<リプレイ>
● 平日にも関わらず、清水寺内地主神社は沢山の人で賑わっていた。 暑い京都の夏は十分に蒸し暑い。 午後2時から、祝詞奏上の後に笹が清められる。
軍平は気恥ずかしいのがここは謳歌したいと、最近密かに心を寄せている人の名前を書き真剣に願う。 とにかくもてたそうな人を見て可哀想だなと思う翔梧。しかし自分もまたその中の一人かもしれないと思い虚しさを噛みしめた七夕だった。 「み、見るでないのじゃ! 別に誰の名前も書いて無いのじゃ!」 匡が態とらしく命のを覗き込むと、慌てて手で隠す命。何故か彦星のにでかでかと匡の名前。そこへ普段デバガメされてる分今日は仕返すのだと意気込むほのりの視線の先には命と匡の楽しげな姿。ほのりに大きな誤解を与えてる事にはもちろん気がつかない。 今日は珍しく一人。きっと一緒にきたら調子に乗るから。 (「これからも哲ちゃんとずっと一緒にいたい」) そう願った後、匡の姿を見つけた炯士は彼女と何やら話し込んでいたとか。 『私より強い人☆』と書いたしいねの横で、柊・エルがびっしりに理想のタイプを書くのに悪戦苦闘中。 「書き込み過ぎて、はみ出そうなのですよ〜」 「どうか、あの人の側にいられますように…」 思い切って片思い中の彼の名前を書いたヴァンパイアの指先が震える。 ちらっと覗いたり、覗かれてきゃーきゃー騒いだりの少女達の恋愛祈願。 誰の名前を書けば良いのか困ってしまう識羽の隣で、何やらテンション高く話しかけるのり子。結局識羽は『清楚でおしとやかで、大和撫子』のり子は『ウチの事を大事に想ってくれる烏丸識羽クン』と書いて落ち着いた。 「俺を好きになってくれる物好きなんてそうそういないよ。だから今は、お前の幸せを祈っておいてやる」 「そーゆー優しいトコ、あたしは好きだけどなぁ…物好きじゃなくても、いると思うよ?」 ぶっきらぼうな物言いの星司に照れながらも名前を書ききった木賊・エルが答える。
「真祐ちゃんと藍月殿のお名前は書いておくのでありますよ」 「せやね、皆仲良うがええよね。俺も凛とまゆの名前書こ」 「…やはり、何か違う気がするぞ?」 満面の笑みで名前を書いていく凜。煌も何の躊躇いもなし名前を書く。真祐斗も同じく名前を書いたものの、何か違ってるような気がする。3人の名前が書かれたこけしは良く願いが叶う様に高い所へと結ばれた。 何て書けばいいのか悩んだあげく薫が書いたのは『気の会う奴』タイプについて初めて真剣に悩む17の夏は何ともな結果となった。 毎年恒例の逢瀬なんていらない。一度だけ想いが届けばいいと、夏輝の恋愛祈願。願いかなったその後は、自分で何とかする。 「恋愛成就の願掛けを自分がやる事になるとは思いませんでしたねぇ」 年の差など関係ないと意中の相手の名前を書いて、がっつりお願い。 自分と友環の名前を書いてこっそりと祈願。 「リュクス、ほら…はぐれるなよ?」 「……!?」 「うん? 冬に『お願い』されただろう?」 「ありがとうございます。先輩」 差し出された手より顔を見つめるリュクサーリヒトに、嫌なら別のを考えようかという友環。溢れ出ようとする涙は相手を困らすだけだから、はにかんだような笑みを返す。幸せという意味を知った、そんな気がした。
「ねぇ、サクラコ。貴女って好きな人って居るの?」 「え!? えぇぇぇっ!?」 「ほら、時々デートしてる子とか居るんでしょ?」 今年も一人同士だと笑うリヴァルの直球ど真ん中の質問に、バレバレなほど大きなリアクションをとる桜子。 「……デート? あぁ、アレは違う違う」 どうやらGTデートの相手の事だと分ると、何故だかほっとした様だったとか。 「ここは……書いちゃうべきでしょうか」 「書かないで後悔するより、書いて後悔した方がいいじゃん」 「ま、この機会に書いちまうのもいいんじゃねぇすか?誰も見れねぇわけだし」 「素敵な王子様」と書こうとしたアリスの手が止まると、桜子と光が両端からエールを送る。 「そうですよね、人生思い切りが必要ですよね!」 「健気っつーか可愛らしいっつーか…春待ち仲間とはいえ、なんだこの温度差は」 アリスが名前を書き出すその健気な様子に、自分との格差を感じて目頭を押さえる光。 後は願いが叶う様に、笹へとくくりつけるだけ。
幼馴染みの心配を志津乃にする紅吏に、自分の心配をすればいいのにと思う志津乃。そんな二人に霜司も困った様な何とも言えない笑みを浮べていた。志津乃は紅吏と共に恋占いの石にチャレンジ。『普通の事をごく当たり前に出来、自分の意思と責任を持って行動出来る人』とこけしに書いた霜司が紅吏に急かされて、恋占いの石まで連れてこられる。 そんな皆の様子を楽しげに見守るのは雅樹。 汽水が時那の手を引張り、結社仲間の輪から抜け出す。 「たまには、こういうのも悪くないでしょう?」 汽水の笑顔に、時那も笑顔を返す。互いの名前を書いて、彦星はフード姿に織姫は三角帽子で仲良く並んでいた。 「これはいけませんね、刈谷さん。おぶって差し上げなさい」 鼻緒が切れて転んでしまった亜弥音。ここは積極的にラブな方向進むようにと、雅樹が紫郎に声を掛ける。 レトロな映画の様に鼻緒が直せない自分に凹みつつも、背中から感じる亜弥音の体温にこれもひとつの御利益なのかと思った。そんな紫郎の小さな幸せは、周りの視線に亜弥音が下ろして欲しいと言って、終わったとか終わらないとか。 このまま寺からでたら、冷たいかき氷でも食べに行こう。
「…って、七海迷子?」 さっきまで一緒にいた七海の姿が見ない。それなら今のうちと朔が名前を書こうとしたその瞬間、背後から感じた邪な視線。霧人のこっそり覗こう作戦は見事に失敗。 私にもいい恋がみつかりますように。見つけたら今度は逃しませんように。ちょっと泣きたくなるのは皆が幸せそうだから。 用事があると去っていった終凪を待つ雪那。何となく分る雪那は彼が去った方へと視線を向ける。雪那には見えない所で、終凪は恋占いの石で占う二人の恋の行方。それに雪那は自分の想いが何処に向いているのかと静かに思い耽っていた。 「ね。こけしも可愛いし、笹に飾るの楽しいし」そんな理由付けをする小織をいじらしく思い、自然に彼女の名前を書く。 「織姫は何枚もいらないし。こういうの書くのは多分、最初で最後、だね。小織ちゃんは?」 「…私も。きっとこの彦星が最初で最後です」 互いに見せ合うこけし。 互いの気持ちの確認。 それは言葉ではなく態度で……。
互いの浴衣姿にちょっと照れてたり見惚れたりする御守と直矢。互いの名前を書いて、並べてつるす。 「…ずっと一緒に居たい…」 「…当たり前だろ?」 並んだこけしと同じ様に寄り添うふたり。 「えーっと、その、こうやって願掛けする程に、俺は朱華さんのことが……すすすす好きですっ!!!」 「…っ、大樹、声、おっき…っ」 大樹のこけしに自分の名前があり、他の誰かじゃなかった事にほっとしてる自分に悩む朱華。と、突然大樹が叫び、周りの視線は一気に二人に向けられる。朱華は慌てて大樹の手を取るとその場を駆けだした。 ふたりで浴衣を着て、手を繋いで来れて、ふたりで一緒に名前を書きあって。 「恋のカミサマに贅沢モノって怒られちゃうかなァ?」 「神様…怒っちゃうかな…?でも…離れたくないもの…」 顔を見合わせて笑い合う輝と更紗。二人が同じ気持ちなのが嬉しい。 (「リ、リネちゃんともっと仲良く…りょ、両想いになれますように…」) (「しし、忍さんともっともっと仲良く…こ、恋人みたいになれますように…!!」) 未だ片思いだと思っている忍は、隣で一生懸命祈ってるリネもまた同じ願いだという事は知らない。ちょっと照れあいながら手を繋ぐだけでドキドキしてしまう二人。
互いに知らないけけど紅慈は美香保の名前を、美香保は紅慈の名前を。 後はゆっくりと清水寺を散策して折角の京都、美味しい京懐石でも食べに行こうと楽しげに話し合う。 瑞鳳と兇ができるだけ一番高い所に結ぶ。 「隣にいる大切な人の綺麗なドレス姿が見たいです」 「…兇のお嫁さんになれるかな?…なれたらいいなあ…」 互いに呟いた言葉は同時で小声、相手の耳にまでは届かない。約束するのはまた一緒に来ようという事。 もう願い事は叶っているけど、互いの名前をちゃんと書く事なんて早々無いから。今日は想いを込めて相手の名前を書く。 いつか訪れるかもしれない終りが来る時まで、ずっと一緒に。気持ちの大きさは測れないけど、一緒にいたいと思う気持ちが同じなのは知っている。 那由多は沢山のコイバナを聞きたくてうずうずしている横で、エレムが飾ったこけしに向って手を合わせる。いつか訪れるバラ色の日々に。その後は恋占いの石へと向って歩いていく。
普通の女子中学生のゆうらも恋愛は興味がある、特別な誰かはいないけど、恋占いの石で占ってみる。その結果は彼女だけが知る秘密。 恋占いの石での占い見本を烈火に見せる譲羽。譲羽もその後にした烈火も見事に1回で成功した。 「で、これってなんかの願掛けか?」 「成就早めですって、良かったわね♪」 「え?恋うら…な、い?」 占った後、これが恋占いだったという事を知り、烈火は顔を真っ赤にしていた。 「半歩右ー。うん、そのまま! 足元気をつけて」 目を閉じて両手を胸の前で握って、良将の声に導かれて反対を目指す蜜琉。到着する寸前、良将がそれを待たずに蜜琉を引き寄せ抱き留める。不意の出来事に蜜琉が目を開けて、これは全て彼が願いを叶えてくれる事なのだろうかと笑っている良将を見上げた。 柾世が一緒に占ってくれないのは残念だけど、目を閉じて歩くのが怖い自分を導いてくれる彼の声が嬉しい。 何か西瓜割りに似てるかもと想いながら、石の前に立つと近くなった紫空を抱き留める。ぎゅっと抱き合えば、何となく沢山の願い事が叶う様な気がした。 今日はハルミの誕生日、ここは一回で成功させるつもりで鈴之介が先にチャレンジ。何とかギリギリで成功。次はハルミの番。 「ピンクえびが一匹、ピンクえびが二匹」 「誕生日おめでとうー、ハルミー! 」 謎の呪文を唱えたおかげでか無事成功。誕生祝いと成功祝い。喜びを分け合って、満面の笑みを向け合う。 「あ、勿論、転びそうになっても何も言わずに!」 匡が見守る中、彬がゆっくりと歩き出す。 隣でこれからも笑って居られるか…。一度で辿り着いて『これからも』と願いたい。 自分の気持ちは真っ直ぐなのか……試されている気がした。
地主神社境内は普段以上に賑やかで、普段以上に恋一色だった。
● 広い清水寺境内。 梅雨はまだ明けてないが、ゆっくりと境内を散策すると初夏の緑がとても気持ちよい。 ゆっくりと散策を楽しむ宗。 階段が多いからと菊理の手を取る冬弥。ゆっくりと清水寺境内を散策し、土産物を見て回る。お揃いのお土産を買って、また一緒に出かけようと約束して、散策に向う。 慣れない草履で靴擦れを起こした沙羅に駆け寄よると、しゃがみ混み彼女に向って背を向ける一針。「重たかったら無理しちゃだめだよ」彼の背に負ぶさりながら呟く言葉。そうして二人で思い出すのは懐かしいあの日の出来事。
清水の舞台は風が吹き抜けて、とても涼しく感じられセトは風景を眺めていた。 去年の誕生日プレゼントのお返しと、瞳を誘った椿。理由は分っていても彼女に悪いなと思う瞳。だけど楽しみたいとも思っていた。 「いい気分転換になったし、また時間があれば遊びに誘ってくれな?今日は楽しかったぞ」 誘ってくれた椿に瞳は笑いかけた。 学園の生徒だけなら飛ぼうと思っていたクロランタだが、匡に飛ばないでと念を押されて舞台から飛ぶ事は出来なかった。 匡と桜子から、地主神社の様子を聞く龍麻は、勇気を出して書きに行こうかどうしようかもうしばらく風景を眺めて考える事にした。 「あちらに祈願はされたのですか?」 「えぇ、もちろん」 勾音の質問に笑顔で答える匡は、美味しそうに彼女の作ってきた星形のクッキーを美味しいと食べる。 去年の浴衣。自分を見る去年と同じ笑顔。そのどれもが嬉しい深夜も笑い返す。 「ありがとう」 嬉しかったから、先輩達が望む人が現れると良いなと七夕様にそっと願う。
舞台から見下ろす風景、吹き抜ける風。どれもが気持ちよい。 「昂夜さんって、とても丈夫そうですよね。ここでの願掛け、試されては如何ですか?」 昂夜にからかわれて、琴里は素敵な笑みで切り返す。最近何だか様子がおかしかった彼女が少しでも元気になってくれて、一緒に来て良かったと昂夜は思った。 「ちょっ…何処触って…!」 冗談で舞台から飛び降りるフリをする満を慌てて後ろから抱く様に制止させた嵐の手が、彼女の胸を捉えてしまい、満のグーが飛んできた。昼なのに嵐には星が見えたとか。
音羽の滝は流れる音を聞いているだけで涼しく感じる。 「観光用のは左から学問、恋愛、健康って言われてるみてぇだけど……この辺で昔っから言われてんのが、健康、美容、出世だっけ?」 「え、観光用とかってあるの?」 滝の前でどれにしようか悩む壱球と弥琴。色々悩んだあげく、二人揃って美容の所を飲んだ。 カイトは健康、尉桜は縁結びの水を汲む。 「……今日、誘ってくれ、て、ありがと、う。……また、遊びた、い」 「イオたんの笑顔初めてみたかも。可愛いじゃん。いっつもそんな風に笑ってたらいいのに」 初めて見た彼女の小さな小さな笑み。それが嬉しくてカイトは満面の笑みをになる。そうして二人でまた遊びに出かけようと約束を交わす。 引いたおみくじは大凶で落ち込んだりもしたけど、結局都琉はマイペースに新緑の中の散策を楽しんでいた。
随求堂の胎内巡りの後は舞台へと舞兎を連れていく葵。真っ暗の後は高い所。こうやって人の反応を見て楽しんでいるのがよく分る。葵が舞兎のコロコロ変わる表情が可愛いと思っている事を舞兎は知らない。最後に連れて行ってくれた音羽の滝でようやく落ち着く事が出来た。 「俺は、雪が好きだよ」 清水寺散策途中で、久也から改めて告白を受ける雪。そのまま体を引き寄せられて行くのに、体が硬直し耳まで朱くなるのが分る。近づく顔と顔。そのまま唇を重ねたのかは二人だけの秘密。 陽も傾きだいぶんと経つ。陽射しもさほどきつく感じなくなって、風も少しばかり冷たくなった様な気がする。 丁度小腹が空き始める時間。彰の腹の虫が鳴る。 「いや…なんだ、湯豆腐でも食うか、奢るぞ?」 ばつが悪そうにツグミを食事に誘う。 ゆっくりと歩きながら、思わずツグミが呟いた独り言は、黄昏時の風に流された。
1年に1度の逢瀬。 それは悲しいと思うけど、ロマンチックで。 だから恋のお願い事をしたくなるのはきっと自然なこと。
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参加者:94人
作成日:2008/07/17
得票数:楽しい3
笑える1
ハートフル15
ロマンティック10
せつない1
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冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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