求道者〜逆さまな蹴撃〜


<オープニング>


 すでに零時を回ろうかというのに、未だ熱気の衰えない繁華街。
 そこから離れた裏通り。通りかかる者などほとんどいない場所に彼はいた。
 大まかな姿は、ヒップホップ系のダンスファッションに身を包んだ若者か。
 赤いサングラスを煌かせたドレッドヘアの男。表通りならストリートダンスを嗜むものとして見られただろう。
 ――ただし、常に逆立ちしていなければの話だが。
 逞しい両腕と頭で身を支え、足を放り出す形になっている彼。その足が向く先にいるのは、哀れにも腰を抜かしている女。
 ――そして、血溜りに沈んでいる男。
 彼は慣れた動作で女に近づき、そのまま蹴りを突き刺して……。

「死してなお……いや、死したからこそ踊り狂う……と言ったところか」
 秋月・善治(高校生運命予報士・bn0042)は窓の外を見つめ呟いて、そっと一息。
 後、皆の方に振り向いて、説明の開始を告げた。
「事件が起きているのは、とある繁華街の裏通り。現れたのは、地縛霊だ」
 被害者は五人。
 人通りの少ない場所とは言え、皆無ではない。放っておけば、再び被害者が出る日も近いだろう。
 その前に、退治しなければならない。
 具体的な場所を記した地図を渡しつつ、善治は話を進めていく。
「この裏通り。表通りから結構離れているため、人通りは少ない。赴く時間帯……夜零時以降なのだが。この辺りなら、特に目撃者を気にする必要も無いだろう」
 また、足場は広く固い場所なので、戦闘に関する有利不利は特に発生しない。
 続いて、発生条件。
 発生条件は、最大三人以内の人間が、夜零時から朝陽が昇るまでに、件の場所を訪れること。さすれば、援護ゴーストと共に地縛霊が出現する。
 また、メインの地縛霊は、ヒップホップ系のダンスファッションを纏い、常に逆立ちしている男という姿なため、見間違える可能性は皆無だろう。
「さて、それでは戦闘能力の説明に移るぞ」
 通常の攻撃は、蹴り。特に特殊な効果は無く、威力は並程度。
 特殊なものは三つ。
 一つ目は、腕のバネを活かして徐々に近づきながら、幾度も相手に蹴りを喰らわせる攻撃。威力は低いが、幾度も追撃される恐れがある。
 二つ目は、深く息を吐き、瞳を黄色く光らせる行動。身を癒し、守りを固め、力までも高める。
 三つ目は、瞳が黄色く光っている時のみに行ってくる、相手を自分の足に巻き込み何度も蹴る攻撃。反動で高めた力を失ってしまうが、威力が高い上に避け辛く、追撃までも併せ持つ。
「また、援護ゴーストとして五体の地縛霊を使役している」
 恐らく、殺された被害者だろう。
 援護ゴーストは、力こそ無いものの積極的に動き回り、敵を分断しようと……メインのゴーストと敵ができるだけ一対一の状況になるよう、立ち回るという。
「以上が、この度の情報だ。元に策を考え、事に当ってくれ」

 情報を伝え終えた善治は、一度息を吐く。
 後、何かを思い浮かべながら、淡々と語った。
「様相から鑑みるに、この度の地縛霊はダンスを踊っているつもりなのかもしれないな」
 ならば、攻撃するのはダンスを邪魔されたからか。あるいはダンスを認められなかったからか。
 ともあれと、善治は再び顔を引き締める。
「すでに沢山の被害者が出ている。これ以上被害者を出さないためにも、油断せず確実に倒してきてくれ。吉報を、待っている」

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参加者
九条・楓(黒影刃・b01747)
風華・八重(小学生霊媒士・b02664)
草間・静音(ナイトダンサー・b02758)
鷹峰・京護(国護りの影祓い・b04005)
空条・良(乱舞乱舞レボリューション・b08363)
松本・銀二(居眠り銀鼠・b15975)
二千六百年・雪(爆ゼロ柘榴ノ様ニ・b17308)
浦雪・坤(乾を仰ぐ者・b38037)



<リプレイ>

●月明かりに照らされた、戦場という名のダンスステージ
 今宵は月夜。
 繁華街の喧騒がかすかに聞こえる、普段でも人気がほとんど無い裏通り。集うのは銀誓館学園の生徒たち。
 集う理由はただ一つ。発生したゴースト、ダンサーの地縛霊を退治するため。
 もっとも、出現までは時間がある。ならば、目的どおり周囲の明るさなどを調べよう。
 裏通りとはいえ、電灯による光源はある。故に、余程遠くに行かない限り、相手が暗闇に紛れて見えないなどという事は無いように思えた。
 故に、皆の結論を後押しする形で、風華・八重(小学生霊媒士・b02664)が告げる。
「特に問題は無いかな」
「それじゃ、時間まで確認しよっか」
 電灯を設置するために、時間を割く必要が無くなった。その時間を有効活用しようと、松本・銀二(居眠り銀鼠・b15975)が提案する。
 作戦の概要。
 九条・楓(黒影刃・b01747)、草間・静音(ナイトダンサー・b02758)、空条・良(乱舞乱舞レボリューション・b08363)、そして猫に変じた二千六百年・雪(爆ゼロ柘榴ノ様ニ・b17308)が囮としてダンサーを呼び出し、しばしの間相対する。
 後、八重、銀二、鷹峰・京護(国護りの影祓い・b04005)、浦雪・坤(乾を仰ぐ者・b38037)の四人が、ダンサーが使役する五体の援護ゴースト……京護にならい、バックダンサーと呼ぼうか……と相対しつつ合流。後、バックダンサーから殲滅。
 皆の間に、作戦レベルでの齟齬は少ない。相談は滞りなく締めくくられ、時計を見てみれば丁度零時を過ぎたころ。
 ――風は冷たく、渇いている。遠くから熱気は伝わってくるけど、近くに他者の気配はなく、戦う分に支障は皆無。
 ならば、戦うために動き出そう。
 準備を整え、猫に変ずる雪。
 彼女を従えて、先を行く静音たち。
 見送る京護が、ポツリと一言呟いた。
「観客を殺しちまったら、意味ないだろうにな」
 まだ、姿を現していないダンサーに向けての言葉。
 込めたのは、すでに狂ってしまったダンサーへの、哀れみだろうか。

 猫として良の隣を歩く、雪。
 低い姿勢から前を見つめながら抱くのは、今宵のゴースト。ダンサーの事。
 いわく、常に逆立ちだというダンサー。頭に血は上らないのかと。
 そんな、戯れのような問い。だからこそ、すぐに答えへと思い至る。
 いわく、ゴーストには血液などなかったと。
 ――吹く風は静かだが、冷たい。夜道を照らす月と電灯は、恐怖を与えるには少ないが……勇気を与えるにもまた、足りない。
 そんな様子に雪が何気なく鳴いた時、進む先が人の形に歪む。
 次の刹那には、月明かりに照らされた一人の男が描き出される。
 男は、逆さまだった。
 男は、光沢のある黒い長ズボンをはいていた。
 男は、白いシャツとジャンパーを身につけていた。
 そして軽やかに踊り狂う姿は、情報通りの地縛霊。
 次いで援護ゴーストが姿を現す最中、猫から人へと戻りながら、雪は想い抱く。
(「ま、精々踊り狂ってれば良いのではないでしょうか。死への、舞踏を」)
 興味など無い。そんな冷めた感情を、瞳に宿らせて。

●レッツ・バトルダンシング!
「いやー、ほんとに逆さだなー。親近感湧いちゃうぜ」
 予測された登場。
 慌てず騒がずホイッスルを鳴らした後、良は得物を構えながら呼吸を整える。
 抱くは格闘ダンサーとしての矜持。
 敵が格闘ダンサーであるかは脇に置き、成敗すると心に抱く。
「死して尚に踊り続けるか……その意気や良し!」
 力高めるため、振り回すは天楼剛烈剣。
 告げるは楓。瞳に宿らせるは強い意志。
 迎え撃つはダンサー。及び、アクティブに動き回るバックダンサーたち。
 バックダンサーたちは四人を分断しようと動く。手足を振り回し、ダメージ与えようと試みる。
 しかし、叶うことは無い。
 元より、能力者たちより低い力量。
 何より、静音も意識し続けているチームワーク。裏打ちするフォーメーション。
 阻まれるに、十分足る理由。
 そうして争い集中したならば、時が過ぎ行くのも早い。
 程なくして、仲間たちがやってくる。
 ――ただし、囮組の背後に回った、バックダンサーを挟む形で。
 今、叶うはノイズの多少の除去。
 ダンサーを抑えるのに集中しやすくなるという一点のみ。
「さて……」
 ならば担おう、その役目。
 傷付いた体を癒し、力を高める魔法陣を雪は描き出す。
「狂った様に踊るのも構いませんが、今度はわたくしと踊っていただきましょう」
 得物に込めた意味が示すような、狂気にも似た喜びの光を、瞳に宿して。

 厄介なダンサーは、ひとまず静音たちが抑えてくれている。
「貴様ら消えて無くなれェ!!!」
 ならば行うべきは、速やかな敵の排除。
 降るは弾丸。行うは坤。
 前方に立つは銀二。差し向けるは影。
 弾丸の嵐に撃たれながら、強き影に引き裂かれながら尚、バックダンサーは動く。
 素早く、自由に。
 囮組を……後発組も、分断するために。
 二体のバックダンサーの意識がこちらへは向いていないのならば、合流も容易。
 ……その、はずだった。
 囮組との速やかな合流。先の相談でもすりあわされた、作戦。
 全体的な作戦意識は、そちらへ向いている。
 しかし、個々人が持ち合わせた戦術の多くは、遠距離攻撃による牽制、攻撃。
 遠距離射程の行動は、立ち止まった状態でしか行えず、中々距離が縮まらない。縮められない。
 囮組の楓が、蹴撃をまともに受けた。
 遠目にも、個々人の回復だけで足りるダメージではない事がうかがえる。
 しかし、八重のモーラット、ポメに単独でバックダンサーたちを越える力はなく……。
「ったく……面倒なバックダンサーだ!」
 白燐奏甲を持ち合わせる京護もまた、単独で越えるのは容易ではない。
 だから、急く思いを押し込めて、白燐蟲を解き放つ。
 白燐蟲の勢いに飲まれ、バックダンサーが一人消え去った。
 ――けれども間隙は生じない。あるいは、全員がひとまず突破に集中していれば、話は別だったろうけど……。
 急務は殲滅。
 幸い、バックダンサーの力量は低く、内二体は後発組に意識を向けてすらいない。
 重なるは白燐蟲、弾丸、影。そして、雑霊。
 最後の一体を打ち倒したならば、改めて意識をダンサーへと向けなおし……。
「わー……本当に逆立ちしてる」
 瞳を光らせるダンサーを見た八重が、改めてといった様子で言葉を吐く。
 続いて視界に入ったのは、多少荒い息を吐いている静音と雪、そして良。
 ――そして、倒れ伏している楓。
 ダンサーが動く。
 瞳の光を対価とし、大仰なステップを刻み始める。
 足を忙しなく動かせば、息を整えていた良を巻き込み踊り狂う。
 幾度もの打撃音。響いた後弾かれた良は、意識を失って――。

●鮮やかな月にあてられて、狂い踊った者の末路
 倒れた楓と良を庇いつつ、雪が放つは水の刃。
 ダンサーはステップで後ろに下がり、避ける。
 避けた勢いを腕に乗せ、バネの力で京護を蹴りつける。
 幾度も、幾度も。
 積み重なったダメージに、京護は退き身を癒す。ポメにも癒してもらい、安全域へともって行く。
 その間、前衛が薄くなっては不味いと、坤が前に出る。
 ――彼女は、踊らない。
 ダンサーと同じように舞踊り、戦う術は得意ではあるけれど……踊らない。
 例えゴーストといえど、踊る間は誰も傷つけたくない。
 反転させ、踊りながら人を傷つけるこのゴーストは許せない。
 意志の下、影による攻撃を避けた隙を狙い、弧月の蹴撃叩き込む。
 次いで、癒しの回数がなくなったのを確認した八重が、ポメの力をその身に宿す中。
 剣舞により相対するは静音。
 振るうは、雷と風の神名を借りた練気の双剣。
 描くは漆黒。刻むは影。
 微量の癒しを感じながら抱く、更なる確信。
 ヒップホップは専門外だが、踊りならば負けていない。
 対するダンサー。
 鋭い瞳を光らせて、自らの身を癒しつつ様々な力を高めてる。
「……踊りの時間は終わりだ」
 それ即ち、強烈な威力を秘めたブレイクダンスの合図。
 ――威力は、すでに実証されている。
 ならば、撃たれる前に倒したい。
 願いを告げ、坤は再び蹴撃叩き込む。
 影が掠めて消える中、解き放たれる雑霊は八重のもの。
 頭でクルクル回ったりする様子は、子供の目から見てもかっこいい。
 けど……ダンスは見てもらうためのもの。決して、人を傷つけるためのものじゃない。そのはず。
 相違なき思いは雑霊たちに伝わって、ダンサーの身を削り行く。
 削り行くが、倒すには足らない。届かない。
 ダンサーは舞う、伸びやかに。
 銀二の事を、巻き込んで。
 ダンスに巻き込まれ弾かれて、白く染まるは彼の視界。
(「……さっさと」)
 意志の力でねじ伏せて。熱く魂を燃やしつくし、肉体叱咤の後意識を引き戻す。
(「引導渡してやらないとッス!」)
 ダンサーの踊りが、精彩を欠いていたよういに感じられたから……癒さず返す。
 黒の布槍を構えつつ、漆黒の影の手差し向ける。
 引き裂き毒を送り込めば、畳み掛ける仲間たち。
 静音の剣が再び、ダンサーの身を傷付け軽やかな軌跡を描き出す。
 坤の剣が閃けば、ダンサーの身に深い傷を刻み込む。
 続くは八重。ポメを身に宿し、力を強化した。
 伸びやかにしなる蛇鞭は、ダンサーの体に消えない痕を残して……。
 ダンサーはなおも舞う、軽やかに。
 上段から繰り出される蹴りは、二対の漆黒構える京護に襲い掛かり……。
「その操り糸を今断ち切ってやるっ」
 京護は弾く、力強く。
 そして振るう、影の技。
 影の腕がダンサーを引き裂けば、次いで動くは雪。
「……柘榴の様に爆ぜなさいな」
 告げるは終幕。
 放つは手裏剣。
 水の力で作られた透明な刃は、ダンサーの身を切り裂き消えていく。
 ダンサーはなおも、頭を支柱にしクルクル回る。
 ――それは慣性。今はもう、動けない事を示す。
 クルクルクルクルと、月明かりに照らされる男の動きは、今宵のステージが終わるのを拒むよう。
 けれども、運命を変えられるわけでもなく……やがて、回転が止まるころ、消滅する。
 肩で息をし、疲労色濃い能力者たちに、見守られながら……。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/02/25
得票数:カッコいい8  えっち1 
冒険結果:成功!
重傷者:九条・楓(黒影刃・b01747)  空条・良(乱舞乱舞レボリューション・b08363) 
死亡者:なし
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