躊躇い坂の地縛霊


<オープニング>


●躊躇い坂
 躊躇い坂と呼ばれる場所がある。
 その先にあるのは断崖絶壁。
 故に躊躇い坂を登っていくのは自殺者のみ。
 そんな彼らの気持ちを考え直させる場所が躊躇い坂である。
 躊躇い坂は勾配がキツイため、よほど根性がなければ、途中で心が折れてしまう。
 そのため、飛び降り自殺の抑止になっていたのだが……。

「みんな、集まったな。それじゃ、話を始めるか」
 運命予報士、王子・団十郎(高校生運命予報士・bn0019)。
 今回の依頼は彼の口から語られる。

 躊躇い坂で地縛霊が確認された。
 この地縛霊は躊躇い坂の途中に特殊空間を作り出し、引き返そうとする者達を引きずり込んでいるようだ。
 引きずり込まれた者達の中にはリビングデッドと化した者もおり、坂道を下りて行こうとする者達を追い回して崖から飛び降りさせようとする。
 地縛霊は崖の先に浮かんでいるため、遠距離から攻撃するしか方法がない。
 迂闊に近づいて攻撃を仕掛ければ、そのまま海に真っ逆さまだからな。
 ただし、地縛霊は遠距離攻撃の射程外まで逃げて、能力者達を小馬鹿にしたような態度を取るから気をつけてくれ。

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参加者
弥栄・未生(緇素の死神・b00063)
琉孔・セト(彼の蟲溢るる籠行燈・b03188)
御子柴・蜂蜜(紫音月夜・b10907)
琴月・ほのり(ほおずき灯る女神・b12735)
近衛・華琥(機工魔術師・b14542)
泉野・流葉(目指せ未来の大富豪・b17892)
風浦・小夜(昧爽・b20314)
ティファニー・フィッツジェラルド(お嬢様はガトリングがお好き・b29235)
深・緑(深淵・b33169)
七種・燈迩(豪拳赤手・b34454)
石琉・佳恋(赤龍刃角・b34490)
神羅・あやね(影を歩みし者・b35586)



<リプレイ>

●躊躇い坂
「……ここが躊躇い坂ですか。自殺者しか登らない坂なんて、なんとも悲しい坂ですね……。確かにこんな場所では観光なんて出来ませんが……。飛び降り自殺の抑止と言っても、何か別の形があれば良かったのにな、と思ってしまいます」
 寂しげな表情を浮かべて躊躇い坂を眺めながら、風浦・小夜(昧爽・b20314)が溜息を漏らす。
 躊躇い坂が自殺の名所となる前は、断崖絶壁から雄大な海の景色を楽しむ事が出来たらしい。
 そのため、躊躇い坂の呼び名も『あまりにも海の景色が美しいため、帰る事を躊躇う』という理由から。
 ただし、その事を知っている者がほとんどおらず、大半の者達が自殺の名所になってから躊躇い坂と呼ばれるようになったと思い込んでいる。
「……自らの命を絶とうとする人が、勾配で救われるなんて……。なんだか人間の弱さみたいなものを感じちゃいますねぇ。でも、どんな命であれ、可能性があるから、それを引きずり込もうなんて絶対にいけないのですぅ!」
 すぐさまイグニッションし、琴月・ほのり(ほおずき灯る女神・b12735)が拳をギュッと握りしめる。
 躊躇い坂は滅多に人が立ち寄らない場所になっており、まわりには能力者達以外の姿がない。
「躊躇って、躊躇って……、そうやって、生きていく……。そのための、坂を……逆手にとるのは、……許せない。ね。なんか、むかつく……」
 不機嫌な表情を浮かべながら、琉孔・セト(彼の蟲溢るる籠行燈・b03188)が躊躇い坂を睨む。
 躊躇い坂を登ったが最後、特殊空間に引きずり込まれてしまうため、結果的に死ぬ以外の選択肢がなくなってしまう。
「迷っている奴に対して、強要をするというものは……驕りだな。踏み止まり、明日を歩み出す事が出来た筈だ」
 躊躇い坂を睨みつけるようにしながら、弥栄・未生(緇素の死神・b00063)が厳しい口調で吐き捨てた。
 しかし、地縛霊がどうしてそんな事をしているのか、調査不足のせいでまったく理由が分からない。
「余程の根性がねー限りは登りきれず挫折してしまう坂ですか。まぁ、確かにそんな根性があればまず自殺なんて考えねーでしょーからね。それはさておき、地縛霊とこの坂の関係はなんなんでしょーか? 単純に考えるとここでの自殺者だと思うのですが人を小馬鹿にする態度と自殺志願者を追い立てている事がどーも引っ掛かるんですよね。聞いただけの話ですと負けず嫌いでプライド高そーで人を見下してそーな性格ですから、誰かに『根性のないお前にはこの坂は登れない』って言われた事が原因で、意固地になって登った挙句、過って崖から落ちてしまった線じゃねーでしょーか?」
 自殺者のリストに目を通し、近衛・華琥(機工魔術師・b14542)がボソリと呟いた。
 彼女の予想に合致した自殺者はひとり。
 酔った勢いで気持ちが高ぶっていた事も原因だったようだが、状況的に考えて彼が地縛霊である可能性が高い。
「また随分と捻くれた相手です事。なるべく早めに倒して、逆に仕返ししてみたいのですの」
 地縛霊と思しき男の写真を眺め、御子柴・蜂蜜(紫音月夜・b10907)がクスリと笑う。
 この辺りに留まっている地縛霊は躊躇い坂を引き返した相手を馬鹿にしているため、何とかして相手にも屈辱感を味わせたいようである。
「まぁ、シルバーレインで甦る死者なんか、おおむね碌な性格をしていない。我々、銀誓館能力者の仕事が尽きないのも当たり前だよなー」
 苦笑いを浮かべながら、泉野・流葉(目指せ未来の大富豪・b17892)がぼやく。
 地縛霊と思しき男性は生前から嫌われており、自己中心的な性格だったらしい。
 そのため、断崖絶壁から落下しても、必ず生還すると信じていたようである。
「自殺を望んでいる人の悩みも苦しみも分からないし、止める権利は無いかも知れない。だけど、登りきる事を諦める人は、まだ助かるかも知れないんだよな……。そんな人も死に追いやるゴーストを許すわけにはいかない。何としても退治しなければ……」
 自分自身に言い聞かせるようにしながら、七種・燈迩(豪拳赤手・b34454)が躊躇い坂を睨んでイグニッションをした。
 躊躇い坂の勾配が急なので登るのにも一苦労だが、地縛霊を退治するためには我慢するしかない。
「……用が無ければ、あんまり来たく無い所ですね」
 疲れた様子で汗を拭い、深・緑(深淵・b33169)が愚痴をこぼす。
 彼女にはここまで苦労して自殺する者達の気持ちを理解する事が出来ないため、これといって特に思う事もないようである。
「前回の依頼に参加したのは5か月前……。あの頃はまだ駆け出しのへっぽこ能力者でしたけど、今のわたくしはもう一人前の能力者ですわ。レベルアップしたわたくしの実力、ゴーストどもに存分に味わわせてあげますわよ!」
 一歩一歩踏みしながら、ティファニー・フィッツジェラルド(お嬢様はガトリングがお好き・b29235)が躊躇い坂を登っていく。
 そして、途中で立ち止まって仲間達に合図を送り、一斉に踵を返して躊躇い坂を下りていく事にした。
「ここには思念が感じられるわね。犠牲になった者達の無念が……。堕ちたものよ、心に負けたモノよ、いらっしゃい。この来訪者たる土蜘蛛が穿ってあげる。汝らよ還れ。黄泉平坂へ。その魂よ」
 土の中からワラワラと現れたリビングデッド達を見つめ、石琉・佳恋(赤龍刃角・b34490)が赤手を振り下ろす。
 地縛霊の作りだした特殊空間はうっすらと霧が出ており、油断していると足を踏み外しそうである。
「この程度でどうにか出来ると思っているなんて、片腹痛いわね……。言っとくけど、私は甘くはないわよ。相手が誰だろうと、任務であれば倒すのみ……」
 ハッとした表情を浮かべ、神羅・あやね(影を歩みし者・b35586)がロープを掴む。
 事前に坂道の中腹で杭を打ってロープを結んでおいたのだが、現実世界と特殊空間は別の扱いになるため、まったく意味がなかったようだ。

●リビングデッド
「おやおや、何か生えてきましたね」
 不自然に盛り上がっている地面な気づき、緑が白燐拡散弾を撃ち込んだ。
 それと同時にリビングデッドが土の中から顔を出し、頭が吹っ飛んで腐汁を撒き散らした。
「ひょっとして彼らは、ここで飛び降りた方達なのでしょうか?」
 地中からリビングデッド達の両腕が伸びてきたため、小夜が尻餅をついて両足をバタバタさせる。
 しかし、リビングデッド達はしつこく両手を伸ばし、能力者達の足を掴もうとした。
「いや、飛び降りる事さえ出来ず、ゴーストに襲われた犠牲者達だろうな」
 自分の両足を掴んでいたリビングデッドをジロリと睨み、流葉が近距離から躊躇う事なく雷の魔弾を撃ち込んだ。
 その一撃を食らってリビングデッドの身体がマヒし、彼を掴んでいた両手がダラリと落ちる。
「ミイラ取りがミイラになれば、それもまた罪だ。不本意な死でも、更なる犠牲者を出す権利は無い。貴様等の行った業を返すぞ」
 リビングデッド達が断崖絶壁に近づけないようにして行く手を阻み、未生が一気に間合いを詰めて紅蓮撃を叩き込む。
 そのため、リビングデッドの身体が魔炎に包まれ、悲鳴をあげて地面をのた打ちまわる。
 ここでリビングデッド達が先に進めば、地縛霊を退治に向かった仲間達が苦戦してしまうため、何としてもここで食い止めておく必要があった。
「ここが正念場ね。無念に心を堕としたヒトであるものよ、今こそその無念解き放ってあげる。この土蜘蛛が……」
 含みのある笑みを浮かべながら、佳恋が蜘蛛童・膨の頭を撫でる。
 それと同時に蜘蛛童・膨が走りだし、リビングデッド達を薙ぎ倒していった。
「さっきは油断したけど、同じ過ちを繰り返すつもりはないわ。……今度こそ」
 再び地面に杭を打ちつけ、あやねがロープを縛りつけていく。
 地縛霊の支配下にある特殊空間で、どこまで役に立つのか分からないが、何もしないよりは数倍マシである。
「次から次へと……、これじゃキリがないな。一体、どれだけの人間がこの坂を登ったのやら……」
 ゲンナリとした表情を浮かべて魔弾の射手を発動させ、流葉がリビングデッドに雷の魔弾を炸裂させた。
 その一撃を食らってリビングデッドがビリビリと痺れ、バランスを崩して坂道を転がっていく。
「邪魔よッ!! これ以上、手間掛けさせないでくれる?」
 不機嫌な表情を浮かべながら、あやねが白燐拡散弾を撃ち込んだ。
 次の瞬間、彼女のまわりを囲んでいたリビングデッド達が倒れ、肉塊と化してゴロゴロと坂道を転がっていった。
「食い散らかしてしまえ」
 仲間達に白燐奏甲を付与し終え、緑がリビングデッドに白燐拡散弾を叩き込む。
 ブクブクと腐汁を吐きながら、崩れ落ちるリビングデッド。
 だが、それを見ても他のリビングデッド達が立ち止まる事はなく、次々と能力者達に襲いかかっていく。
 その様はまるで死ぬ事が分かっていながら、迷う事なく突き進むレミングス達のようだった。
「普通に……、成仏して下さい」
 犠牲者達の気持ちを理解し、小夜が水刃手裏剣を投げつける。
 その一撃を食らってリビングデッドが断末魔をあげ、前のめりに崩れ落ちていく。
「死の道とは、どのような時に開けるものなのか」
 断崖絶壁へと続く道を見つめ、未生がボソリと呟いた。
 どうやら途中で特殊空間から追い出されてしまったらしく、いつの間にか辺りに漂っていた霧も晴れている。
「せめて祈りましょう。汝らが天国へ行けるように」
 犠牲者達の冥福を祈りながら、佳恋がゆっくりと両手を合わす。
 例え犠牲者達が死を望んでいたとしても、こんな結果を望んでいたわけではないと思いつつ……。

●地縛霊
「現われましたわね、地縛霊。嫌というほど鉛玉をブチ込んで差し上げますわ!」
 詠唱ガトリングガンを構えながら、ティファニーが白燐奏甲を発動させる。
 地縛霊はいやらしい笑みを浮かべ、楽しそうに空中でダンスを踊り出す。
 その踊りは明らかに能力者を馬鹿にしており、ジッと見ているだけでも腹が立ってくる。
「躊躇い坂は躊躇いのままでいいのですぅ! 無理やり死なせる事は許さないのですぅ〜!」
 魔弾の射手を発動させながら、ほのりが地縛霊に説教をし始めた。
 それに合わせてモーラットのぱおにーもプンスカと怒り、彼女と一緒になってブツブツと説教をする。
 その事に地縛霊が腹を立てて指をパチンと鳴らし、能力者達が立っている足元の地面を消した。
「うわっと! いきなり地面を消したら、心臓に悪いでしょうが……。まったく油断も隙もありませんねー」
 いきなり足元の地面が消えたため、華琥が後ろに飛び跳ねた。
 どうやら地面が消えたのは幻だったようだが、その様を見て地縛霊が腹を抱えて笑っている。
「……挑発には、のらない……。でも、腹が立つ……。まぁ、馬鹿と、煙……は、高いところ。が、お好き……って言うから、仕方ないか」
 こめかみをピクつかせながら、セトが白燐奏甲を発動させた。
 何とか隙を見て光の槍を放つつもりでいるのだが、地縛霊が突然地面を消したりするため、迂闊に攻撃する事が出来ない。
 その上、単なる幻だと思って一気に間合いを詰めると、本当に消えていたりするので、能力者達の怒りがピークに達し始めていた。
「だああああああああ! 小賢しいっ! こっちだって我慢の限界があるぞ!」
 殺気に満ちた表情を浮かべ、燈迩が土蜘蛛の檻を発動させる。
 しかし、地縛霊の動きを封じる事は出来ず、無駄に時間ばかりが過ぎていく。
 それでも諦める事無く土蜘蛛の檻を仕掛け、地縛霊の動きを封じ込めようとした。
「うふふ、怖くて逃げたですの。どちらが真のおばかさんか、勝負なのですっ!」
 地縛霊の事を挑発しながら、蜂蜜が呪殺符を投げつける。
 そのため、地縛霊が彼女の攻撃を避けたが、土蜘蛛の檻までは抵抗する事が出来ず、まったく身動きが取れなくなった。
「……捕った! もう逃がさないんだぜ、土蜘蛛としての誇りに賭けてな!」
 勝ち誇った様子で笑みを浮かべ、燈迩が森羅呼吸法を発動させる。
 その間も地縛霊がマヒしているため、遠距離から攻撃すればダメージを与える事が出来そうだ。
「さあミンチにして差し上げますわよ♪ らららら〜♪」
 楽しそうに鼻歌を歌いながら、ティファニーがガトリングガンを乱射した。
 そのため、地縛霊の身体に風穴が空き、辺りに悲鳴が響き渡る。
 それに合わせてモーラット・ピュアがピョンピョンと飛び跳ね、傷ついた仲間達の治療に向かう。
「さっきまでの威勢はどこに行ったんでしょうね。所詮は口だけという事ですか?」
 含みのある笑みを浮かべながら、蜂蜜が地縛霊に導眠符を投げつけた。
 それと同時に地縛霊が奇声をあげて導眠符に抵抗し、一気に間合いを詰めて能力者達に攻撃を仕掛けていく。
「私達とマトモに戦って勝ち目があるとは思っていませんよねー? 自惚れるんじゃねーぞ、チキン野郎!」
 魔弾の射手で攻撃力をアップさせ、華琥が地縛霊に雷の魔弾を撃ち込んだ。
 その一撃を食らって地縛霊の動きが封じられ、能力者達の前でピタリと止まった。
「わざわざ自分から倒されに来るなんて……、けっきょく貴方も引き返したかったんですねぇ〜、くすっ♪」
 わざと挑発的な言葉を選び、ほのりが炎の魔弾を炸裂させる。
 次の瞬間、地縛霊の身体が炎に包まれ、特殊空間全体に断末魔が響き渡った。
 そのため、特殊空間を維持する事が出来なくなり、地震にも似た揺れと共に能力者達が躊躇い坂に戻ってくる。
「そう言えば、花束を……持ってきた、んだ。最後に、お供え。巻き込まれた人達…の、ために……、おやすみなさい」
 断崖絶壁から飛び降りた犠牲者達の冥福を祈り、セトが持ってきた花束を海に投げ落とす。
 彼女の投げた花は途中で散らばり、パラパラと海に落ちていく。
 それはまるで海に咲く巨大な花のようだった。


マスター:ゆうきつかさ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:12人
作成日:2008/02/09
得票数:カッコいい16 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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