狂鬼動乱〜臭鬼との戦い


<オープニング>


 路傍に座り込み立てなくなった泣き叫ぶ赤子を抱いた母。
 苦しみに運転を誤り壁にぶつけた車の中でなお喘ぐ青年。
 絶え間なく襲い来る恐怖に震えながらも手を繋ぎあった少年少女。
 そんな姿が散見される道の先、寂れた公園の片隅。
 陰鬱で薄汚れた公衆トイレの奥。

 淀んだ瞳と捩じれたこぶの様な角を持った地縛霊は自らの誕生を祝い、
 獣じみた咆哮をあげた。

「すでに耳にはいっているだろうがこの依頼もメガリスを利用した儀式によって発生した地縛霊、『鬼』がらみだ」
 都市建設を利用し地縛霊を生み出す組織が引き起こした大規模な惨劇。町中の一般人が多数巻き込まれたこの事態に唐津・恋子(高校生運命予報士・bn0069)もまた能力者達の力を求める。
「現場はこの場所。この公園の公衆トイレの奥で鬼は生まれる」
 失神する事すら許さず周囲の人間に苦痛と恐怖を与え魂を吸い取る外道の存在。
 そんな鬼が現れるトイレは単純な造りのものだ。
 男性側は南が入り口となっており入るとすぐ正面が洗面台で通路は西に向かって直角に曲がっている。
 そのまま突き当りまでに右に個室が三つ、左に小用の便器が四つならんでおり、そちら側に明り取りの小さな窓が二つ存在する。
 女性側は入り口が北で右に曲がる形となり、小用便器が無い以外は個室や窓の位置が左右逆になっている以外男性側と同じである。
 鬼が出現しているのはこの男子トイレの奥だ。
 その後自分の力を試すように太い腕を振るい。個室の仕切りを破壊したあとゆっくりと外へと向かい歩き始める。
「おまえ達が迅速に行動すればちょうど全ての個室の仕切りである木板を破壊した頃に到着できるはずだ」
 さらに破壊行為により狭いトイレの通路でも二人までなら並んで戦う事が出来る程度の広さになるだろうと付け加え、恋子は女性側へと話を進める。
「女性側にある三つの便器からもそれぞれ一匹づつ大蛇の姿をした妖獣があらわれる。どうやらこいつらは鬼に呼び寄せられているらしく出現と同時に男性側を目指して進む」
 出現は鬼よりワンテンポ遅れての事となるが放置しておけば挟み撃ちの形になるわけだ。また鬼がいなくなればどの様に動くか予測がつき難い存在でもある。
「後ろを取られるのは危険だよね。うんうん」
 今回はずっと真面目に話を聞いていた日下部・拓海(いつでもフリッカースペード・bn0008)がお尻を抑えて言う。 
 どうやらガブリと尻を噛まれた姿を想像したようだが真顔な分、妙に意味深だ。
「……」
 そんな拓海の様子に微妙に情けなさを感じながらも鬼と大蛇について恋子は説明する。
 鬼は天井に頭を擦るほどの巨躯であり暴れる様子からも分かるように完全な接近戦タイプ、太い腕や脚から繰り出される一撃一撃はかなり強烈である。
 もちろん十分な体力も持ち合わせており戦える人数が限定されるトイレでは長期戦を覚悟しなければならないだろう。
 一方で体長2m以上、直径は5cmほどの細く長い大蛇は素早いうえにその牙は毒液で濡れ光っており三匹での連携も考えられる。もちろん鬼の元へ辿り着けば鬼とも連携してくるだろう。
「それらを考慮してどこでどう戦うか判断してくれ。鬼を倒すことが出来ればこの周辺の人々は失神出来るはずだ」
 そうすれば少なくとも恐怖や苦しみからは解放されると瞳で語るための一瞬の間を置き、恋子はスカートを翻し去っていく。
 その姿を見送って拓海は集まった能力者達に向き直るとすっと息を吸って言う。
「みんながんばろう! 僕、こんな計画だいっきらいだよ! 土蜘蛛の時とかクルースニクの時と違うと思う。上手く言えないけど絶対絶対がんばらなきゃ駄目だと思う!」
 叫びの様な拓海の言葉が届いて恋子は立ち止まらぬままにそっと口元に笑みを浮かべる。
 もっともその後に小さく「でも今回トイレの中とか見えない場所も多そうで僕どこまで役に立てるか不安だけど……」と言ったのが聞こえていなかったからかもしれなかったが……。

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参加者
風見・玲樹(プリンスメロン・b00256)
柳・桂刀(不知夜月・b00788)
尾崎・ジウ(雷哭のクエロ・b03146)
黒執・躑躅(古武道部二代目部長・b04534)
福嶋・由希子(白衣の剣士・b05383)
蒼穹・克(日晴の鳥姫と歩くカレー屋さん・b05986)
インク・メイ(無邪気な流れ星・b07132)
片瀬・翔香(星辰療士・b13185)
武蔵坊・忠勝(天下無双の闘神・b14141)
玉響・命(能力者狩り・b14911)
NPC:日下部・拓海(いつでもフリッカースペード・bn0008)




<リプレイ>

●壁になる者達
 苦悶に満ちた人々が倒れうずくまる道路。
 町のいたる所で繰り広げられる目を覆いたくなるような光景を振り切るように駆け抜け、目的の公園に飛び込んだ能力者達の耳に木材の砕ける鋭い音が届く。
「あれに間違いないよ!」
 すばやく巡らせた視線が想像した通りの薄汚れた小さな建造物を見つけて、片瀬・翔香(星辰療士・b13185)は向きを変える。
「破砕音は鬼の産声…… 予報通りのタイミングですわ」
「狂気の計画、人を苦しめて鬼を生み出すなんて絶対このままにはしておけん」
 黒執・躑躅(古武道部二代目部長・b04534)と福嶋・由希子(白衣の剣士・b05383)は断続的に続く破壊音に決意を強めていく。
「では予定通り便鬼退治と行くとしよう」
「便鬼とは臭そうな名前ですが負ける気がしない名前でもあります。ただかっちゃんはいいセンスしてますね」
 武蔵坊・忠勝(天下無双の闘神・b14141)が鬼班、蛇班それぞれの持ち場へと分かれるように翔香達に合図を送って、男子トイレへと向かうのに併走してきた蒼穹・克(日晴の鳥姫と歩くカレー屋さん・b05986)が小さく笑う。
「当然勝ちにゆくぞ」
 ニヤリと答えて忠勝は男子トイレへと突入していく。
 入口から洗面所までの細く短い通路を二歩で駆け抜け90度ターン、破壊され広くなったフロアに飛び込むと大鎌黒蟷螂を構える。
 続いた克もその横に進み出ると両腕に凶悪な爪を宿す詠唱兵器赤手を装備してその存在を睨みつける。
 それはまさに『鬼』であった。
 忠勝が軽口で付けた名を払拭するほどのおぞましさをもった巨躯。
 頭に生えた捩じれた角は天井を引っかき、虚ろな眼には殺戮と破壊への渇望がちらちらと燃えている。
 床に散らばる木片を砕いたであろう腕はミチミチと音を立てそうなほどの筋肉で覆われている。
「こんなやつ…… 絶対ここから出したらいかんやね」
 克達の後ろに控えた由希子はここを出た鬼が巻き起こすであろう惨劇を想像してぞっとする。
 一方洗面台の鏡に映った玉響・命(能力者狩り・b14911)の灰色の瞳は強敵の存在に呼応してギラギラと生気を宿す。
「喰らいがいのありそうな相手だというのに後衛とは…… あたしはダイエットとは無縁なんだがね」
「僕もダイエットは無理です! って、そんな冗談言ってる場合じゃなくて気を引き締めないとです命さん!」
 そして最後尾、男子トイレの出入口から僅かに一歩ほど入った場所のインク・メイ(無邪気な流れ星・b07132)は命の言葉を額面通りに受け取って、ちゃんと気をつけてと頬を膨らませる。
 もちろん11歳の少年とはいえインクも能力者であり、ただ膨れっ面をしているだけではない。命の能力を上昇させるべく無より一本の栄養剤を作り出している。
『グオオォォォオオォッ!!』
 同時に鬼が咆哮をあげてその右腕を振り上げて振り下ろす。
 単純極まりない動きだが爆発的な速度の筋肉の収縮は凶暴な破壊力となって克を襲う。
「なかなかスパイスの効いた… 一撃ですね……」
 頑丈なプロテクターにすらひびが入り留め金がビリビリと震える。衝撃が身体の芯へと届き口元には吐き出した血がこびり付く。
 全ては予測し覚悟していた事、だがそれでも一撃で防具を完全に貫きかねないダメージを放つ鬼を目の前にして能力者達の顔は険しさを増す。
「交代やね! 克ちゃんはさっがってや」
 克に変わって前に出た由希子は踏み込みを利用して攻勢に転じるが故郷の湖の名を冠した長剣は長い長い道のりへの一歩を刻み付けたに過ぎない。
「ぬぅ、ここは耐え時、下手に手を出すなよ!」
 斬り付けられながらも左腕を横に薙ごうとする鬼の動きを察して忠勝はその一撃を大鎌の刃で受けるべく動く。
 だがそれを嘲笑うかのごとく鬼の一撃は鎌を押し戻し無理やり忠勝の腹を抉る。
「今回ばかりは簡単に攻め手に回る余裕は無いようだね」
 治癒の為の符を作り出す命の不機嫌な声がその忙しさを物語っている。
「克さん! 僕のドリンクも飲んでください! ちょっとのダメージも残しちゃ危険です」
 場所的に断片的に戦いを見る事になっているインクも肌でその危険性を十分に理解していた。命の符に続いてすぐさま栄養剤を駆使して仲間の回復に努める。
「お二人ともありがとうございます。よし! 代わるぞ!」
 忠勝と入れ替わり前に出ると特殊な呼吸で最後の傷を癒す克に由希子が緊張を含んだ声で囁く。
「隣もがんばってるはずやし、とことん耐えよね……」

●戦いは優勢なり
 一方蛇班は鬼班と分かれた後女子トイレの出入口を塞ぐように前衛三人、後衛四人で戦線を展開する。
「前衛が崩れたらアタシがフォローに入るから前に出ないこと。体力はアタシの方がありますから。毒は危ないから、ね?」
 尾崎・ジウ(雷哭のクエロ・b03146)は狼のオーラをまといながら隣に控えた少年、日下部・拓海(いつでもフリッカースペード・bn0008)に注意を促す。
「うん。わかってるよ」
 自分の力不足を知っているのか拓海は真摯な眼差しで首を縦に振る。
「大丈夫この先には行かせないよ! 僕がこの前線を守るんだから!」
 愛用の泥棒さんが目の色を変えそうな装飾の大鎌を頭上で回転させてポーズを決める風見・玲樹(プリンスメロン・b00256)の歯がキラリと光る。
「そうだよね。僕達はここから一歩も引くわけには行かないんです」
(「そして中にも入れない…… 女子トイレだけに……」)
 玲樹に並びきりっとした表情を保ちつつもそんな事を考えてしまう男子小学生、柳・桂刀(不知夜月・b00788)も両手の日本刀で二つの円を描く。
 拓海同様小学生にとって男子トイレ女子トイレという物は思春期の琴線に触れる何かがあるのかもしれない。
「能力に目覚めていない人が一方的に危険に晒されるような最悪な計画は何としても止めないとね… 手加減は一切無しよ!」
 そんな桂刀とは違って大人な翔香は蟲の力で戦場に明かりを点し、さらには両手の工具を思わせる二種の詠唱兵器を強化して前衛に並んで時を待つ。
 ほぼ全員が強化を終え張り詰めた空気の中、薄い壁越しに激しい打撃音が途切れ途切れに聞こえてくる。
 大蛇の出現は鬼に比べて僅かに遅れるだけで出入口まで這ってくる事を考えてもそう長い時間ではないはずだ。
「早くきてよっ」
 だがそれでも拓海はそれがあまりに長い時間に感じられて祈るように呟く。
「来たようですわ」
 躑躅の言葉とともにシュルシュルと擦れるような音を立ててうねりながら一匹目の大蛇が角から現れると瞳に殺意を込めて玲樹へと迫る。
 低い位置から一気に鎌首をもたげて迫る牙にかすめられながらも同時に、背中から蜘蛛の足を放って反撃する。
「残念、浅いみたいだね。お互いに」
 焼け付く様な毒の傷みと異形の力の発動で身体が新たな力の行使を拒むのを感じながら苦笑する玲樹。
「少しでも早くキミには消えてもらわなくちゃ駄目なんだよ!」
「柳君、合わせるよ。思いっきりやってやりなさい!」
 桂刀の右手が振るう闇の軌跡を残す刃をかわす大蛇、だがその隙をつかれてロケット噴射で加速した翔香の一撃をかわしきれず頭を庇って長い胴で受け止める。
「左手もあるんだから!」
 さらに着ぐるみを着た桂刀の小さな身体には不釣合いな無骨な長ドスが闇をまとって大蛇の鱗を削る。
 狭い通路の出口を塞がれ限られたスペースを縦横に使うしかない一匹目の大蛇。
「それに阻まれ二匹目、三匹目が前に出れないのは僥倖と言ったところでございましょうか」
 戦況を分析してアキシロ・スチュワートが洗練された舞を披露すると玲樹の異常は取り除かれ牙に裂かれた傷からの流血も止まる。
「これくらいならアキシロお兄ちゃんと僕で治すから! ジウお姉ちゃん躑躅お姉ちゃんは後ろの蛇を撃っちゃってよ!」
 続いて拓海が癒しの旋律を奏でながら洗面台の前に出たが前衛まで接近できない大蛇を指差す。
 躑躅のモーラットピュア、ルヒエルも回復は任せろと言わんばかりに拓海と並んできゅっと鳴く。
「ではお言葉に甘えるわ!」
「ルー、私もがんばるわ!」
 ジウの詠唱兵器、雷哭のクエロの穂先がぴたりと狙いを合わせ異能の力が生み出した炎の弾丸が一匹目の頭上を飛び越え二匹目の鱗を炭へと変える。
 さらに躑躅の手に握られた枳殻三枝『落花流麗』が魔法の弾丸を放ち灰となった鱗を砕く。
 手も出せず一方的に攻撃された二匹目は射線から逃れようとトイレの中へ逃げ戻る。
「狭められた戦線では連携も意味を成さないようね」
 目の前の一匹目と互いに攻撃のタイミングを探り合いながらもその様子に翔香は自分達の勝利を確信していた。

●絶える事なき猛撃
 刻々と時間は進む。
 一見淡々と繰り返される鬼の猛撃は常に前に立つ由希子、忠勝、克の命を一撃で奪い去る可能性をはらんでいる。
 だがそれでも彼らは未だ倒れていなかった。
 ただ安全圏に位置する命とインクは回復に手を取られていたし、後ろに下がった瞬間に遠距離攻撃を放つ事はできず、鬼に対して攻勢をかける回数は思ったよりも少なくなっていた。
「手厳しいのう。あの程度の傷ではまだまだといったところか」
 割れた額から流れ落ちる血を舐めて忠勝は大鎌についた鬼の血を払う。
「代わるぜただかっちゃん!」
 もう何度繰り返したか分からない交代。入れ替わると同時に両の赤手の爪を繰り出し鬼の胸板を抉る。
 だがそれもここまでとなる。
 前に出た克に振るわれた反撃は明らかに今までのものと違う鋭く重いものだったのだ。
「渾身の一撃ってやつかっ!」
 咄嗟に交差させた赤手の上からお構い無しに叩きつけられた鬼の拳は克の意識を完全に粉砕する。
「克ちゃん!」
 倒れようとする克に差し出される由希子の手は空を掴む。
「貴様にそんな余裕はないはずだよ!」
 由希子に叱責を飛ばしながらも命は再び前に出ようとする忠勝の背中に符を放つ。
「不本意な役目であろうが、貴様の判断には敬意を表したい」
 後ろを向かず命の働きに感謝を述べ忠勝は前へ出る。
「うぅ、由希子さんはこっちです!」
 倒れた克に駆け寄りたい衝動を抑えてインクも栄養剤を空を切った由希子の手に託す。
「ありがとう。まだ壁が破れたわけとちゃうんやし耐えれるはずや!」
 気丈に振舞う由希子に鬼は容赦なく拳を叩きつける。
 武器で受けたはずにも拘らず衝撃はあっさりと由希子の体力を奪い去る。

 均衡はここに来て崩れ始めていた。

●勝利の代償に失った時間
「てぇぇいっ!」
 桂刀の二刃が三匹目の大蛇の大きく開いた顎を貫く。
「これで三匹、最後ですわ」
 うっすらと消えてゆく大蛇の姿を確認して躑躅が頷く。
「何分かかったんだ!?」
 普段の余裕ある態度をかなぐり捨てたかのような鋭い声を上げる玲樹。
 それは蛇班の戦いが予想を超えて長期化した事からの焦りだった。
「正確にはわからないけれど急いだ方がいいわね。幸いこちらの被害は少ないわ」
 出入口を塞ぎ一匹ずつ大蛇妖獣を倒したため敵の連携を発揮させずにすんだゆえ能力者達は戦闘中の傷を十分に癒している。
 だが同時に敵を攻撃できなかった大蛇は度々トイレの中へと身を翻し攻撃の機会をも逸していたのだ。
 それを理解しているジウはすぐさま踵を返して男子トイレ側へと急ぐ。
 もちろん他の能力者達も次々とジウに続いて走り出す。
「っ!!!」
 前衛に立つべく男子トイレの狭い通路に真っ先に飛び込んだ玲樹と翔香の二人の眼前に広がっていたのは、ただ一人鬼と対峙する血みどろの命と彼女をひたすらに癒すインクの悲壮な姿だった。
「なんて事だ!」
 倒れ伏した克と由希子を飛び越え玲樹はすぐさま命に並び立つ。
「前に出るのがアタシの宿命みたいだね」
 血にまみれ壮絶に笑う命の後ろで「すまんな」と意識だけはあるのか跪いたまま漏らす忠勝。
 そんなことっ! 私達がもっと早ければ! と漏れかけた言葉を飲み込み、翔香はすぐさま蟲を使い忠勝を癒す。だがそれでもその傷はすでに戦えるような生易しいものではない。
「どうしたらいいのかなっ!?」
 残り少ないスペースに滑り込んで桂刀が振り下ろされようとする鬼の右腕に影よりいずる闇の手をぶつける。
「何よりも皆さんの安全を考えます。勝てそうに無ければ、潔く撤退を」
 凛とした声ではっきりと宣言したのはインクの側に立った躑躅だった。無念さを押し殺し真っ直ぐに言葉を紡ぐ。
 しばしの逡巡が全員の心を駆け巡る。
「必ず生き残って帰らなければいけないね。誰もが親しい人々や大切な人を苦しめたくないはずだから」
 玲樹が同意を示すと拓海が弾かれたように男子トイレの窓へと走る。
「ジウお姉ちゃんお願い手伝って!!」
 言葉とともに詠唱兵器で窓を叩き割ると背伸びして窓からギターマシンガンの銃口を突っ込む。
「前衛達聞こえてるわね! 今から窓側から援護射撃を行うからその隙に撤退して!」
 拓海の意図を察してジウも残った窓を叩き割り雷の魔力を穂先へと集める。
「みんな走ってー!!」
 大声で叫ぶその声すら掻き消えよとばかりに弾丸を発射する拓海に合わせてジウが狙い済ました雷光の一撃を鬼へと放つ。
 今まで一度も無かった方向からの突然の攻撃に不意をつかれて鬼は怒りの咆哮を上げ向きを変える。
「さあ、今のうちに」
 躑躅の言葉に負傷者を背負い、肩を貸し能力者達は男子トイレを飛び出していく。
「うわわっ!!」
 鈍い音が響き公衆トイレの壁が揺れる。見ると拓海がギターマシンガンを抱えて尻餅をついている。
「拓海くん!」
「だ、大丈夫だよ! 鬼が壁を殴った振動でバランス崩しただけだから!」
 インクの呼びかけに慌てて立ち上がるとジウに手を引かれて拓海達も合流する。
「まだ、アレだけの力を残してるんだね……」
 悔しげに唇を噛む桂刀。
「とにかくここを離れませんと」
 敗北の実感が心の奥へと降り積もる一同をアキシロが促す。ゆっくりとゆっくりとだが鬼につながれた鎖が奏でる小さな音が近づいてきていた。
「ごめんね」
 重い足取りで走り出す能力者達の最後尾、翔香は今一度だけ後ろを振り返り、その手に握り締めた祖母の形見にさらに強くなる事を誓うのだった。


マスター:九部明 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:10人
作成日:2008/03/05
得票数:カッコいい4  知的1  せつない14 
冒険結果:失敗…
重傷者:福嶋・由希子(白衣の剣士・b05383)  蒼穹・克(日晴の鳥姫と歩くカレー屋さん・b05986)  武蔵坊・忠勝(天下無双の闘神・b14141) 
死亡者:なし
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