、そっとその様子を伺う。
 そこには、フルーツの入った箱の側で、なにやらもごもごと動いている白いもの……モーラットの姿があった。
「もっきゅ、もっきゅ、もっきゅ……」
 食べてる。食べまくってる。
 早く止めなければ、屋台の人達が大変な目に合うだろう。桜は手早くメールを打つと、モーラットにコンタクトを試みた。
「できたての美味しいたこ焼きだよ〜。ほら、こっちにはお菓子もあるよ〜」
「もきゅっ?」
 たこ焼きと綿飴を差し出す桜に、振り返ったモーラットの目が、きらきらっと輝く。
 ぴょんこぴょんと近付いて来るモーラット。桜はそれを確認しながら、あまり人目につかないルートになるよう計算しながら後退する。
「あれは……」
 その様子を目に留めたのは、近くにいた魔子だった。彼女は待機班の3人に電話で連絡を取ると、集合場所の詳しい位置を確認し、自らもべっこう飴を手にモーラットの誘導に加わった。

 桜達がモーラットを連れて来た時には、他の仲間は皆、ヘリオンサインを確認して待機場所に集まっていた。
「もきゅっ!?」
 モーラットを待ち構えていたのは、美味しい食べ物の素敵な香り。モーラットの形の飴やモーラットが描かれた綿飴が揺れれば、モーラットはいっそう興味を示す。
「美味しい物は、ここにあるよ」
 ヴィレはモーラットにもよく見えるようにしながら、りんご飴をモーラットキャリーの中に入れた。キャリーには他にも、能力者達が用意した、色々な食べ物が見え隠れ。
 だから、ヴィレがキャリーから少し距離を置くのと入れ替わるように、モーラットがそこに向かうのは、至極当然の事だった。
「もきゅ、もっきゅ……もきゅっきゅ〜♪」
 そしてモーラットの手が、食べ物に伸びようとした、その時。
「みんな、今よ!」
 沙環の声と共に、わっと取り囲む能力者!
「もきゅっ!?」
 驚いたモーラットは慌てて逃げ出そうとするが、既にキャリーは能力者達によって、完全に包囲されている。
 逃げ場は無かった。
「モラちゃん、ほか〜く!」
 沙環の声と共に抱きしめられるモーラット。戸惑いを見せるモーラットだったが、ヴィレに美味しい食べ物の山を差し出されると、すぐにご機嫌な様子でそれらを食べ始めた。
「えへへ……」
 もふっ。
 そんなモーラットに手を伸ばすのは狭霧と操だ。2人にもふもふっとされて、モーラットはどこかくすぐったそうにしながらも、気持ち良さげな顔を見せる。
「無事に捕まえられて良かったわ」
 もしもの時には回復アビリティを、と考えていた魔子だったが、モーラットには傷1つ無い。ホッと胸を撫で下ろす一方、悠は辺りの様子を伺う。
「騒ぎには……ならずに済んだみたいだね」
 辺りは静かで、遠くから花火大会を待ち遠しそうにしている人々のざわめきが聞こえるくらい。これなら、あとはコーンを片付けてしまえば、後始末は大丈夫だろう。
 モーラットを捕まえている間に、空はすっかり夕焼け模様。もうじき日が沈んで、そして花火大会が始まるはずだ。
「モラは俺が預かってるよ」
 お菓子と共にモーラットが入ったキャリーは桜が手にして。皆、花火大会見物へと繰り出した。

●捕物終えて……花火大会!
「あかりん、いたいた!」
 沙環は手を振りながら、予定通り灯里と合流していた。
「カワイー浴衣! とっても似合ってるよ」などと褒める沙環も、今は浴衣姿だ。女の子2人、賑やかに花火を見るのに良さそうな場所を探して歩く。
「紹、行きましょ」
 モーラットのもふもふを堪能して、操が向かうのは屋台だ。姉の紹と2人並んで、いろいろな屋台を見て歩く。
 和服姿の2人は、時には男性の目を引いたりもしたけれど。不埒な誘いが無かったのは、その前に紹から冷ややかに睨まれたからだろうか。
「……紹姉! 林檎飴食べましょ?」
 いつもは友達のように付き合っている2人だけれど、今は少しだけ姉に甘えながら、そう操は紹の手を引く。2人は鮮やかに赤いりんご飴を手にして、また会場の散策を続ける。
「それにしても、日本の夏は夜でも暑いね……」
 持参したうちわで、ぱたぱたと扇ぎながら零すのはヴィレだ。この蒸し暑さには正直閉口してしまうけれど……でも。
 すっかり暗くなった夜空に、まばゆい光が放たれる。
 それは、夏を彩る花火大会最初の一発。
「……今宵は、夜空の華を愛でるとするか」
 それも悪くは無いと呟いて、ヴィレは空を見上げる。
「わー、きれ……きゃ!?」
 1つ、また1つと打ちあがる花火を見ていた灯里は、頬をぷにっとされて思わず声を上げる。犯人は勿論沙環だ。へへーっと笑う彼女の顔に、灯里はふと閃いて。
「……モラちゃんアターック♪」
 手にしていた綿飴で反撃すれば、沙環もモーラット捕獲はお手の物だとばかりに再反撃。
 2人はじゃれあいながら、新たに上がる花火を見る。
「……お疲れさま」
 こうやって花火を見れるのは、沙環達のおかげ。そっと呟いた言葉に、沙環は気づいたのか気付かなかったのか……ただ、にっこり笑いながら、灯里と手を繋ぐ。
「こういうのも、良いな」
 悠は手頃なスペースに寝そべると、色とりどり、様々な種類の花火が打ち上がっていくのを、のんびり鑑賞していた。ちょっと違う角度から見る花火もまた乙なものだ。
「花火、綺麗ですわねー」
 華音は少し溶けてきたりんご飴を一口食べながら、なかなかですわねと呟く。なんだか、周囲からの視線を感じるような気もするが……軽く首を傾げると、そのまま、また花火に視線を戻す。
「いい? ちゃんと大人しくしてるのよ」
 魔子の腕の中には、力強く頷く幽三の姿があった。折角の花火大会を一緒に見ようと、ぬいぐるみのフリをさせていたのだが……渡された飴に飛びついて大はしゃぎなのは、まあ、ご愛嬌だろう。
「花より団子って、こういう時にも言うのかな?」
 その様子に、たまらずに狭霧が笑う。うちわ片手に扇いだなら、そよそよとした風に幽三が気持ち良さそうにうっとりする。
 浴衣に着替えて、一緒に依頼をこなした仲間と楽しむ花火大会。
 それはとても素敵なものだと、狭霧は目を細めながら、新たに打ち上げられた花火を見上げた。

 彼らはそのまま、夜空に咲く最後の花が散るまで、花火大会を存分に満喫するのだった。


マスター:七海真砂 紹介ページ
この作品に投票する(ログインが必要です)
楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/07/31
得票数:楽しい19 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
   あなたが購入した「2、3、4人ピンナップ」あるいは「2、3、4バトルピンナップ」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 マスターより許可を得たピンナップ作品は、このページのトップに展示されます。
   シナリオの参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。