≪フォロー体質の集い≫引っ越しお祝いパーティ


<オープニング>


「おうち、みつけたの……」
 始まりは、現在住所不定、フォロー部部室に住み込んでいる、という噂のある元お嬢様、蒼澄・譲羽が持ってきた一枚の写真だった。
 そこに写っていたのは、小さく、くたびれた洋館。小さな庭とアトリエになりそうな部屋があるのだという。
「それでね、家賃がとっても、安いの……」
 にこぉと笑う譲羽に詳しく話を聞けば、外観はともかく、リフォームがなされた内装は十分綺麗で、先の好条件、にも関わらず何故か一向に人が居つく気配がなく、じわりじわりとその家賃を落としていったのだという。
「それっていわゆる曰くつきというやつじゃないかな……」
 話を聞いた高森・宏は、何ともいえない顔つきで呟いた。
「そのようですね」
 写真をじっと見つめていた小蓋・裕太は、とん、と写真の隅に写るあるものを指した。
「ばっちり写ってるね」
「どれどれー、あ、ホントです」
 覗きこんだ紗白・すいひと獅竜・瑠姫がそれを認めた。
 薄らぼけたそれをばっちりと言っていいものかどうか分からないが、たしかに何かが写っていた。なんとなく書生っぽい、そんな感じの影が写っている。
「倒しに行った方がいいだろうね」
 宏の言葉に皆同意を示した。
 そんな中、事態を把握していないのは、家主となる譲羽だったりした。

 ともあれ、まず引っ越しが行われた。
「なんでもこの家には、昔、この家に下宿していた書生がここのお嬢様に報われぬ恋をしていた、っていう話が残ってるらしいよ」
 あれから、気になって調べた宏は、引っ越し作業を手伝いながら、周辺に残っている噂を語って聞かせた。
「素敵……なの……」
「蒼澄さん、すみません。荷物これで終わりですか?」
 白岸・衛がほわんとしている譲羽に尋ねると、彼女はこれからアトリエとなる部屋と運び込まれた荷物を確認すると頷いた。
「よし、そんじゃ地縛霊退治と行くか!」
 獅子守・大地が荷物運びで凝った腕を回し、軽く戦闘準備に入る。
「外、でいいんだよな」
 ジャグル・ディセンバーは、庭の方へと歩きだした。写真を見る限り、問題の地縛霊は外にいるようだった。
「終わったらすぐにパーティが始められますよー」
 そちらの準備をしていた瑠姫は、にぱっと笑った。
「それじゃあ始めるよ」
 宏が問題の場所に詠唱銀を振りかけた。

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参加者
獅竜・瑠姫(わんわん・b00740)
高森・宏(高校生ヘリオン・b02551)
白岸・衛(白騎士・b02556)
蒼澄・譲羽(機械仕掛けのビスクドール・b19835)
紗白・すいひ(日陰の裁ち手・b27716)
獅子守・大地(白燐纏いし牙もつ者・b30011)
小蓋・裕太(アルバイター魔剣士・b30251)
ジャグル・ディセンバー(光壁の守護者・b37190)



<リプレイ>

●恋焦がれた君
 振りかけられた詠唱銀により、形にもならなかった残留思念はその姿を現した。それは明治、大正期に見られた書生の出で立ちで、その表情が悲しそうに見えるのは、先ほど高森・宏(高校生ヘリオン・b02551)から聞いた書生とお嬢様の噂のせいなのか。
「次は……結ばれると……いい、ね……」
 蒼澄・譲羽(機械仕掛けのビスクドール・b19835)が白燐奏甲を白岸・衛(白騎士・b02556)にかける。
 次の瞬間、奇妙な感覚とともに七人は特殊空間に閉じ込められたらしいことを悟る。
 気にせず獅子守・大地(白燐纏いし牙もつ者・b30011)はイグニッションと同時に白燐奏甲を使い、小蓋・裕太(アルバイター魔剣士・b30251)は旋剣の構えを行った。
 ジャグル・ディセンバー(光壁の守護者・b37190)は地縛霊の姿に首を傾げながら、サイコフィールドを展開する。形をなした地縛霊は立て襟の洋シャツに袷と袴という出で立ち。
(「……探偵見習みたいなもんか?」)
 昔の探偵物の代表作品で主人公の探偵がよく着ているものがそれだったように思う。
 ジャグルが考え込む間、紗白・すいひ(日陰の裁ち手・b27716)がギンギンパワーZを飲んで力を高め、能力者たちは過剰なまでに万全を期した。

 鈍い動きで動きだした地縛霊に衛がまず紅蓮撃を見舞う。
 地縛霊は苦痛に叫ぶ。それは報われなかった想いの残り香にも思え、同情の念を禁じえなかったが、放っておくわけにもいかない。
「一汗かいて腹を空かせるぞ、っと」
 続く大地は、とにかく退治してしまおうと金の軌跡を描きながら地縛霊を抉る。
「あと一撃でしょうか」
 裕太の黒影剣が閃かせると、よろめく地縛霊は一度も攻撃の機会を得ることなく消え去った。
「多分、彼女も待っていると思うよ。……だから、どうか悲しまずに」
 リフレクトコアを盾にするまでもなく戦闘が終わり、宏はそっと地縛霊を見送った。隣では衛が合掌し冥福を祈る。

●楽しむ君
「お疲れ様ですー♪」
 獅竜・瑠姫(わんわん・b00740)は、戦闘の終わった仲間たちをにこやかな笑顔で出迎えた。
「そう言えば……いなかった、なの」
「全員でかからなくても楽勝そうでしたからー」
 思い返す譲羽に、代わりに台所の準備をしていたことを告げる。呆気ないほど簡単に終わった戦闘に、たしかにその方が助かると納得した。
「うし、手洗わせてもらうぜ」
 大地は腕まくりすると一旦手を綺麗に洗い、パーティーの準備にとりかかる。料理担当のすいひ、裕太、瑠姫も他より入念に手を洗った。

「庭掃いてくるぜ」
 ガーデンパーティということで、ジャグルは庭を掃き、庭の景観を崩さない程度に邪魔な石を退かして整えていく。それが終わると衛と譲羽がテーブルを庭へと運び出していく。
 テーブルを運ぶ最中に衛は先に買ってきた飲み物の事を思い出し、冷蔵庫で冷やす旨を伝えた。
「……ふと思ったんですが、蒼澄さん、電気とかの手続き、終わってますか?」
「んと、終わってる……なのよ?」
 いつもどおりのおっとりさ加減はどうにも不安を煽ってくれたが、来てすぐ設置した冷蔵庫の中はきちんと冷えていた。ウーロン茶と苺牛乳、コーヒー、ミルクティーその他のジュースを入れ込んでおく。
「譲羽先輩、テーブルクロスはどこだ?」
 どこを探せばいいのか見当もつかない大地は、引っ越し荷物を適当に漁っていた。
「あ、テーブルクロス……昔、模造紙何枚もつなげて書いた、向日葵畑の絵、あるけど……それ、どかな……?」
 ごそごそっと箱の中をひっくり返して、丁寧に引っ張り出して少し広げてみせた。
「綺麗だな」
 様子を見にきたジャグルがそう言うと、よし敷くぞ、と外に出て四人でそっと広げて敷いた。

「これだけのデザートを作るのは久しぶりです!! 燃えてきますね!!」
 裕太はフルーツケーキを作りながら、燃えていた。焼き上がりにはシロップ漬けの洋梨と苺やバナナ、マンゴー、メロンをのせ、他にも洋梨のタルトを作っている。
「小蓋さんデザートかなり凝ってるね」
「好きですからね」
 マイ包丁を持ってきてるあたり、どれほどのもなのかが知れる。
「さて、こっちを作るの手伝ってくれる人いるかなー?」
「はいはい、手伝いますよー」
「じゃあ、はい、これ」
 今日のためにおろしたてなのだと、星が散りばめられた可愛らしいフリルのエプロンを身につけて、元気よく手を挙げる瑠姫にすいひはネコミミをぽんと渡す。
「……紗白先輩、これはなんでしょう?」
 おうかがいを立ててみる。
「お手伝いさん用のネコミミだよ」
 にこにこ笑顔で言われるとそれ以上突っ込みづらくて、まぁ、いっかと付けてみた。
「うん、よく似合ってるよ」
「えへへ、ありがとうございますっ」
「それじゃあ準備が出来たところで、サラダをお願いします」
 りょうかーいと元気の良い返事が聞こえたのは束の間。すいひがからあげの下準備を、裕太がフルーツを刻んでいると、あまりリズムの良くない包丁とまな板のハーモニーが聞こえてくる。
「獅竜さん、初めてですか?」
 裕太がおそるおそると言った風に尋ねてみると独り暮らししてるから、少しは出来るのですよ〜! という声。裕太は少し考えて、包丁を一度水洗いして、きゅうりを一本手にした。
「そのままだと危ないので、手は指を丸めて……猫の手ですよ……あ、そうかだからネコミミなんですね」
 危なっかしい手つきに簡易の料理教室が始まり、ついで裕太は瑠姫に渡された小道具の意味を知る。後ろで、なんとなくだったんだけどねーと渡した張本人が思ってるとは思いもしないだろう。

「よし、出来た」
 唐揚げにピカタ、焼き鳥につくねなど数種類のチキン料理とグリーンサラダ、ケーキが出来上がると、すいひは味見係に大地を呼んだ。
「んじゃ、一口もらうぜ」
 うきうきとまずは洋梨のタルトの余ったクリームと梨をもらった。
「美味しいです?」
 様子をうかがう瑠姫に大地は頷き、それからからあげを口にした。
「こっちは……美味しっ……ごふぉ! 辛っ!!!」
 二、三回咀嚼してからむせかえる。ジャグルが苦労症の慣れからくる落ち着きで水を差し出す。
「さすが激辛」
 犯人、もとい製作者は妙な感心でもってその様子を眺めていた。

●君の為の宴
 たっぷりと日が暮れた頃、パーティーの準備は完了した。
「よし、電気もちゃんと点いたね」
 電気を取り付けていた宏は、部屋の電気のほかにテーブルライトを用意して、パーティーの会場となった庭を明るく照らしだす。そっと頭を垂れる木の葉を茂らせた枝、塀に生い茂る蔦、手入れをすればきっともっと素敵な被写体にもなるだろう。
 そして庭の真ん中を飾るのは、向日葵が描かれたテーブルクロスと数々の料理、そしてお茶と数種類のブリックパックジュースだ。
 料理の合間に見え隠れする向日葵が一足早い夏を思わせる。
 それぞれの手にまずグラスに入ったお茶が配られると、宏が音頭を取った。
「こんな風に皆でフォローしあえるってやっぱり良いよね、今日は皆お疲れ様でした。それじゃ、蒼澄さんがこの家で今以上に幸せになれる事を願って……乾杯!」
「かんぱーい」
「マイホームおめでとうですー!」
 瑠姫とすいひがクラッカーを鳴らす。
「おーし、じゃ食おうぜ」
 大地がささっと持ってきた白い手皿を配っていき、ウェットティッシュもあることを伝えた。
「まずは引っ越し蕎麦を食べよう」
 こだわり、というわけではないが、験担ぎを良しとする宏は蕎麦を配る。
「おつですねー」
 さっそく口をつけたすいひがうんうんと頷く。譲羽は蕎麦を頂きながら、その視線はブリックパックに釘付けだ。
「飲み物……ストロー刺して、もいい、かな……?」
「引越しおめでとうございます。遠慮なく、ストローを刺して下さい」
 お祝いを述べ終えると衛は、パックを差し出した。本当に好きらしく、ぷすっぷすっと嬉々としてストローを刺していく彼女を皆が微笑ましげに見つめる。リクエストに沿って買い揃えられていたそれらを彼女は手ずから渡していった。
「コレ美味しいぜ!?」
 大地は目を見開いて、鶏肉のピカタに舌鼓を打つ。その他にも焼き鳥を食べ、サラダも口にした。……唐揚げはさすがに避けていたが実に美味しそうに食べる。
「ん……おいし、の」
 香ばしく揚がっている唐揚げに譲羽はにこぉと笑う。ケーキももらおうと視線を動かせば、洋梨のコンポーとが艶めくタルトに、生のフルーツがふんだんにのせられたフルーツケーキがいくつもある。そのうちの一つはフルーツが上手くのせられずに一部雪崩れている。視線に気づいた瑠姫はささっと裕太が飾ったケーキを前に出す。
「ええと……こ、こちらに完成したものがっ!」
「よくわからないが、じゃあ、これをもらう」
 ジャグルは丁寧に切り分けて皿に盛る。切り口からのぞくドライチェリーやドライアプリコットに緑のアンゼリカが華やかだ。
「こっちも切っておくぞ」
 避けられた方のも切れば、雪崩れも気にならなくなった。目立たなくなったそれに味は変わらないし、とほっとしてみせた。
「っと、そういや」
 切り終えてから、ジャグルは自分の荷物を漁り始めた。
「あったあった。俺の幼馴染が作ったんだけど……どうだ?」
 白と黒のアイスボックスクッキーを見せた。
「遠慮なくもらおうかな」
 美味しいものはいくらあっても構わないと宏が受け取る。

●貴女は私はひとりじゃない
「アトリエのある家かぁ……いいなぁ」
 食事も一段落して、瑠姫は家を羨ましそうに眺める。
「私も絵を描くの好きだし、憧れなのです。蒼澄先輩、時々私も一緒にお絵描きしていいです……?」
 えへへと笑う瑠姫に譲羽はもちろん、なのと嬉しそうに頷く。
 衛は衛で新居が決まって、本当に良かったとしみじみと思っていた。部室での住み込みの件が噂にまでなっていようとは思っていなかったのだ。
「引っ越したばかりで部屋が寂しいと思ってプレゼントにモーラットクッション持ってきたよ!」
「わっ、あぶねぇ」
 お腹いっぱいになってもまだケーキを食べ続けていたすいひは思い出したように、ぽーんと愛らしいクッションを無造作に部屋の中に放り投げた。加減を誤り、壁にぶつかって跳ね返ってきたそれをジャグルが慌てて受け止める。モーラットクッションの円らな瞳が愛くるしくて怒るに怒れない。
 その様子を楽しげに見守る譲羽に裕太はそっと近寄りプレゼントを手渡した。
「あまり、絵の事は詳しくないのですが……多くて困るものではないと思いまして」
「ありがと、なの……嬉し……」
 可愛らしいラッピングを解いてみれば、中から筆と絵の具セットが出てきた。絵を描くのが好きな譲羽には何よりの贈り物だろう。

「それじゃあ、そろそろ締めの挨拶といこうかな。蒼澄さんよろしくお願いするよ」
 宴もたけなわ、宏が譲羽に呼びかけると譲羽は小さく頷いて、とことこと中央に立った。
「本日は……ご多忙の中……ご協力戴き、有難うございました……なの」
 譲羽は薄碧のワンピースの裾を軽くつまんで、優雅に一礼した。裾をふわりと離すまでの一つ一つの仕草が自然で、彼女のかつてをしのばせた。
「みんなのおかげ……で、私にも、居場所が出来、て……一人じゃないんだ……って思え、て……あれ……?」
 ぽろ、ぽろっと流れ出る雫に譲羽は驚いたようにそれに触れる。涙が溢れて止まることを知らない。譲羽はそれでも言葉を止めなかった。
「……みんな、側にいてくれ、て……ありがと、なの……」
 もう一度礼をした。一拍遅れての拍手と泣かないでくださいーと瑠姫の慰める声が響く。フォロー体質のなせる技か、差し出されたいくつものハンカチにまた涙が零れる。

「最後に、記念撮影をしようと思うのですが……どうでしょうか?」
 涙がようやく乾いた頃、裕太の提案に衛も「いいですね」と頷いて用意してきたカメラを見せた。
 譲羽が赤くなった目をなんとかする間、皆でわいわい集合写真をとれるよう庭にスペースを作った。
「準備良いですか?」
 譲羽を中心にそれぞれ並んで、いいぞー、などの声に衛はタイマーをセットする。
 ────カシャリ。

 フラッシュが焚かれ、一枚撮られる。
 写真の中の皆の顔は笑顔で輝いていた。


マスター:神月椿 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/06/07
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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