漢のバレンタイン


<オープニング>


 諸外国ではバレンタインの日に男がプレゼントを贈っても良いのだと言う。
 文献―――ただの男性向け情報誌だが―――を熟読していた彼は勢い良く本を閉じる。
「っしゃああ、それじゃあ俺もプレゼントチョコを作ってやるぜーっ!!」
 外国かぶれのメタボリック野郎が、立ち上がってしまった。

 ―――学校の家庭科室にて。
「そういう訳で、漢の、漢による、漢の為のチョコレート菓子講習を始めたいと思います! 雄……もとい、押忍!」
 腕を後ろ手に組み、太っ腹をふんぞり返らせた近藤久志の脇には江口杏が控えている。
「私はショコラティエフィナンシャルアドバイザーだよう、チョコ菓子が上手く作れない時はアドバイスするよう」
「謎の横文字職業だ、信用ならんが一応保険だ! 食えるチョコ菓子を作りたいヤツはエロ先輩に聞け! 『食えるもの』を作りたいヤツだけだぞ!」
 妙に強調する久志。
「それ以外は俺と共にチョコを作ろう! 栄光ある自由と神のご加護は我々の下だ!」
「それ以外って、どういう事だか判らないよぅ……」
 苦笑する杏を無視し、説明を続ける久志。
「さて、俺達が今回作るのはスタンダードなチョコレート菓子だ。シンプルにチョコレートだけでも良いし、チョコバナナとかカッパドキアでもチョコ関係なら構わん!」
「カッパドキアじゃなくてザッハトルテだよう、一応言っておくよう」
 それでも律儀にツッコミを入れる杏だが、
「名前に囚われるな、真実を見るんだ! 現実から目を背けろ、俺達の真実は二次元(こころのなか)に有る!」
 邪教めいた主張に勢いだけで押されてしまう。
「もう知らないよぅ……」
 杏も匙を投げた。

「無事にプレゼント用のチョコを作り終わったら、それからはティータイムだ。残念ながら作成に失敗してしまったチョコを肴にお茶会と洒落込もう。この際だし、自分の想い人について語り合うのも良いんじゃないか?」
 久志の提案がマトモだと思ったのだろう、杏もうんうんと頷いてみせる。
「きっと優雅で楽しいお茶会になるんだよ―――」
「ただし!!」
 強い口調で杏の言葉を断ち切る久志。杏は嫌な予感がした。
「いいか、1回しか言わないから良く聞けよ……『この想い人は実際に存在していなくても俺は一向に構わん!』」
「……どういう事だよう?」
「だから、既に亡くなってしまった想い人だとか、未だ見ぬ誰かの為にチョコを作る……って場合もあるだろ?」
「なるほど、そういう事かぁ……うん、素敵だよぅ♪」
 杏はキレイな例えに騙されてしまった。
「自分自身にチョコを上げたいというヤツもいるかもしれん。バレンタインは誰にでも等しくやってくるのだ!」
「男のコって複雑なんだよう……」
「良いか、プレゼントする予定の無い独り身は来るなよ、絶対に来るなよ!」
 なにかしらのフリを行いながら久志はイベント説明を締めくくるのだった。

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<リプレイ>

「あ〜!! 超お腹減ったしっ♪♪」
「良いのかい、ホイホイついて来ちまって? 俺はカカオだろうと構わず食っちまう男なんだぜ?」
 うそぶきながら家庭科室にやってくるジョルジュ&ジェラール。
 彼らの吐いたセリフが、今後展開される家庭科室の惨状を予言するモノになろうとは―――
 その場にいた誰もが思っていた。

●普通コース
「これはひどいよぅ……」
 阿鼻叫喚の叫び声、ビーム音やら爆発音が鳴り響く中、避難した真面目コース参加者達。
「一体何をどうしたら、あんな音が出るんすかねぇ……」
 見物中である透馬の呟きはもっともなものだ。
「失敗してあっちに行きたくはねーな……」
「た、楽しそうですよね……」
 ガクブルと戦慄する史雄と鮎隆。
 杏は真面目コース参加者20名をなんとか纏め上げる。
「とにかく! みんなは真面目にチョコ菓子を作るんだよう♪」
「よっし! 任せろ、技術・家庭89点の腕前を見せる時が来たな」
 制服を腕まくりし、やる気マンマンの茜。
「本に書いてある分量と作り方を見れば大丈夫なはずです」
 美希もレシピ本を小脇に抱えている。
 茜と美希、二人とも女のような名前だがれっきとした男である。杏も期待の拍手を送った。
「お〜! 楽しみにしてるんだよう♪ ぱちぱちぱち☆」
「という訳でシエロも手伝ってくれ。ザッハトルテなんざ初めてだからな」
「このレシピにある『適量』というのは、具体的にどれくらいなんですか?」
 初心者な二人にがっくりと肩を落とす杏。
「江口さん、ちょっと。チョコマフィンのコツとかあります?」
 がっかりさせる間もなく助けを求める藤次郎。
「うーん、やっぱり生地の混ぜ方が大事だよう。ふわふわにするには……攪拌(かくはん)得意な人!」
「はい」
「よし、キミはチョコマフィンを手伝ってあげてよう! みんなで協力するよう!」
 藤次郎へ悠仁を押し付けたと思ったら、
「前に依頼で一緒になって以来だな♪ 今日は腕をお借りしますだぜ♪」
 茜と直人へザッハトルテの作り方をレクチャーしている。
「う、うん、よろしくだよう♪」
「あれ? エロ先輩、チョコレートが全然溶けないんだ―――」
「和彦、大丈夫か?」
 関節を一瞬でキメられ、倒れた和彦を心配する千羽耶。
「……とほほ、魔弾術士の手でも借りたいよう。あと私はエロじゃないよう」
 アームロックをかけた腕をグルグル回しながら、周りも同じくらい目まぐるしいなと思う杏。
「うおっ?! 杏! こっちこっち、生チョコ作りのサポしてくれ! カナたんの為なんだ!!」
 次は焦り気味な魔弾術士の麗音に呼ばれてしまう。
「あうあうあぅ……魔弾術士じゃなくて、しっかり猫の手って言っとけば良かったよう」
「シエロ先生! よろしくたのむ!」
 スキンヘッドの強面、十太までもが杏を呼ぶ。そこで―――
「俺でよければお手伝いするよ」
 有り難い龍麻の申し出。杏は潤んだ瞳で龍麻の手を力強く握りしめた。
「ありがとう、助かるよう!」
「ちょっと、手、痛いよ」
 ブンブンと手を振られ、照れたような微笑を浮かべる龍麻だった。

「ねぇ、サダ君。これ、貰ってくれる人居る……かな?」
「どうしよっか、先輩」
 階段状、三段に積み重なったチョコの板にバンザイしていた眞風と珀が、我に返る。
 そこへ救いの手は差し伸べられた。
「えっと、どうぞ作ったんで食べてください」
 自作のモーラットチョコを差し出してくるブルース。
 珀達は顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
「良いよ! その代わり……僕たちのも食べてねっ」
「………」
 笑顔のブルース。無言の心理戦。
 周囲からはピーヒャラという笛の音と太鼓連打音が聴こえてくる。
「ふむ、楽しんでいる彼らには負けられませんね……」
 ブルース達の横、オリバーはラズベリーをタルトの上に敷き詰めていく。
(「しかしこの音、一体何をしているんでしょう……」)
 チラリと肩越しに後ろを見る。
「ソイヤッサ! ソイヤッサ! 俺の心はソイヤッサ!」
 言動はおかしいが、真面目にチョコを作っている宗と、
「離せ! 俺は普通にチョコクッキーを作りたいだけなんだ!」
「はいはい、君のバトルフィールドはこっちだよう♪」
 杏に引きずられて去っていく、紙袋を頭に被った忠明の姿があった。
「……やっちゃった」
 りょくろの呟きは自身のチョコが失敗した事についてなのだが、妙に意味深に聞こえる。
「見てません、僕は何も見てません……っ」
 震え、掠れた水戸の声。
「……ええ、そうですね」
 オリバーは近くの水戸と自身に言い聞かせるよう、呟いていた。

●カオス
 家庭科室に広がった、チョコ色の天然要塞。
「折角だから、僕はカッパドキアを作るぜ! 料理なんてした事ないけどな!」
 三角巾をかぶり袖まくりしてやる気の和真や、ひかる達がソレを作っていた。
「本当にこれでいいのか?」
 流石の世良の目も細まり、自身の行動に疑問を持ち始める。
「ああ、カルスト状だからな」
 疑念を断ち切れと言わんばかりに、断言するひかる。
「カルスト状なら仕方ないな」
 世良は頷き、気にしない事にした。
「あれ……世界遺産か? ヒッキー……凄いモン作ってるな」
 亀吉は言いながら近くの食材を適当に掴み取る。掴んだのはマシュマロ、まあ当たりの食材だろう。
「うむ、良い物だねカッパドキアは……迫害された人々の造りだした叡智(えいち)」
 豹衛は何か勘違いしている。合っているけれど勘違いしている。
「なに、エッチだって?!」
 言葉尻しか聞いていない久志と、
「誤解をされるのは恐いから言葉を選ぶけれど、全く持ってその通りだ!」
 その横で全力で同意している空之介。
「お前らなぁ……つーか久志、お前その腹はファッションかなんかか?」
 呆れた様子のたすくへ、久志は断言してみせた。
「これは心の贅肉だ!」
「意味がさっぱりわかんないよ」
 久志達の会話を聞き、唯冬はチョコにハニーレモンやハチミツを注入しながら呟いた。
「俺にはお前らが何作ってるかもわかんねー」
 ツッコミを入れる椿旡は、星の型にメレンゲ、バター、チョコを流し入れている。
「なにって、ボクはチョコ入りクッキーだよう」
 そう言う夏希の手には赤褐色のジュースが握られていた。ササゲを砕いたモノだ。
「……俺、こんなのを食うのかな」
 毒見役を買ってでた空は青ざめている。
「空兄、俺のは愚ルメにならないようにするからな」
 慰める白蓮だったが、彼女の湯煎中の鍋には、干上がったチョコがこびりついていた。

「あっちのメンバーも大変な事になってるな……」
 小太郎は横目に別班の死に様を見ているが、特に正す事はしない。
 それより先に、
「ぐりぐりと……なんだ、簡単じゃないか」
 湯煎もせずに直接チョコを鍋に投入する皓凱と、
「湯煎なんか、まだるっこしいわ! レンジでチーン!!」
 マヨネーズを持ってレンジ前で待ち構えている光國を止めるべきだった。
「……さて、俺の方は」
 しかし、小太郎は自分のチョコに手一杯で注意にまで手が回らない。いわゆるひとつの死亡フラグである。
「なるほど……ああやるのか」
 漢祭りコースで無謀にも隣の人の真似を敢行した太陽は、横の小太郎のチョコを真似ていた。
 数々の死亡フラグをかいくぐり、見事マシなチョコを作ることが出来そうだ。
 ちなみに、もし逆隣りの作り方を参考にしていたら―――
「俺の、俺の拳があーーッ!!」
 拳で板チョコを粉砕しようとして、思い切り手を切っている未弘。保健室送りにされている。
 前にはイナゴの佃煮・イカスミ・黒豆を悪魔調合している雄介がいたし、
「もうどうにでもなーれ♪」
 後ろには唐辛子に胡椒、ゴーヤ汁を水飴に練りこんでいる幸宏がいた。
「なるほど、野菜ベースならそっちもありか……」
 ピーマンとナスに梅肉チョコをふりかけている摩那も感心する。
「この時期寒いから(身も心も)暖まるモン入れっぞ!」
 タバスコや生姜を混ぜる陸は何故か上半身裸で、鬼気迫る物を感じさせる表情を浮かべていた。
「……どんだけやんちゃ料理なんだよ」
 同行の壱球はフリフリエプロンをつけている自分の服装は棚に上げている。
「チョコレートの中、あったかいなりぃ……」
 上半身どころか全身をチョコでコーティングしている菊一紋次朗もいたが、漢すぎたので杏に修正されてしまった。
『ああやれば全身タイツ型チョコは作れるでありますか?』
 イーッイーッ言いながら、スケッチブックにそんな文字を書く鈴木。傍らに転がっているのはチョコの詰まった全身タイツだ。不定形のニクいヤツと化している。
「うおぉ、独り身の俺がベタベタするなど、あってはならん事だー!!」
 別の場所ではロミオが素手でチョコを掴み、体温でチョコを溶かしてしまっていた。
 杏は『どんだけー』と叫びたくなる。
「元気ですかー……。……元気があれば……何でもできる………」
 元気が無さそうな暁の声。ロミオの元気を足して2でかち割れば丁度良さそうだ。
「これでメガネ型チョコの出来上がり、と……」
 冷蔵庫にチョコを納める鉄。メガネ型チョコというか、かけていたメガネが消えているのは何故だろうか?
「よし、次はタケノコでも入れてみるか!」
 ドバドバとチョコの海へ食材を投げ入れている雨彦。せんべいを入れたところまでは正常だったのだが、栄養ドリンクを入れたあたりから常軌を逸しはじめていた。
「真の絆とは! その人の為なら死も厭わないことと見つけたり!!」
 名称不明な緑色のキノコをチョコに詰めているクロエ。1アップしそうではある。
「も、もうチョコ作りは終わりだようー! お茶会にするよう!」
 もう限界だと思った杏が調理を打ち切る。カオスな漢祭りは終わった。
 ―――いや、これからなのだ。

●お茶会
 巨大な円卓に座った面々。それぞれの余りチョコと失敗チョコを持ちよっている。
「はい、お茶になりますよう」
 紅茶を人数分出す杏。一人で一体どうやって60人ほどのお茶を冷めないうちに用意したのか。
「ふふーグルメな僕だからね? どんなチョコが出来上がるのか楽しみさ♪」
 コメンテーターを気取る玲樹だったが、
「はわわわわ!? こ、これは一体!? 未知の兵器なのか、そうなのか!?」
 円卓の半分ほどを占める巨大チョコ『カッパドキア』を見た瞬間にどうしようもなく叫んでいた。
「どんなものでも食べるとは言ったけれど……」
 カッパドキアを攻略するべく食べまくるそうまだったが、胸焼けと満腹感が彼を襲う。
「出てくるっすかね? チチチ……」
 物陰で上手く出来たチョコを振ってみる透馬。
「……じゃー」
 ひょっこりと物陰から頭だけ出してくるナターシァ。予報士召喚は成功したようだ。
「おいでー、怖くないよ〜」
 カイトの差し出したチョコと、透馬のチョコを食べて満足そうなナターシァ。
「美味かったのじゃ、ありがとなのじゃ〜」
 チョコ2個でお腹一杯になったらしい、帰っていくナターシァ。
 マトモなのは、ここまでだった。
 ロシアンチョコに、ハズレしかないチョコ色占い。
「か、勘違いしないでよね!」
 誰だかよくわからないツンデレからお見舞いされる死のチョコレート達。
「あはは……綺麗な川が見える……」
「糞不味いヤッサーっ!!」
 それだけ言い残して倒れた空と幸宏を、担架で保健室まで運ぶ龍麻。
 別の席でも壱球と陸が折り重なるようにして倒れている。壮絶な相打ちだった。
「やっぱ包丁持った女の子が最高っすよね」
「いやいや、鉈も捨てがたいぜ」
 久志を中心にしたロクでもない漢の会話。自分達の嫁について語っているようだ。
「俺の想い人は永遠に、あの時会った『夕焼けの似合う長髪美人』だァーーーーッ!!」
「彼女なら今俺のベッドで寝てるぜ」
 他人の心の叫びを無駄にする久志。勿論寝てなどいない。
「久志も二次元じゃなく、実際に恋人を作った方が色々と楽しいぞ。俺の恋人は可愛くてなぁ……」
 ノロケを始めようとする十太に、久志が噛みつく。
「梅祭りの時に見たヤツだよな、覚えてるぞ。確かお前の彼女って10歳だよな」
「あ、愛に歳の差なんか関係ねぇ!」
 反論する十太へ口泡を飛ばす久志。
「その通りだ!」
「……肯定してどうするんだよう」
 差し入れの緑茶を頂いて、見学中の杏。
「なら、次元の差も関係ないだろ!!」
 言い切った。その漢らしさに拍手喝さいを送る男達。
「もうダメだよう、この人達……」
 得意満面な久志だったが、その余裕はすぐに打ち砕かれた。
「久志、これ、俺からのプレゼントだ! 同じデブとして、尊敬してるんだぜ!」
 薫からまわし型チョコを渡され、嫌そうな顔を浮かべる久志。
「俺はデブじゃない、もてぷよなんだ……とほほ」
 もてぷよとは―――『モテる』と脂肪たっぷりなお腹のイメージ『ぷよぷよ』が合わさった、太っている事にポジティブな意味を持たせようとした言葉だ。アッチ方面の方々で流行りかけているそうな。そんなバカな。
「是非とも、このまわしを締めた勇姿を見せていただきたい!」
 漢達に寄ってたかって服を脱がされる久志。
「か、カンベンしてくれ〜!!」
 どっす! こいっ!
 久志はシコを踏まされた。スポーツ(笑)


マスター:蛇宮幸恵 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:57人
作成日:2008/02/13
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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