短足こねこ。


<オープニング>


 ぽつぽつと新芽の出始めた草原で、青年は不思議な物体を目にした。
『みゃ〜ん』
 それは、妙に手足の短い子猫。が、その大きさは青年よりもはるかに巨大。
「うわーー!」
 声を上げて逃げるかと思いきや、青年はその巨大子猫に向かって走り出した。実はその青年、無類の「猫好き」だったのである。
『みぁ?』
 可愛らしく首を傾げる子猫。殆ど真上を見るような位置まで子猫に接近し、その仕草に魅入る青年……。
 ――ぱしーん。
『み??』
 巨大子猫の猫パンチ。青年の体が宙を舞った。

 依頼内容を聞く為、いつもの教室へやってきた能力者達が目にしたのは、なんだか脱力したような桐原・葵(中学生運命予報士・bn0169)の姿だった。
「マンチカンって種類の猫、知ってるか?」
 集まってきた能力者達に、脱力した表情のままで問い掛ける。
「猫好きな奴なら知ってると思うけど、そいつは猫のくせに脚が短い」
 言って、葵はハァ、と溜息をついた。
「そいつの子猫にそっくりな妖獣が、現れた」
 どうやら脱力の原因は妖獣の妙に愛らしい姿にあるらしい。
 脚の短い種類の子猫。当然その手足は普通の子猫より更に短く。円らな瞳、ふわふわの毛並み……。ただし、大きさはゆうに大人の男性の二倍ほど。
「でかっ?!」
 能力者が思わず叫ぶ。
「……で、放っておくと猫好きの男性が1人、犠牲になるから……倒してきてくれ」
 そう言うと、葵は地図を広げながら詳しい説明を始めた。
「巨大子猫が現れるのは山間の草原。……原っぱ、と言ったほうが正確かな?」
 首を傾げつつ、葵が言う。多少石が転がっている程度で、足場はそう悪くない。
「大きさが大きさだし、探し回らなくても行けばすぐ見つかる。向こうもこちらに気付けば近づいてくるから、そのあたりは心配しなくていい」
 巨大子猫の攻撃方法は2つ。お約束の『猫パンチ』と、両足で獲物を押さえつけての『甘噛み』。
「両方とも能力者なら大した怪我にならない。それに……」
 葵は再び溜息をつき、こう付け加える。
「もともと手足が短いから、相手に滅茶苦茶接近しないと手が届かないんだ」
 能力者達は、自分に一生懸命手を伸ばす巨大子猫を想像して一瞬和んだ。
「あ、でも場合によってはじゃれつかれる可能性もなきにしもあらずだけど……ま、大丈夫か」
 いや、じゃれられてコロコロ転がされたりしたら結構痛いんじゃ……?
「現れる妖獣はこいつだけだし、簡単な依頼だろ?」
 能力者達の思いをよそに、葵はさらっと言い放つ。

 葵は巨大子猫の出現場所に印をつけた地図を能力者達に手渡し、最後にこう言った。
「過程で何しようと構わないが、ちゃんと倒してきてくれ。一応、妖獣だから」

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参加者
藤咲・珀(にゃんこぼーい・b01007)
田村・麻衣子(夢を綾なす夢幻のアリス・b21621)
葉月・とろん(蘇芳火・b23377)
四楓院・雛(風の娘・b25383)
詩刻・仄水(深淵ヨリ来リテ・b29672)
ユーリ・クライスラー(小学生ヘリオン・b31504)
セイカ・セイングラント(小学生白燐蟲使い・b31513)
ジーヴ・イエロッテ(インフレイムス・b33147)



<リプレイ>


 3月某日、晴れ。ぽかぽか暖かい、お出かけ日和。
 能力者達は、とある原っぱに現れたという妖獣を退治するために現地へ向かっていた……のだが。
「可愛いんだろうな! 手足短くて、毛並みとかもふもふで!」
「想像するだけでとっても可愛らしい……持って帰りたい…」
 わくわく、と言った感じの藤咲・珀(にゃんこぼーい・b01007)に、何かに陶酔してるっぽい田村・麻衣子(夢を綾なす夢幻のアリス・b21621)。他のメンバーも、皆どこかうきうきそわそわしていて、なんだか妖獣退治という雰囲気じゃない。
 理由は簡単。
「大きい子猫かぁー」
「巨大マンチカンさんの子猫……」
 妖獣の外見がちまちま歩く短足な子猫そっくりだと、運命予報士から聞いているから。もっとも、大きさは『子猫』なんてレベルじゃないわけだが。
「大きい子猫って面白いよね。大きいのに子猫〜」
 楽しそうな珀。
「モフりたい、モフられたい!!」
 ユーリ・クライスラー(小学生ヘリオン・b31504)の発言は、この依頼に参加した全員の願望だったりして。
「ユーリ君と一緒に足の短いネコさんと遊べるのです〜、とっても楽しみ〜♪」
 いや、遊ぶんじゃなくて……とかセイカ・セイングラント(小学生白燐蟲使い・b31513)に突っ込んでくれる能力者は、残念ながらこの場には存在しなかった。
「もふもふなんだろうか……肉球ぷにぷになんだろうか……鼻なんてひくひくさせてたり……」
 想像だけでトリップしちゃってる葉月・とろん(蘇芳火・b23377)を始め、皆それぞれにいろんなものと葛藤中だったので。
「忘れてないのですよ? ちゃんと倒すですよ?」
 ………ソウデスカ?

 マンチカンにそっくりだという妖獣の姿を想像し、何かと葛藤しつつ歩いていた能力者達は、やがて件の原っぱに到着した。そこで能力者達が目にしたのは……。
 ――ぽてぽて、ぽてぽて。
『みぁ〜ん』
 短足で。毛並みふあっふあで。ついでに耳折れの。
 文字通り、巨大なマンチカンの子猫だった。
「うっわぁ……」
 あまりの可愛らしさに思わず感嘆する詩刻・仄水(深淵ヨリ来リテ・b29672)。
「な、なんて可愛いんだ……! 妖獣じゃなきゃお持ち帰りするところなのに……」
 相手が妖獣であることが心底悔やまれる四楓院・雛(風の娘・b25383)。
「やっぱり、おもちかえりー……しちゃだめなんだよねぇ……」
 同じことを考えて悲しむ仄水。
「んー。なぁ、どうしても倒さねーとダメ? ……ダメだよなぁ、能力者って悲しいな……」
 ジーヴ・イエロッテ(インフレイムス・b33147)もとっても残念そうに溜息をつく。
「「…………」」
 ぶっちゃけ、誰もあんなに愛らしい物体とは戦いたくない。
「と、とりあえず始めましょうか。これ以上猫さんの愛くるしさの虜に……じゃなくて、被害が出ないように」
 麻衣子の言葉で、能力者は(しぶしぶ)武器を構え、巨大子猫と向き合った。


 後衛組と一部の前衛が自己強化アビリティを発動させる中、珀が取り出したのは結構大きめの猫じゃらし。巨大子猫に向かってふりふりふりふり。
 ……反応なし。つーか、気付いてないし。
「猫さーん! こっちだよー!」
 叫ぶ珀。ピクッと反応する子猫。
『みぁん?』
 振り向き、クリッと首を傾げる。そしてその短い足でぽてぽて歩き出した。
「う、か、可愛い……」
 珀は魅了された。
「かっわいい……っ」
 ユーリは魅了された。
「フフフフフフ……」
 仄水は魅了された。
 ……あれ、魅了能力なんてあったっけ?
 そんな中、とろんは子猫に向かって突進する。
「さあ、かかってきなさいっ!」
 もの凄いいい笑顔でそう言うと、子猫の目の前にゴロンと仰向けに寝転がった。
 ――むにゅ。
 一生懸命歩く子猫の前足が、寝転がるとろんを踏みつけた。
「踏まれてるぞー、大丈夫かー?」
「とろんちゃん大丈夫ー?」
 ジーヴと珀が一応、声をかけてみる。いやほら、本気で潰されてたらヤバいし。
 何かを踏んだことに気付いた子猫は自分の足元を見下ろし、その足を上げた。そして改めて、今度は2本の前足でしっかりとろんの体をホールドし……そして。
 ――かぷ。
 おもむろにとろんの体に噛み付いた。かぷかぷ、はみはみ……いい感じに甘噛みされるとろん。
 小さな牙がちくちく。柔らかな肉球がふにふに、むにむに。痛いけど気持ちいい……。
 すっかり恍惚状態のとろん。とろんを甘噛みすることに夢中になっている子猫。とりあえず子猫の気を引くことには成功したらしい。
「隙発見!」
 子猫に走り寄り、「ぼふっ」とその体の側面に顔を埋める珀。
「ねこー!」
 同じく走り寄り、「ばふっ」と抱きつく仄水。
「もふもふー♪」
「うふふふふ……」
 なんだかとても幸せそうです。
「草原に佇む子猫……子猫と戯れる仲間。いい絵だと思う……!」
 インスタントカメラを構えた雛が呟く。が、惜しむらくは。
「妖獣って倒すと写真に残らないんだよね……」
 黄昏る雛。後方ではセイカもデジカメ片手に寂しそうにしていたり。
「結社の皆にも見せてあげたかったのです……」
 代わりにしっかり記憶に収めておこう、とか誓うセイカだった。


 とろんで遊ぶことに飽きたらしい子猫は、とろんの体をペシッと前足で叩く。うっとりしていたとろんはそのままジーヴ達の側まで転がされ……。
「至福だ……」
 まだ陶酔していた。麻衣子は彼女の側まで近づくと白燐奏甲を施し、その傷を癒す。ちょっぴり羨ましいのは何故だろう。
 ――ぺしーん。
 ――ぱしーん。
 続けざまに飛ばされているのは珀と仄水。
「……ふ、この猫。いいパンチしてるよ……!」
「えへへー、飛ばされちゃったぁ……」
 口から出た血を拭きながら、無駄にカッコよく呟く珀と、嬉しそうな仄水。
「いいなぁ……ねこぱんち……いいなぁ、にくきゅー」
 サイコフィールドを展開しながら、猫パンチの魅力と戦うセイカ。
「よーし、次オレ行くぞー」
「ボクも行くよー」
 ジーヴと雛は揃って子猫の鼻先へ。軽いフットワークで左右に動いて見せれば、子猫の視線もそれに合わせて左右に動く。
『みぁ』
 ――スカッ。
 子猫が出した前足は、ジーヴに華麗に回避される。
『にぁ』
 ――スカッ。
 ならばと雛に手を出せば、やっぱり華麗に回避され。
『みぁ〜ん!』
 ムキになって手を出すも、子猫のパンチは2人にかわされるばかり。短い前足を一生懸命伸ばす子猫の姿に再び和む能力者達。
「(かわいいにゃ〜)」
 その愛らしい姿に、ジーヴも思わず小声で呟く。実はジーヴと雛の2人、もう直接噛み付いたほうが早いんじゃね? なんて距離まで接近しているのだが、そんな思考はこの巨大子猫にはないようで。
 そして再び走りこんでいく珀と仄水。まだもふり足りないらしい。
 ――もふもふもふもふ。
 巨大子猫を堪能しているっぽい前衛陣を回復しつつ、セイカは麻衣子に尋ねる。
「麻衣子お姉ちゃんはもふりにいかないですか?」
 猫ぱんちとか、とっても魅力的ですけど――。
 セイカの問いに、麻衣子はにっこり笑って答える。
「猫ぱんちも甘噛みも、されてみたいけど……癖になったら困るので」
 ……癖になったらって、どういう意味ですか? 首を傾げるセイカに、麻衣子が問い返す。
「セイカちゃんは、行かないの?」
「怪我したらユーリ君に心配かけちゃうから……」
 チラリと隣に立つユーリを見ながら、セイカが答える。ちなみにユーリは巨大子猫の魅了にかかったままらしく、じっとひたすら子猫を見つめている。
「そうですか、ユーリくんが……」
「ごめん! 僕、欲望に逆らえないっ!」
 麻衣子の言葉を遮って、ユーリが叫ぶ。
(「モフりたい、愛でたい、戯れたい……」)
 ユーリの頭の中は子猫のことで一杯。いや、セイカのこともちゃんと考えてはいるけれど。ユーリは軽やかにスキップしながら子猫の目の前に躍り出た。
 そのまま雛とジーヴの間を通り抜け、子猫にダイブ。特に柔らかい胸の毛に顔を埋める。
(「さあ、その可愛らしい短いお手手でポチっとやってくれ!」)
 ユーリのそんな心の声を察したわけではなかろうが、子猫は彼の体をペシィッと叩いた。肉球のむにっとした感触がユーリを襲う。
 飛ばされた瞬間、ユーリの脳裏にお花畑が見えた。
(「……わーい、幸せー」)
 この上ないほど幸せそうな顔をして飛ばされてきたユーリにセイカは白燐奏甲を施す。
(「なんだかとってもじぇらしぃ……」)
 巨体子猫を堪能する仲間達――特にユーリとか――に嫉妬する彼女。
「さーて、そろそろいいかな〜」
 必死で手を伸ばす子猫を十分楽しみ、ジーヴはその動きを止めた……子猫の前足が丁度届く位置で。
 ――ぺしーん。
 ああ、この肉球の感触が堪らない。
 猫パンチで次々飛ばされる仲間を見て、雛もちょっぴり足を止めてみた。
 ――ぱしーん。
 うわ、思ったより肉球柔らか……。
 飛ばされながら、雛はそんなことを考えていたという。


 散々巨大子猫を堪能した後。
「できれば攻撃なんてしたくねーんだけどな」
 子猫の攻撃を避けつつ言うジーヴ。
「ちゃんと退治しないとね……紅蓮撃で一思いに……できそうにないかも…」
 ちゃっかり子猫に抱きつきつつ呟くとろん。
「ダメだ、ダメだ! これは依頼なんだから……!」
 断腸の思いで巨大子猫に対する未練を断ち切る珀。
「せめて苦しまねーように一瞬で終わらせてやろうぜ」
「そ、そうですね……」
「「…………」」
「行くぞー、せーのっ!」
 掛け声と共に、全員の攻撃が巨大子猫に殺到する。
「ごめんね……ごめんねっ!」
「これもお仕事なんだよぅ……!」
 前衛陣から見舞われるクレセントファングに紅蓮撃、フロストファング。後衛陣からはナイトメアランページと光の槍、炎の魔弾。
『みぁ?!?!』
 能力者達の集中攻撃を受けて、巨大子猫はそれこそあっという間に消滅した。


「貴重な体験でした……」
 やっぱり猫さんは普通のサイズが可愛い、と再認識する麻衣子の隣で。
「なんて……。なんて後味の悪い依頼なんだ……!」
 がっくりと肩を落とす雛。
 少し離れたところでは、とろんが盛り土の上に石を置き小さなお墓を作っていた。
「今度は普通の猫に生まれて来るんだよー」
「生まれ変わって幸せになってね」
 とろんと珀は即席の巨大子猫のお墓の前で手を合わせる。
「嗚呼、麗しの仔猫さん……」
 ユーリと仄水は消滅した巨大子猫のことを思ってまだ泣いている。
「巨大猫さんともふもふしてる夢、見れるといいなぁ……」
 そう言って麻衣子が見上げた空の上、『みぁ〜ん』と鳴く子猫の姿が見えた……ような、気がした。


マスター:草薙戒音 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/03/11
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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