魅惑の下着


<オープニング>


 若い女性が多く住む、三階建ての近代アパート。
 ベランダには夜が更けても取り込まれる事のない洗濯物が吊されている。
 そこに挙動不審な人物が一人。やや小さめの影は周囲を窺い、ベランダをよじ登ると吊されている洗濯物の品定めをし、――黒のストッキングを懐に仕舞うと、逃走した。

「……集まって下さって有り難うございます」
 藤崎・志穂(高校生運命予報士)は何故か、憂鬱そうな表情で生徒達を出迎えた。
「窃盗事件で困っている地区があります。被害が出るのは、一人暮らしの働く女性が住む家ですね」
 志穂は持っていた地図を広げる。赤い丸で囲まれているのは一つのアパート。
 流れから言って、次に「犯人」はここに現れるという事だろうか。生徒の視線に志穂は頷く。
「皆さんのご想像通り、犯人はゴーストです。リビングデッドなのですが……、」
 そこで言葉を切ってしまうと、志穂は一、二度深呼吸。それでも言い辛いのか何度か口をぱくぱくさせた末、恥ずかしそうに――頬が赤く染まっている事から、相当恥ずかしいのだろう――言った。
「下着泥棒なんです」
「は?」と生徒達は一斉に声を揃えて聞き返した。志穂は俯いてしまうと、それでも懸命に言葉を紡ぐ。
「生前、下着泥棒をしている最中ベランダから落ちて亡くなって、蘇った後も下着泥棒を続けているんです。まだ人に被害は出ていませんが、放置しておくと『下着を拾った』と言って女性に近付きます。その前に皆さんにはその、……相手好みの下着を用意して、敵を誘き出して欲しいんです」
 ……生徒達からシラケる様な空気が流れる。志穂は縮こまった。
「せ、窃盗事件を無くす為にも、お願いします!」
 成る程、立派な「窃盗」事件だと誰かが茶化せば、志穂は益々縮こまってしまった。
 それでも負けずに、説明を続ける。
「下着の条件は若い女性が身につける物で拘りがあると良いみたいです。警戒心が強いので人気が無い時にしか現れませんが、人が居なければ昼間でも現れます。リビングデッドとしては、強くはありませんね」
 攻撃が当たりさえすれば、能力一発でほぼ沈む。但しその素早さ故、運頼みの戦いとなる。
「姿を見ても怯まないで下さいね。どんな人であっても、女性の敵である事に変わりありませんから」
 こんな恥ずかしい目に遭うのも、みんなそのリビングデッドのせい。志穂は力を込めて話を締め括った。

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参加者
風見・玲樹(高校生ファイアフォックス・b00256)
松山・華蓮(中学生白燐蟲使い・b01498)
榊・那由多(中学生魔剣士・b02112)
藤波・沙和(中学生ファイアフォックス・b02259)
山田・龍之介(コードネーム田介・b02920)
浮駒・歩生子(高校生符術士・b08014)
天樹・歩(高校生白燐蟲使い・b08051)
結・更夜(高校生ファイアフォックス・b11674)



<リプレイ>

●魅惑の「囮」大作戦
「死んでからも下着を盗み続けてるなんて、すごい根性だね〜!」
 まったくだ。
 何処かうきうきした調子の藤波・沙和(中学生ファイアフォックス・b02259)の言葉に、全員一致で心の中で頷く一同。
 件の、下着泥棒(リビングデッド)が現れるアパート前。
 人気さえなければ昼間でも現れるらしい標的を確実に倒す為、集った能力者達はそれぞれ自慢の「囮」の設置を始めていた。
「……『下着を拾った』って言ってくるあたり、女性とのきっかけが欲しかったのかなぁとも思うんだけどぉ……」
 標的からも見付けやすい一階留守宅のベランダで、結・更夜(高校生ファイアフォックス・b11674)が吊してある本物の洗濯物を除けていき、松山・華蓮(中学生白燐蟲使い・b01498)がその見張りをしていた。
「黒ストッキングだけ盗って行くとは、なんてマニアックなやつ」
 死後も『拘り』で獲物を選んでいるのだから、相当な筋金入りだ。
 それを、能力者が相手に出来る点は利点だったが誘き寄せる為に自分達が不審者そのものにならなければならないのは、何だか不憫だった。
「これで引っかかると良いのですが」
 榊・那由多(中学生魔剣士・b02112)が膝上丈の黒のオーバーニーソックスを下げ、もう一組パステルブルーの下着の上下を取り出す。
「セクシー部門は他のお姉さまにお任せ♪」
 沙和はレースの付いた、可愛らしい花柄パステルカラーの下着を吊り下げると、アパート周辺に下着をばら撒いてる浮駒・歩生子(高校生符術士・b08014)を発見する。
 サイドに紐が付いたタイプや、レースで全体をあしらったゴージャスな下着は全て純白。山田・龍之介(コードネーム田介・b02920)のリクエストに応えた黒も用意し、ついでにビキニも混ざっている。
 そんな色っぽい下着の数々の数枚に、煌めく糸を見た沙和は歩生子にてくてく近付くとライダースーツの腰元を引っ張った。
「ねーねー、浮駒先輩、これどうする気なのかな?」
 沙和のあまりの可愛さにくらっとしていた歩生子は、はっとすると表情を引き締めた。
「奴が拾ったら直ぐ判るでしょ?」
 釣り糸の先は歩生子の放漫な胸元に達している。沙和は首を傾げて、
「昼間だと糸が見えちゃうし、下着を拾い上げたのが判るくらいの長さだったら糸が付いてるって相手にも判っちゃわないかな? それに、一枚ならともかく、一杯ばら撒いてあるとちょっと不自然かも……」
「……う。そ、それもそうね……」
 罠と悟られ、囮に掛かる前に逃げられでもしたら困る。
 行動から、相手は慎重なタイプだと推察出来る。なら、出来るだけ自然な状態を装った方が得策だろう。
「さ、更夜ちゃん……」
 皆が用意した下着の購入場所を尋ねていた天樹・歩(高校生白燐蟲使い・b08051)は、更夜の取り出した下着に度肝を抜かれる。
 更夜が広げて見せたのは、赤の上下。明らかに勝負下着だった。
「……だって鼻血とか吐血が目立たない色ってこれしかないじゃないっ?!」
 慌てて弁明しながらも赤面する更夜。
 華蓮は前回同様、黒のストッキングをぶら下げた。『穿き心地、肌触り、色合、全てが違う高級品』のお気に入りだ。
 無論、大方の者がそうである様に、何回も穿いた使用済みである。
 歩も、涙ぐみながらもフリルのお気に入りを吊し、
「……でも、よく考えてみれば自分のを使わずに安物でも買って用意すればよかった様な…………」
 囁かれたツッコミはとりあえずスルー。
「じゃーん、これはねー、特注の超高級シルクの褌なんだよー! ヨーロッパの貴族も愛用したというこの高級褌、値段はそこらの褌とは違うよ。0の数が違うの、0の数が♪」
 風見・玲樹(高校生ファイアフォックス・b00256)が広げて見せた物は、もっと凄かった。
 偽装工作用に女の子の名前が書かれた褌は、数々のお宝と共にベランダに干される。風に揺られて、女性下着の中で異彩を放っていた。
「………………幸せ………………」
 神の領域と化した壮観なベランダを見て、龍之介だけがぽつりと呟いた。

●参上! 下着泥棒
(「姿を見ても怯むなって、キモオタみたいな外見なんかな」)
 囮の上の階のベランダには歩。屋上には那由多。
 軍人宛ら、体中草を付けた玲樹の頭には、ワンポイントの花がびよーんと伸びて咲いている。
 華蓮はアパートから離れた場所で双眼鏡を使って他の者の配置を確認した。
『ベランダが見える位置』は相手からも見える位置でもある為、沙和は出来るだけ姿勢を低く、顔は出さない様に。
 マナーモードにした携帯電話を握り締めながら、先に敵の姿を見ておこうとした更夜はじっと様子を窺う。
 車も通らないアパート前の道路は、とても静かだった。
 やがて。
『………………!』
 声を上げそうになった更夜は口元を抑えた。敵の姿が見えている殆どの者も同様。
 ………………怪しい。
 明らかに「泥棒です」と訴える様な、御丁寧に風呂敷模様のほっかむりをした下着ドロボウが、アパート前できょろきょろと周囲の様子を窺っていた。

●下着泥棒の正体
 下着泥棒は周囲の安全を確認したのか、勢いを付けてベランダの端に足を掛けよじ登る。そこから軽いジャンプで青いポリバケツの蓋の上に飛び乗ると、一頻り隣のベランダに干してある囮を眺め吟味した後――洗濯物の吊り具ごと、下着全てをかっぱらった!
 ――起動!
「下着ドロの精神が静められるかすっごく謎だけどッ!!」
 下の階を覗き込んで先制したのは歩。続いて一斉に現れる能力者達。
 眠りを誘う歌声がベランダに響き、だが下着泥棒は眠らない。
 それどころか突然、泥棒の足元、ポリバケツが倒れ込んで、中から打越事、バス停の先っちょが現れる。
『!?』
「うへえっ!」
 足元が崩れた下着泥棒は、ポリバケツから人の頭が覗いた事に驚愕する。中に居たのは龍之介。
 が、狭い中勢いよく飛び出そうとした彼は立ち上がる瞬間バランスを崩し、ポリバケツごと転倒した。
 しかも、入る時は問題なかったが、起動した事で打越と肩幅が邪魔になってバケツからすぐに出られない。
 そうこうしているうちに下着泥棒はベランダの縁に捕まり、何とか難を逃れるとその侭逃走した。
「逃げられると思ったら大間違いです!」
 那由多のダークハンド。だが其れをかわし、下着泥棒はゲットしたお宝を抱えた侭逃走する。
「素早いって言っても要は足さえ止めればいいんでしょ?!」
 いっそ、下着でも投げて注意を引くべきか。
 水刃手裏剣を避けた下着泥棒は歩生子の顔を見て、何故か逃げるスピードを上げる。
「歩生子、顔怖いって!!」
「五月蠅いわね!!」
 自力でポリバケツから脱出した龍之介のツッコミに、それこそ『鬼の様な形相』で答える歩生子。
 華蓮の水刃手裏剣が飛び、文字通り狙いを定めた沙和のフレイムキャノン改が悉く道路に着弾し、一瞬の爆炎の後、コンクリートに跡を付ける。
 下着泥棒の方も、「わー!」とか「ぎゃー!!」とか、「当たったらマジで死ぬから!!!」などと騒ぎ立てながら逃げる。
 名付けて、『数撃ちゃ当たる』大作戦に従い、(?)女性陣のアビリティがぶっ放され続ける。
 白昼堂々の捕り物が派手になる事を危惧していたのは那由多だけだったが、こうなっては最早仕方ない。目撃者が出る前にとっとと沈める。
「絶対逃がさへん!!」
 ちょこまかと逃げるリビングデッド下着泥棒に、能力者達の闘争本能が益々加熱されていった。

 此処迄その素早さで逃げ回っていたリビングデッドだったが、とうとう年貢の納め時が来た。
「覚悟してもらうよー……ふふふ〜」
「くっ……!」
 すっかり取り囲まれ、徐々に縮まっていく包囲網にリビングデッドは歯噛みする。
 囮である下着を、大事そうに懐に抱えた侭で。
 そこへ、ざっとコンクリートを擦る音。堂々とリビングデッドの前に立ち塞がったのは、玲樹。
 両手は腰に当てられ、窮地に立つリビングデッドに向かって言い放った。
「ふふ、残念〜♪ その褌の履き主はこの僕さ!」
 一瞬、目が点になるリビングデッド。
「ふ、褌!? そんな物持ってな……」
 あった。
 玲樹の指が指し示す先、戦利品たる下着の山の中、……見紛う事なき、褌。
「……………………」
 どっからどー見ても褌。
 摘み上げる様にしてその物体を確認していたリビングデッドは、玲樹の見ている目の前で『ソレ』をポイ捨てした。
「ってちょとぉおっ! なんてことをぉぉっ! それは超、高級品の――!」
「観念しいや」
 玲樹の叫びも虚しく、すっかりリビングデッドを包囲した女性陣が、殺気走った目で各々の詠唱兵器を構える。
 そんな中、のんびりした更夜の一言が攻撃の手を止めさせた。
「どぉして下着泥棒するのぉ?」
 さっさと倒してしまいたい気持ちは誰にもあったが、一方で疑問にも思っていた。
 ――何故ならこのリビングデッドは、美少年の男の子だったから。

●成敗
 年の頃は、十を少し越えた所だろうか。
 さらさらした髪に大きな瞳。ほっかむりは脱がせて、目の前でちょこんと正座している美少年リビングデッドは、窺う様に取り囲む一同を見上げると涙目で訴えてきた。
「女性の下着って美しいですよね。心が洗われるっていうか、見てるととても良い気分になるんです」
「……おまっ……、末期だなぁ」
 危うく『気持ちが解る』と言いそうになった龍之介は口を噤んだ。周りには、武器を構えた侭の女性陣が居る。
「僕この中だったらみんな好きだけど、単色には単色の、こーゆーフリルとか付いたのには鬱陶しくない程度に繊細で儚げな空気を出した物が好きで……あっ、でもこっちの赤いのもいいなぁ。お姉さん達の下着はレベル高いですね」
「そーだろそーだろ! でもやっぱ色は黒だろ。デザインはTバックが……」
「Tバックは際どければいいってもんじゃないですよ。このチラリズムが良いんです!」
 思わず白熱した龍之介とリビングデッドの下着の魅力談義は、周囲の殺気が膨らんだ事で自然と止まる。
「下着を集めてどうするつもりだったんですか?」
 那由多の冷ややかな問い。が、那由多の頭の中では様々な想像ならぬ妄想が飛び交っていた。
「……臭い嗅いだりするんやないやろな」
「被るとか」
「穿くの?」
 ぼそっと、呟かれた禁句とも言える一言に固まる一同。
『………………』
 美少年が見目麗しいだけに、沙和の何気ない一言は痛々しい視線となって、リビングデッド少年に降り注ぐ。
「い、いけません。そんな如何わしい事!」
 悲鳴を上げる那由多。美少年はふっと唇の端に笑みを浮かべると、
「嫌だなぁ、集めた下着は大切に大切に……」
『大切に……?』

「穿くに決まっ……」

『――このエロガキがぁーっ!!!!』
 一同のアビリティが炸裂し、こうして下着泥棒リビングデッドは果てた。

「若いのに真性の変態だったなんてね。可愛かったのに勿体ない…………」
 道路に放置された美少年の遺体を見て心から残念そうに、歩生子。まともだったら絶対、大好物だった。
「まったく、これだから世の中が良くならないんだよ。下着は盗むものではなく、自分で楽しむものさ」
 褌を大事そうに抱えて、玲樹は褌についての蘊蓄を語り出す。
 回収した下着を巡って歩生子にどつかれた龍之介が、沙和にもストレートを打ち込まれて倒れる。
「呪殺符なんて当てたら死んじゃうからね」
 留守宅の除けた洗濯物も元通りにし、自分達の痕跡が何もない事を確かめた華蓮がアパートを振り返る。
「往生しいや」
 ある意味、生き様を貫き通した美少年の遺体の上に、風呂敷模様のほっかむりがひらひらと舞い落ちる。
 これで、この地区も少しは安全に……もとい、平和になるだろう。
 少なくとも、人外の下着泥棒に因る窃盗事件は…………もう起こらない筈。
 さらば下着泥棒。
 来世では――品行方正な、普通の美少年になっています様に。


マスター:ナギ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2006/12/06
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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