<オープニング>


 最初から、どちらかを選ぶ事なんて出来なかった。
 そしてそれは亜里砂も同じことで、誰よりそれは私が分かっていたはずなのね。幼い頃からずっと一緒、学校も一緒、卒業してからもこれからも……。
「亜里砂が消えるか、私が消えるか……それとも」
 私の中の選択肢はつまり、亜里砂の選択肢でもある。
 ずっとずっと彼女も苦しんでいて、一番悪いのは責任から逃れている一朗であって、私も亜里砂も何も悪く無い。
「三人で……暮らそうか?」
「……出来ちゃったみたいなの」
「そっか、先を越されちゃったね」
 亜里砂の出来ちゃったという一言に、冗談まじりの私の言葉はかき消された。
 私の大切なひと……大切な親友。
 私の大切なひと……愛する婚約者。
「大丈夫、あなた一人で逝かせはしないから」
 笑顔で言った私の目の前で、彼女は血を吹き出した。首からぱっと花を咲かせたように鮮血が吹き出し、私の顔を赤く染める。
 ソレは、もしかすると私の中から出てきた……大きく汚らわしい獣かもしれない。
 子牛ほどもある犬、いや犬などという可愛らしいものではない、あれは獣だ。獣は背後の慰霊碑あたりから飛び出すと彼女に飛びかかった。
 彼女の体は、無残にひき裂かれていく。
 ぽとりと私の前に、奴らがひき裂いた亜里砂の首が落ちた。
「亜里……砂……」
 駄目。
 私の亜里砂を連れていかないで……もう酷い事はしないで。
 そう、最初からそうしていれば良かったのに。
 悪いは私を置いて亜里砂と一夜の過ちを犯した一朗、だから亜里砂と二人で遠くに行けば良かった。
「亜里砂……私と行こう」
 一つ、二つ……私は亜里砂の体の欠片へと手を伸ばした。
 亜里砂の苦しみは私の苦しみ、私と亜里砂は二人で一つなの。だが亜里砂の首は、私の後ろからにゅうっと伸びた白い腕が掴み上げた。
 冷たく凍りつくような、漆黒の瞳がこちらを見下ろしている。
 深夜0時に黒姫塚に来ると、黒姫と三体の獣が憎い相手を殺してくれる……その噂通り、彼女は殺してくれた。
 でも本当に殺したかった相手なの?
 それとも……。
 考えて、結論が出たとしても……取り返せない結果……。

 憎い相手を殺してくれる。
 そんな噂を信じてゴーストを呼び出し、そして取り返せない過ちを犯してしまう。
「……間に合わないのは、申し訳なく思っている」
 一言はじめに、運命予報士の扇・清四郎はそう小さな声で言った。
 彼がそう言うという事は、どんなに急いでも阻止出来ない事を意味している。
「泉美という女性が、親友を『黒姫塚』と地元で呼ばれている場所へ呼び出した。……そこは古くからある墓地でね、その一画に戦国時代に死んだお姫様の慰霊碑がある。昔からそこに黒姫が現れるという怪談話があってね……まあ、曰く付きの場所ってわけさ」
 泉美は親友である亜里砂を呼び出し……恐らく話をしようと思ったのだろう。
「生か死か、その選択は彼女が下す前にゴーストによって下された。君たちが着くのは、ゴーストに亜里砂が殺害された後で、どうやっても間に合わない。だけど泉美は助かるかもしれない。彼女がゴーストの手にかかる前に、助け出してやってくれ」
 ゴーストは全部で四体居る。
 一体は慰霊碑の近くに居る黒姫……こちらは黒い着物を着た女性の姿をしているという。残る三体は黒く大きな犬の姿をしており、ちょうど亜里砂を殺害した所。
 獣は亜里砂を殺害して遺体を食い散らした後、次は泉美へと牙を向けるだろう。
「泉美は戦闘中、亜里砂の体を取り戻そうと行動する。……あんまり聞きたくない話かもしれないけど、ちょっと聞いておいてね。亜里砂の体は現在四つに分断されている。一つは慰霊碑の後ろに……下半身、慰霊碑を正面に見て左側の離れた所に右上半身、獣の一体が左上半身、そして黒姫が頭部を持っている。…彼女の体の回収は必須ではないけれど、泉美が戦闘中も回収を目的として動くであろう事だけは念頭に入れておいてね」
 すなわち、彼女は自主的に獣の方に近づく可能性がある、という事。
「……体を回収して彼女を助け出しても、冷静な話し合いは出来ないかもしれないね……放置するも説得するも、君たち次第。だけど、殺された亜里砂の体はこれ以上酷い状態になる前に出来るだけ早く取り返してやって欲しい。……あのままじゃ、可哀想だからね」
 そう言うと、扇はそっと扇子で目元を隠した。

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参加者
要・耕治(虚虚実実の徒・b00625)
鋼・紅星(空の凱歌・b03897)
翔・明月(陽来香・b05237)
玖珠・壱帆(少女狂想・b06957)
篠原・美鈴(蒼碧水剣・b08343)
虚空院・みさを(緋胡蝶・b10540)
蘆屋・鏡次(ワイズクラック・b12917)
天羽・十六夜(闇に囚われし者・b21674)



<リプレイ>

 うっすらと照らす月明かりの下で、闇に溶け込むような黒い瞳が静かに見下ろしていた。まるでボールか何かを拾い上げたかのように、彼女は何の表情の変化もためらいもなく右手に亜里砂の首を持っている。
「……それは……」
 それは……わたしの……。
 泉美は眉を寄せ、その右手に掴まれた亜里砂の首へと手を伸ばした。
 だが後方で突然大きな獣の咆吼が聞こえたと思うと、周囲はぱあっと明かるく照らされた。一瞬で慰霊碑周辺が、昼間の明度を取り戻す。
 何が起こったのか、何がどうなっているのか。
 彼女が考える間もなく、立ち並ぶ墓石の向こう側から幾つもの影が伸びて飛び出してきた。
 その一番後ろに立った、まだ年若い少女が手をかかげてこちらを見つめている。すうっと周囲を見まわし、虚空院・みさを(緋胡蝶・b10540)は息をついた。
 彼女の宿す蟲の力は、獣や女の地縛霊達をはっきりと照らし出している。
 呆然と座り込んだままの泉美の元へ駆け寄る二人の姿を見て、ようやくみさをも行動を開始した。とにかく今は、あの地縛霊……黒姫と獣を倒す事が先決だ。
 そう自分に言い聞かせると、墓石に散った赤い飛沫からみさをは視線をそらした。

 あまり惨状に、冷静な思考能力を失っているのかもしれない。
 要・耕治(虚虚実実の徒・b00625)は自分達を見ても驚かない泉美の様子を見て、そう感じていた。
「……護衛対象、確認した。任務開始する」
 泉美を気遣うように側に寄った翔・明月(陽来香・b05237)を見て、短く耕治は言った。すうっとこちらを見上げ、明月が泉美の肩を押す。
「さあ、泉美さん行こう!」
「急がないと巻き込まれる」
 槍を構えつつ、耕治が明月に声を掛ける。
 彼女が見ているのは、黒姫の姿……黒姫の冷たい視線が彼女達に向けられ、懐から短刀を取りだして放った。
 短刀は、泉美の側で庇うようにしていた明月の背中を深々と貫いた。
「お前の相手はこっちだ……!」
 左右に構えたナイフが、黒姫の前に立ちはだかる。蘆屋・鏡次(ワイズクラック・b12917)は黒姫との間に割って入ると、泉美達への攻撃を遮断するべくナイフで黒姫に斬り付け続けた。
 彼女の動きはゆらりゆらりと風のようでありながら、ナイフの動きを確実に読み取って紙一重で避ける。
 背後に回り込んだ天羽・十六夜(闇に囚われし者・b21674)が闇に青い剣刃を光らせるも、その一閃は彼女の体に致命傷を与えるには至らなかった。
「何て速さだ……オレでも目で追うのがやっとだ……」
 息を一つつき、鏡次が呆れたように呟く。
 風に揺れる黒髪が頬に掛かり、すうっと目を細める。黒姫が放つ短刀は、鏡次の避ける方向を読んでいたかのように脇腹に吸い込まれた。
 間髪入れず、十六夜が飛び込んで横に長剣を切り払う。
 かろうじてその鋒が彼女の二の腕を割き、斬り口を見せた。
『さて……退屈な遊技じゃ』
「ひなた、蘆屋を頼む」
 十六夜は鏡次の手当を羽角・ひなたに頼むと、剣を構えた。
 傷に手を押し当てていた鏡次は治癒が行われるのを感じながら、手を開いてみた。遊技……か。彼女にとってまだ遊技と言えるのか。
 その片手にまだ首が握られているという事は、彼女はまだ片手分の余裕を持っているという意味なのだ。

 二度、リージェス・ラムとみさをが悪夢の塊を炸裂させると周囲は一瞬静まりかえった。
 黒姫はまだ立っている……だが二頭の獣の動きは鈍っていた。
「このォォォッ!」
 高く声を張り上げながら、鋼・紅星(空の凱歌・b03897)が灰銀の大槌を振り回す。荒々しく声を上げながら獣の中に飛び込むと、その一頭めがけて渾身の力で大槌を叩き込んだ。
 勢いづいた大槌の威力で獣の体が近くの石碑に叩き付けられ、地面に転がってゆく。だが目を覚ました獣は、紅星ではなく後方に控える女の姿しか見てはいなかった。
 紅星の攻撃をすり抜けた二頭目が、篠原・美鈴(蒼碧水剣・b08343)の姿を捕らえた。
 彼のやや後ろにはみさをや玖珠・壱帆(少女狂想・b06957)、美鈴達が控えていたのだが、後方から支援する彼女達に対して前衛は紅星一人しかいない。
 獣の姿を追って引き返す紅星だが既に遅く、獣の牙は美鈴に突き立てられた。とっさに放った水刃が獣の頭部へ食い込むも、なお獣はしっかりと牙を食い込ませる。
 甲高い悲鳴を上げ、美鈴が足下をふらつかせた。
 血の臭いに寄る獣は、彼女の体に群がっていく。牙は容赦なく、彼女の肌を食いちぎった。
「退け……っ!」
 紅星の大槌が、彼女にのし掛かっていた一体をはね飛ばす。
 喰らい殺す本能のみに縛られた、獣の姿……後ずさりする美鈴の腕を、後ろからみさをがしっかりと抱えて引き寄せる。
「しっかりして、後ろに下がるのよ!」
「っ……は、はい……!」
 痛みに耐えながら、美鈴は眼前の獣に水刃を投げ続けた。
 彼女を庇いながらをは、再び悪夢の塊を放った。
 傷口はいくぶんか、壱帆の治癒で回復している。だが美鈴は視界に映る遺体を目にして、眉を寄せた。
 獣たちの狙いは、女の体をひき裂き喰らう事。
 今まさに美鈴も、同じ目に遭う所であったのだ。もしかすると、あの黒姫もそうやって殺されたのか……それとも、彼女が何かを殺したのか?
「美鈴は後ろで壱帆とフォローに回って、ここは私と紅星が受け持つわ」
 自分なら、美鈴よりももう少しは保つから。
 あの美鈴の様子を見れば、一人で獣の攻撃を受け止めるのは怖くないはずがない。
「治癒は俺達がやるから、安心して攻撃に回れ」
 美鈴に符を放ち、水鏡・有希がみさをに言った。
 浦和・ゆりかとリージェスの治癒が周囲を包み込み、それでも足りない傷には有希が符を放つ。血で塗れた体に力を振り絞り、美鈴が立ち上がった。
 ふ、と笑みを浮かべて壱帆が横に立つ。
「一体ずつ、確実に倒すのよ。後ろ、フォローお願いね……まずはそっちから行くよ!」
 壱帆は頭上に細長い槍を出現させると、煌々と光る槍を獣の一体へと向けた。まだ眠っている一体、もう一体はみさをの方へと頭を向けている。
 まずは、起きている方に……。
 鋭い一撃が、獣の肩を貫いて地面に突き刺さる。
 きっ、と壱帆が紅星へ視線を向けると、紅星は大槌を上から獣に叩き付けた。四散して消えゆく獣を見送る隙もなく、今度は先ほどまで眠っていた獣が飛びかかった。

 眠っている泉美の頬に、明月がそっと手を添えた。
 最初に撃った悪夢の力で、彼女はよく眠っている。むろんこの力もいつまでも続くものではなく、いつ目がさめるやもしれない。
 側を離れずに様子を伺いつつ、明月は後ろを振り返った。
 離れた所では、已然として皆は戦っている。
「黒姫の戦況が芳しくないな」
 ぽつりと耕治が言い、明月はそちらを見た。
 獣の方も、攻撃が集中した事により怪我人が出ているように見える。だが、黒姫を押さえている鏡次と十六夜も大分消耗しているようだ。
 自分達のモノと、そしてそこで既に流されていたモノ……鮮血が石碑や慰霊碑に飛び散り、亜里砂の肉体は無残にさらされたまま、その場に残っている。
 明月は何だか堪えられない感情がこみ上げ、ぎゅっと自分の服を握りしめた。
 きっとこの惨劇のずっと前には笑顔があって、彼女達も楽しく過ごしていた時間があって、もう今は取り返しがつかない……大切な記憶。
 きっとあったはずの幸せな時間を思うと、涙がこみ上げてきた。
「泣くな。戦況は変わっていない」
 何と声を掛けていいか分からなかったのかもしれない、耕治はちらりと明月を見下ろして言った。いつでも攻撃に加われるように、耕治は状況をじっと見続けている。
 だが明月は、何も知らずに眠る泉美から目が離せなかった。

 生々しい血の臭いが、風に舞っていた。
 よろけそうになる足を踏ん張り、美鈴は周囲を見まわす。
 頭部は相変わらず黒姫が持っているが、残りはあちこちに散乱していた。
「遺体回収してくれる?」
 壱帆がリージェス達を振り返って聞く。だが彼らが答えるより先に、美鈴が口を開いた。
「あ、わたくしが行きます」
「こっちも注意、しておいてね」
 一言そう付け加えると、壱帆は駆けだした。
 少ない人数で黒姫を抑え続けた、鏡次や十六夜の様子が気になる。
「お待たせー、きょーじ先輩! 生きてる?」
 明るく声を掛けた壱帆を、鏡次はちらりと見返した。
 あちこち刀傷がついているが、鏡次は何とか無事であるようだ。治癒が追いつかないのか、完全には傷が塞がっていない。
 まずは鏡次に向かってギンパワを放ると、黒姫を見据えた。
「じゃあ、全力で行くよ! ……その前に、その手にあるもの……返してもらうから」
「下手をすれば頭部を傷つける事になる。その上、力任せに斬り付けても受け止められる」
 十六夜は黒姫が持った頭部を気にしつつ、隙を伺った。
 スピードには到底おいつかないが、パワーもそこそこある。後ろからの援護射撃をメインにして、自分達で押さえに回るのが一番であろうか?
 ちらりと十六夜は鏡次と紅星に視線をやる。
 ちょうど三人で包囲するような位置関係にあり、紅星は後ろに回り込んでいた。何かを察したのか、まずは紅星が黒姫に大槌を振りかざす。
 その動きを見てとった黒姫は片手で払い流し、紅星に短刀を放った。
 的確にその一撃が紅星の胸を貫き、体を抉る。
「はっ……後ろがあいてるぜ」
 紅星の言葉に動きを止めた黒姫の背後には、十六夜が迫っていた。刃を翳して、下からすり上げるように線を描く。
 黒姫の手が鮮やかな切り口を残して落ちていく。
「……受け取った!」
 滑り込んだ鏡次が頭部を取ると、黒姫の鋭い視線が落ちた。
 彼女の一撃を横に身を捻って避けると、後ろに後退した。
「一気に叩け!」
 十六夜が声を上げる。
 回復されては、また面倒な事になる。相手の体力を削る為にも、攻撃を避けさせない為にも一気に攻撃に転じるしかない。
 壱帆の槍に続いてみさをが夢魔を放ち、紅星が黒姫へと突っ込んでいく。
 凄まじい猛攻の中、黒姫の体がゆっくりと崩れていった。

 おずおずと一つ一つ遺体を拾い上げる美鈴の側に、ひょいとゆりかが立った。
「終わりましたわ」
「……そう……」
 美鈴は足下に転がった、亜里砂の右上半身を見下ろして答える。
 元はヒトであったものが、美鈴の足下で今は冷たくなっている。身をすくませながらも、美鈴はそれを抱え上げた。
 まだ、少しだけ暖かい。

 両手で頭部をひょいと抱え上げると、壱帆は泉美の方を振り返った。
 全ての遺体を回収する頃には泉美の意識は戻っていた。
「亜里砂……!」
 駆け寄ろうとする泉美の腕を、ぐいっと耕治が掴む。泉美はそれをふりほどこうとするが、耕治は手を放そうとはしなかった。
「君に……彼女の遺体に触れる資格はない」
 耕治の言葉を、壱帆達も黙って聞いていた。
 ふう、と一つ息をついて壱帆が鏡次を見上げる。
「四つ……全部ある?」
「欠けてる部分はねぇな」
 鏡次は壱帆に答えると、泉美の方を見た。
「……亜里砂は私が連れて帰るのよ! どこに連れて行くの、亜里砂を返して!」
「彼女は死んだ。ちゃんと見ろ」
 耕治の淡々とした受け答えに、泉美は首を振って拒否を示す。
 もしかしたら生きているかもしれない。
 見間違えだったかもしれない。
 亜里砂は死んでいないかもしれない、まだ生きているかも。
 それはあり得ない事で、取り返しもつかない事だって分かっているだろうに……。
「後悔したって、もう戻って来ないんだよ。まだ……やり直しがきくだろ」
「戻って来るよ!」
 耕治の手を払い、泉美は鏡次に言い返す。
 奪うように壱帆の手から頭を取り返し、抱えたまま声をあげて泣き出した。
 すうっと十六夜は空を見上げると、瞼を閉じる。
 こういう時、何と言えばいいのだろう?
「生きていく……というのは辛いな」
 うん。
 壱帆は小さく頷き、泉美に柔らかい声で話しかけた。
「あなたは死んじゃ駄目だ」
 まだ、あなたには待っている人が居るのだから。
 最悪の事態を起こす為に来たんじゃない。自分達は、既に起こった事態を悪化させない為に……彼女の命を救う為に来たのだから。
 歩き出した鏡次の後ろに走り寄り、壱帆が振り返る。
 帰ろう、と声をかけると十六夜も後ろに続いた。
「先輩は浮気しちゃ、駄目ですよ?」
「しねーよ」
 壱帆に軽口を返す鏡次の後ろをゆく十六夜は、俯いたまま拳を握りしめる紅星の様子をちらりと見ると足を速めた。

 死んじゃ駄目だと、自分には言えない。
 紅星は言葉を飲み込み、彼女に背を向けていた。明月やみさをに声を掛ける気分でもなく、立ち尽くしていた。
 その背中に、ひょいと明月が抱きついた。
「怪我は大丈夫?」
 後ろか顔を覗き込む明月。
 何だか無理に笑っている気がしたから、何かしてあげたくて明月はそっと手を挙げた。
「ちょっとかがんでみて?」
 手を伸ばして、明月は紅星の頭をそっと撫でた。随分背が高くなったね、と笑顔で明月は言う。
 泉美や亜里砂のようにはなりたくない。自分は皆に笑っていて欲しい、だから笑顔を浮かべるのだ。
 優しくぎゅっと抱きしめ、明月は本当に怪我がなくて良かった……と繰り返すのだった。
「ちょっとしたすれ違いから、罪を犯してしまう事もあるわよね。でも大切なのは、赦す事」
 泣きじゃくる泉美の正面にしゃがみ込み、みさをは言った。
 みさをにとっても泉美の事はあまり他人事出はなかったから、どこか放っておけなかった。紅星が居て明月が居て、その時泉美のような立場になったら自分がどうするのか……。
 多分、それは答えでもあり未来への言葉でもあるかもしれない。
「もう誰も責めないで、すぐには難しいかもしれないけど……」
 きっと、時間が癒してくれるから。
 泉美の腕の中の亜里砂は、穏やかな表情であった。


マスター:立川司郎 紹介ページ
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知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/05/17
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