シロヤシオの下で 〜初夏の山へ行こう〜


<オープニング>


 君は、一人の少年運命予報士と、同じ能力者の少女に呼び止められた。
「山登りしてシロヤシオを見に行きま、しょう?」
 妙に瞳を輝かせている高城・万里(田舎育ちの黒猫・bn0104)は、開口一番そう告げた。
 何事か解らず君が首を傾げると、井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)が話を始める。
「ずっとずーっと山の奥にね、シロヤシオっていう花が咲く場所があるって高城が」
 恭賀は傍らの少女を一瞥し、再び君へ視線を戻すと、それを見に皆で山を登りたいんだと嬉々として話す。どうやら能力者に声をかけ続けているらしく、万里が手にしているメモ帳には見知った名前もちらほらとある。

 シロヤシオは、別名五葉ツツジと言われる花だ。幹が松の木に酷似していて、白い花のは淡い緑の葉を背負う。心を落ち着かせ、邪念を洗い流してくれるように清楚で可憐な姿だ。
 この時期、万里の知る山ではシロヤシオがちょうど満開だと言う。シロヤシオの木々が立ち並んでいるため、陽射しに透き通る純白の天蓋のように。或いは、乱舞する真っ白な蝶々のように――そんな光景の下まで山登りをし、のんびりしようと二人は言うのだ。

「一般人は絶対来ない山奥、よ。道中は普段体動かさない人にはちょっと厳しい、けど」
 何にせよ、皆で支えあって登れば問題ないだろうと、万里は淡白に言った。
 人が入らないような道を行くため、相応の準備は必要となる。道は万里が先導するため迷うことは無い。単純に山登りを体験したい初心者も、気軽に参加して欲しいとのことだ。
 岩をよじ登ったり、岩場を少々飛び越えたりとスリルある道のりを越えた先に、シロヤシオが群れを成して自生する開けた場所に出る。
 到着予定は昼頃なので、昼食を取りながら皆でのんびりもしくは賑やかに過ごせれば良い。
「俺を除けば能力者さんしか来ないからねー。ほら、あの子とか連れてきてもいいと思うよー」
 恭賀の言う『あの子』に君が首を傾げると、万里が声を控えて使役ゴーストのことだと囁く。
 戦闘行為やアビリティの使用は、危険なので当然厳禁だ。しかし、せっかく一般人のいない奥地へ出かけるのだから、普段一緒に遊ぶことも侭ならない使役ゴーストを連れていくのも、猫や狼に変身して日向ぼっこするのも自由だ。
 平たく言えば、本業能力と使役ゴーストは歓迎の方向だが、アビリティは使用禁止となる。
「俺も、使役ゴーストさんや動物姿の能力者さんと戯れてみたいしね〜」
 この登山に付き合う唯一の一般人である恭賀は、あらゆる意味で楽しそうだ。
 能力者としての戦いや、学生としての本分はこの日だけは置いておこう。
 そのために皆で山を登りに行くのだから、と恭賀は君へ念を押す。
「そういうことで、当日は晴天だし暖かいから、お友達も良かったら誘ってきて、ね」
 万里が君にそう告げると、二人は次の能力者を誘うべくさっさと立ち去ってしまった。

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参加者
NPC:井伏・恭賀(高校生運命予報士・bn0110)




<リプレイ>

●山登り
 朝露が葉を鳴らし、充分な湿り気と涼風が山を包み込む。
 息づく植物と生き物の音に耳を傾け、或いは只管に頂上を目指して、大所帯となった彼らは足を進めていた。
 もたつく恭賀が立ち止まると、真横を一陣の風が過ぎ去る。夜更かしで出遅れた八眼だ。人の多さに圧倒されつつも恭賀を励まし、速度は落とさず蜘蛛童の珠鬼と共に駆け上がっていく。元気な彼を見遣り笑む宗は、あくまで自分のペースを崩さずにいて。
 その少し前では、体力の乏しい者へ声をかけた重が友人のスカルサムライと共に、荷物を預かると手を差し伸べ回っていた。
「男は少し頑張れ」
 声援を送るのも忘れない。
 仲睦まじい友人から視線を外し、志音が恭賀を振り返る。賑やかさに困ったように笑えば、つられるように恭賀の眉も下がった。半ばギブアップ気味な恭賀を見兼ねたのか、トラ猫と化した真白の肉球が、弾みをつけて恭賀の背を叩く。
「あっちにちょうちょがいるー!」
「忍さん、そんなに引っぱっ……ッ!」
 飛び込む忍の陽気さは、無邪気にリネの手を引いていた。出逢いの日を思えば興奮も止まらず、直後重なるように転倒してしまう。それすら微笑ましく視線で追い、陸は恭賀へエールを囁いた。楽しみにしていたことと関わるだけに、恭賀も頷かずにいられない。
 不意に彼を押したのは、狼に姿を変えた直人だ。連れ立つ春一もまた、赤みの強い毛を揺らし狼の動きに沿って直人に突つかれる。眉根を寄せ、仕返しとばかりに今度は春一が直人へ頭をぶつけた。ついでに春一が道中捕まえた、初夏の陽射しを思わせる白い花弁も乗せて。
 直後、猫に変身した一夜が、疲労に敵わず恭賀の頭を休み所とする。その前方では、栖とシンが天辺までの勝負と称し地を蹴っていた。勿論、気高き狼の姿で。
 二人に負けじとアリーセやつかさも混じり、茂る自然を味わい疾走する。彼女達は人のままだが。
 同行するいくえは、そんな仲間に加わる自らのモーラットを羨ましげに見つめていた。そこへ真燐が手作り菓子を差し出す。途端いくえは一目散に逃れ、頬を引きつらせた葉里が、
「お願いだからそれはしまって……」
 と懇願する。日頃の鬱憤が溜まる玲樹は、後でカラシやワサビ入りクッキーで真燐に復讐しようと心に誓った。
 その時、突如飛びかかってきた物体に、恭賀が間抜けな悲鳴をあげた。周囲はぎょっとし振り返るが、彼のへ纏わりつくモーラットに気付いた瞬間、笑いが零れる。悪いな、と駆け寄った主の薫だが、嬉しそうな昼寝仲間と運命予報士を、表情に色は出さず優しい眼差しで見守った。

 団体の真ん中辺りを歩く壱球は、一人分多い荷物を背負っていた。岩間が深くなっている場で先に渡り、ついてくる早苗で手を差し伸べる。
「気ぃつけてな。絶対放さねぇから安心して」
 指先から手の平、そのまま繋がる温もりと安心感を胸に、早苗も思い切って溝を飛び越えた。
 元々森に住んでいた吟奈は、郷愁に駆られつつ軽い足取りで山道を登る。すぐ後ろでは息の上がった澪が、震える膝に手を付く。しかし景色と弁当へ想いを馳せ、すぐに足を動かし始めた。
「こう登れば……って、あの、待って下さい……!」
 二人の真似をしつつ進んでいた李緒は、置いていかれそうになり慌てて土を蹴る。
 一方、人が通らぬ険しき旅路の先陣を切っている仲間達は――。
「万里ー! つかれたのじゃー!」
 モーラットのタマに背を押して貰っている命が、駄々を捏ねた。そんな彼女を、すぐ近くにいたルシアが、もうすぐですよ、と優しく先導する。後続のため邪魔になりそうな枝を払いつつ進む先頭組に、時折姿を消していたもずくが駆け寄った。
「綺麗な石さ拾ったっぺよお」
 息が上がっているにも関わらず、太陽を思わせる笑みで万里達に滑らかな石を見せる。
 ふと、白い頬を紅潮させつつ懸命についてきた榮へ、あと少し頑張ってと万里が声をかけた。頷いた榮は、漸く木々が開けてきた世界を知り、手をかざす。
「白檀……お空に近づいて参りましたよ」
 傍らの白檀が、嬉しそうに白い身を弾ませた。
 疲労に苛まれる彼らの視界を覆ったのは、人に触れられずひっそりと群生するシロヤシオだ。

●シロヤシオの下で
 もふりたい人はかかってこい! と愛らしい外見にそぐわぬ男前っぷりを醸し出し、世緒が覚悟を背負い身を狼へと変化させる。家で飼っていた犬の触り心地を蘇らせ、蒼が吐息に懐郷を添える。蒼馬もまた毛並みへ腕を伸ばす傍ら、天空へ意識を飛ばす。亮くんに届いたかな、と唇で悦びを抑えきれずに。意味が無くとも損した気分になりたくないと、風来は闇を纏って世緒をもふり始めた。
 和やかな空気をデジカメに収めた彩翔は、瞳を細め崖に佇む翔太と三月を画面に映す。
「「せーの!」」
 重なった二つの掛け声が尾を引き、崖から身を投げた。痛みも無く崖下へ着地を成せば、スタントマンみたいだと二人のはしゃぐ声が響く。
 もっぴーにも仲良くしてくれるかな、と透が微かな心配を過ぎらせる。モーラットのもっぴーは、仲間のマンゴー達の前で左右に身を揺らしていた。亮に呼ばれマンゴーに抱きつく万里の傍ら、呼んだ当人は憧れて止まない山彦に挑戦しようとする。真に叫びたいのはシャズナへの愛だが、山彦に妬きそうなので急遽変更。刹那、空にその叫ぼうとした言葉が文字となって浮かび、亮は目を丸くする。見回すと、離れた場所で蒼馬と目が合った。
 もふられ人気のもっぴーを撫でたキリエは、無意識に優しさを表情に帯びる。
「シャミ、とっても良い子」
 山登りを頑張ったマンゴーへ、透馬が誉める。横では、渦子さんどーぞ、と渉がパートナーへサンドイッチを差し出した。大切な存在と過ごせる時間を噛み締め、渉は緩む唇を結ぶ。
 白がたなびくシロヤシオの下、了はジン太を一瞥した。瞼を伏せ、幸福感を胸に秘める。近くでは、猫姿の理緒がとりさんと身を寄せ合い、こげ茶の毛を風に遊ばせ夢の世界へ旅立っていた。
 日向を浴びた緩やかな温かさの中、千歳が狼の姿で地に伏せる。満腹感に舟を漕ぐグレタも、猫に身を変え千歳の上で丸くなった。通りすがった恭賀を沙那とカイが招き、お茶の時間に浸る。相も変らぬ女性陣の腕前に感動を覚え、龍一朗が唸った。
「歩の焼いたスコーンにまたこの紅茶があう……美味い」
 龍一朗から絶賛を受けた歩は、お弁当作ってこなかったからこれくらいは、と照れを顔に纏う。紅茶を含み静かに休むカイの傍ら、龍一朗は龍鬼との腕相撲勝負へ移った。龍鬼へ指示を向けた沙那も、勝負を観戦する構えで。
「どちらが勝っても負けても……嬉しくて残念ですね」
 色の薄い瞼を閉じ、沙那が唇で気持ちを象った。

 給仕に徹していたレイシンは、落ち着いた頃におにぎりを口へ運ぶ。プランシェットと一緒に握ったのだと遊歌が告げれば、頑張ったな、とレイシンの瞳が眇められる。
「さっきは神中がどうしてもと言ったからだぞ。特別だからなっ」
 含む嬉しさを尖った唇に這わせ、ベルナデッドが山を登る最中のことをそう弁解し出した。転びかけた彼女の手を取った瞬間が蘇り、マイは拒まれなかったことにとりあえず安堵する。
 そんな二人を眺める仲間達は笑みが我慢できずに。
「愛の喜び、情熱……お似合いだな」
 シロヤシオの花言葉を聞いてきた志音が、からかうように呟いた。
 母のような存在と称されたウィルの弁当に、集まった仲間が感激に唸る。沢山あるからしっかり食ってくれよー、と穏やかに告げた途端、次々と仲間の手が食べ物へ伸びた。そこへちょうど足を運んだのは、猫変身中の誠と別の所にいた三月だ。期待に満ちた眼差しを朔に向けられた麦丸も、楽しげに姿を変え高所へ登り、仲間の頭目掛けて身を跳ねる。
 誠は通りがかった万里と恭賀を捉え、挨拶も兼ねて肉球スタンプを押しに行く。そのまま万里は弁当の虜と化して座り込み、朔は、
「もふりまくるんよ」
 との宣言通り、誠を両腕で捕獲した。咄嗟に飛び逃げた麦丸をも追い始めれば、辺りが一気に笑い声と賑やかさに包まれる。
 豪華ではないですが、と謙遜を乗せた両手が弁当を差し出す。鈴香の想いに違わず、刹那は夢中で弁当を頬張った。花も可愛いけれど鈴香も――気障に紡ぎたかった刹那の願いはすぐに消え去る。飾る雰囲気は無くとも、この世界で鈴香が笑ってくれたら、それだけで充分だった。
 しょうがねえなと頭を掻き、政吾郎が白くふわふわのカントを抱え、シロヤシオの枝へ移した。口角を吊り上げ笑えば、優一は瞳を輝かせ、マサっちありがとう、と花が咲いたような表情を浮かべた。
 地に横たわるシロヤシオの花を勝郎と小鳥が拾い集め、指先で想いを紡ぐ。小鳥が編んだ小さな花輪をモラヲにかぶせ、勝郎は控えめな髪飾りを二つ生んだ。感謝を示し、青に煌く小鳥へ添え、もう一つはモラヲの容姿を彩った。

 苦しげに瞳と玄六が身悶える。通常のおにぎりに混ざった、激辛仕様のおにぎりが当たったらしい。二人の心など露知らず、満足げに頬張るのは魎夜と万里だ。魎夜のおにぎりは普通だが、万里はイナゴの佃煮のため鼻歌交じり。辛さで顔を朱に染めた瞳と玄六は、慌しく麦茶を流し込み危機を乗り越えた。
 ふと、真人が万里へお茶を差し出し、腰を下ろす。
「ソフトボールではお疲れだ。あのクラスでの良い思い出になったな」
 二度同じクラスになる確率は低いと、真人も理解している。しかし、そうなったらその時で対戦相手になれればいいね、と万里はお茶を啜った。
 彼女が持参した謎のおにぎりに興味を示し、龍麻はお手製のカツサンドと交換する。嬉々としてカツサンドを食す万里の傍ら、龍麻は甘ったるいクリーム味おにぎりに眉をしかめた。
 その時、エルが駆け寄りこっそり万里へ相談事を持ちかけた。万里ならどうする? と無理が混じった笑顔に、万里はエルお手製の煮物を口に放り込み、何としてでも謝ってから考える、と話す。
「世界中行っても会えないなら、卑下しないけど全部覚えとく、わ」
 詳細が判らぬゆえに、そう答えるだけだった。
 一方、恭賀の元を訪れた雷人は、初めて猫になった時の驚きを語り、先輩も猫になりたいとか思ったりする? と無邪気に問う。言うが早いか茶トラ猫に変身し、喉を鳴らし懐く彼を恭賀が撫でた。なるより見てる方が好きだねー、と暢気に微笑んで。
 お疲れ様と恭賀を労ったのは夏輝だ。白燐蟲の輝きが周辺を包む様を披露する。シロヤシオの下が一層明度を高め、緑と純白を鮮やかに照らす。
「蟲さんだけどこわくないの」
 白燐光の優しさに夏輝が目を細めた。一通り話を紡いだ後、聞いてくれてありがとうと告げた彼女に、恭賀も礼を述べて返す。
 近頃は共に過ごす時間も減り、寂しさが波のようにルフィナスの心へ押し寄せていた。だからこそ今、安心が止め処無い。もっと話をし顔を見たくとも、迫る眠気に瞳が瞼に隠される。身も心も任せてきた彼女に、フリックはそっとコートを羽織らせた。
 狼姿の剛のはずだった。しかし今琉架を包んでいるのは、見紛うことなき本来の剛。
「抱きしめる分にはこっちの方がいいな」
 あまりに水流のように言うため、琉架も頬を染めずにはいられない。くすぐったそうに笑み、剛は彼女の唇を寄せた。
 僅かな距離ももどかしく、小草は馨との間合いを詰めた。そんな小草の耳朶へ口を寄せ、馨がシロヤシオの花言葉を囁けば、淡い緑の瞳を眇め少女が心を零す。訥々と溢れるのは「大好きです」と消え入る声。馨は紺青の髪を優しく揺らし、淡く込み上げる想いを言葉に変えた。
 ――俺もだよ。

●仲間と
 桧が使役するモーラットとの触れ合いを期待していた千羽耶が、千里と共に柔らかい温もりへ手を沈める。微笑ましく傍観していた桧は、ふと白い蝶のようと称された花を仰ぎ、灰色に染まった眠たげな目を眇めた。綺麗な花と皆がいる、時間を止めたかのような風景。幸せを噛み締め、ユキは大きく身体を伸ばす。
「お土産話いっぱい持って帰ろうねっ!」
 湿る草の匂いを存分に吸い、ユキが口端で明朗さを象った。
 本業能力を使える機会だからと、それに便乗した『鬼ごっこ』遊びに励む者達がいた。勿論、他の迷惑にならぬよう各々が気を遣う。
「闇纏い全く役にたたねーっ!」
 智延が頭を抱え仰け反った。能力者だらけの中では確かに意味が無い。こうなったらと腕を捲くり、体力任せに逃げ回る道を選んだ。同じくアーミーナも、緩くかぶりを振り鬼から遠ざかっていた。逃げ切ってみせましょうぞ――その意志は青き瞳を爛々に輝かせる。
 鬼に追われるスティノークルは、せめて優実のフランケンだけでも把握しようと死人嗅ぎで辿るものの、使役ゴーストには反応しない。首を傾ぐ彼を、追いかける側へ回った文が発見する。迷わず突撃する文だが、幼い足ではすぐに追いつかず、協力しようと試みた結姫が代わりに走った。
「私を置いていかな……ッ」
 結姫の台詞は途切れ、あ、と文の声が零れる。結姫が石に足を引っ掛け、地面と顔面衝突した。ビタンと小気味良い音。痛そうだ。
 一方、鬼役の小雪は名に似た色の猫となって仲間を探していた。不自然に生える何かに気付き、這うように間合いを詰める。恐る恐る覗き込むと、体躯の良い司が野獣の眠りに拠って冬眠モードに。小雪は、穴からはみ出た司の一部を遠慮無く引っ張る。目覚めた司が痛いと訴える声に気付いたのは小夏だ。やがて意識は猫と化した小雪のみを捉えて。
「にゃんこーっ」
 声を弾ませ、小夏は降参を表明した。
 鬼が着々と増えていく中、カズマを探し続けていた優実は広がる光景に呆然とする。生み出した蜘蛛の糸を張った巣に身を寄せ、休憩するカズマの姿がそこにはあった。
「後月さん、今です!」
 黒猫となり寄って来た誠を捕らえ、リヴィが合図を送る。応えた悠歌は、くすぐったそうに微笑み肌触りを堪能する。リヴィと共に肉球を押しつつ和む傍ら、猫変身に対する不思議さを唱える洋子もまた、表情へ色を帯びずに柔らかさを味わい始めた。
「あら、高木さんはずいぶんともてているのね」
 愉しさを瞳に隠し瞼を伏せ、秋野が囁くように笑う。猫と戯れる仲間達を眺め、疼く感覚を美珠が抱いた。心なしか指先がそこへ伸びかけている。
「……もう二ヶ月近くになるんだね」
 溢れた悠歌の心は、仲間へ伝わる声と化す。秋野が凛と咲き誇るシロヤシオを見上げ、仲間もつられて無防備に首を晒した。
 この時間を護るために戦っている――長くも短かった旅路の記憶を乗せ、純白の花弁が風に煽られ天高く舞った。

 純白の蝶が澄み切った空を飾る中、山は彼らが心行くまで優々と受け止めていた。
 汗ばむ陽気もシロヤシオの天蓋が木陰を生み、苦しさも無く時間は過ぎていく。
 名残惜しむ平穏は、春から移りゆく季節の色で彼らを抱擁した。
 夏の扉が、開かれる。


マスター:鏑木凛 紹介ページ
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いまいち
参加者:99人
作成日:2008/06/12
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
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