≪♪〜ルナリア幻奏樂団〜♪≫廃されし舞台にて吼えよ残骸


<オープニング>


 未練が残骸を集めたのか、残骸が未練を呼び起こしたのか。
 砕かれた夢が悪意と化したのか、銀色の雨に当てられただけなのか。
 能力者達の眼前に現れたゴースト達は、まさしく『強敵』であった。
 舞台は元はライブハウスであったと思しき廃屋。入って右側と前方にステージが存在する、ライブハウスとしても少々特殊な建物である。ステージ上には機材が一式放置されており、電源も何故かまだ生きている様子。建物の広さは30m四方で、ステージ部分の幅はそれぞれ5m強。ステージにも客席にも、足を取られるような障害物が無いことだけが救いか。
「ボーカル、ギター、ベースにドラム。ご丁寧にメンバー全員でお出迎えってとこかオイ」
 風華がぼやく。だが、その目に宿る輝きは退屈とは正反対のそれで。
「あー、潰えた夢ごと喰らって力を高めてでもいやがるのかね」
「地縛霊ですからね。その線もあるでしょう」
「夢の残骸。負けてなんてられないね」
 カノンが、真人が、月乃が構える。敗北など、有り得てはいけない。負けられない理由がある身として。
「ガチできっちり叩きのめさないとな。……コケないでよ、外村先輩」
「あんたこそ。気ぃ抜いてテキトーな真似したら許さないからね」
 夜斗と馨の掛け合いは、まるで必要以上の緊張を解すかのようで。
「夢ごと丸呑みなんてこともあったのかしら。……趣味が悪い」
「なら、きっちり砕いて踏み越えようか。彼らの敵として、夢追う者として」
 のぞみと沙夜羅の態勢も整った。刹菜も無言でイグニッションカードを取り出す。
 ならば、することは一つ。たった一つ。
「「「イグニッション!!!」」」
 能力者たちが奏でる魂の旋律、残骸達に響かせろ……!

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参加者
死守・真人(貌無・b01887)
歌胤・カノン(灼炎月奏・b02970)
波多野・のぞみ(貴種ヴァンパイア・b16535)
諏訪・沙夜羅(神想紫華之剣舞・b23242)
愛染・風華(シグナル・b24512)
葛城・月乃(夜ヲ舞ウ黒キ蝶・b32787)
冴神・夜斗(魔を断つ剣・b34502)
外村・馨(誓いを鼈甲のリングにしよう・b37599)
NPC:神凪・刹菜(フリッカースペード・bn0010)




<リプレイ>

●始まりはノイズと共に
 能力者達が改めて確認するまでもなく、室内は惨憺たる状態であった。
 薄暗い室内に埃まみれのステージ。電源系統が生きているとは言え照明を操作する担当者はおらず、勿論、PAなどいようはずもない。ろくにライブを行えるような状態ではない。例えここでライブを行おうと考えるような物好きが居たとしても、最低限の整備は行わなければどうしようもない状態である。
 当然だ。どのような事情があったにせよ、今のここは廃墟。打ち捨てられ、顧みられることのない場所である。整備などされようはずがない。例え人の手が入ることがあったとしても、この場所に巣くう妄執の塊……地縛霊がそれを許したかどうか。
 その地縛霊達は、埃を巻き上げ雑音を撒き散らしながら存在を主張している。まるで、自分たちの無念を顎門として能力者達を飲み込まんとするかのように。
「こーいう敵を待ってたっつーか、倒しがいのありそうな連中だな」
 巻き上げられる埃を苦にもせず、歌胤・カノン(灼炎月奏・b02970)が嘯いた。飄飄とした立ち居振る舞いの中で、口元に浮かぶ笑みだけが内に秘めた熱を垣間見せていた。
「死してなお音楽を愛する気持ちは買うけどね。此処はあんた達のいていい場所じゃないんだよ」
 そう繋いだのは、葛城・月乃(夜ヲ舞ウ黒キ蝶・b32787)。地縛霊達から距離を取ったカノンとは対照的に、最前線で、カノンと同じく大自然の息吹を己の内に取り込んでいる。
 彼がアベレージ重視ならば、月乃は一撃の威力重視。取り込んだ息吹を全身に巡らせて妖気を練り上げれば、一打必倒の威力を秘めた焔が宝剣を包み込む。それが、彼女のような土蜘蛛の本領である。
「やれやれ、夢は追い続ける事に意味があるっていうのに……」
 波多野・のぞみ(貴種ヴァンパイア・b16535)が肩を竦めた。自然体にも見える体勢に隙は無く、女性らしい曲線で形取られた長身の内には、着々と力が溜めこまれていく。前列と後列の中間に位置取っていることも含めて、さながら、突撃直前の魔狼のように。
「俺は、夢なんてロマンチックなモン持ち合わせてねェけどな……」
 ならば、彼女の対は愛染・風華(シグナル・b24512)と言ったところか。後方に陣取り、メスで眼前に描いた魔法陣は自己強化のそれ。並行して紡ぎ上げる術式は雷の気を帯び、発動待機態勢へと移行する。徹底して覇気のない構えとは裏腹に、地縛霊達を値踏みするかのように術式が完成していく。
「同じく、夢を語る気など無い。ただ、その妄執はいただけないな」
 そう告げたのは、カノンの得物である二挺のギターマシンガンに白い燐光を宿し終えた死守・真人(貌無・b01887)であった。表情を隠して後方に陣取り、立つ鳥跡を濁さずと語る彼。風華とはまた趣きの異なる怠惰な気配を纏う彼の本意は、果たして何なのか。
「その過ち、私たちが正そう。……気合入れていこう!」
 双刀を構え、凜と言い放つ諏訪・沙夜羅(神想紫華之剣舞・b23242)。
 その裂帛の気合を危険と感じ取ったのか、弾かれたように地縛霊が動き出す。
 音楽とは到底言い難いノイズが室内を満たし、連なる音の波が衝撃波となり。
 雷鳴のようなバスドラムの連打から、地縛霊達の攻勢が始まった。

●迎え撃つは生命の焔
「……るせえぞコラアアアア! こんな雑音でロック気取るなんてどういう了見だオイ!?」
 冴神・夜斗(魔を断つ剣・b34502)が、がなり立てるボーカル地縛霊を睨み付ける。彼の双眸は今、内側から相手を蝕む魔眼と化している。力の弱いリビングデッド程度ならば一撃で倒しかねないそれも、地縛霊相手ではいささか分が悪いようだ。
(「ま、こいつの本分は継続型の呪詛だしな。じっくり確実に弱って貰うさ、一体ずつ」)
 雑音をかき消そうとするかのように騒ぎ立てる裏で、そう思考を回しながら。
「さっき、ロックとは縁遠い声が聞こえた気もするけど? ぺろぺろぷー……とか」
「ギリで立ち直ったし未遂だからノーカン! ていうか変に根に持つとかヤメテ! 揚げ足取るの禁止!」
 夜斗をからかいながらギターマシンガンのトリガーを引き絞り、ボーカルの移動範囲を中心に掃射しているのは神凪・刹菜(フリッカースペード・bn0010)だ。威力よりも移動範囲の制限や連携の分断を狙った阻止攻撃。精確さはさほどではないものの、同時に動いたのぞみの行動と合わせて、地縛霊達のチームとしての機能を削っていく。
 初期位置の関係上、ギタリスト地縛霊の初手は防具任せで防ぐほか無くなってしまった。だが、誰も動きを束縛されることなく済んだのが幸いしたか、能力者達は次々と攻撃を連ね、重ねていく。
 刹菜からやや遅れて動く外村・馨(誓いを鼈甲のリングにしよう・b37599)が凍てつく吐息でボーカルを痛めつければ、更にカノンのギターマシンガンが追い撃つ。小さくガッツポーズを見せる馨の脇をすり抜けて、月乃が身体を縮めながらボーカルの懐へと飛び込み、
「邪魔なのよね。さっさと消えてくれる?」
 ライブハウス内全域に響き渡る震脚と共に、紅蓮の炎を纏う双剣で一撃。手応え、あり。残心を取る彼女の側で、ボーカル地縛霊が一握りの灰も残さず消滅した。
「スゲぇなツキノ。やっぱ土蜘蛛の力は洒落にならねーな」
「そうでもないわ。戦い慣れしてない分、ちょっと軽いし……反動もね、あるから」
 全力を込めて放つ一打必倒の技であるが故に、土蜘蛛の紅蓮撃は反動が厳しい。巫女などの助けがなければ連打が効かないのだ。
「随分あっさりと進んでいるものだが、残り3だ。ギタリストさえ片付ければ相手の搦め手は消える、だったな?」
「そういうこったな。ま、死人のデスボイスなんて長時間聞いてたくもねェわけで?」
「手早く済ますに限る。厄介者がまだ残っているしな」
 能力者達の視線は、全体回復能力を持つと目されるドラマー地縛霊へと向けられた。

●骸揺らすは魂の咆吼
 ボーカルを欠いてもなお、地縛霊達の攻撃は止むことはなかった。楽器の耐久力を無視して苛烈に刻み続けられるドラムライン。アクセントとばかりに振り下ろされるベース。我関せずと一人速弾きを続けるギター。そこに調和は無く、ロックの攻撃性のみが過剰にクローズアップされているだけである。
「ロックは反逆の音楽だ。大舞台に立つだけがロッカーの在り方じゃねえ。そいつは解る」
 夜斗は後方で一人、見得を切った。独鈷杵を構え、呪文を唱えるかのように語る。
「だけど、あんたらはもうロッカーじゃねえ。ただの残骸だ。運がなかったか、力が足りなかったか、時代の流れを読めなかったか。あんたらは……まあ、気付いてたんだろうなあ。でなきゃ、こうまでしがみつくもんか」
 心理的揺さぶりを掛けたい訳ではない。それが通じる相手だとも思っていない。ただ、言わずには居られなかった。反逆の魂を秘める者として、彼らを討つ側の者として。理解されなくてもいい、語られなくてもいい。ただ、宣言しなければ収まりが付かなかったのだ。
「……随分と口上が長いな、夜斗。もう混乱の心配はしなくていいんだぞ?」
「諏訪先輩まで俺を弄る!? 格好つけたっていいでしょ!? クールな俺は不要とか言う気!?」
「厄日かもな、ヤト。ここで一発男見せとけー?」
 こういう場面でも沙夜羅達にからかわれてしまうのは自身の特質かもしれないな、と僅かに苦笑する夜斗。
「集中攻撃と行きましょ。回復役を瞬殺して、残り2体を追い詰める。刹菜さんは範囲の調整をお願い。……ね?」
 能力者達の力が膨れあがる。妖気のコントロールを取り戻した月乃に烈火の気質が戻り、刹菜のギターマシンガンの先端にも黒い燐光が宿り始める。突撃してくるベーシスト地縛霊は馨がいなし、防御時の消耗と負傷を真人が癒す。
「アンタまではおまけだ。俺の敵じゃねえ。……だから消えてくれ、ノイズの塊さんよ」
 風華が三度中空に描く魔法陣に、極大の雷気が宿り。
「魂がカケラでも残ってるんなら、……精一杯震わせなァッ!」
 能力者達9人の手で紡ぎ出されるは、多種多様にして雑多、騒がしくも奏でる魂の調べ。破壊と反逆に留まらぬ調べが、ドラマーの周囲にいたベースとギタリストをも飲み込んで炸裂する……!

●果てに奏でるは灼炎の調べ
「やったか!?」
「……いや、食いしばられた。一歩足りないが正解か」
 真人が告げる。先程とは打って変わって、末期の鼓動のように間の空いた旋律がライブハウス内に響く。
「ソウルビート……だっけか。しつこいな、マジで」
 カノンが得物から片手を離し、後頭部を掻く。確か一度だけで打ち止めのはずだが、それでも集中攻撃で数を減らせなかったというのは痛い。
「一度でダメなら二度三度。繰り返すから印象に残る旋律もある。リフレインはお約束でしょ?」
「そういうことだ。私の影から逃れられると思わないことだな!」
 馨と沙夜羅が告げる。火力、ならびに人数においては能力者達が優勢のまま。これを維持しきれば勝てぬ訳がない。
「例え反撃が来ようとも、未練の残骸ごときに私の盾は砕けない。誰一人欠かさずにいさせてみせるわ」
「そこでどうしてわたしを見るのか、疑問に思ったら負けかしら。……っていうか口元緩んでるわよ、歌胤。しつこいとか言っていながら、ちっとも参ってないじゃない」
「ライブに事件はつきものだからな、そりゃ」
 カインは刹菜の指摘を笑って流し、
「ツキノは? 巫女無しパーティだけど、ガンガンいけそうか?」
「問題なし。……何だか調子良いみたいだし、今日は」
「フウカとヤトは聞くまでもねぇな。じゃ、やっちまうか。ライブ前に一暴れ、ゴーストバンド退治!」
 ライブの一言に数人の顔色が変わった、などと言う一幕を挟み。雪崩のように、能力者達の猛攻が残った3体の地縛霊へと襲いかかる。
 ベーシストの突破さえ許さなければ、能力者達が切り崩されることなどありえない。懸念事項であったソウルビートも打ち止め、ギタリストの奏でる旋律は運の強さに助けられたせいか、夜斗の謎の言動以外にはさほど被害をもたらさず。そして、能力者達は突撃を抑える手段を構築済みであるが故に。
「死人に口なし。心意気は買うけどよ、……寝てな」
 風華の雷弾がギタリスト地縛霊を撃ち抜き。
「ごめんなさいは言わないよ。……私は、能力者だから」
 馨の凍てつく吐息が、ベーシスト地縛霊を凍り付かせ。
「厄介者が最後か。眠れよ、安らかに」
 沙夜羅の足下から伸びる影が、ドラマー地縛霊をバラバラに引き裂き。
「お前らのアンコールはお呼びじゃねぇよ。これで、終いだ」
 ライブハウス内から、ゴーストの気配が完全に消失した。

●終の宴は歌姫と共に
「終わったね。……本当に皆さん、ありがとうございました。皆さんのおかげで、初ライブ、大成功を収めることが出来ました」
「おう、お疲れさん。……にしてもアレだな、ステージ立つと疼くな」
「疼きますか。流石にここは使えないにしても、どっかで演りたいもんですね。折角揃ったんだし、お二方が」
「ライブ、ライブ……か。これからスタジオ借りるってのも何だし、間取ってでっかい部屋でカラオケってのもアリか? 今日は」
「流石にリハ無しとかはちょっとね。ま、考えるだけ考えといて。……で、いつまで盾ポジ取ってるの。波多野は」
 最低限の事後処理のみを終え、能力者達はライブハウス跡を後にした。
 初ライブと言い換えても良いかもしれない初依頼を果たした馨や、何故かのぞみに終始保護対象扱いをされていた刹菜。ライブの予定を立て始めるカノンと、何故かライブや音楽の話になるたびに皆の脇で戦々恐々としている沙夜羅など。
 ライブハウス跡に出現したゴースト達を倒した後のエピソードは、彼らの胸の内に秘められたままである。


マスター:貴宮凜 紹介ページ
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楽しい 笑える 泣ける カッコいい 怖すぎ
知的 ハートフル ロマンティック せつない えっち
いまいち
参加者:8人
作成日:2008/09/02
得票数:楽しい4  カッコいい9 
冒険結果:成功!
重傷者:なし
死亡者:なし
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