<リプレイ>
● 伏見・美鬼(ご存知変幻自在髭漢女伝説・b17648)は、人差し指を口に当てながら、後ろにいる朝倉・レンジ(水写・b00735)へと振り向いた。 レンジが口を両手で押さえて何度もうなずくと、美鬼もうなずき返して、身を潜めている窓の下からそっと部屋の中を覗く。レンジも美鬼にならって覗いてみると、家主である老人が布団の中で眠っていた。 弱々しいが、ゆっくりと規則正しく上下する布団に、これで心配ないと2人は確信を得た。 老人を起こさないように、2人は再び窓の下に身を潜めると、かがんだ姿勢のまま裏手の方へと走り出した。 平屋の角を曲がり、沿っていた庭の木々が途切れると、待っていた仲間達と合流する。 「じっちゃん、ぐっすり眠ってたよ」 足を止めるなり、レンジはピースを掲げた。 「一般人に被害を与えるわけにはいかないからな! じいさんの昼寝は守る!!」 短い眉の下にある丸い目を笑ませるレンジにつられて、屈託のない笑みを浮かべた佐々木・颯太(インスピレーションラブ・b40604)は、握り拳を胸に作って頭上に掲げた。 だが、幸坂・太陽(いつも心に太陽を・b01396)は守るべきものが昼寝ということに疑問を持ち、辺りに声を反射させた人一倍大きい声の持ち主に尋ね返した。 「昼寝をですか?」 「昼寝は、大事なんだぜ!」 老人に昼寝という休息は、確かに大事かもしれないと、颯太の力説に太陽は納得する。しかも、今回はその昼寝の習慣があったために、気兼ねなく妖獣と戦うことが出来るのだ。 しかし、運命予報がなかったらどうなっていたのだろうか。 おそろく、老人はこれからくる妖獣達に殺されてしまう。 ずっと不愉快そうに眉をひそめていた玖世・天(紅蓮銃爪・b01364)は、もしもの時を考えるだけ現れる嫌悪に、言葉を吐き捨てた。 「俺は、人間がゴーストに理不尽にも殺されるこういう事件が、もっとも嫌いだ」 「ンー、今回は、キツネ狩りだったネー? でも、ヘビいるから、コンニョロー狩りでいいネ」 「こんにょろー…ですか?」 「Ya、コン、ニョロー」 聞き慣れない言葉に目をしばたかせる緑川・奏真(高校生白燐蟲使い・b38407)に、金髪碧眼のアニー・ウィチェック(ダウンタウンストンパー・b39512)は、何か問題があるのかとでも腕を組んだままふんぞり返った。 それが、狐の鳴き声と、ヘビのうねりに対する表現方の融合体だと奏真気づいたのは、辻本・彩理(蒼月・b00970)の柔らかい笑みからだった。 「キツネさんとヘビさんが一緒ですね。アニーさんらしいです」 用心深い彩理は闇纏いを使いながらも、物音を出さないよう家から離れている場所に立っていた。 庭の木が平屋を囲むように植えられているため、妖獣の存在を確認できるようにもしていた。 しかし、時間には早いのか、妖獣らしき影は一つもない。 片瀬・美雪(夢見る純情女傑・b19815)は、老人が午後から使うのだろう入り口側に置かれていた鍬を手にすると、戦闘で壊れないように扉の内側に入れた。 「妖獣なら、後始末がいらないから、倒してしまえばあとは楽だよね。確実に倒してこう」 にっこりと笑う美雪に架具夜・晃(闇に生きる奔放な剣士・b42017)は、当たり前だと拳を手に打ちつけた。 「小難しく考えなくていいから、やりやすいぜ。来いよ、ゴースト」 10人は、向こう奥にある山を見つめた。
● 南天の陽が傾きかけた頃、3つの影が畑の上に現れた。 能力者達はすぐにイグニッションを唱えて、陣形を築く。 「右端の妖獣は、私と架具夜さんが」 彩理と晃は、妖獣の姿から目を離さずに武器を頭上で旋回させて旋剣の構えをとる。 「俺達は、左だ。頑張ろうね、佐々木先輩!」 「おう! 頑張ろう! 攻撃力はあげてやるから、ガンガン行ってこい!」 白燐奏甲をかけてくれる颯太に、レンジは武器を握りしめながら、初めて挑む依頼に気合いを入れて、近寄る妖獣をにらみつけた。 「真ん中は、俺達だな」 「強化しておくよ。あ、あとなるべくあたしの真後ろに立たないでね、投げ飛ばしたくなっちゃうから」 魔弾の射手をかける天に、白燐奏甲もかける美雪は、無意識に反応する癖を周囲に伝えた。 「わかったネー」 「こちらは、遅れてくる4匹目が来るまで、援護に徹します」 親指を立てるアニーの横で、太陽は深く深呼吸をしながら森羅呼吸法をかける。 家を守るように8人を前にする美鬼は、自分に白燐奏甲をかけた。 「老人の安全は確保しますわ」 「みんな、私の仲間に力を貸してください」 奏真は蟲達に語りかけると、近くにいる者から白燐奏甲をかけだした。 自己強化が重複しないよう、仲間達がかける技にも目を見張る。 そんな能力者達が待ちかまえていることもしらない妖獣は、痛みから逃れようと必死に走っていた。 目の前に現れた複数の人間に、妖獣は牙を向けて救いを求める。 「行くぜ!」 畑の方へと能力者達は駆けだした。
● 先頭をきっていた妖獣に、見えない衝撃波がぶつかった。 獣の姿勢をとった太陽の横で、アニーが続けてくる妖獣に炎の魔弾で迎撃する。 それを封切りに、2人組になった能力者達が、それぞれの妖獣と対峙する。 「どんどん、いくぜ」 体を回転させ始めたレンジを援護するように、颯太はフレイムバインディングを放った。鮮やかな炎の蔦が、妖獣を絡めようと直線から曲線を描く。しかし、妖獣はヘビの胴がうねらせて、蔦の手から逃れてしまう。そこに、レンジの龍尾脚の蹴りが入った。 高い声をあげる白い鱗が宙に漂うと、もう片方でも高い声があがった。 戦場と化した畑にあるあぜに上がった美鬼は、周囲を見回して標的を定めると、悪夢爆弾で妖獣の眠りを狙った。だが、妖獣は襲いかかる能力者達に暴れまわっていたため、狙いがはずれてしまう。 「私は、こちらから向かいます」 「わかったぜ」 彩理が家を背にして動かないことを伝えると、晃は妖獣の横に回り込んで黒影剣を斬り込み、彩理も続けて黒影剣を振るった。 妖獣達は、前足でしっかりと体を保ち、後ろの太いヘビの体で体勢を持ち直す。 そこに、極限まで生命活動を低下させた天が、閉じていた目を開いた。 魔氷が覆う武器をそのまま妖獣に向けると、逃げる妖獣のヘビの部分に刃が当たった。 続けて、美雪が龍尾脚で妖獣を蹴りつける。 妖獣は、新たに与えられる苦痛に声を出して鳴いた。 狐の毛が土まみれになることも構わず、妖獣の体がのたうち回るところに、能力者達は次の攻撃を繰り出した。 だが、妖獣もやられてばかりではない。 跳び上がった一匹の妖獣が、ぎらつかせた瞳で能力者達を見下ろして、天の肩に牙を差し込んだ。激痛に天が声を荒げると、美雪は龍顎拳を振り上げて、妖獣を天から殴り離した。 「怪我は?!」 「大丈夫…だ。まだ、戦える」 妖獣の反撃は続く。 側にいる仲間に近寄ろうとした妖獣の道筋を絶った颯太に、妖獣はヘビの体をバネにして跳び上がり、全身で叩きつけてきた。同時に噛みつかれる。 「佐々木先輩!」 レンジが龍尾脚を使おうと構えた横から、美鬼の悪夢爆弾が飛んできた。気配を察知した妖獣が、攻撃をかわすと、颯太からも身を離す結果となった。 レンジがすかさず龍尾脚を繰り出すと、颯太が腕を押さえながら立ち上がった。 「逃がさない! 守れるものは、守る!!」 アニーが再び炎の魔弾で応戦し、太陽は苦戦していそうなところを判断しながら牙道砲を放っていく。 「癒しの歌よ、仲間に届け!」 傷ついた者達を少しでも癒すために、奏真はヒーリングヴォイスを奏でた。柔らかな歌の旋律が傷を癒していく。 次の妖獣が来るために、早く倒さなければと妖獣に斬りかかる彩理の攻撃を、妖獣はすり抜けた。よけることを想定していて動いていた晃が、逃がさないといわんばかりに黒影剣で斬りつけた。 「いいねぇ、この血が沸く感じ。悪かない」 殺される自覚した妖獣達は、唸りを上げて勢いよく襲いかかった。 2人組みの能力者達は、自分たちが戦う相手を逃がさないと、攻撃と防御で抑え込み、後方にいる4人が援護に攻撃を放った。 そろそろ、4匹目が現れるだろうと攻撃の手を止めたアニーは、インフィニティエアをかけた。渦巻く風を纏い、攻撃のスピードが上がる。 一匹の妖獣が、再び高く鳴いたときだった。 畑の向こう側から、新たな影が走ってきた。 それが、もう一匹の妖獣だということを、アニーと太陽はすぐに察知し、 「来たネー」 「正直、体力的に自信はないが……全力で抑え込む!」 戦う仲間達の合間をすり抜け、アニーと太陽は最後の妖獣に挑んだ。 2人で抑えるには負傷が避けられない戦いに、奏真の歌が響き渡る。そして、それだけでは全快しきれない体力に、レンジは颯太に回復を頼み、美雪は天のダメージ具合を見て白燐奏甲をかける。 「そんなに、眠ることが嫌いですの?」 ダメージの少ない妖獣には、美鬼が攻撃力のある射撃と眠りを誘う悪夢爆弾とを使い分けて攻撃する。 彩理と晃の囲んでいた妖獣が声を上げて姿を消すと、2人は二手に分かれて近くの仲間へ加勢した。 だんだん回避率が鈍くなってきた妖獣だが、眼光の鋭さは消えていない。 噛みつかれたレンジが叫び声をあげると、颯太が武器のラヴいバス停を手に妖獣を叩きつけた。 妖獣は上半身を後ろに傾けると、柔らかいヘビの体を使って一回転をして地面に着く。 「shit! ハズしたネー!」 同様に攻撃をかわされてしまったアニーが、毒牙を吐く。 しっかりと狙いを定めて奥義の炎の魔弾を放っていたが、100%当たるわけではない。これでジャストアタックが確実ではなくなった。 それでも、ダメージは通常より大きいはずだ。 太陽は通常の獣であれば弱点であろう頭を狙うために、今まで培った武術を信じて獣のような姿をとる。 飛ばされた衝撃波が妖獣の視界を上へと向かせると、隣で、また新たに消えゆく妖獣の声がした。 天のクロストリガーと美雪の龍尾脚に妖獣が破れた。 天は、すぐに残りの妖獣に向かう。 残るは2匹。 4人ずつで囲めば、もう妖獣が家へ逃げ込む危険性はないだろう。 それでも、奏真と美鬼は万が一を考えて、全体の戦況を把握しながら老人が眠る家を守る。 狂気をはらんだ妖獣の牙が襲いかかり、能力者達はそれぞれの持てる力を惜しみなく注ぐ。 「キュイィーーーーーーン!」 白い胴を持ち上げた妖獣が、最後の苦しみに高い声を空に上げた。
● 「よし! 終わった!!」 真っ先に武器を下ろしたのは、颯太だった。満足そうに流れる汗が、陽の光に輝いている。 「まだ、後片付けが待っていますよ」 にっこりと微笑む彩理に、颯太が「そうか!!」と元気よく答えて穴を埋め始める。 幸い、家周辺に被害は及んでいないが、乾いた色の畑がしめった濃い色に覆われて、無惨な状態に掘り起こされている。 「ご老人には可哀想ですが、この畑は諦めてもらうしかありませんわね」 時期的に植えられているだろう作物のことを考えた美鬼は、小さくため息を吐くと、手にした土を攻撃で出来た穴の上に落とした。 「いつか、能力者の力が必要でなくなることが、一番……だろうな」 戦闘に勝っても、少なからず被害やショックを受ける者がいる。 天は、ゴーストがいなくなる日を願わずにはいられない。 「そんな日がくるといいですね」 太陽は、空から照らす陽のように微笑む。 「とりあえず、コンニュローのクヨーにでも、アブラアゲでも供えておくネー?」 「アニーさん……今、晩ご飯を何にしようか考えていたんですが……」 妖獣のことは考えずに献立をくんでいた奏真だったが、油揚げと聞いた瞬間、いなり寿司が頭の中に浮かんでしまった。せっかく、妖獣と縁のないものをと考えていたのに。と思ったが、勝利の余韻としていなり寿司を食すのもいいと、奏真は優しそうな笑顔とは裏腹の思考で夕食を決める。 「じっちゃん……騒ぎで起きてねぇといいんだが……大丈夫かな」 「大丈夫だろ」 急いで穴を埋めながらも、眠っている老人が気になるレンジに、晃は何の迷いもなく答える。力強い答えに、心配そうな顔がにこやかに晴れた。 そろそろ、老人が起きてくる時間だと、10人は大きな穴を中心に埋め尽くした。 あとは、いたずら程度にごまかせるところまで修繕すると、美雪が細いあぜ道の上に駆け上がった。 「それじゃ〜、おじ〜ちゃん。元気でね〜」 走り去る能力者達の上には、澄み渡った青空が広がっていた。
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参加者:10人
作成日:2008/05/05
得票数:楽しい2
カッコいい9
ハートフル5
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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