≪Overheat Spirits!!≫闘魂の双焔


<オープニング>


 枯れ木に囲まれた境内、割れた瓦とひびの入った壁を纏う本堂――。
 その廃寺がいつからそこに在ったのか、覚えている者はとうにいない。
「…………」
 そんな、忘れ去られて久しい廃寺の本堂に佇む影があった。
 その数、二。
 彼ら――坊主の姿をした地縛霊はまるで双子のように瓜二つだった。どちらも血に塗れた錫杖を手に掲げ、一見しては温和そうな笑みを湛えている。
 ……その微笑の裏に、醜い欲情や憎しみをひた隠して。
 今、『Overheat Spirits!!』の面々を迎え撃つ。

「くるぞだ!!」
 向かって右にいる地縛霊が、精神を統一するかのように瞼を伏せた。その身から立ち上る気の気配が変わる。戦闘態勢へ入った敵を前にして、高天・主央(拳魂星破の爆血爆血ハート・b21976)が叫んだ。
「了解っ!」
「いっきまーす!」
 白夜・赤(灼焔の朔月・b25774)、森本・りあ(小学生白燐蟲使い・b14742)は溌剌と答えて起動、詠唱兵器を眼前へ構える。
「参りましょう――」
 秋月・美咲(淡き夢を抱きし天華・b02397)はひた、と地縛霊を見据えて呟いた。死してなお現世に留まり続ける破戒僧達。その人生が清らかなものであったはずもなく、彼らは生前にも増して暴虐の限りを尽くしたようだ。
 その証拠に、能力者達の背後から迫り来る幾つかの人影がある。
「リビングデッド……!?」
 叢雲・識(蒼月斬姫・b02807)は細い眉を僅かにひそめた。一体どこに隠れていたのだろうか。本堂の入り口を3体のリビングデッドが塞いでいる。完全に後ろを取られた形だ。
 彼らはおそらく、地縛霊達の犠牲となった者達の成れの果て。
「……外道が」
 信ずる道は違うとはいえ似たような立場にある覚羅・葵(誓いを刻みし刃・b27583)は、普段の彼からは想像も出来ないような声音で吐き捨てる。
「負けられませんよね……!」
「当然だ」
 千早・アキ(紅鴉・b43606)が武器を掲げ、倉科・こころ(暖かき焔の灯火をこの胸に宿し・b34138)が背後を警戒するように体の向きを変えた時――広い本堂内に読経の声が響き渡った。

 高速で唱えられる経が耳をつんざき、炎を纏わせた錫杖が本来とは異なる用途で振るわれる。
 息の合った動き――2体の地縛霊は連携を取るようにして能力者達の先手を取った。
 後方からは嘆きと同化した衝撃波が放たれて、逃げ場のない能力者達へと容赦無く襲いかかる――!!

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参加者
秋月・美咲(淡き夢を抱きし天華・b02397)
叢雲・識(蒼月斬姫・b02807)
森本・りあ(小学生白燐蟲使い・b14742)
高天・主央(拳魂星破の爆血爆血ハート・b21976)
白夜・赤(灼焔の朔月・b25774)
覚羅・葵(誓いを刻みし刃・b27583)
倉科・こころ(暖かき焔の灯火をこの胸に宿し・b34138)
千早・アキ(紅鴉・b43606)
NPC:石堂・武流(やんちゃな牙道忍者・bn0112)




<リプレイ>

●Overheat Spirits!!―背中合わせ―
「こっちは任せろ! みんな、頼んだ!!」
 前門の地縛霊、後門のリビングデッド。包囲された状況を打開すべく、白夜・赤(灼焔の朔月・b25774)は後ろを振り返らないままそう叫んだ。
「団長も気ぃつけてな!」
「もちろんだぞ! 全撃全開!!」
 赤は漆黒の斧を振りかざし、手前にいる地縛霊へと急速接近。高天・主央(拳魂星破の爆血爆血ハート・b21976)は途中までを彼と共に駆け――自分は奥にいる方の地縛霊にはりついた。
「前も後ろも、逃げ道なしですかー……」
 倉科・こころ(暖かき焔の灯火をこの胸に宿し・b34138)もまた、リビングデッドに背を向けて赤と主央の背中を見つめる。
 こんな状況で、けれど唇に刻まれるのは笑み。仲間への信頼を露にした、不安など欠片も存在しない微笑だ。
 彼女は自らと仲間を鼓舞するように告げる。
「さあ、がんばりましょうー……!」
「おうっ!!」
 石堂・武流(やんちゃな牙道忍者・bn0112)はリビングデッドに気を取られる事なく地縛霊に意識を集中させる。
 完全に背を向けた彼らへとリビングデッドの視線が向いた――瞬間、煌く水刃が腐敗した胸元に潜り込む。
「余所見をされている暇はありませんよ」
 それを放った主は孔雀の中華服を纏う秋月・美咲(淡き夢を抱きし天華・b02397)だ。続けざま、黒い大太刀が横に薙ぎ払われた。刀身には何か紅い文字が刻まれているようだが、それがただの残像と化すほどの速度。
 先手を取って美咲との連携を叩き込んだ叢雲・識(蒼月斬姫・b02807)は不敵な笑みを浮かべて笑う。
「そっ首、さっさと叩き落させてもらうね」
 告げて、二太刀目を振るおうとする識にリビングデッドの意識が集中した。けれど隣には既に旋剣の構えを取った覚羅・葵(誓いを刻みし刃・b27583)がいる。
 彼女達は双璧を為し、敵の攻撃を引き受けた。
「安らかに……天に逝けっ!」
 渾身の力で振るわれる長剣には葵の想いが込められている。彼は大きく踏み込んで黒影剣奥義を用い、リビングデッドを攻め立てた。息の合った2人の攻撃は余裕でリビングデッド達を圧倒する。
「次、行くよ」
「ええ」
 速攻で1体目を撃破、短いやり取りをして2体目のリビングデッドを倒しにかかる。
 後方からは美咲の水刃とともに千早・アキ(紅鴉・b43606)の炎弾が舞い飛んだ。相容れないはずの水と炎は自然と調和して、ほぼ同時にリビングデッドの体を穿つ。
「当たった……!」
 これが初陣となる千早・アキ(紅鴉・b43606)は目を瞬かせて自分の放った炎弾の行方を見守った。初めての戦いだというのに、不思議と恐怖はない。
 ――その隣に、前に、後ろに。仲間がいるからだとすぐに分かった。
 それを自覚したのはアキだけではない。この場にいる誰もが強く思い、勇気を得ている。
(「皆さんとなら……どんな大変な状況だって乗り越えられるって、信じてますから」)
 地縛霊の足止め兼壁役を担う赤と主央、2人の回復役を務めるこころは一瞬たりとて気を抜く事を許されない。彼らのどちらが自分を必要としているか、それを的確に見抜いて祖霊降臨を発動させた。
「師匠!! 愛の力ーーっっ!!」
「ありがと、りあ」
 壁組の回復に専念するこころに対して、後ろ組の回復を担当するのが森本・りあ(小学生白燐蟲使い・b14742)である。
 戦闘中であっても明るく元気なりあに笑みを漏らして、識は白い輝きを纏った黒太刀を眼前に掲げた。りあ達後衛に攻撃を通さないよう、葵と連携して意識的に壁を作る。
 一分の隙も無く、息の合った攻防が続く。
 地縛霊も阿吽の呼吸という点では『Overheat Spirits!!』の面々に負けてはいないはずだった。赤と対峙している地縛霊は錫杖を振り上げ、生み出した炎ごと回転――勢いをつけて彼の肩を激しく撃つ。
「くっ」
「赤くん!」
 その攻撃力は敵の使う全攻撃の中で最も高い――こころが赤の名を呼んだ。彼女は赤の事だけは名前で呼ぶ。
「だいじょーぶ、負けねーよ!」
 なんたって、こころ先輩が回復してくれんだもんな。赤はにやりと笑って旋剣の構えを取る。同時にこころが降ろした祖霊が彼の体に染み入った。――ワクワクする。どうしようもないくらい。
 赤が体勢を立て直す時間を稼ぐように武流の牙道砲が地縛霊を襲った。敵の方が強いため吹き飛ばすには至らない。リビングデッドと戦っている後ろ組と比べて、壁組の攻撃はやや押さえ気味だった。彼らの役目は地縛霊を倒す事ではなく、仲間が合流するまで持ちこたえる事である。
 必要なのは、防御――けれど主央は積極的に攻勢に出た。『全撃全開の攻撃こそが金城鉄壁の防御となる』。彼は身をもってそれを証明した。
「多少の無茶は承知済みだ!!」
 熱く、どこまでも熱く吼える。彼が相手取るのは全体攻撃と回復を持つ地縛霊だ。主央は天地の獣爪をまるで自分の手足のように使って敵を追い詰める。
 すると、少なからぬ傷を受けた地縛霊は攻撃を忘れ、またもう1体の地縛霊を援護するでもなく――己の回復に専念を始めたのである。
「主央団長達のおかげで、攻撃に集中できます!」
「ああ、俺達も頑張らなきゃだよな!」
 美咲の視線は残る1体の地縛霊に固定されていた。アキの照準も揺るがない。ガトリングガンの銃口で炎が渦巻いた。
「覚悟っ!!」
 裂帛の気合と共に投じられた水刃がリビングデッドの腐肉を切り裂く。体が傾いで本堂の床に音を立てて倒れ込んだ。
 ――撃破。
 葵と識が瞬時に踵を返し、アキと美咲はその場で体の向きを変える。駆け抜ける葵に併走したりあは彼の負った傷を癒した。
「ありがとうございます」
「後半戦、頑張って下さいねーっ!」
 もちろん私も頑張ります! りあは笑顔でポリアクリル3世と名づけた子ども用のギターを振ってみせた。

●Overheat Spirits!!―1つになる力―
「お待たせ赤。暫く休んでて良いよ」
「さすが叢雲先輩、頼もしー」
 もう一方の地縛霊へと攻撃を殺到させる仲間達とは逆に、識はしなやかな体を赤と地縛霊の間に滑り込ませる。赤は朗らかに笑って前を彼女に譲り、斧を頭上へと振り上げた。
 赤と識が今度は2人で地縛霊を抑える一方、主央は合流した仲間とともに攻撃の苛烈さを更に引き上げる。
「始!! ここからが絶対本気の大本番!! ブチ破ってブチ壊す!!」
「「応!!」」
 気合一発、主央のかけ声に幾つもの返事が返った。彼と並び立ち、長剣に闇を纏わせる葵は厳しい眼差しで地縛霊を見据えた。
 彼の胸中を支配するのは純粋な怒りである。死してなお暴虐の限りを尽くす坊主達へ、彼が手向けるのは花ではなく剣だ。
(「生きていれば改心する可能性もあるだろうが……」)
 既にその可能性は皆無。であれば、葵は剣を用いてこの悲劇を終わらせる。
 ――斬る。
「暴虐は、終わりだっ!」
 闇を乗せた斬撃は地縛霊の体を深々と切り裂いた。体の一部が割けて向こう側が透けて見える。そこへ主央の炎が容赦無く襲いかかった。
「燃えろ!!」
 魔炎は地縛霊の指先までを包み込んで、全てを嘗め尽くす。彼は自らを癒そうと祈るように錫杖をかざした……が、その前に魔炎の効果で力を奪われる。
 音も立てずに消滅し、同時に炎も消え去った。
「お待たせしましたっ!」
 間髪入れず、りあはずっと壁役として地縛霊を引き付けてくれていた赤と識の元へ駆ける。肩越しに振り返った識が錫杖を斬馬刀で受け止めながらりあの名を呼んだ。
 相変わらず、余裕めいた笑みを浮かべたまま。愛と言い換えた白燐奏甲をねだるように求める。
「りあ……私に愛をー」
「がってんだー!! 師匠に両手いっぱいの愛を!!」
 りあはウインクとともに白燐蟲を解放、識の体力をほぼ回復させた。識は満足げに微笑んで、最後の地縛霊へと切りかかる。
「さあ……ラストスパートですよ……!」
 前衛のすぐ後ろで回復役を務めるりあとは対照的に、こころは後方に下がって全体の戦況を見渡した。
 これまでの戦いで、皆少しずつ傷を負っている――ならば。
「もう少しだけ、頑張って下さい……!」
 こころは祈るように舞を踏んだ。指先で操るクロスシザーズが揺れる、翻る――。
「……お覚悟を」
 言葉短かに呟いて、美咲は残しておいた水刃手裏剣奥義を発動。水刃の煌きは地縛霊の炎を凌駕する。水刃が地縛霊へ到達すると同時に踏み込んだ葵の剣先が肥え太った胸元へともぐりこんだ。勝利を確信した葵の目が細められる。
「……大人しく燃え尽きろッ!!」
 ――赤が叫び。
「一刀両断」
 識が呟き。
「おまえで最後だ!!」
 主央が宣言した。
 それに呼応してアキと武流もそれぞれ残る技を叩き込む。闇と炎が踊る場所へ更なる炎と衝撃波が到達した。
 ――そして、地縛霊は跡形も残さず消滅する。

「皆様、お疲れ様です!!」
 全員で掴んだ勝利の前に、美咲はこれ以上ないほどの笑顔を浮かべて皆を振り返る。
「何とか、終わったな」
「ああ、おつかれさん!」
 アキは緊張が解けたようにぐったりと床にへたりこみ、赤はこころの傍へ駆け寄った所。
 それを見ていた識はこちらも、とばかりにりあの小さな体を抱き寄せた。りあはくすぐったそうに笑う。
 あれほど禍々しい気が満ちていた本堂は今や在るべき姿を取り戻していた。とはいえ、それは寺社に相応しい静謐な気や空気ではない。
 ――がらんとした、ただの廃墟がそこにあった。
「さ、結社帰ってゆっくり休もーか!」
「そうですね」
 手を叩いて撤収を促す赤に葵はいつも通りの笑顔で頷く。
 互いに手を打ち鳴らしながら、雑談を交わしながら。彼らは次々と本堂を後にした。仲間に続いて最後に寺を出た葵は、そっと両の拳を握り締める。
「……俺は、踏み外さないっ」
 悪逆の限りを尽くした坊主達――葬った彼らの二の舞には決してならないと。
 
 後にはただ一陣の風が舞い上がった。
 僅かに湿気を孕んだ南風は夏の気配を廃墟に運ぶ――。


マスター:ツヅキ 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/06/10
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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