Mirror Mirror


<オープニング>


「なあ、なんかヤバいって。やっぱやめようぜ?」
「大丈夫だっての、ビビり野郎が」
 深夜の学校。廊下の突き当たり。壁にかけられた大鏡。脇の教室には『美術室』という札が掛かっている。
 そこで、二人の男子生徒が大鏡と向き合っていた。
 細身の男子と太っちょの男子。太っちょの方は小脇になにか長方形の物体を抱えていて、細身の男子はその後ろに隠れている。
 太っちょは自らの携帯電話を開く。時刻は23時58分。
「深夜0時に美術室前の大鏡で鏡合わせをすると、中に自分が死ぬ時の顔が映る……」
 細身男子の声。恐怖からか、掠れている。
「さあ、行くぜ」
 太っちょは小脇に抱えていた鏡を、大鏡へと向けた。月明かりに照らされて浮かび上がる二人の顔。
 その顔は――若干緊張していたものの、いつもの彼等の顔だった。
「なんだ、フツーの顔じゃん」
 明らかにホッとした様子の細身男子。太っちょも笑おうとして、固まった。
 大鏡の中に、ナニカがいる。人型で、長い黒髪で、腰が曲がっていて、左手が矢鱈短くて、その代わり右手が倍の長さで。
 細身の男子は逃げようとしたが、体は金縛りにあったかのように動かない。細身の男子にしがみ付かれた太っちょは彼を振り払って逃げようとするが、焦りと常日頃の運動不足で体が上手く動かない。二人の顔が恐怖に引きつる。
 其れは確かに、死ぬ時の顔だった。

「学校の七不思議ってよくあっけどさ、実際は十三個くれーあったりするよな」
 指先で机をカツカツとリズミカルに叩いていた久志が、能力達がやってきたのに気付いてその動作を止める。
「今回の依頼も、そんなよくあるガッコーのよくある七不思議のひとつ。問題なのはその噂がホントーだって事だ」
 事件が起こったのはとある学校。美術室前、廊下の突き当たりにかかっている大鏡だ。
「深夜0時、大鏡で合わせ鏡をすると地縛霊が出てくるんだとよ。大鏡の中からヒュードロドロってな」
 大鏡から出現する地縛霊は、対象を麻痺にする特殊能力を用いて生徒達の恐怖を煽り、動けないところをじっくり殺害していく。
「この手口で既に4人の生徒が殺されてる。深夜の学校に忍び込むかなんかして、ケリをつけてくれ」
 これ以上の被害を出さない為にも、しっかりと退治してやる必要があるだろう。
「ちなみにマイ七不思議のひとつだけどな、気になるあの子のスカートがどんなキョーフーでもめくれないというキョーフ……」
 久志のダジャレは本気なのかライムなのか、どうにも区別がつきにくかった。

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参加者
橙実・りもね(中学生霊媒士・b01722)
新江・華文(高校生ファイアフォックス・b02020)
伊藤・飛呂(高校生青龍拳士・b06563)
伽哭院・迦陵(高校生水練忍者・b08296)
海本・沾子(高校生青龍拳士・b11495)
闇堂・朔馬(中学生魔剣士・b11768)
北御門・玄月(中学生魔弾術士・b14792)
九条・流(中学生ゾンビハンター・b15265)



<リプレイ>


「危険な事に心躍るのは一般人も能力者も変わりはないんでしょうね……」
 校門前、九条・流(中学生ゾンビハンター・b15265)は天を見上げ、そう呟いていた。
 これから始まる激闘の予感に熱く火照った体を、冬のしんしんとした冷たさで醒ますように。足を肩幅まで開いて、自然体で天を仰ぐ。月明かりが銀糸のような彼の髪に降り注ぎ、煌びやかな粒子を残す。
「………鏡、は……?」
 そう訊ねる海本・沾子(高校生青龍拳士・b11495)の髪は、暗闇に映える流のそれとは正反対。暗闇に溶け、深く堕ちていきそうな漆黒。
「用意していますよ。イグニッション」
 流はイグニッションすると、カードから全身を映せる大きな姿見を取り出してみせた。こっくりと頷く沾子。
「七不思議ですか……何処にでもあるようですけど、私のような身には縁遠いものですね」
 そう肩を竦めるのは北御門・玄月(中学生魔弾術士・b14792)。レンズの奥の瞳は伏せられている。
「なぁーに、噂だ噂。今回の合わせ鏡だって、そう見えるだけだろ? ビビる事はねぇよ……」
 そう強がる新江・華文(高校生ファイアフォックス・b02020)の体がガタガタ震えているのは寒さの所為だろうか?
 温室育ちの彼にはなんだかんだで夜の校舎は怖いのかもしれない。そんな華文の心中など気付かず、七不思議について語り続ける一行。
「七不思議のひとつが『何故か七つじゃない』という話はよく聞きますよねー。そもそも夜中に合わせ鏡覗くなんて誰が思いついたのでしょう……?」
 橙実・りもね(中学生霊媒士・b01722)が七不思議の発案者の想像力を褒める一方、伽哭院・迦陵(高校生水練忍者・b08296)はロクでもない事を言っていた。
「ちなみに俺のマイ七不思議のひとつ、気になるあの子のスカートはめくれるが、ホックも外す事が可能とキョーフかつ変態であると言う事だな……」
 ニタニタ笑いながらそんな発言をしていたらただのセクハラである。事態が変な方向へ進まないように仕方なく伊藤・飛呂(高校生青龍拳士・b06563)と闇堂・朔馬(中学生魔剣士・b11768)がフォローのツッコミに走る。
「えっと、伽哭院センパイ!」
「『俺』の『マイ』七不思議は重複表現だよ」
「そうそう……って、そこツッコミ所違う!」
 飛呂も一筋縄ではいかない性格のようだった。俺も高校にあがるとこんな性格になるのかな、などと心の内で嘆息しつつ話を修正する朔馬。
「それで伽哭院センパイ、潜入のほうは……?」
「ああ、問題ないぞ。このとおりだ」
 迦陵は閉められている鉄門に手をかけ、横にスライドさせた。
 蛇腹状に折りたたまれ、開かれていく校門。
「昼のうちに別棟の鍵も一寸拝借させてもらった」
「確か渡り廊下付近には監視カメラがあったはずですが」
 玄月は放課後、猫変身で学校へ潜入していた。彼もまた、迦陵と同様に学校の各施設の位置を把握している。
「ああ、アレはスイッチが入っていない……当直はいるかもしれないが」
 迦陵と玄月は仲間を美術室へと先導する。
「なんで監視カメラがあんのに電源を入れないんだ?」
「電気代やらビデオ代が勿体ないんだよ。対価として安全が手に入るというのに、やれやれだね」
 その間も華文と飛呂がだべっている。万が一当直に見つかっても、王者の風で追い払えば良い。
「被害者の生徒達が入れるくらいですから、大丈夫だとは思いますけど」
 りもねは言いながらも周囲を警戒し、極力物音を立てないように気をつけている。
「美術室は別棟の1F突き当たりです。じきに着きますよ」
 最低限の緊張を保ちつつ、玄月が皆を安心させる。
 能力者達の潜入を見ていたのは、空に浮かぶ月のみだった。


 迦陵が鍵穴に鍵を差し入れ、捻ると小気味良い金属音と共に扉が開く。
 別棟の内部は、外と同様に冷え切っていた。
 片方の壁には卒業制作と思われる巨大なパネルが貼り付けられている。そのパネルに描かれていたのは、槍持つ悪魔と弓持つ天使。
「いよいよですね……」
 小脇に姿見を抱えた流の口元が引き締まる。廊下の角を曲がると、視聴覚室と木工室の入り口が視界に飛び込んでくる。
 二つの教室を通り過ごし、美術準備室の前を通ると、美術室はあった。
 右手に入り口、左手は窓。正面の壁には大鏡が貼り付けられ、能力者達の姿を照らし出している。
「断末魔の瞳、行きます」
 流が姿見を大鏡に合わせる前に、りもねが断末魔の瞳で地縛霊の能力を確認しようというのだ。
「何かいい情報が残ってればいいんだけどな……」
 りもねの後ろ、不安そうな表情の朔馬。流も姿見を床に伏せ、いつでもフォローに動けるよう身構えている。
「うっ………!」
 りもねの藍色な瞳が、恐怖に彩られる。被害者の視点から、被害者がどうやって殺害されたかを見ているのだ。
 月に照らされ、青白いりもねの肌に玉の汗が浮き出る。異常に長い右手がまっすぐ伸びてきて、顔を鷲づかみにされる。思わず瞳を閉じかけるりもね。ふらりと体が揺れ、崩れ落ちかける。
「大丈夫か!?」
 朔馬が倒れかけたりもねの体を支え、しっかり立たせてやる。
「ええ……。すいません、被害者の視点は見れたんですけど……」
 顔を鷲づかみにされた後、被害者の視界は黒で塗りつぶされていた。指の隙間から微かにもれ出る明りから、顔が微かに上下しており、
「頭……そのまま、潰された……と、思う……」
 りもねの話を聞き、訥々と予想を呟く沾子。
「顔を掴まれるまで視点は全く動かなかったし、多分麻痺させられてたと思うんですけど……いつかけられたのかまでは」
 地縛霊の動きを再現しながら説明するりもね。
「モーション無しってことか、目を見たらやられるとかそんな感じかもな……鏡に映った地縛霊を確認しながら攻撃とかしなきゃいけないなら、メンドーだぜ」
 ようやく緊張が解けたのか――それとも恐怖が麻痺したのか――、ともかくいつものペースに戻った華文も肩を竦めてみせる。
「さて、時間は些か速いですが……長居したくもないですし、始めてしまいましょうか」
「そうだね。当直が見回りに来られても面倒だ。流、頼むよ」
 玄月と飛呂に促され、流は伏せていた姿見を立て、大鏡と合わせ鏡にする。
「さあ、来るぞ!!」
 変化が起こる前、迦陵と玄月が魔弾の射手を用いて空中に魔法陣を描く。戦闘の準備を整えた頃、大鏡の鏡面に異常が起こり始めた。
 合わせ鏡、大鏡の中で流が持っている姿見の中にソレがいる。左腕は短く、右腕は長く。顔はほとんど黒い長髪に遮られていて、表情をうかがい知る事はできない。ただ、爛々と獲物を狙うギラついた瞳だけが見えた。
 それは先程りもねが断末魔の瞳で見たモノと同じ――
「っ! コイツです、コイツが大鏡から出てきて被害者を!」
 地縛霊は大鏡の中の姿見から這い出てきて、更に大鏡の中からこちらの世界にまで出てこようとする。
 大鏡の中からニュッと頭を出したところに、沾子の拳があった。さきがけの龍顎拳。
「いなくなりなさい、いなくな――」
 龍顎拳は地縛霊の頬にクリーンヒットする――その前に。
 地縛霊のギラついた視線と、沾子の視線が交錯する。
 顔面まであと数センチの処。沾子の体が、動かなくなった。
 地縛霊は長く伸びた右腕で沾子の顔を鷲づかみにすると、大鏡の中へ引きずり込もうとする。
 大鏡の中は地縛霊が普段根城にしている特殊空間に違いなかった。
「くっそ、瓢箪から駒ってやつか! 祈ってばかりじゃ駄目なのかよ!!」
 華文は悔恨しながら、不死鳥のオーラを纏った一撃を地縛霊のボディへ叩き込む。地縛霊は沾子を離さない。
「……させないよ」
 大鏡の中に引きずり込まれそうになる沾子の腕を朔馬が掴み、引っ張り上げる。地縛霊と朔馬の力比べとなると、細身の朔馬では分が悪い。朔馬ごと引きずり込まれかける。
「闇堂さん、左に飛んでください!」
 背後からの声、朔馬が言われたとおりに沾子から手を離して左へ飛んだ瞬間、玄月がロケットスマッシュで飛んできた。ロケット噴射の勢いに任せて振り下ろされる長杖。地縛霊の左腕を千切ると共に大鏡へ激突し、その鏡面にヒビを入れる。鏡の中の特殊空間行きを逃れ、床に倒れこむ沾子。大鏡より上半身を出したまま、もがき苦しむ地縛霊。
「前奏曲、いや……鎮魂歌。―――単音の……ア、1つで良いか」
 畳み掛けるように流のブラストヴォイス。衝撃が地縛霊を襲う。鏡の破片が宙を舞った。
「未だ、ヤツを此方に引きずり出せ!!」
「わーってるよ!!!」
 治癒符を沾子へ飛ばしつつ指示する飛呂。華文は両腕で地縛霊の首を抱え込むと、片足を壁にかけて体を反り返らせた。
「くぉのやろぅ!!」
 てこの原理、ブレーンバスターや首投げの如く地縛霊を大鏡から引きずり出す。尻餅をついた華文と地べたに這い蹲る地縛霊の姿が、大物を釣り上げた釣り人と陸に打ち上げられた大物のそれにダブってみえた。
「もう、逃がしません!」
 りもねの雑霊を束ねた弾丸が、迦陵の炎の魔弾が矢継ぎ早に地縛霊へと浴びせかけられる。
 地縛霊からしてみれば前方には迦陵ら後衛が控え、大鏡の中へ逃げ込もうにも後方には朔馬ら前衛陣が塞いでいる。
 麻痺させられる対象は単体。最早挟撃を防ぐ術は無く、能力者達の前に打ち滅ぼされるのだった。


「大鏡、割れてしまったね」
 淡々と事実を口述する飛呂。全壊とまではいかないものの、大鏡の鏡面には蜘蛛の巣状の亀裂が走り、中央部分は完全に割れ、地金の部分が見えてしまっていた。
「下手に姿見られるのも危険だし……騒ぎにならないうちに、帰ろうか」
 朔馬の言葉にりもねも頷いて同意する。
「はい、鏡は流石に証拠隠滅できませんし……」
「うーん、美術室を色々調べて見たい気もするんだが」
 華文は腕組みをして渋ったが、かといって仲間を危険に晒すわけにもいかない。
「修復というより、廊下の窓ガラスを割っておいた方が良いですね。不良の所為にしてしまいましょう」
 荒れた場を自然にする為、仕方なく窓ガラスを長杖で叩き割る玄月。鏡に映った自分はどんな姿だろうか、刹那の間夢想する。
 姿見を回収して撤退する皆の中、沾子はゆっくり頭を下げた。
「……――お憑かれ様。でした――……」


マスター:蛇宮幸恵 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2006/12/09
得票数:カッコいい7  ハートフル1 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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