<リプレイ>
●BURN 「ヒャッハ、恋の幕開けと総ての終焉…ククク」 スケッチブックに「カイトさん、亜矢さん、気を付けてなんだよー」と書いて見せながら、六六・六(高性能電波受信奇人・b38459)は楽しげに笑んだ。 そんな激励? に、カイト・クレイドル(誇り高きもふもふわんわん・b37048)は「任せとけ!」と力強く応え、歌彩・亜矢(レイジングファルコン・b36337)もまた、頷いた。 「どんな事情か知らないけれど、無関係な女の子達を襲い続けるなんて、赦されないわ。……徹底的に叩き潰してやるわ」 傷心の女性につけ込み、その血肉を食らう不埒なリビングデッドを誅する為、12人の能力者達が集った。 全員の心にあるのは、ある種の義憤。 (「女性を標的にするなんて、同じ女性として絶対に許せない!」) 吉国・冬花(季節外れの転校生・b37620)の怒りは、同性として当然と言えた。 それと同時に、心を伝えるものであるはずの歌で、人を傷付けるというリビングデッドの行為もまた、彼女の怒りを誘う。 歌に特別な思い入れがあるのは、時任・檸檬(発条の無い自鳴琴・b36785)も同じだった。 彼女の存在は歌う為にあると、檸檬は信じて疑わない。故に、存在する為に、糧を得る為に歌を凶器として用いるリビングデッドの存在を、彼女は理解出来なかった。 だが、そんな許されざる存在であるはずの敵の境遇を思うと、檸檬は彼女自身が理解出来ない感情が込み上げて来るのだ。 (「この学園に来てから、私はおかしい。以前ならこんな風には思わなかったのに」) 同情に似た感情を抱く自分に、檸檬は戸惑いを覚える。 「しかし、女性を食い物にって、上手いこと言ったつもりか! ……って感じだよな」 そんな奴は絶対に許せないな、と続ける九重・一輝(高校生魔剣士・b38762)に、黒崎・レン(ノスタルジア・b34316)はまったくだ、と頷く。 「女の子には、誠意を持って接しろよな」 己の正義をリビングデッドにぶつけても、仕方がないと思いつつも、レンはそうは思わずに居られない。 「全体攻撃と魅了……。皆さん、くれぐれもお気をつけて……」 血気にはやる仲間達に、そう用心するよう促す星宮・雪羽(水蜜色の小さなにゃんこ・b04516)は、傍らに立つ、鉄平の顔をちらりと見ると、顔を真っ赤にしながら俯く。 「鉄平さんも……」 「ああ、気を付けよう」 暗がりの為か、はたまた単純に気付いていないのか、サングラスの男はいつもと変わらぬ様子で、そう答えた。 「うっしゃ! 気合入れてぶったおすぞー!!!」 掌に拳を打ち付けカイトは、そう自身に渇を入れ、それに仲間達も頷くのだった。
●FAKE その公園には、いつもと同じ光景があった。 いつもと同じように、水面に夜景を映し出し。いつもと同じように空に星が瞬く。 漆黒の海と漆黒の空の、宝石の如く煌めきを眺めながら、カップルたちが身を寄せ合い、愛を確かめ合っている。 「……ったく! おめー、いい加減にしろよ! マジお前とはやってらんね!」 静寂を破るように、男の怒声が響き渡る。 甘い雰囲気に酔っていた、周りの者達はぎょっ、としたようにそちらを見やり、そしてすぐに自分たちの世界へと戻る。 ここで痴話喧嘩を始める者が居たとしても不思議はないし、なにより関わり合いになるのは得策ではないと感じたからだ。 「え……?」 叩き付けられた言葉を一瞬理解できず、女はとまどいの表情を浮かべる。 そんな彼女を嫌悪の表情で見やり、男はくるりと背を向ける。 「オレ帰るわ、てかもう連絡スンナ!」 「な、なに……言ってるの? え、ウソだよ……ね?」 彼女の問いに答えず、男は振り返りもせず大股で駅へと歩き出し、そしてそのまま夜の闇へと消えていった。 事態の理解できないのか、彼女はしばしその場に立ち尽くす。 やがて方を小刻みに震わせ、女は俯くと男が向かった方角とは別な方向へ駆け出した。
「演技とはいえ、アヤみたいな可愛い子を振るなんて心苦しいぜ」 重大な任務を成し遂げ、物陰に潜みつつ囮役の亜矢を追跡する仲間達の元へ戻ってきたカイトは、開口一番、そうぼやいた。 ご苦労様、と労いの言葉をかける仲間達に、カイトはどうなった? と問う。 「食いついたな。今は亜矢を慰めながら口説いてる、ってところか」 レンは簡潔に状況を説明する。 見れば追跡組の潜む場所から離れたベンチで、亜矢の横に寄り添うに様に座り、何事かを囁きかけている男の姿が見て取れた。 「上手くいきそうだな」 一輝の言葉に、能力者達は頷く。 「……この方法で良かったのか?」 ぽつりと、零すように鉄平はそう呟く。 その言葉に、傍らの雪羽がえっ? という風に鉄平の顔を見る。 杞憂なら良いが……、と言ったきり、鉄平は黙り込んだ。
●MISCALCULATION 2人は公園に程近い港へとやって来た。 日中であれば、ひっきりなしに車や人が、各々の仕事を遂行する為に行き交うのであろうが、こんな時間ともなれば人の気配は全くなかった。 捕食者が周りに気兼ねなく獲物に襲いかかるには、打ってつけの場所なのだろう。 能力者達の前方を、目標である男と囮である亜矢が並んで歩いている。 後は機を見て攻撃をかけるのみ。能力者達の緊張が頂点に達したその時。 「で、陰からコソコソ覗き見って、悪趣味じゃない?」 男の放った言葉は、2人を尾行していた能力者達に衝撃を与える。 くるりと振り向いた男の顔に張り付くのは、皮肉げな笑み。 「お粗末なんだよね。隠れてるつもりか知らないけど、隠れる気無さそうじゃん?」 確かに、能力者達は囮となった亜矢を物陰に潜み、敵に気付かれぬよう追跡するという方針を予め立てていた。だがその方針は徹底されていたわけではなかった。 無論、隠れようという意識がある者は居たが、全く考慮すらしていない者も居る。そしてそれをフォローする者もまた居なかった。露見したのは当然と言えるだろう。 「というより、最初からヘンだとは思ったんだよ。あんな所にそぐわない人間が、なんか隠れてたりしてるしさ」 隠れるという行為もまた難しいものだ。 今回の場合、悟られたくない相手……リビングデッドの行動を、能力者達は把握していない。言い換えれば、敵がどこから見ているかを知らずに、物陰に潜むというのは不可能に近い。 むしろ、恋人同士や友人同士で談笑している風を装った方が、公園の情景に溶け込み、リビングデッドに不審がられなかったであろう。 予想していない事態に、顔を見合わせて居た能力者達は、意を決し姿を現す。 「へ〜、そんな大人数で何するつもり? まさかセイギの味方、とか?」 嘲るようにクスクスと笑う男。 「だとしたら?」 毅然としたレンの物言いに、男はげらげらと笑い出す。 「ばっかじゃね? お前等如き凡人どもが、この俺様をどうこう出来るワケ、ねぇだろ」 人外の力を手に入れた化生は、優越感に満ちた目で、能力者達を睥睨する。 「だから、怪しいと思いながらもここまで来たの? ずいぶんな余裕ね」 冬花の問いに、男は再び堪えきれない様子で笑い出す。 「……だって俺、腹減ってしょうがねぇんだもの」 そう言うや、男は傍らの亜矢を引き寄せ、その首元に食らい付こうとする。 だが、そこにリビングデッドの慢心があった。異形へと変化した己を、討ち倒せる者が居る……そんな事実を知らない、無知が招いたとも言えた。 身に迫った危機に、亜矢は咄嗟に起動する。 そして自分を餌としか見ていない、隙だらけの男の足下から抉るように、白蓮で斬り上げた。 不意を突かれたリビングデッドは、その攻撃をまともに食らい、後方へと吹き飛ばされる。 亜矢の行動に、他の仲間達も一斉に動き出す。能力者達は起動するや、間合いを詰めるべく前進した。 「てめぇも仲間かよ……しかも刀とか変身とか、漫画かよ!」 身起こしながらそう言うリビングデッドの顔に、それまでの余裕は無かった。 「あっはぁ、ビックリしたぁ? うふふ……ボク等でさよぉならなのぉ」 嗜虐心に満ちた表情でそう言いながら、六は自らの影による異形の腕を伸ばす。 同時に、一輝と亜矢、そして鉄平が切り込み、闇のオーラを纏いし一撃を叩き込む。4つの攻撃は、自身によく似たデフォルメキャラに打ちのめされ、悪夢を具現化した塊の爆発の渦中にあったリビングデッドをしたたかに傷付けた。 彼等の攻撃がリビングデッドを足止めする間に、カイトは旋剣の構えで得物の威力を引き上げ、レンもまた白燐蟲の奏甲を己の武器へと纏わせる。そして雪羽が幻魔の護りを仲間達へと施した。 「ふざけんなっ!」 そう叫ぶ勢いのままに、男は刃物の如く鋭き歌を紡ぐ。その歌声は、能力者達を打ち据え、周囲に散乱していたがらくたを破砕する。 だがその傷も、檸檬が叫びと共に解放した夢の力にて、すぐさま癒される。 戦いに巻き込まれぬ遠くから、短い手足をばたつかせるムサシの懸命な応援を背に受けつつ、冬花は再び空中に華麗なペン捌きでもって男のSDキャラを描き上げる。 冬花の描いたキャラクターが、リビングデッドを攻撃をするのを見届け、カイトと鉄平、そして亜矢と六の4条の黒き軌跡が奔る。 「女が!」 憎々しげに亜矢と六を睨み、男は艶めかしい囁きの如く歌を奏でる。リビングデッドの歌声に、能力者達の幾人かが囚われ、その魔力に引きずられた。 「そうはさせない!」 「させませんよ」 だが、鈴とアキシロの聖なる二重の舞が、魔魅の囁きから彼等を即座に引き戻す。 「お前、うちの学校の生徒で、黒髪長髪黒目のいかにも大和撫子な女性を襲ったりはしていないだろうな?」 魅了から回復し、くらつく頭を振りながら、一輝は得物の長剣を突きつけ、リビングデッドへとそう問うた。 「はん、てめぇは今まで食ったもんの姿形を、はっきりと覚えてるのかよ?」 せせら笑いながらの男の回答に、一輝は激昂すると、渾身の斬撃を浴びせる。 そこへ追い打ちとばかりに、雪羽の炎の魔弾とレンの光の槍が叩き込まれた。
●REQUIEM 短期決戦を狙った能力者達の怒濤の攻撃に、戦いの決着は早々につきつつあった。 リビングデッドの全身には、数多の切り傷が刻まれ、幾つものアビリティの傷が穿たれている。 「……くそ! くそっ!!」 男は1歩2歩と後退り、そして踵を返すと逃げだそうとする。 だが、能力者達の一斉攻撃が、それをさせなかった。 冬花のスピードスケッチと檸檬の悪夢爆弾が駆け出すリビングデッドの背に弾け、鈴の破魔矢が男の右足を射抜く。そこへ縋り付く亜矢とカイトの黒影剣が浴びせられ、アキシロの破魔矢が今度は男の左肩へと突き刺さった。間髪入れずに雪羽の炎の魔弾が放たれ、鉄平の黒影剣と共に残りわずかな男の力を削り取る。 「じゃーぁ、オヤスミ」 場違いなまでの穏やかな言葉とは裏腹な表情を浮かべた六の黒影剣が、リビングデッドの首目掛け放たれ、一輝の黒き斬撃とレンの光り輝く聖槍と共に、外道の男の邪な生を断ち切った。
「無事終わって、なによりだな」 斃れた男を見やり、初めての任務をこなした一輝は、安堵する。 だが同時に、ゴースト事件に関わる為には、どんな相手とも戦えるようにせねば、とも自戒する。それが彼の願いを叶える為の、近道だと考えたのだ。 「慣れない演技をしたせいか……いつもより疲れたわね……」 気持ち、凝り固まった肩をほぐすように手をやりながら、亜矢は深く息を吐く。 「ひゃはぁ、終わりの宴……あいの華ちる? 氷点下に眠れ……」 そう口走りながら、気の抜けた表情で六はスケッチブックに書き込んだ、「お疲れ様なんだよね、皆平気だったのかなー? ……寒いんだねー皆、肉まんでも買って帰る?(ヒャハ)」という文章を皆に見せ、皆を労った。 物言わぬ骸を見つめ、冬花はやはりこの男のした事は許せないと感じていた。 「この人、きっと歌は好きだったんだよね?」 その一方で、異形と化した後も歌い続けた男に、そんな思いを抱く。 「きっと生前は、歌が好きな方だったんですね。その時にお会い出来なくて、残念です」 冬花の言葉に同意しながら、雪羽は心の中で、逝った男へそっと語りかける。 (「もう、人を傷付ける歌は、歌わなくていいんですよ」) 「心を落ち着けたり、癒したり、勇気付けたり。そういう歌なら、歓迎なんだけどな」 レンの言葉に、鉄平は「歌に限らず、音楽とはそういう存在であるべきだ」と頷いた。 「レクイエムの1曲ぐらい、歌ってあげるべきかしら?」 檸檬の言葉に、雪羽はそうしましょう、と同意する。 「どうか、この歌が貴方に届きますように……」 絡み合う2人の鎮魂の歌に、鉄平の静かなギターの演奏が寄り添い、静寂の波止場に漂った。
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参加者:8人
作成日:2008/02/27
得票数:泣ける3
カッコいい6
怖すぎ1
せつない10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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