<リプレイ>
●戦いの舞台へ 「コンクリートジャングルのオアシスっていったところか? ……いや、違うな」 轟・轟轟(轟火・b02870)は、最初にその場所に抱いた感想を、すぐに自分で打ち消した。 「これだけ強力な思念が残るくらいですもの、何か嫌な事件が有ったんでしょう」 天皇・藍華(白獣婬戯鬼華・b17830)が嫌な気配を感じて僅かに身を震わせる。 「やっぱ、残留思念は掃除しないと、って事か。ま、解決したらしたで、ここもまたビルが建っちまうんだろうけどな……」 「まあそれも、解決してからだけどね」 複雑そうな表情の轟轟にそう声をかけるのは、藤森・翔太(冷徹な守護者・b35234)。 「単純な戦闘でも油断は出来ないよね。気を引き締めないと」 「何せ俺達には初陣だしな」 赤いマフラーをたなびかせ、砕神・銀牙(神砕キシ白銀ニ輝ク正義ノ牙・b23434)は気合を入れる。翔太も銀牙も、今日が初めての依頼なのだ。 「正義の味方への第一歩……うぉぉ、燃えて来るぜ!」 「オレはむしろ緊張するけど……」 同じく初陣組の岡田・正(ハルカ・b16747)は、緊張を解こうとするかのように深呼吸する。 「いつも黙示録で戦うみたいにやれば大丈夫だよな……」 「うむ、その考え方はとてもイナフだ」 独特の言葉を口にするのは、セイオリス・ネクローム(シリウスハート・b19402)。 「我々全員が計算に計算を重ね、冷静に対処すれば勝利は得られるだろう」 「そうだよな……心強い仲間もいーーっぱいいるしな!」 セイオリスの言葉が励ましとなったのか頷き微笑む正。 そんな彼を見ながら、初陣組の最後の一人である西条院・水菜(中学生符術士・b38359)の心には不思議な思いがある。 (一人で魔を討っていた私が、他の方々と一緒に魔を討つ仕事をする事になるなんて……) 少し前までは思いもしなかった事だけれど。 「でも、何だか嬉しくも有りますね」 「仲間とは、そういう物だ」 ぶっきらぼうに、けれど熱く。伊佐・銀史郎(太陽の騎士・b09209)は口にして、詠唱銀を取り出す。 「この仲間達となら十二分に戦えるだろう……さあ、始めるとしようか」 そうして残留思念に銀が振りかけられ……ゴースト達が、その形を取り始めた。
●バトルスタート 敵味方問わず初手で自己強化に努める物も多い中、まず戦端を開くのは猫の妖獣。その爪は、エアライダーのクレセントファングに似た、相手の隙を突く守り難き軌道を描く。 「っつっ!」 まず狙われたのは轟轟。その鋭い爪が身体を切り裂いたかと思えば、その痛みを感じる間もなく、飛来するは水刃手裏剣に似た霊体の刃。 「ったく、『色々取り揃えてます』っつーかんじだなっ!」 それを黒一色の小太刀で打ち払いながら吐き捨て……返す刀で、鰐妖獣を切り裂いた。 「けど、わりーが片っ端から退場してもらうぜ!」 5種8体のゴーストは、それぞれの個性を持って能力者に敵対する。その中でも特に、遠距離攻撃を行う前衛は後衛にとって大きな脅威だ。故に、能力者は最優先の目標として、ファイアフォックスに似た力を持つ鰐たちを選ぶ。 「その程度で、引くものか!」 同様に猫の爪を受けた銀牙は、霧に己の姿を滲ませてその傷を塞いだ。彼と轟轟の分身の守りは藍華の夢幻のフィールドと効果が重複してしまうが、回復の効果は発揮される。 「我等は世界に選ばれ生まれた希望! 人々に害為す前に、貴様等を殲滅する!」 『起動』……いや、『変身』した銀牙は、体内で水の力を練り上げた。 「我が拳を受け、砕け飛べ……葬掌打!」 爆ぜる水の一撃が、鰐の身体を揺るがす。吹き飛ばすには至らないものの、力にのみ特化された鰐に対して技を用いた攻撃は有効だ。 「目には目を……じゃあ炎には?」 同じ炎でも、翔太の放つ炎もまた力の炎ではない。九字の刻まれた二尺八寸の刀から、放たれる炎は術式を編み込んだ魔弾。 「無論、炎には炎を!」 包み込み、妖獣を焼き尽くす魔炎。激痛にのたうち回りながら、鰐はその口から炎を吐き出す。 「あつっ……」 狙われたのは水菜だ。燃え上がる炎を消そうとするように身体を捩りつつ、その火傷を符によって癒す。周囲を旋回するコアによって高められた治癒力は、かなり大きな傷でも一瞬で消してみせる。 「無駄な事です……魔よ、在るべき所に還りなさい!」 錫杖を右手に、符を左手に。癒しの力により、水菜は戦線を支える。 「さあ、お返しだよっ!」 そして、精緻な白虎の抱きぐるみから、生み出されるは白馬。藍華の反撃が戦場を疾駆する。 「全身で肉を裂き、全霊で骨を絶て!」 加えて、セイオリスの放つ衝撃波。獣気の奥義を凝らしたその一撃は、彼の膂力を持ってすればたとえそれが力の一撃であろうともなお、鰐を易々と吹き飛ばし、息の根を止める。 「私は武闘派でね。そして武闘派は時に力押しでもイナフであるのだよ」 「ふふふ、武闘派か、良い響きだねぇ」 セイオリスが不敵に微笑めば、麗華は闘いの空気に高揚して楽しそうに笑う。 「楽しむのは良いが、なるべく片付けてほしいんだがな」 そんな笑みに横から口を挟むのは銀史郎だ。魔剣士に似た能力をもう狼妖獣に狙われ……背の巨大な刃による苛烈な攻撃は、如何に力技を防ぐに適したコートを纏っていても、辛い。旋剣の構えを取る事で傷を癒し、後衛からの回復の援護も受けて、なんとかその攻撃を耐えている状態だ。 「……だが、後ろの仲間たちを傷つけさせるつもりはないんでな」 持ちたる剣の銘は『守護者』。その銘に賭けて、ここは護り切ると決意を口にし、大地を踏みしめて立つ。 「じゃ、そんな銀史郎の為にも、とっとと倒さないとな……」 言った正の影が伸びる。だが、その闇の手は鰐には当たりにくい。 「こっちは任せてよ!」 そこで、鰐めがけて魔弾が放たれた。それによって鰐が倒され……猫妖獣に攻撃対象を変えると、途端に命中率が上がる。 「こっちの方が捕らえやすいな……これでどうだっ!」 影手は猫を捕らえ、毒を注ぎながらその身体を引き裂く。注がれた毒に身を捩り……しかし、猫はなおも前衛めがけて爪を振るう。正たち、力で攻める能力者の攻撃が当たり易い分辛い。 「くっ、まだか……」 全員に回復と守りの加護を与える、ナイトメア適合者に似た男性地縛霊。一体の妖獣に攻撃を集中させる事で全体回復に無駄を作っていくが、守りの力自体は厄介だし、何より集中攻撃と言う戦術は相手の頭数を減らす事を優先する防御向きの戦術だ。 それは自分の攻撃の当たり易い相手と戦うのに比べれば、やはりダメージの効率は悪い。しかし、その戦術の方は、相手の全体回復をフルに活かしてしまう事になるし、反撃のダメージも大きくなる。 だから能力者達が取った戦術は、正しいとも誤っているとも言えず……ただ、彼らの取った戦術により、戦いが長期戦にもつれ込んでいくのは確かだった。
●死闘 「来た……っ!」 妖獣との戦いの最中、突然黒い靄が湧き上がった。それは、悪夢爆弾に似た……眠りをもたらす能力。 「っ!」 翔太の意識が、一瞬飛んだ。瞬間的な眠り……だがすぐに体勢を建て直し、行動に支障はない。靄の命中率はそう低くはないが、幸運の守りと目覚める事とを考えると、眠りにより行動が阻害される可能性は案外低い。だから、厄介なのは別の点だ。 「なるほど、面倒だな、これ……」 顔を顰め、翔太は己の刀を見下ろす。一瞬でも眠りにつけば、構えが解ける。付与の術の類は全て、消え去ってしまう。それこそが、眠りのもたらす大きな脅威なのだ。 構え直すか、それともそのまま攻撃するか。その一回の行動の持つ意味は意外に大きい。特に、敵の数が多く能力者の一手が重要な時には尚更だ。 「……ちょっと気が引けるけど、我慢してくれよ」 時間にしてみれば1秒にも満たない思考の後、翔太は構え直さずに目の前で毒に悶える猫に攻撃し……さらにそこに仲間の攻撃が加わって、猫妖獣は倒された。 「あまり良い気分はしないが……仕方ないだろ」 身に纏う黒装束には、猫の刺繍が隠されている。そんな彼にとっては、敵とは言えあまり気分の良い光景ではない。 「けど、このままにしといちゃこいつらも可哀想だしな……楽にっ、してやるぜっ!」 だが、轟轟の言う事ももっともで……彼の忍者刀二刀が、もう一匹の猫妖獣を切り裂く。 「次だ!」 その勢いのまま、彼は後衛の地縛霊まで駆け抜けた。 「我は悪を砕き人々を守る白銀の牙! 我が正義を執行する!」 同時に、狼牙も。水の一撃が男性型地縛霊を狙い、そして揺るがした。そしてその代わりに、セイオリスが前に歩み出て、狼妖獣……剣狼と対峙する。 「うむ、ここまでは作戦通りだ」 轟轟と銀牙の代わりに彼と水菜とが剣狼を抑え、轟轟と狼牙、そして残りの後衛2人が地縛霊を倒す、それが戦闘後半の作戦である。 「そちらがどんなに強い妖獣であろうと、この程度の相手に敗北した場合は武闘派失格だ」 牙道の砲撃が、剣狼に襲い掛かる。その強烈な一撃を、剣狼は一瞥し……。 「っ!」 直後、衝撃波は剣狼に届く前に弾かれた。地縛霊によるガードアップ、そして自身による気攻アップ……その防御力は鉄壁と言っても過言では無い。例えば束縛系のアビリティでブレイクすれば、もう少し楽になったかもしれないが、効いたかどうかは分からない。 「だが、目的は足止めに過ぎん」 返しの反撃で大きな傷をつけられ、革ジャンから素肌が覗く。しかし、慌てない。 「そうです……釘付けにさえすれば!」 水菜の癒しの符が、その傷を塞ぎ……本人もまた、呼吸法で回復が出来る。銀史郎なら構えで、翔太ならば魔弾の力で。それぞれの自己回復と水菜の癒しさえあれば、そうそうこの防衛ラインが揺らぐ事はない。 「その場に縛られていなさい、悪霊!」 気合とそして体力とで、剣狼を押さえつけ……そうやって稼いだ時間に、残りの能力者は地縛霊に攻撃を注いでいく。 「さあ、落ちろ!」 正が、白く輝く刀を振るい、その剣の生み出す影が、地縛霊を捕らえる。白き浄化を与える刀、それに輝きを与えるのは藍華の白燐蟲。 「そして……蹂躙せよ!」 次いで、同様の色に輝く白馬が戦場を駆ける。影と白馬、同時に繰り出された攻撃をどちらも回避出来ず……男性型の地縛霊が消滅する。それを見た女性型は、二人を狙おうと霊体の刃を生み出した。 「待て! 貴様の相手はこっちだ!」 その刃と入れ替わりに、飛ぶは銀牙の水刃。 「速く! 鋭く! 穿て! 水燕!」 霊刃に身体を傷つけられながら、返しの刃はしっかりと地縛霊の身体を切り裂いた。 「往生しろや!」 次いで、轟轟の足が避け難い三日月の軌道を描いて叩き込まれ、地縛霊を打ち倒す。もう一体の、最後の地縛霊が藍華に倒されるのはそのすぐ後。 「さて、今まで散々やってくれたな……」 そして、残るは剣狼のみ。いくら強力な妖獣でも、いくら付与の力で強化されていても……8人の能力者たちを相手取って、勝ち切れる筈もない。 蹴り、白馬、刀、水刃、爪。剣狼がいくら強力であろうと、降り注ぐ攻撃の全てを避け、防げはしないのだ。 「利息もつけて……この一撃で返させてもらうぞ!」 銀史郎の守護者の剣が黒き闇を纏い、叩き込まれる。今まで受けたダメージを返すようなその強烈な一撃に、剣狼はバランスを崩し、そして……。 「悪霊、退散!」 水菜の光の槍が貫き通し……それがトドメの一撃となった。
●激戦を終えて 「我等に砕けぬ悪無し!」 剣狼が消滅するのを確認し、銀牙は消え行くゴーストに背を向けてイグニッションを解除した。赤いマフラーを残して、詠唱兵器がカードに戻っていく。 「正義、完遂」 「しかし、予想外にも武闘派的にイナフな相手であったな」 遂げられた依頼。その戦いを振り返り、セイオリスは満足げに頷く。 「むしろもっと戦っていたかったわね……」 「いや、それはどうかな……ま、みんな、お疲れ様」 藍華の言葉には翔太が苦笑を浮かべ、そして皆にそう声をかける。 「ああ……実際、あれ以上剣狼の足止めをさせられていては、身がもたん」 銀史郎は肩を竦めてそう軽口を叩く。実際にあれ以上続いたとしたら最後まで守るつもりではあるが、出来れば勘弁して欲しい。 「次はこんな事にならねーといいな」 轟轟は、残留思念が生まれるほどの事に思いを馳せ、しばし黙祷を捧げる。 何が起こったのかはわからないが……あまり良い事ではないのは確かだろうから。 「にしても、成功してよかったな〜!」 「ええ、何とか無事倒せましたね……」 嬉しそうに正が言うと、水菜もそれに同調した。皆で戦って得た勝利、その喜びに自然と口元も綻ぶ。 「これも、共に戦って頂いた皆様のおかげですね。どうもありがとうございます」 「おっと、オレの方が礼を……いやむしろ、みんながみんなに礼を言うのかな」 依頼の仲間とはそういうもので、それはどんな依頼でも変わらない。 一期一会の出会いが戦場の友情となり、それが依頼を果たす力となるのだから。
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参加者:8人
作成日:2008/02/29
得票数:楽しい1
カッコいい16
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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