たちスク


<オープニング>


 ガラス張りの壁から月明かりが降り注ぐオフィス街のプール。閉園時間を過ぎ人気の無くなったこの場所で、職員である女性が泳いでいた。
 他に誰もいないだだっ広いプールは心地よく、温かな水は今日の疲れを癒してくれる。プールで仕事しているものの特権だーと、女性は心から満喫していた。
 もちろんずっと泳いでいられるわけではなく、やがて上がらなければならない時が来る。彼女はいつもより三十分ほど過ぎた時刻に泳ぐのを止めプールサイドに上がった。
「……誰?」
 不意に感じた気配に女性は警戒の色を示す。ゆっくりと顔を気配の方に向けると、そこには……。
「……き」
 身長二メートルはあるだろうか。筋骨隆々とした毛深い男がそこにはいた。
 ……ついでに女性用のスクール水着(旧式)を着込んでいたりして。
「きゃぁぁぁぁぁー!」
 女性は一目散に逃げ出して、男のいるプールを後にする。
 ……殺されるその前に。

 秋月・善治(高校生運命予報士・bn0042)は頭を抱えていた。理由は……これから説明される依頼に関することだろう。
「……と、皆揃ったか」
 メンバーが揃った事に気づいた善治は顔を上げ、疲れたような顔で地図を広げながら依頼の説明を開始した。

「現場はとあるオフィス街にある民営プール。敵は地縛霊で、幸いまだ被害者は出ていない」
 地図を示しながら善治は警告の言葉を発する。
 いつ最初の被害者が出るかわからないから、放置しておくわけにも行かないと。
「故に退治しなければならない」

「先に出現条件から話そう。条件は午後十時半以降、一人の人間がプールから上がることだ。そうすればプールサイドに地縛霊が出現する」
 プールサイドは掃除されてはいるが濡れているため脚を滑らせる恐れあり。ただ広さは十分だから好きな陣形が取れる。
 また時間的に、現場には侵入する必要があるだろう。
「侵入にはこの鍵とカードキーを使えば、セキュリティその他を無効化できる。またセキュリティを機械に頼っているため警備員はいないから、目撃者の心配もないだろう」
 善治は鍵などを渡しつつ、説明を繋いでいく。
「続いて地縛霊の特徴だが……ふむ」
 善治は嘆くように天井を仰いだ。
「慎重二メートルを超える大男。体毛が濃く、逞しい肉体を持っているのも特徴だが……何より大きなのはスクール水着を着ているという点だ。……女性ものの」
 様々な反応があったように感じるが、善治はとりあえず無視する。ていうか善治自身この地縛霊の存在を無視できるものならしたいのだ。
「攻撃方法はチョップやキック。威力は普通だな。そして特殊なものが三つある」
 一つ目は、相手を上下逆さにして抱え込み、自ら尻餅をついて着地しながら相手の後頭部を地面に叩きつけるスクリュードライバーと呼ばれる技。近接単体攻撃で威力がやや高めで、まともに喰らうと気絶する恐れがある。
 二つ目は回転ラリアット。威力は低いが近づく者全員を吹き飛ばす。
 三つ目はフライングボディプレス。近接単体攻撃で威力が高く、直撃すればエンチャントがブレイクされる可能性もある。
「そして体力的にタフ。以上が今回の依頼に関する説明だ。元に策を考え、事に当ってくれ」

「……さて、とりあえず地縛霊の特徴は横において、だ」
 善治は疲れたように椅子に深く腰掛けつつ、真剣な眼差しで口を開く。
「件のプール。今の時期はともかく夏になれば、仕事帰りの会社員が汗を流したりする憩いの場になっている。故に、妙な事件の発生により自粛営業、なんて事になったら誰もが不幸になってしまう」
 故にと善治は言葉に力を込めた。
「被害者が出る前に、事件が本格的に起きる前に退治して欲しい。吉報を待っている」

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参加者
風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)
九枷・依(みずにすむいきもの・b01924)
上条・まゆ(高校生白燐蟲使い・b10802)
灼夜・ふぇりん(灼狼・b16562)
井上・華(ゴースト調教師・b18784)
岸木・俊紀(職業不定の十七歳・b27708)
淵守・透(グッドセンサー・b30327)
サージェス・メディウム(姫様の仕立て屋・b40442)



<リプレイ>

●誰かが足を滑らせないように
 時は午後九時半ごろ、場所はガラス越しに月明かりが降り注ぐオフィス街の温水プール。カードキーを用いて侵入した能力者たちはひとまずイグニッション、各々思い思いの姿へと変貌を遂げていた。さすれば次は、モップや雑巾などを用いてプールサイドの掃除を行おう。地縛霊と戦うさなか、誰かが足を滑らせるなんて事が無いように……。
「もさもさ、しっかり働け」
 愛用している鞭を携えながら、モーラットピュアのもさもさに雑巾がけを指示しているのは井上・華(ゴースト調教師・b18784)。転んで不意打ちなんてされたらかっこ悪いから……という意図によるものだが、もさもさの体格上雑巾と戯れているようにしか見えないのは周囲にどう映っただろう。和めただろうか。
 また、同じくグレートモーラットのしるきぃを擁する灼夜・ふぇりん(灼狼・b16562)。
「仕方ない、しるきぃ! 出番なのだ!!」
 彼女は掃除用具の数が足りなかったため、しるきぃに体を張って水気を取るよう命じていた。ふわふわの体毛は水気を良く吸収し、元気に動けばすぐに乾くだろう……きっと。
「それにしても、プール掃除……プール掃除かぁ」
 モップで磨く手を一度止め、もたれかかりながらぼやく様子のサージェス・メディウム(姫様の仕立て屋・b40442)。
「季節先取りのプール掃除だね。僕、掃除なんて面倒で嫌いだけど、皆でプールサイドを掃除するのって、ちょっと楽しいかも!」
 対照的に風見・玲樹(の弱点は虫・b00256)はとても元気な笑顔を浮かべていて、それはとても楽しげにプールサイドを磨いていた。
 静かなプールサイドに床を磨く音が響く。とても念入りに一生懸命磨く様は夏を目前にした子どもたちのように輝いていて……もし眺めるものがいたとしたら、頬を緩ませていたことだろう。
「……それにしても、暑苦しい地縛霊ですよね……」
 忘れるわけにはいかない大事なこと。岸木・俊紀(職業不定の十七歳・b27708)がポツリと洩らした掃除の後に戦う相手の事。
 聞けば、筋骨隆々とした身体に濃い体毛を持ち、女子用のスクール水着を着た巨漢の男だという。……暑苦しい相手であるが故に本格的に夏が来る前に成敗したいし、何よりきょうびむさ苦しいのははやらないとか何とか。
 何より……と俊紀は反対側のプールサイドに視線を向ける。そこには正しくスク水を着こなそう! をこのたびのモットーとした淵守・透(グッドセンサー・b30327)が、一陣の風のような軽快さで縦横無尽にモップを操りプールサイドを磨いていた。見事に決まっている水着(もちろん男子用)と肉体は月に照らされて輝いている。
「……でさ」
 そんな様子を一通り眺めていた九枷・依(みずにすむいきもの・b01924)。彼女は先ほどから疑問に思っていた事を、頭を軽く抑えながら打ち明ける。
「ここがプールサイドで相手が水着だからって、こっちまで水着になる必要はあるのか……?」
 囮を担うためイグニッションをしていない上条・まゆ(高校生白燐蟲使い・b10802)は別として、他にも玲樹、俊紀、透、そしてのたまった依本人が水着の詠唱兵器を身につけていた。
「嫌な見た目だから、ちょうど中和にいいんじゃない? というか依も水着だろう」
 当然といえば当然の指摘をするサージェス。
「わ、私はいいんだ。水練忍者だし何よりこれが私の戦装束だからね……」
 やや狼狽する様子を見せながら、依は戦いにおけるベストコーディネートなのだと反論する。応対に皆が納得のいく反応を見せていたかははなはだ疑問だが。
 そうしている内に、時計は午後十時を回っていた。丁度プールサイドも磨き終えた頃合だしと、まゆを残し皆は待機場所へと引いていく。
 残されたまゆは一人きり、温水プールへと身を浸した。
 健康的に焼けた小麦色の肌に、水着から少しだけ覗かせる焼けていない白い部分のコントラスト。そして筋肉質な肢体を少し恥かしげに躊躇いがちに泳ぐ様は、衆目があれば好奇の視線を集めただろうか。想像に、更に恥かしげに身を縮ませるまゆ。しかしいつまでも泳いでいるわけにはいかず、やがて梯子を伝いプールサイドへと移動した。小麦色の肢体を伝って落ちる水滴。プールサイドに水溜りが生じる中、背後に強烈な威圧感を感じて振り向けば、そこには……。

●すくみずをきたすてきなおじさま
(「なんという吸い込み! 私、まわされている!」)
 危機を感じたまゆはすぐさまイグニッションを済ませ、振り向き様にマッシブシュート……本当は白燐拡散弾だが……を放ったが、地縛霊の逞しい肉体に弾かれる。そのまま体勢が整わない隙を狙われ掴まれて、転地が逆転するのを感じた。
(「まずいわ、このままではハメられて……っ!」)
 反転する視界の中でまゆがみていたのは地縛霊の逞しい肉体……を包む剛毛と紺色のスクール水着。そして思考した事柄を全て並べる暇も無く頭に強い衝撃を感じ、白濁する視界の向こう側に意識を手放した。
 待機場所が離れていたためか、能力者たちはまだ戦場へと辿り着けていない。その隙を狙ってか、地縛霊は凄まじい跳躍力を見せながらその巨体でまゆを押しつぶした。
 能力者たちに届く空気の漏れるような音。地縛霊がどいた後のまゆの様子からは、気絶しているのか戦闘不能になっているのか判別はできないが……恐らく後者。
「まゆっ!」
 このままでは危ないと、戦場へと辿り着いたサージェスはまゆを引っ張り出し救出する。他の仲間はすでに準備を整えており、首尾よく地縛霊を取り囲む陣を整えた。
 対峙する地縛霊。腕も足も太くて長く、様々な場所から生える剛毛は非常に男らしい印象を与えてくれる。いや、紺色に輝く女性用スクール水着の存在がその全てを台無しにするのだが。なんだか見苦しい場所もいくつかあるし。
「俺の方がずっとスク水を着こなせてるんだから!」
 競う事ではない気もするが、透が白いギターを構えながら宣戦布告。
「行くぜとっしー! おりゃ、眠りスク水」
「くらいやがれ、痺れスク水! ……痺れてるマッチョってシュールですね」
 眠りの歌を奏でる透にあわせ、雷を生み出し放つ俊紀。睡魔に誘われ地縛霊がふらついたところに雷が着弾し、その巨体をしばしの間縛り付けた。
 続いたのは玲樹、振り上げるのは装飾品に彩られた豪華な大鎌。
「そんな格好をして! この僕でさえ、女の子のスクール水着なんて着ないのに! ま、まあスクール水着に対しては……ちょっと興味はあるけど!」
 興味がある、とは果たしてどういう意味だろう? そんなカミングアウトをする玲樹の振り下ろした大鎌は紅蓮に彩られていて、切り裂いた地縛霊を赤々と燃え上がらせた。
「……なんというか、あの見苦しいものを見ているとやる気がそがれる……」
 燃えるマッチョ、スク水を着た。
 久々に倒す敵はもう少し絵になる相手が良かったとか、依はげんなりする様子を見せつつ掌に水を集わせる。
「疾っ!」
 水は刃に象られ、掛け声とともに放たれた。
 水の刃が突き刺さる地縛霊。その肉体に十字が刻まれて、しるきぃを待機させているふぇりんが弾丸を数発叩き込んだ。
「あの毛深さ、しるきぃと良い勝負なのだ」
 ……勝負はしないでもいい気はする。モーラットの方が圧倒的に可愛いわけだし。いや、そういう問題でも無いのかもしれないが。
「露出の多い服装時は脱毛処理くらいはしたらいかがですか? ……っていうかもさもさ! 毟って来なさい!」
 華は華で鞭で地縛霊を叩き良い音を響かせながら、もさもさに火花で撃つよう命じている。命じられたもさもさはしっかりとした動作で地縛霊に近づいて、その肌を強く小さく焼いていた。
 まゆが早々に倒れてしまった事を覗けば、痺れたことも相成って序盤戦は優位に進んでいる。しかし痺れはいずれ回復し、地縛霊は元の動きを取り戻す。
「しまっ……」
「ふんっ!」
 狙われたのはサージェス。彼は避けきる事ができず、太い腕に囚われ逆さになる。確かな浮遊感の後頭に強い衝撃を感じ……そのまま意識を手放した。
 端から見れば、まゆの時と同様サージェスが気絶しているのか戦闘不能に陥ってしまったのかは分からない。だが落ちる瞬間鈍い音が響いた事と、動く様子さえ見せないことからやはり後者である事が伺える。
 能力者たちに戦慄走る。
「卑猥な格好で近寄ってくるなー!!」
 近づくスク水剛毛と非常に見苦しい場所、そして何より先ほどから見せられている一撃の重さに強い拒否感を覚える依。彼女は反射的に水の力を宿らせた掌を最も当りやすかった場所……偶然にも股間だったとか……にブチ当てて、地縛霊の動きを押し戻す。
 嫌な感触がしたのはきっと気のせい忘れよう。
 けれども地縛霊であるが故かピンピンしている地縛霊、汗のようなものを飛ばしながらその場で両手を広げて回転し前衛陣を吹き飛ばした。
 もっとも威力は低いため、回復が必要なほどではない。
 これ幸いと玲樹が紅蓮の一撃叩き込めば、華がもさもさの衝撃波にあわせて雑霊たちを解き放つ。
「愚か者め! スク水よりビキニの方がもっとインパクトがあるのだ!!」
 ……その言葉は地縛霊に対する叱責だろうか? だとしたら非常におぞましい想像をかき立てる台詞を吐くふぇりんがパイルバンカーつきのライフルから弾丸を放ち胸元を撃ちぬいて、依が水の刃にて地縛霊の肩を切り裂いた。
 そして奏でられる眠りの歌を透が高らかと歌い上げ、地縛霊を夢の世界へといざなう。
 できあがったのはぼろぼろに傷付き炎の中に眠る大男と言った所だろうか。いや、女性用スクール水着を身につけている時点で全て台無しなのだが。
 そんな動けない地縛霊の懐にもぐりこみ、俊紀がナイフを深々と突き立てた。
 燃え盛る炎と今まで積み重なってきた打撃の嵐に、俊紀の一撃が止めとなり地縛霊は眠りから覚めるいとまも無く崩れ落ちる。さすればやがて、炎が消えると共に消滅。変態は今ここに滅びを迎えたのである。

●しばし。月明かりの中で戯れを
 心ばかりの癒しを施され、助け起こされたまゆとサージェス。内まゆは身体に別状は無いと見せるため、片手逆立ちを試みた。……が、やはり衝撃が堪えているのか失敗してしまい、かえって心配させてしまったよう。もっとも表情はおおむね良好だったため、後に不安を払う事ができていたのだが。
「……しかし、恐ろしい相手だった……強さは元より、外見や性癖でここまで脅威を感じるとはね……」
 依がポツリと洩らした想いは、皆に共通する事柄だろう。戦慄したが故に襲われた二人以外に大事に至った者はいなかったが……精神的にはまた別のお話なのだ。
「でも、これでこのプールも安心! 戦ったから暑くなっちゃったよ。皆で、プールで泳いで行ったらダメかな?」
「あ、賛成だよっ」
 その話題を摩り替えて、元気良く提案した玲樹。真っ先に賛同したのはふぇりんで、他に否定する者もいない。
 ――月明かりの中、水を元気良く叩く音が聞こえて来る。
「頑張れ、頑張るのよもさもさ! まだまだ、目指す目標は遠いんだから!」
 華はもさもさに泳ぎを仕込もうと試みていた。……端から見ればただ浮かんでいるだけのように感じたりして、本当に泳いでいるのかは不安になるが……一生懸命体をばたつかせているのだ。きっとモーラットなりに泳いでいるのだろう。
「スク水な俺、強し!」
 透はきらーんとポーズを決めて、俊紀と競争するかのように泳ぎだす。俊紀は俊紀で地縛霊の感触を……受けたのは幸運にも回転ラリアットの一撃だけだが、洗い流すといった様相だ。
 そんな彼らを眺めていたサージェスは、痛む頭を抑えながら微笑んでいた。
 後に彼は語る。
 今日ここで何があった? いや、何も無かったさ。少なくとも素敵な女性陣の水着姿と楽しげに泳ぐ仲間たちの姿以外には、何もね……。
 ……やがて楽しき時間も終わりを告げ、能力者たちは着替え帰宅する。後に残されたプールの水面は月明かりに包まれて、揺らめく波を煌かせていた。
 ――地縛霊が発生していた事など、すでに忘れ去られたかのように……。


マスター:飛翔優 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/05/18
得票数:楽しい10  笑える8  カッコいい2 
冒険結果:成功!
重傷者:上条・まゆ(高校生白燐蟲使い・b10802)  サージェス・メディウム(姫様の仕立て屋・b40442) 
死亡者:なし
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