【孤影の野茨】接触

<オープニング>


「先日、蜘蛛童を追ってた能力者さん達が、土蜘蛛の一族らしき人と遭遇したんだ」
 知ってるよね、と確認するように井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)が話を切り出した。
「報告によると……接触したのは、鬼の面で顔を隠した男の子のようだねー」
 敵か味方か――現時点において確信は持てない。
 ただ一つ言えることは、最近頻りに騒がせている蜘蛛童事件と彼には、深い繋がりがあるということ。それが判れば、憤りを覚える能力者も多いだろう。
 だからといって、問答無用で倒せば良いとは言えない。戦を仕掛ける相応の理由も存在する。だが、それが最善かと質されれば悩む者もいるだろう。
 何を判断するにしても、とにかく情報が足りない。

 恭賀は、手早く机上に地図を広げ、学校の記号を指差した。
「鬼面の人が、この学校の生徒さんだって判ったんだ」
 一度言葉が切られる。能力者達の顔を見回した後、予報士は本題に入った。
「だから思い切って、こっちから話をしに行こうと思うんだ。どう?」
 向こうからの接触を待ちあぐねている間に、蜘蛛童の事件が再発するのも問題だ。
 だからこそ銀誓館側から使節を派遣し、先ず事件の抑制を促してみようと予報士は言う。
 そのためには、該当する相手組織の人との接触が不可欠だ。少しでも相手を知るためには、直接顔を合わせて話す必要がある。幸いこの町には、疎らに公園が存在するため、『話がある旨』と場所だけ示し、そこへ相手を呼び出すのが妥当だろう。
 接触してしまえば、後は話すだけだ。予報士はここで、最低限伝えて欲しいことを二つ挙げた。
 一つは、蜘蛛童事件をこれ以上引き起こさないこと。
 二つ目は、世界結界或いは一般人に著しい悪影響を及ぼしかねない行動をしないこと。
「最低でもこの二つは確り伝えて、返事もらってきてね〜。承諾してもらえるのが一番だけど……」
 恭賀が困ったように笑む。
 当然だ。最初から良い反応が返ってくるとは思えない。それに如何なる人物が対応してくるのか、そもそもまともに応じてくれるのか――考えるだけでも、懸念は多い。
 だが、平和的な解決へと辿るきっかけになれば、それに越したことは無い。できるだけ穏便に話を進めるよう、恭賀は能力者達に頭を下げた。
「ただ、こっちが穏便にしてても、向こうが攻撃してくる可能性はあるんだよねー」
 何者なのかが解らない以上、襲われる可能性も考えておかなければならない。
「いざとなったら、全力で脱出してほしいんだ」
 もちろん、万が一にでも現場へ向かう能力者達の身に異変が生じれば、こちらから相手組織への攻撃も辞さないことになる。そのことも念頭に入れて欲しい、と恭賀は告げて。
「能力者さん、頼んだよ。それと……いってらっしゃい」
 予報士は笑顔を浮かべ、使節として赴く能力者達を見送った。

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参加者
高木・誠(初代人変身出来るにゃんこ・b00744)
棉貫・遊弥(シトラスイヴァ・b00898)
土猛・剛毅(ゴースト解体屋・b01617)
後月・悠歌(銀歌を奏でる紫苑・b02867)
神夜・佑貴(死刻消失・b05406)
イリア・ストラフィール(しろねこしすたぁ・b14704)
楢芝鳥・俊哉(半人前な図書室の主・b20054)
桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)
リヴィ・フランケン(はぐれ花嫁・b31446)




<リプレイ>

●接触
 朝もやが漂うアスファルトに明るい声が弾む。腕を擦り校門を抜ける女子生徒や、追いかけっこをする男子生徒。何の変哲も無い登校風景だ。校門へ近寄ろうとしていた棉貫・遊弥(シトラスイヴァ・b00898)は、不意にイリア・ストラフィール(しろねこしすたぁ・b14704)の腕を引き寄せる。どうなさいました、と首を傾ぐイリアに、遊弥は校門を指差して。
「先生っぽい人がおるんよ」
 徒歩で通勤する教師の姿が、生徒に混じりちらほらと見える。銀誓館学園の制服を着て聞き込みするだけでも、怪しがられる可能性は充分あった。そこを教師にでも見咎められてしまえば、面倒なことにもなり得る。
 遊弥とイリアは、離れた場所で待機する仲間の元へ駆け、状況を説明した。一般人に不審に思われる手段は避けたい。半ば強行になるが、能力者達は次手にと思案していた潜入手段を実行に移す。その前に、と桐嶋・宗司(深黒晦冥・b25663)が振り返って。
「感知はどうだ?」
 尋ねられたのは楢芝鳥・俊哉(半人前な図書室の主・b20054)だ。蜘蛛族ならばある程度近くにいることが判るだろうと考え、学校が見えた辺りから意識を集中させていた。しかし、困ったように眉根を寄せ、低く唸ってしまう。
「ヒットはしてるんだけど、うにー?」
「どうかしたのか?」
 邪魔しないよう窺う高木・誠(初代人変身出来るにゃんこ・b00744)に、俊哉がかぶりを振る。
「近くにいることだけは判るのに、それ以上は」
 残念そうに肩を落とす彼に、仲間はお疲れ様と労う。
 人気が無いことを確認した魔弾術士二人が、自らの姿を猫へと変える。白猫と黒猫が待ち遠しそうに見上げ、宗司は引っ提げていた大きめの鞄へと二匹を招いた。重量の増した鞄を抱え、俊哉に行こうと促す。
 だが俊哉は再び首を振り、拒否の意を示した。僕は闇纏いできないから、と言葉を続ければ、既に一般人の目を欺く姿と化した宗司が、それもそうかと納得して口角を上げる。
 何せ見ず知らずの学校へ忍び込もうというのだ。まだ朝の明るい時間帯。人に見つかれば騒ぎになるため、危惧するのも当然だろう。
 気をつけるんよ、と遊弥が告げ、俊哉と共に仲間を見送る。
 何かを予感させるチャイムが、冷たく鳴り響いた。

 侵入は容易だった。鞄を、そして中身を落とさぬよう注意を払い、抜き足で進む。廊下に学生の姿はほとんどない。先ほどチャイムが鳴っていたことを思い出し、宗司は戸の開いた教室を覗いた。ホームルーム中のようだ。ざっと生徒を眺め回してみるが、校風は割と自由なのだろうか。染髪している生徒も疎らに見受けられる。
 一先ず教室を回り、予め目星を付けていた金髪の少年に焦点を絞る。それにしても。
(「……猫二匹はちょっと重いな」)
 鞄から顔を覗かせて一緒に生徒を確認する仲間を見下ろし、僅かに苦笑する。
 唐突にチャイムが鳴り響いた。思わずびくりと肌を震わせたが、日常では当たり前のものだ。深く息を吐き、教室を出てくる生徒にぶつからないよう、宗司は廊下の突き当たりへ駆ける。耳に入ってくるのは、無邪気な生徒達の声。誰が彼に気付くわけでもない。微笑ましく思ったのか瞼を伏せた彼の服を、猫が掴んで引く。
 どうかしたのか尋ねるよりも早く、宗司の視界に見えたのは――黒髪で長身の青年。
 周囲を確認しようかとも考えたが、間違いなく相手の視線は宗司を見据えていた。浅黒い肌に浮かぶ鋭い眼光。思わず息を呑む。見慣れない格好に猫を連れていれば、校内では異様に映る。彼に宗司が見えているのであれば尚更。
 問いかけようとした言葉は届かず、代わりに友人らしき少年の声が遠くから響いた。
「帯刀ぃー? 一人で何やってんだよ、遅れるぜ」
 言うが早いか踵を返したのはクラスメイトだろうか。帯刀と呼ばれた青年は怪訝そうに目を眇め。
「……俺にしか見えないということか。何処の者だ」
 当然の問いは刺々しい。誠とイリアが猫の目線で見守る中、宗司は能力者ならば話が早いと口火を切った。話し合いがしたくて金髪の少年を探している、と。相手の眉がぴくりと動いたのを見て、心当たりがあるならと、宗司は一枚のメモを差し出す。意外にも青年はあっさりメモを受け取り、善処しようとだけ告げた。
 一先ず、関係者らしき人物との接触は叶ったようだ。
 達成後は一般人に気付かれぬよう、脱出するのみ。まだ廊下には学生も多いため、壁に添うようにして青年から離れる。
「あ。帯刀先輩いた、っとと」
 周りを頻りに見ていたため、階段へと屈折する際、一人の少年とあわや正面衝突しかけた。咄嗟に回避した宗司は振り返る間も無く風のように階段を下り、少年は彼を目だけで見送る。
「朝比奈……」
 帯刀に朝比奈と呼ばれた少年は、柔らかい金の髪を揺らし首を傾いだ。
「ね、今の子、知り合い?」

●使節として
 夜の空気は酷く冷え切っている。能力者達は俊哉が用意したカイロで、かじかんだ指先を温め待ち続けた。息を染める白が空しく天へ昇る中、公園に寄る影を視認したのは、告げていた時刻の数分前。だが、能力者達は姿がはっきりするにつれ唖然となる。
 ゆっくりと浮かび上がる、すらりと伸びた四肢が印象的な長身。そう、侵入組が遭遇した黒髪の青年だった。しかし無碍に追い返すわけにもいかない。自分達は銀誓館学園の生徒であることを俊哉が伝え、金髪の人は、とさりげなく尋ねれば、俺でも構わないだろう、と当然のように返される。
「先日ある坂道で鬼面の方とお会いしたのです」
 できればその人と話したい旨をリヴィ・フランケン(はぐれ花嫁・b31446)が毅然とした態度で告げる。続けて神夜・佑貴(死刻消失・b05406)が、相手を窺うように口を開く。
「戦うつもりも無いし、話したい事もあるんだ。いいかな?」
「……話は俺が聞こう。それと用件は手短に」
 とりあえず話は通じるようだ。リヴィが名前を尋ねれば、帯刀だと相手が答えて。
「お互いの目的を理解するため、話をしたい」
 切り出したのは土猛・剛毅(ゴースト解体屋・b01617)だった。『蜘蛛童事件をこれ以上引き起こさないこと』と『世界結界或いは一般人に著しい悪影響を及ぼしかねない行動をしないこと』を要求する。使節として訪問した彼らが、最低限行なうべきことだった。剛毅は更に言葉を続ける。
「そっちの要求があれば、こっちも聞いて持ちかえ……」
「要求は呑めん」
 あっさり断られた。
「学校に忍び込む程だ。おまえ達の意思は認められるが……何かを要求される覚えは無い」
 単なる感覚の違いだろうか、根本的な部分で通じていないと、能力者達は肌で感じ取る。そもそも相手は何者なのかすら解らない状態だ。彼の言い分も最もだろう。
 後月・悠歌(銀歌を奏でる紫苑・b02867)が動揺することなく話を切り替える。
「私達は、やむなく蜘蛛達を退けていたんだよ」
 世界結界に抵触する可能性、何よりも一般人に被害が出る可能性があった。
「だからもし必要なら……謝るよ」
 悠歌だけではない。謝罪の可能性も考えていたのは。
 呆れを含む息が帯刀から落ちる。彼は、これ以上話すことは無いと言い残し背を向けた。
 用件は伝えた。だが、まだ何も判っていない。慌てて制止を試みる能力者達は、冬の強風に煽られ目を伏せる。瞼を押し上げた刹那、見えたのは背を向け立ち尽くす帯刀と、向こうから近づく人影。
 月明かりに照らされた地を踏んだことにより、能力者達はその人物の顔をしかと捉える。
 蜂蜜色の髪が、夜の光を浴び優しく揺れていた。

●彼の者
 ぽつりと、帯刀が何かを呟いた。その声を掬い取ったかのように、現われた少年は彼を見上げる。そのまま徐に移された視線は、能力者一人一人を吟味するように動き、やがて唇が開かれる。
「かわいい……」
「「はい?」」
 開口一番が予想外過ぎて、数人が思わず聞き返した。少年は足早に近寄ると、イリアと誠が着ていた制服の裾を唐突に摘まんで。
「何処の学校? 制服かわいいね」
「朝比奈」
 驚いたように暫し固まっていた帯刀が呼ぶ。軽く咳払いして少年の腕を掴み、能力者達から引き離した。そして、掴んだ手は放さぬまま、キョトンとしている少年の顔を覗きこむ。
「ここへ来てはならないと……」
 言い聞かせるような帯刀の頬を、朝比奈の掌がそっと撫でた。能力者達からも見える彼の表情は、艶を帯びたような笑みで。
「だって、心配だったから」
 ふと、朝比奈は呆然と佇む能力者達を見遣り、間合いは詰めずに話を促す。能力者達が何者で、何をしに来たのか。帯刀にしたのと同じ説明を伝える間、ふぅん、と彼は曖昧に相槌を打つだけで。
 そんな彼へ、俊哉が用意していたカイロと温かい飲み物を差し出す。寒いだろうからと気遣う俊哉に、朝比奈は迷わず受け取った。一部始終を見ていた帯刀は、不快そうに眉根を寄せていて。
「はい、質問。あんた達はなんでそんな要求を俺たちに?」
 カイロと飲み物で掌を暖めながら、朝比奈が問う。答えたのは遊弥だ。
「大切なモノを護るためやってんよ。蜘蛛童が守りたい人達を傷つけるのは、嫌やから」
 理解はできるはずと信じ、少女が意志の強さを声に秘める。彼女の発言に朝比奈は首を傾いだ。ふと帯刀を一瞥するが二人の間に会話は一切無く、再び金に染まった瞳が能力者達へ向けられた。
「……あいつらが悪いことしてるって言いたいの? そっちだってあいつら殺したのに」
「ん? 蜘蛛童が一般人を襲う可能性は認識してないのか?」
 訝しそうに宗司が尋ねれば、朝比奈は目を瞬かせた後、眉尻を下げた。俺まだ新米だから、と行き場の無い想いが零れる。今度は悠歌が不思議そうに頭を傾け、漆黒の髪を胸元へ流した。
「じゃあ、蜘蛛童たちのことに、朝比奈くんは関係してないのかな」
 悠歌の優しい銀の瞳に、瑞貴でいいよ、と朝比奈の声音に緩さが這う。同じ目的地を目指していたらしいのは判ったことを剛毅が続けて、頭を掻いた。瑞貴は唸りつつ視線を彷徨わせる。
「さすがに無関係じゃない、かな。まだよく状況呑みこめてないけど」
 返す瑞貴の声は、心なしか沈んでいて。
 その時、帯刀が彼をそっと後ろへ下げた。遮るように能力者達の前に立ちはだかる。
「見事な質問責めだが、話すことはもう無い。お引取り願おう」
「……もし、あなた方が何者かと戦おうとしているのなら、状況にもよりますが、協力し合えるかもしれません。ですが」
 リヴィがゆっくりと言葉を繋ぐ。
「もし、要望を聞いてくださらないのであれば、わたし達はあなた方の敵になります」
 凛とした彼女の宣言に、瑞貴が帯刀の手を押し退け身を乗り出した。
「ま、待って。まず圭吾はその愛想の無さストップ。主に誤解招くから停止」
 ですが、と不服を唱える帯刀から顔を逸らし、瑞貴は困ったように笑ってみせる。
「さっきの要求。俺たちは承諾できないよ」
 突然告げられたのは、要求拒否の意志だ。
 だが、彼の唇はまだ止まらない。
「だって悪いことする気なんて無いから。あ、童たちは俺が叱っておくよ。叱れたらだけど」
 そんな瑞貴へと、誠が改めて問いかける。じっと瞳だけを見て。
「可能なら、争わずに解決したいが……君自身はそれを望むか?」
 君自身。その単語を反芻した瑞貴は、真っ直ぐ向けられた問いと視線に、俯いた。複雑そうな色を混じらせた表情は儚く、しかし答えだけはきちんと吐き出させる――物騒なことは好きじゃない、と。
 だが、蜘蛛童が何らかの目的で、或いは誰かの指示で何処かを目指していたらしき事実は存在する。そう能力者達は考えていた。戦うつもりの無い人間がいると判ったところで、能力者達は更に踏み込んで蜘蛛童に関することを訊く。
「土蜘蛛、それか組織の頭が蜘蛛童に指示してるんじゃないのか?」
 誠が尋ねれば、瑞貴は幾度か睫を伏せて。
「だから、俺は何もしてないって」
「いや、君じゃなくても彼らを使役する土蜘蛛とかが……」
 そこまで言いかけて、誠ははたと言葉を止める。仲間達も奇妙な予感を抱き、瑞貴を見つめた。
「キミは土蜘蛛なんかな? それともお偉いさん?」
 純真さを纏い遊弥が覗き込めば、瑞貴はあどけなさの残る微笑を浮かべて。
「そう。女王である俺がしてないって言ってるんだから、してな……」
「朝比奈ッ」
「もう、今度は何」
 強い声で話を遮断され、瑞貴が僅かに口を尖らせ振り向く。堪えていた感情を一層押し殺すかのように、圭吾は額に手を添え、深く溜め息を吐いた。
「女王? 今女王って言った?」
 佑貴に咎められ漸く気付いたのか、瑞貴が呻く。言っちゃまずかった? と声を控え訊く瑞貴に、当たり前ですと圭吾が返す。その様子を尻目に、能力者達は困惑に包まれていた。
「……聞き間違いじゃないよね」
 佑貴が傍らのリヴィに再確認すると、私も聞いたよ、と悠歌が加わって。
 彼女達だけではない。能力者全員がしかと聞きとめた。

 女王という、聞き覚えのある名称を。

 しかし当人は気に留めていないのか、そういうわけだから、と言うだけで。反応に困る言動だ。
「でも、そっちの勢力全員が俺の言葉信じるかって聞かれたら……やっぱり難しい?」
「そうだね。いろんな考えの人がいるから」
 俊哉がゆるりと頷く。
 当然と言えば当然だ。使節として訪れた彼らでさえ、懸念し伏せておくべき事項を決めてきたぐらいだ。全ての真実を話すのが正しいとは限らない故の行動だが、それは同時に彼らへ疑念を抱いている証拠にもなる。
 また、結局のところ蜘蛛童の詳細は一切判明しておらず、要求も拒否されているのだ。
 瑞貴の話を信じてと乞うのも無理がある。彼が女王であれば尚更。
 統率者の名を冠する者と言うべきか、瑞貴はそこである提案を持ちかけた。
「こっちに来るのはどうかな? 見てもらった方が早いと思うし」
 賛成致しかねます、と眉間のしわを深くさせる圭吾を宥めつつ、瑞貴が続ける。学校や家といった、自分達の行動範囲を納得いくまで調べて構わない、と。
 思いがけない提案だった。自分の懐へと、会ったばかりの別組織を誘っているのだから。能力者達が驚かないはずもなく、聞き間違いかとも考えた。しかし瑞貴の様子は変わらない。
「調べにってのは理解できたが、学校を大調査はまずいだろ」
 剛毅が腕組みをして唸るが、瑞貴は暫し考え込んで。
「一日で終わらせてなんて無茶は言わないけど……んー、俺んち泊まりながら学校通うとかどう?」
 それなら学校でも普通にいられるでしょ、という瑞貴の声音は、気の所為か嬉々としている。
 もう諦めたのか、何か思案中なのか、圭吾は押し黙り口を挟まない。
「……いいのかな?」
 佑貴が目を眇めれば、瑞貴の頬は微かに綻ぶ。

 彼らが目指す先に待つのは、煌きが散りばめられた未来か、それとも灰色の過去か。
 今はまだ誰も知らず、ただ透き通る冬空だけが彼らを見守っていた。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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いまいち
参加者:9人
作成日:2008/02/26
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