<リプレイ>
● 「皆準備は良いか? 夢の中に入ったらいきなり断崖絶壁に出るらしいから、ビビらないようにな」 冗談混じりに言うのは綾取・槐(逝き場を亡くした二律背反・b01497)。 能力者一行は悪夢に囚われた悲運の(グラビア)アイドル、ミキの部屋へと到着していた。 「高いところ……私もゲームの中ですら無理なのに……」 早くも恐怖に身震いしているのはアイリス・ローエングリューン(棘き月・b16437)。 「(高い所、ね。わたしもはっきり言って苦手だわ)」 そして、先ほどから無言でため息ばかりついているのは大桐・連花(月のグラウンダー・b25239)。 こんな依頼に巡り合ったのは気の毒という他ないが、もしかしたらミキ同様恐怖を克服するきっかけは掴めるかも知れない。 「……高い所、別に怖くないのにな……」 一方藤原・緋晴(玉座を守護せし天狼・b17407)はなんとも思って居ないようだ。 「ヒロインを抱きかかえて飛び降りるなんてのは、ヒーロー的には絵になりそうだな。……って今回は落ちちゃまずいのか」 同様に高い所が好きな仙風・彰人(熱風疾風大旋風・b28844)。 煙と何とかは高い所を好むなんて言う俗説もあるが……この二人にそれが当て嵌まるかどうかは個々人の判断に任せるとしよう。 「悪夢から逃れる為に必要なものは一つ。それは、彼女の意思……我々に出来る限りのお手伝いはさせて頂きましょうかね」 穏やかな口調で言うのは影檻・鏡夜(地獄蝶蝶・b15448)。 「うん、ナイトメアの好きにはさせないよ」 直接相対する訳ではないが、黒幕のナイトメアに敵愾心を燃やす吉国・冬花(季節外れの転校生・b37620)。 人の弱点に付けこむ様な行いは許す訳には行かない。 「人に悪夢を見せる来訪者か。ならば、逆に悪夢を見せてやれれば少しは懲りるんでしょうがな」 頷きながら呟く御堂・朝喜(破滅執行人・b03899)。 いずれはナイトメアに意趣返しをしてやれる日が来るのだろうか。 「夢にもぐるってどんな感じなのかちょっと気になってた」 楢芝鳥・俊哉(半人前な図書室の主・b20054)は初めて悪夢の中での闘いを経験する様だが、普段同様達観したその様子に不安の色は見受けられない。 「そんなわけで、粉をかけてれっつらごー」 ともあれ、うなされている少女をこれ以上待たせるのも気の毒だ。ティンカーベルの粉を振り掛けて、彼女の夢の中へ入ってゆく。
● 「寄らないで! それ以上来たら飛び降りてやる! 飛び降りたらまず間違いなく死ぬわ! それでも良いって言うの?!」 「へっへっへ、飛べるもんなら飛んでみろよ」 少女が飛べない事をとっくに見越しているのだろう、悪漢の一人は鼻先で笑いながらジワジワと少女に迫る。 「おやおや……男が寄ってたかって女性を襲おうとは、感心しませんねえ」 「な、何だてめぇは!」 どこからともなく現れた鏡夜の姿にうろたえる悪漢達。 「にゅ、安心してなの♪ わたしたちがなんとかするです〜」 アイリスは相変わらず腰を抜かしているミキに近寄ると、(崖を見ないようにしつつ)笑顔でそう告げる。 「えーと……あ、あなた達は……?」 目の前の急展開に眼を丸くするミキ。 「驚いた? このまま邪魔させてもらうわ、ね!」 「安心しろ! 女性が悪者に襲われた時に現われるのは正義の味方と決まってるんだぜ!」 連花と彰人がミキへと告げながら前に出る。 ミキと悪漢どもの間に前衛と後衛の陣形を作り、更に冬花と俊哉の二人をミキの護衛につける慎重な作戦だ。 「……よくもまあ……うじゃうじゃと湧いて出てくるもんだ」 二振りの刀を回転させながら、悪漢達を見据える緋晴。 「湧いたのはてめぇらだろうが! その女は俺達の獲物だ、引っ込んでねぇと痛い目に遭わせるぞ!」 いかにも悪役らしいセリフを浴びせてくる悪夢の衛兵達。ジワジワと両者の距離が縮まる。 「正義の味方って言っても皆子供じゃない、相手は怖そうなオジサンがあんなに沢山……常識的に考えて勝てる訳ないわ!」 冷静に悲観論を唱えるミキ。 「大丈夫、そこに座ってしばらく大人しくしてて下さいねー」 「言われなくても立てないから!」 「なるほど、それもそうですねー」 俊哉とミキがそんな遣り取りをしてる間にも、前衛の能力者たちと悪漢達は一触即発の状態。 「へへっ、よく見りゃ結構ハクい(可愛い)スケ(女の子)が混じってるじゃねーか。よし、男どもは伸しちまえ!」 ミキの嫌いな男性像をそのまま具現化したのだろう、柄の悪い男達はそんなノリで殴りかかってくる。 「なんだ、外国人か? たまんねぇな」 「まだガキじゃねーか、お前ロリコンかよ」 アイリスを値踏みしてそんな遣り取りを交わす男二人。下卑た遣り取りにアイリスの眉がひくりと動く。 「……悪夢の兵士は……血を流すのか否か……なんだかくだらない考え……」 ぼそりと呟きながら、アイリスは目にも留まらぬ速さで水の刃を放つ。 ――ドスッ! 「えっ……ぎゃああぁぁ!」 脳天に水刃手裏剣が突き刺さった悪漢は、血を噴き出させながら悲鳴を上げる。無残と言えば無残だが、自業自得ともいえる。 「こ、このガキっ! 何てことしやがる!」 「数だけそろえた烏合の衆……気に食わない……滅せよ……!」 普段の彼女からは想像出来ない攻撃的な冷めた口調で告げつつ、アイリスは悪漢どもを見据える。 「正義の雄叫び、食らいやがれ! 行くぜミラクルボイス!」 「特にオリジナルの技名は無いが食らってくれ」 彰人が魂の叫びを響かせると同時に、槐の光の十字架が悪漢達を貫く。 「ぐわああぁっ! な、なんだこりゃあぐっ!?」 「……おやすみ、いい夢みろよ」 苦しむ悪漢の一人を、緋晴のフロストファングが襲う。魔氷の効果を待つまでも無く、一撃で絶命する悪漢。 「散れっ!!」 朝喜も得物の双剣に黒い炎を纏わせると、十字に斬り付ける。 「ぎゃあっ!」 一溜まりも無く倒れてゆく悪漢。 しかし弱い分、数は多い。ジワジワと能力者たちの陣形を圧迫、半包囲する様に迫って来る。 「待ちなさい、わたし達が相手よ!」 後衛へ敵が行かない様に、注意を引こうとする連花。 「あぁ? ……あっちの方が良い体してるしなぁ」 連花を一瞥した男は、彼女とミキと見比べてそんな余計な一言を呟く。 連花とてその辺の同世代女子には負けないくらいのプロポーションを誇っては居るが、相手はさすがにプロのグラビアアイドル。ミキに一日の長が有るのはしょうがない事だろう。けれどその辺、乙女心からすれば…… 「一言多いっ!」 ――バキッ! 連花の怒りのクレセントファングが哀れな悪漢を一撃で葬る。 が、それでも尚数人の悪漢どもがジワジワとミキの方へ迫る。 「これ以上は行かせないよ、モーラットパラダイス!」 「ではこちらも、いきますよー」 冬花の手を離れた漫画原稿が宙を舞って悪漢達を切り裂くと、俊哉もまた回転しながら敵を蹴散らしてゆく。 「……す、凄い」 能力者たちの戦いっぷりに思わず目を見張るミキ。彼らの千切っては投げ千切っては投げの活躍で、次第に悪漢の数は減ってゆく。 「へっ、そろそろ諦めたらどうだ? それともまだ殴られてぇか!」 彰人の気勢に及び腰になる悪漢達。 「くっ、こんなガキどもにやられっぱなしで引き下がれるかよ!」 破れかぶれに最後の悪あがきを試みる悪漢達。しかし直線的に突っ込んでくるだけで特に工夫は無い。 「影よ、疾れ!!」 「それでは、御機嫌よう……灰燼に帰しなさい」 朝喜のダークハンドが、鏡夜の炎の魔弾が、押し寄せる悪漢の先頭二人をなぎ倒す。 「どひゃあ〜!!」 そこからはもはや一方的な展開だった。冬花、彰人、槐の範囲攻撃によって大半を蹴散らされた悪漢どもは、そのまま各個撃破されるのを待つ哀れな存在でしかない。 ミキを堅く守った上で、効率的に戦力を配置した、能力者達の戦術の勝利である。
● 「さて、それでは楽しい橋渡りタイムといきましょうかいな」 朝喜が普段どおりの口調に戻って言う。 「え? ……な、なんで? あの人たち居なくなったんだからワザワザこんな危険な橋を渡る必要ないでしょ!?」 ようやく何とか自力で立てるようになったミキだが、橋を渡ることには当然難色。 「それは違いますよお嬢さん、貴女があの橋を自力で渡れるようにならない限り、先ほどの様な輩がまたやってくるでしょう」 穏やかな口調で嗜める鏡夜。 「大丈夫よ、大丈夫。落ちないんだから怖がる必要なんてないわ」 「で、で、でも万が一落ちたら絶対助からないわ!」 連花が勇気付けるようにいうが、駄々っ子の様にかぶりを振って拒否するミキ。 「わたしも高い所は苦手だけど、克服したいから渡るわ」 「え?」 前述の通り、連花も高い所は大の苦手。それでも恐怖を克服するために強い口調で言い切る。 「俺らが目の前で渡って見せたら、安心だろ?」 彰人は万が一に備え、命綱であるロープをその辺の岩に括りつけながら言う。 「そ、それは……そうだけど」 「うゆ、私も高いあんまり好きじゃないの。でも風景とかはすごく綺麗ですよ。だから一回私と一緒にわたってくださいなの。きっと変われるです♪」 煮え切らないミキに、にっこり微笑みながら告げるアイリス。 「……わ、解ったわ。やってみる……」 ようやく決心が付いた様だ。
と言う事で、命綱をつけた能力者たちが先に橋を渡る事になる。 石橋、吊り橋、ガラス張りの橋。3種類の橋をそれぞれ渡って最も安全に行けそうな橋をミキとアイリスが渡ると言う段取りだ。 「大丈夫よ、大丈夫」 今度は自分を励ますように呟く連花。ロープを腰に巻きつけ、いざ石橋に挑む。 「あ、ちょっと待って下さいー……これでよしと。夢だし、これで効果変わるかもしれないじゃない?」 俊哉が注意書きの「この橋渡るべからず」の文字を「この端渡るべからず」と書き換える。 改めて一歩を踏み出す連花。 三種類の橋の中では、もっとも横幅も広く安全そうに思える石橋だが、連花にとっては一歩一歩が自分との戦いだ。 「下を見るな、前を見ろ」 緋晴のお約束発言。だが、こう言う場合の鉄則である。 「ここまで来れば……あとちょっと」 時折吹く風には両手を広げ、バランスを維持しながらゆっくりと歩みを進めてゆく連花。 仲間とミキの見守る中、ついに向こう岸へと渡りきった。 「おめでとー」 パチパチと手を叩く俊哉。次は彼の番だ。 眼前には今にも落ちそうなボロい吊り橋。 「うにー……下を見ると怖いから前と上だけ見て進むと良いかも」 石橋の場合は見ようと思わなければ下は見えなかったが、吊り橋の場合は前を向いていても板の間から下の景色が見える。 俊哉は軽く上を向くようにしながら歩みを進める。 一歩ごとに板が軋み、風が吹くたび大きく揺れる吊り橋。思わず見ている側も手に汗が滲む。 「もう見てらんない」 ミキは顔を伏せるが、俊哉はそのまま無事向こう側へ渡りつく。 「なんだ、結局どれを渡っても平気ってオチか」 槐は拍子抜けした様子で、ガラスの橋へ足を掛ける。 「なんだか空の上を歩いてるみたいで良い気分だぜ」 高所も彼にとってはなんのその、軽いステップでガラス橋を進んでゆく。確かに遠くから見ていると、まるで空の上を歩いているように見える。 「なんだか楽しそうだね、私もあれ渡ってみようかな……あっ」 眺めていた冬花の視線がすっと下へ移動した。 どうやらガラスの橋は途中から左右に曲がりくねった造りになっていたらしく、直進していた槐は自然に橋から落下した。 「ゆーきゃんふらーい………冗談だ」 凍りつくミキの横で笑えない冗談を飛ばす緋晴。 「命綱があって良かったぜー!」 一方宙吊りになった槐は、相変わらず上機嫌で手を振っている。心配なさそうだ。
「みなされ、無事に渡り切りましたぞ。さぁ、往くのだ。あの橋の先に栄光が待っていますぞ。何の栄光かは知らんが」 朝喜がミキへ促す。 一人無事に渡りきれずいまだ宙吊りになっている者も居るが、無かった事になっている様だ。 「さぁ、一緒に渡るです♪」 「私も一緒に行くよ。これを持って」 「う、うん」 アイリスと冬花がミキの左右に寄り添うようにして、石橋へ踏み出す。 震える足を抑え、二人とロープにしがみつきながらゆっくりと足を前へ出すミキ。 一歩一歩というよりも、力士のすり足の様にズリズリと足を前方へ滑らせる。 「いいぞー、頑張れー!」 「何、大丈夫。その橋にラブを持って挑めば君に味方してくれますぞ」 前方や後方から能力者達が、下方からは(吊られたままの)槐が声援を送る。 「そうよ、大丈夫……私にはファンの皆がついてるもの……」 「(私達は別にファンでもなんでも無いけど)そうだよ! 後ちょっと!」 能力者たちに励まされ、自分を励ましながら確実に向こう岸へと進んでゆくミキ。 そしてついにその右足が対岸へと達する。 「やったぁ!」 「私も……渡れたのです」 「おめでとー」 対岸で待っていた俊哉と連花が手を叩いて三人を祝福する。 「有難う皆! 皆が助けてくれて勇気をくれたから……これで私、高い所の仕事も出来るようになった気がする!」 ここで言う高い所の仕事とは、水着でバンジージャンプとか言う類の仕事の事を指すのだろう。 「これをきっかけに、歌やドラマもこなせるマルチなアイドルを目指すわ!」 「あー……頑張ってください」 すっかり前向きになったミキの様子に軽く圧倒される一行だったが、とにかくこれで彼女も二度と同じ悪夢に囚われる事は無いだろう。 「それじゃあ帰るとしましょうか、現実の世界へ」 「有難う! あなた達の事、忘れないわ!」 手を振るミキに応えながら、一足先に彼女の夢を後にする能力者たち。
● 「ん……そう言えば綾取を忘れてないか?」 「あっ」 現実に帰った能力者たち、緋晴がふと思い出したように指摘する。 「俺ならここに居るぜ!」 そこには普段通り元気に笑う槐の姿が。 ロープを切って、自主的に悪夢の中から弾き出される手段を選択したらしい。 「おやすみなの、これからはよい夢を……です♪」 初めとは打って変わって、安らかな表情で眠るミキの頭をそっと撫でるアイリス。 かくして、眠れるアイドルを救う任務は無事成功したのであった。
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参加者:9人
作成日:2008/04/14
得票数:楽しい13
笑える1
ハートフル2
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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