≪弁当屋【樹雨の虹】≫小春巡り


<オープニング>


「……いい天気ねぇ」
 新学期に入って半月ほど経った、あるうららかな晴れの日。弁当屋【樹雨の虹】の女将、芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)はのほほんと軒先で佇んでいた。程よくふりそそぐ陽の光は今が春であるということを如実に表している。
「女将さん、ちょっと来てもらえますか?」
「ん?」
 そんなゆったりと時間の流れる中、建物の中から御鏡・更紗(白き娘・bn0014)が手招きをする。
「ちょっと、気になるものがあるので見てもらいたんですけど……」

                 *          *         *

「あ、恋月先輩」
 美原・月(闇に放つ月輝・b15609)が扉を開けて来た恋月に声をかける。ここにいるのは月以外にも幾つか団員が揃っていた。
「何々? みんなどうしたの?」
「……とりあえず……これ……」
 都築・アキ(応酬シ報復スル刃・b16871)が示すのはその場の中心にあった雑誌。
「……え〜っと……『春の山菜採りツアー、自然の中で楽しもう』? ……大分中途半端なところでやるみたいだけど」
 野山と湖という自然の中で楽しもう、……内容的にはそれだけだ、だたその目的地が都会からは来難く近隣からは出向くまでも無い場所というだけである。一般的には。
「ここをちょっと見てもらえますか?」
 叶・真(コープスダンサー・b15944)の指差すのはその記事の傍らに載っていたささやかな写真。
「ん〜……、これってもしかして……」
「残留思念だよね……」
 恋月の言葉を安部・清美(魔法少女・b01517)が引き取る。
「こういうのは早めに片付けておくべきだよね。まあ私が見つけたんだけどさ」
「つまり、遊びに行く予定で調べ物をしてたらたまたま見つけたって事だね」
 獅子吼・響慈(恋人はサンタクロ〜スってね・b15316)が語る手柄を伊東・太一狼(狼は今日も月を食べる夢を見る・b01112)が冷静に分析する。
「……ま、いっか。どっちにしたってそのままにしておけないからね」
 恋月は雑誌を置いて伸びをする。
「それに新しいメニューも考えておきたいところだし……と言うことで、皆行こうか」

 かくして弁当屋の一行は山菜狩りツアーに向かうのであった。

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参加者
風月・十架(二百由旬の風炎・b00392)
伊東・太一狼(狼は今日も月を食べる夢を見る・b01112)
安部・清美(魔法少女・b01517)
芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)
獅子吼・響慈(響き合う永遠の旋律・b15316)
美原・月(闇に放つ月輝・b15609)
叶・真(コープスダンサー・b15944)
都築・アキ(応酬シ報復スル刃・b16871)
NPC:御鏡・更紗(白き娘・bn0014)




<リプレイ>

●あんのじょう。
「……誰もいないね」
「……だれもいないですねぇ」
 芦夜・恋月(縛鎖の中で足掻く狗・b10866)と獅子吼・響慈(響き合う永遠の旋律・b15316)は楽器を手に途方に暮れていた。何故かって? それは彼女たちが一般人を近づけさせないように演奏会をしようとしていたからである。でもそんな必要は殆どなさそうである。だって同ツアーに参加していた人は自分達を除けば極少数だし、そのうちの殆どは思い思いにそれぞれに山菜取りに行ってるから。それに近くでゴーストとの戦いがあったとしても世界結界の効用で一般人はその場を離れていくだろう。言いにくいけど、その、そういうことなのだ。
「バスに乗ってた時点から薄々そんな気はしてたけど」
 バス(しかもちょっと座席数が心許ない)の中の状況を思い出す。自分達が乗ってようやく参加者が半分を超えたくらいだったか。しかも元々仲のいい人らが何人ずつ揃って来ていたようで、話しかけられることも無く。そういうことを言ったら彼女らも同じようなものだけれど。
「さて、それじゃ始めますか」
 こめかみに人差し指をあてて考え込む恋月を尻目に響慈は楽器をイグニッションカードから取り出し始める。
「……何してるの」
「え、演奏会の準備ですが何か?」
 恋月がこめかみを揉む回数が増えた。呆れたような口調で彼女は響慈に向かって口を開く。
「あのねぇ……大体、どこに観客がいると思うのよ」
「いますよ、そこに」
「……え?」
 響慈の指差す方向には通りすがりの狸が。
「さすが山の中ですね。こんなお客さんも来るみたいですよ」
 響慈の言葉に頭を抱えてうずくまる恋月。そんな彼女を面白そうに見遣ってから響慈は口上を述べる。
「今日は森の木漏れ日ライブへようこそ、森の貴公子・響慈どえす。でもホントはドM」
 恋月の頭痛が更に酷くなる。ひとしきり悩んだあと意を決して彼女は立ち上がる。
「弁当屋【樹雨の虹】。皆さんの応援代わりに、演奏させていただきますー」
 何かを色々吹っ切ったように狸に向かって挨拶をする恋月。響慈と同じようにハーモニカを取り出して演奏を始める。既にこの時点で色々捨て鉢な雰囲気である。
(「殴りに行きたかったなぁ……」)
 そう思っても後の祭りでなのであった。

●それより少しさかのぼって
 芸人二人とは別れて残りの7人は例の写真の残留思念を探していた。叶・真(コープスダンサー・b15944)と都築・アキ(応酬シ報復スル刃・b16871)の死人嗅ぎを期待して探そうとしていたのだが……。
「やっぱり……」
「ダメみたいですね」
 互いに頷きながらため息をつく。死人嗅ぎはゴーストに対して反応するものであって、残留思念に働くものではないのだ。改めてその事を確認し、彼らは自力で残留思念の場所を探して歩き回る。パンフレットに載っていた写真はそれほど入りにくい所にあるものではないはずだ、そうでなければ底を目当てにきた客が入ることが出来ないはずだから。
「あっちの方も面白そうだよね」
 安部・清美(魔法少女・b01517)の言うあっちの方とは例の二人である。
「さも見物だろうね……、いろんな意味で」
 いわくありげな笑みを浮かべる風月・十架(二百由旬の風炎・b00392)。そう言いつつもちゃんと手元のパンフレットと周りの風景を見比べている。
「あ、伊東さんが帰ってきましたね」
 狼状態の伊東・太一狼(狼は今日も月を食べる夢を見る・b01112)を見つけた御鏡・更紗(白き娘・bn0014)がデジカメを構えていた美原・月(闇に放つ月輝・b15609)に声をかける。
「ただいま。……思ったほど人はいなかったね」
 一応偽装工作として野犬の存在をほのめかすために、狼変身で偽装してきたけれどどうやら余り必要なかったようだ。その言葉を聞き届けると十架の口元が更に大きく変化する。
「更紗ちゃん、何で私に言うのかな?」
 微妙な空気を纏いながら月が更紗に問いかける。対する更紗は笑顔を見せるばかりで何も言わない。とりあえず深く突っ込むのは後にして先程撮った映像をデジカメのディスプレイに映し出す。
「あれ……、これかな」
 月が皆にその画面を見せれば確かにくすみのようなものが写り込んでいる。これがおそらく例の写真に写っていたものと同じものだろう。清美も念のため同じように同じ場所を撮り確実に残留思念のある場所を特定する。そうと分かると戦闘前の準備をいそいそとし始める。
「周りに人はいないですね」
 真が辺りを見回し一般人がいないことを確認し、イグニッションを行い始める。
「ふむ……一仕事するには丁度いい静けさだ」
 十架がその静寂さを再確認すると、同時に脳裏に演奏会の二人が浮かぶ。やはりそれと同時に口元がかすかに綻ぶ。
「ねえねえ、似合う?」
 身を一回転させて身に纏った装束を見せる清美。どうやら姉からお下がりのようである。
「似合うと思いますよ」
 更紗が笑みを浮かべて同意するその隣で太一狼が手に詠唱銀を持ち後ろを振り返り確認する。
「これをかけたら出てくるの? みんな準備はいい?」
 質問に詠唱兵器を掲げる事で答える一同。それを見て太一狼は「えいっ♪」と詠唱銀を辺りに振りまく。軽いかけ声と共に放られた詠唱銀はやがて残留思念と一つになりゴーストの体を形作っていく。その様子を皮肉気な笑みを浮かべる十架。
「何が出るかはお楽しみ……さて、貴様に降る天罰は何だろうかね?」
 その言葉と共に相手の不幸を念じる十架。彼に続くように月、清美、更紗も蟲の知らせを使用する。目の前で実体化した地縛霊を前にこのメンバーは気楽そうである。
「何が起きるかな♪」
「ナニが飛んでくるのか……、山中だしなぁ」
 そう彼女らが呟いた瞬間、地縛霊が腕を振り上げる。

 ごっ、がっ、ごんっ、ぐしゃ。

 ……え〜と。説明すると、地縛霊が戦闘態勢に入った瞬間、何処からかがけ崩れのものと思われる岩が転がってきて『不幸にも』4つ連続で地縛霊にヒットしたのだ。それでもめげずに再び立ち上がり懸命にも襲い掛かろうとする地縛霊。でもすぐさま真にヒュプノヴォイスで動きを止められ、その隙にアキの生命吸収(奥義)と太一狼のフロストファング(やっぱり奥義)の連続攻撃に一回も攻撃できないまま倒れるのであった。
「起こしてごめんね。今度こそゆっくりお休み」
 太一狼が空を見上げて倒した相手に呟く。
「……まさかあんな事になるなんて、ビックリだ」
 でもその後に笑顔を浮かべてるのはどうよ?

●残るは山菜だ
「【樹】のチームよりもたくさん採ろう」
 小さく月が握り拳を作る。人数はちょっと少ないが、そこはそれ心意気でカバー。
「せり なずな ごぎょう はこべら ほとけのざ すずな すずしろ♪」
 女子チーム【虹】は清美が春の七草を歌と共に採集に精を出す。月はそんな彼女に少し足元などの注意をしながら同時に頭の片隅で山の幸をどのように生かすかを考えていた。
(天ぷら・おひたし・和え物……いやいや、煮物のアクセント……)
 無心でレシピを巡らせながら深く深くへと分け入っていく月、危うく草木に全てが隠れてしまいそうになるが気付いた恋月が慌てて止める。
「ちょ、ちょっと月ちゃん」
 そこでやっと気付きようやく立ち止まって自分の周りの状況を再確認する。
「ははは……迷子になるところだった」
 頬をかいて恥ずかしそうにする月を恋月に小さく笑みを浮かべる。こちらの【虹】の面々はそんな感じで和気藹々と時間を過ごしていた。

 一方その頃。
「いや〜、いい汗かきました」
 すっげぇ爽やかな笑顔を見せなが合流した響慈に軍手を渡す。十架は面子が揃ったのを確認すると、その場の仲間達に注意をする。この辺りは年長者の貫禄か。
「あまり奥には行かない、はぐれないようにする。……残留思念がもう一個増えるのはゴメンなのでな。厳守で頼むぞ」
 このメンバーはチーム名【樹】、全員男子で構成された力仕事が得意な者達が集まっている。
「あっ筍とか命茸は男の先輩に任せるのです」
 ……はずである。きっと。
「それは置いといて山菜はこっちだ♪」
 言ってるそばから太一狼が一人で道を行くし。しょうがなく彼についていけば四方を木々に囲まれた丁度空き地のような所に出る。ここなら拠点に出来るだろう。
「……ここに色々集めればいいよね……」
 アキはそう呟いて山菜を適当に探し始める。同じように響慈も動き出す、やはり適当に。
「もちろん数の少ない人は罰ゲームですよね?」
「……人じゃなくてチームでね……。罰ゲームはないけど……」
 危うい台詞を吐く響慈にしっかりと突っ込みを入れてから、ふと採集に熱を込めるアキ。こっそりと負けず嫌いらしい。何はともかく山菜を採りはじめてからは静かになったので十架はとりあえず自身の作業にも移る。彼の元にはある程度取る山菜を絞って調べてきた真が来ていた。
「これとか何に使えます?」
「これは天ぷらに、そっちのは煮物に使おうか」
「弁当に入れるものですから……そういう感じでしょうかね。あとおひたしとか」
 そんな感じの二人の視界に原色鮮やかなキノコが現れる。二人が恐る恐る見上げるとそこには目の焦点の合っていない響慈が立っている。
「派手なキノコが大量ですよ。はっはっはっは」
「もしかして齧ったんですか?」
「はっはっはっはっは……」
 真のその問いには本人は答えなかったが歯跡のついたキノコが雄弁にその身をもって答えていた。
「……ということで、太一狼もこれを」
「毒草だぞ、これ……」
「……ファイト」
 アキもアキで本当に適当に採った植物を太一狼で毒見させようとしていたり。
 ……皆、山菜を取るときはちゃんと専門家に確認してもらおうね。

●小春巡り
「アキ兄ちゃん、こっち向いて♪」
 アキが籠に取った山菜を入れているところに黄色い声がかかる。何事かと振り返るとデジカメを持った清美が笑顔で立っていた。同時に焚かれるフラッシュ、見事清美のファインダーの中にアキは納まったようだ。彼女の後ろから【虹】のメンバーがやってくる。
「そっちはどんな塩梅? もうそろそろ皆でお食事にしようと思って」
 恋月がそう言うと月がふくさに包んだ弁当箱を少し上に持ち上げて見せる。早速太一狼が月から弁当を受け取ろうとする。そこで真が一つ提案をする。
「食べるならもう少し眺めのいいところへ行きませんか?」
「そうだね、せっかく遠出してきたんだし。……向こうに見晴らしのいいところがあったから、そこへ行こうか」
 恋月の決定にみな頷き移動し始める一行。賑やかに道を行く一行を恋月は振り返り人知れず微笑みを浮かべた。
 若芽はいよいよ青くなり、陽射しが強くなろうとする直前のエピソードであった。


マスター:西灰三 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/04/30
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