<リプレイ>
● (「たまには一人で出掛けるのも悪くは無いな」) 空を見上げ、鑑三郎は思う。彼の視線の先には、萌え始めた若葉と散り行く花をつけた桜の大木が、高台を縁取るように生えているのが見える。 彼の背後に続き、仲間たちが高台への小道を登る。 石段を上りきった場所で人待ち気に花を見上げる瀬菜。そんな彼女の背に、 「そこの可愛いお嬢さん。俺にナンパされてみません?」 という声がかかる。 「……え!? あ、あの私は今日一緒に遊ぶ人が……ってシリウスさん!? もうー!!」 あわてて断ろうとした瀬菜の前には、楽しげなシリウスの姿が。ダマされた瀬菜は、頬を膨らませる。 そんな2人のようにとまではいわないが、待ち合わせたり、1人で訪れた者たちは園内に散っていく。 こうして彼らの楽しい花見が、小さな遊園地付き公園で催されるのであった。
● まだ昼には早い時間、彼らはまず園内の見事な花々を楽しむ。 「春って良いよね〜。外はあったかいからのんびり出来るし」 紡がれる真理の言葉は、聞く者があったら同意する者も多かっただろう。 「満開に咲いている花を見ながらの散策……楽しみだな」 そう呟く宗は、美しく咲き乱れるツツジの散策路へ向かう。 「桜やつつじ、とってもキレイなんだよね。今、このしゅん間を一枚の絵にできれば、とってもいいんだよね」 ミハイルは園内の花の美しさを書き留めるため、スケッチブックを抱えて彼らの後を追う。 「楓先輩、このツツジが全て咲いたらさぞかし綺麗だろうな……良ければ少し一緒に園内を歩かないか?」 一人ツツジを眺める楓を見つけた瞳は、一緒に参加した如路とともに声をかける。 「いいわよ。瞳ちゃんと一緒なら、楽しそうね」 そうして三人は、背丈ほどもあるツツジの間を縫う散策路へと向かう。 その散策路で赤いツツジを見つめる2人。 「……懐かしくないですか? 小さい頃、二人でよく蜜を吸ったりしたでしょう……?」 ツツジに顔を寄せ、振り返りながらの舞兎の言葉に葵は、 「……少し吸ってみるかね?」 と問いかける。 「……そこまで食い意地はってません」 拗ねたように応える舞兎を見つめ葵は、 (「舞兎が変わったのは可愛い格好から露出が増えただけで、あの頃も今も中身はそう変わってない気がする……特に甘いものに興味を惹かれて目の色が変わる辺り」) と思う。 「東京にはない趣がありますわね、ツツジと桜が一緒に見れるなんて……すごい綺麗ですわ」 幼なじみの、兄とも慕う羅偉を瞳亜は見上げる。 「ん、また来年も花見しような〜」 羅偉に頭をなでられ、瞳亜は嬉しそうに首を竦める。 そんなツツジを、ちょっと変わった視線で眺める者もいる。 「あ、朝っぱらからはまだ売店はやってないんでしょうねー? きっとねー。がーん。ツツジ……毒があるから食べらりないですのよねー……」 一人乗りツッコミを続けるくうの目の前に売店が現れる。そこから流れてくる美味しそうな匂いに、彼女の目が輝く。 今しも、出来立てみそおでんの鍋がコンロにかけられる所だったのだ。 「みそおでんみそおでん♪ いや、お花見です!」 みそおでんの魅力によろめく青晶は、魅力を振り切るようにきっぱりと言い切る。 咲き初めのツツジばかりではなく、散りかけの桜も見事である。 盛んに花びらを散らす桜を見つつツツジの散策路を行くのは、瞳と如路、楓の三人。 「楓先輩は……昨年も花見のお誘いを見かけたが、好きかな、桜?」 「ええ、好きよ」 楓は笑みと共に瞳の問いに応える。瞳も桜の刹那の美しさを褒め讃え、次いでツツジの枝間から透かすように如路を見つめ、 「去年の願い、覚えてるか?」 と問いかける。 「あぁ、覚えてる。あの頃の願い……叶っているといい」 力強い如路の応えに瞳は微笑む。誰からともなく呟かれた、また来年も桜をとの言葉に、3人は言葉もなく頷く。 「散るのは寂しいけど……また来年を待つ楽しみもあるよね」 そんな言葉を紡ぐ弥琴は、一緒に園内を回るちがやを振り仰ぐ。 ちがやも弥琴と同様に、散り行く桜の美しさに見蕩れているようだ。 「あ、そだ。良かったら一緒に記念写真撮らない?」 「うん。あ、あそこがいいかな?」 2人は園の外周を縁取る見事な桜を背に、記念写真を撮る。 彼らのように桜の見事さに囚われた4人は、大きな木の下で足を止める。 「これだけの桜……花というよりは、鴇色の、雲……だな」 散り行く桜を見つめる零壱の言葉に、一緒に参加した音々と祀理、唯も花を見上げる。音々はウサギのぬいぐるみにも花が見えるように抱き直し、祀理は、 「何だか、季節外れの雪みたい……」 と溜め息を吐く。唯は花を見上げる音々に、 「音々ちゃんは誕生日おめでとー! 来年も皆で桜見れたらいいねえ」 と誕生日を祝う言葉と再び仲間と桜を見られることを願う言葉を口にした。
● 「うーみゅ、花満開だねー」 ここについた時から1番花が綺麗に見える場所を確保していた命は、むしろの上に買い込んできた飲み物や食べ物を広げる。 お昼時ということで、朝からその時間まで場所取りをしていた命の側にも様々な人が集まり、むしろを広げ始める。 「早めのお昼にしよっか」 月は、お弁当を太一狼の前に広げる。手作りの揚げ物や和え物メインのお弁当は、彼の口に次々に消えていく。それを安心したように見届け、箸を延ばそうとした月の頭上に太一狼の手が伸びる。 「知ってる? 桜ってバラ科なんだよ♪」 握り込まれた桜の花びらが、瞬時にピンクの薔薇の花に姿を変える。 「す、ごい」 手品にご機嫌になった月と彼女を喜ばせられたことに嬉しさを覚える太一狼の2人は、ほのぼのとした時を紡ぐ。 彼らと同じ恋人同士のツカサとノゥエムも弁当を広げていた。だが、ツカサ手製の大量の弁当は既に空になっている。数人分の弁当を平らげた恋人のために、ツカサはみそおでんを買いに走る。 少しの時間を経、ツカサは大量のみそおでんとともに戻ってくる。 「ん、熱いからゆっくり少しずつ食べるんだぞ。あーん」 ツカサは息を吹きかけつつ、瞳を輝かせるノゥエムにみそおでんを差し出す。 「美味しいですわ〜♪」 みそおでんよりも熱いラブラブっぷりに、周りは居たたまれない様子だ。 まだ恋人未満な2人組、終凪と雪那は花を見ながらお弁当に舌鼓を打つ。 「終凪さん、ほっぺに……」 「ん? えっ、あ、いいよ自分で……」 雪那が伸ばす指先が自分の頬に触れかけたことに、終凪は慌てて身を引く。 「遠慮なんかしないの……って、きゃ!?」 バランスを崩した雪那の体は、終凪の腕に収まる。すぐに2人は離れるが、頬を染めて互いを意識し合う様は何とも初々しい。 「時雨先輩、お待たせしました〜。あたたかいココアとみそおでんです」 むしろの上の澪は、待ち人である桜華のチョイスに内心おののきながら、 「ツツジもお花もとても映えている感じがしますし。……おでんと…こ…ココア…? …も…美味しいですしね〜」 とフォローを忘れない。 「花より団子とは言いませんが、こっちも見ているだけで楽しいですよね」 「来年もきれいに咲くと良いねー」 とは、藤次郎と流羽の言葉。2人は散る花びらを見つめながら、流羽手製の弁当をつまむ。 結社『夢呼閑話』の瑞音と槐、逸禾、零も、楽しくお弁当を広げる。瑞音が用意したお弁当と槐が用意した飲み物を広げ、仲間4人でおしゃべりしながら花見をするのは、とても楽しいことだろう。 そしてこちらにも、仲間同士でお弁当を広げるグループがいる。 「味噌こんにゃくのおでんも美味しいですね」 志津乃はみそおでんの味に頬を綻ばせる。 「志津乃さんのお弁当も美味しいわよ」 志津乃手作りの弁当は、梅、昆布、鮭、おかかお握りと筍の若竹煮、それに梅昆布茶付きというものだ。 「夜取木さん、一切れいかが?」 虹湖は楓に切り分けたチェリーパイを差し出す。 「本当は皮もちょっとピンクっぽく染めてみたかったんだけど、上手くいかないのよねー」 そんな言葉を紡ぎつつ、虹湖は照れたように笑う。 「美味しいわ。私も桜クッキーを作ってきたのよ。みんなもどうぞ」 塩抜きした塩漬け桜入りクッキーからは春の香りが漂う。 「うにゅ、楓さんも食べて飲んで」 「ありがとう。いただくわね」 一緒にお弁当を食べていた命のすすめで、楓は飲み物を貰う。そんな楓の側に、みそおでん片手に近づいてきた真人は、 「初めましてだな、この度はお誘い感謝だ。まぁお互い楽しもうとしよう?」 と声をかける。 「そうね、真人さんも一緒に楽しみましょう」 真人は楓の誘いに、楽しい輪の中に入る。 「本当に見事ですよねぇ。散るゆく華やかさと咲きゆく華やかさ、両者一度に見られるの実に贅沢ですよねぇ」 売店で買ったみそおでん片手に、雅樹は楓に声をかける。 「そうね」 そう応える楓は、みそおでんに舌鼓を打つ仲間たちを微笑ましげに見つめる。 そんな楽しげな仲間たちから離れ、借りたむしろの上で1人寂しくみそおでんを食む青晶。食べながらツツジに向けた視線の先には、 「は……蜂っ!!」 と叫んだとおり、一匹の花蜂の姿が。彼は蜂が来ないことを祈りながら、そこで固まり続けるのであった。
● (「こんな平和な日々も悪くない。さて、もう少し花見と洒落込むか」) 食後に寛ぐ仲間たちを見つつ抱いた鑑三郎の思いに応えるように、再び仲間たちは園内散策や遊具へ向かう。 翔は食後に寛ぐ楓とちがや、円花を見つけて寄ってくる。 「ここは高台で眺めが良いな。みんなも、おすすめスポットを見つけてたら、教えてくれないか?」 「あちらにいいところがありましたわ」 翔は円花に連れられ、彼女のおすすめスポットに向かう。 食後は遊具で遊ぶとばかりに駆け出すグループもいる。そんな者たちの後を追う龍麻は、同じようにのんびりと遊具に向かう者を見つけて声をかける。 「ちがや……スカイサイクルに一緒に乗らないか?」 「え……いいの? 緋勇先輩、ありがとう」 龍麻の誘いにちがやは嬉しそうに頷き、2人は連れ立ってスカイサイクル乗り場へ向かう。 「普通に花見とかだけだと子供とか飽きそうだし、こういうのいいよなー」 遊具で無邪気に遊ぶ仲間たちを見つめ、瑞鳳は笑みを零す。彼女の手を握る兇も楽しげな仲間たちを見やり、 「大人も遊べるしなー」 と同意する。 「メリーゴーラウンドとかもある……ってあ。……何だあの異様にきらきらした二人は」 瑞鳳の視線の先を追った兇は、彼女と同様に目を見張る。 「あっ! 緋桜殿と蘭殿であります! っひやぁ」 無駄に辺りにキラキラした空気を撒き散らす凛は、2人に手を振るために身を乗り出して馬から落ちかける。 「……って危ない! 嬉しい言うんは判んねんけど、ゆったり乗って、いつもとはちゃう目線で周りの景色見てもええもんやよ。な?」 手を伸ばして凛を支える煌も、その名の如く綺羅綺羅しい光に包まれている。そんな2人を見る瑞鳳と兇はその場から踵を返し、凛の守護者を自覚する真祐斗は、 (「凛に変な虫が付かぬように守るのが我の役目だが、今回は関わらぬ方が良さそうだな……何となく馬に蹴られそうな気がするぞ」) と心の中で呟く。 「一緒に、の、のりたいです……!!」 力強い乙女の言葉に、メリーゴーラウンドに誘われた忍は笑顔で頷く。 「スバちゃんとティアちゃんは別のところに行くみたいだから2人でだね!」 そう応えた言葉の意味に気づいた忍は、誘い主のリネを見つめる。リネも彼と同じように頬を赤く染めている。 「リネ先輩、しのちゃんせんぱーい!」 そんな2人を見つけた2人の友人のティアリスとスバルは、スカイサイクルから2人に手を振る。 スカイサイクルは大盛況のようだ。 「わー、すげー!」 直人の叫びが谺する。 「空中散歩ってなんか……不思議な感じだね」 一緒にペダルを漕ぐ皐来も、直人の言葉どおりに美しい花々に見蕩れる。 「……今日の晩御飯どうしよう」 風を受けながら漏らされた皐来の言葉に直人は、 「お前さんの好きなもの食おう!」 と応える。 一方、華凛はスカートを気にしながらペダルを漕ぐ。 (「見下ろす景色は綺麗なのだけれどね……」) スカイサイクルの下には覆いがあるのだが、それでも見られないか気になる。 「あんまり無理はしない方がいいよ……この間も楽屋で……」 彼女の後ろでペダルを漕いでいた紅羽が思わず漏らした一言で、一瞬気まずい空気になる。だが、彼の気遣いを感じ取った華凛は、紅羽へ短い感謝の言葉を告げる。 「ちょっと高さがあって……その……アレですよねぇ〜……」 ほのりはスカイサイクルの高さに腰が引けているようだ。それでも和真と共にペダルを漕げば、足下に広がる美しい景色に緊張も解れる。景色だけではなく、和真をも独占しているような嬉しさに、ほのりの顔には笑みが浮かぶ。 豆汽車には、結社『結城荘』から参加した、円と喪作、風司の三人が乗っている。 「実は俺、豆汽車は初めてなのですよ。熱雷さん、早速乗りましょう♪」 という喪作の言葉で、3人は豆汽車に乗り込んだのだ。 「ぽっぽー♪」 と大声で片手を上げて喪作は叫び、風司ははしゃぎまくる。1番年上の円も楽しそうな2人に釣られ、思う存分豆汽車を楽しむ。 「楓、今1人かな?」 龍巳の言葉に楓は頷く。 どちらからともなく花を眺めながら2人は散策を始める。 「楓は何の花が好きなんだ?」 「花なら何でも好きだけれど、1番は桜かしら」 その言葉に龍巳は、 「俺も桜が好きかな。……それにしても素敵な場所だね、来年は結社の皆で来れたら良いな」 ビンクの花びらの中で紡がれる龍巳の言葉に、楓は柔らかな笑みで応える。 「わっ……まだまだ子供だなぁ霧亜は」 花見をしながら寛いでいた斬夜は、睡魔に囚われたらしい霧亜が自分に寄りかかってきたことに頬を緩ませる。寝ているし、バレないだろうと抱きしめると、 「貴様、相変わらず貧乳だな」 という言葉が。 ダマされたことに驚き、むっとして体を離すと、彼は許しを請うように甘えてくる。 「……もう、しょうがないなー!」 斬夜は彼を赦し、今度は2人とも穏やかな夢に包まれた。
● 楽しい時も終わりを告げ、そろそろ仲間たちは帰り支度を始める。 「夜取木おねえさんに、プレゼント」 ミハイルは笑顔で丸めた紙を楓に差し出す。 「何かしら。まあ、ありがとう」 広げた紙の上には、桜を見る楓の姿が書き込まれている。微笑みと感謝の言葉を向けられたミハイルは、照れたように笑み返す。 帰り支度を始める仲間たちなど何処吹く風というように、桜の根元に腰を下ろして女流作家の有名な一節を諳んじる龍璃は、 (「散り際の桜には、物悲しさを感じるよな。けど桜は、また来年綺麗な花を咲かせることだろう」) と、散り行く桜の花びらを見つめ続けるのだった。
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参加者:65人
作成日:2008/05/29
得票数:楽しい5
ハートフル11
ロマンティック3
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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